VOL.203 MAY 2025
[SPRING SPECIAL ISSUE] VARIOUS VARIETIES OF CHERRY BLOSSOMS IN JAPAN (PART 2): ADMIRING THE CHERRY BLOSSOMS AT CASTLES IN JAPAN
[日本の技術]CO2削減を実現する進化型CVTベルトの開発
進化型CVTベルトの一部。二組のリングと400枚ほどのエレメントで構成される。
Photo: Honda
エンジンの動力を効果的に変換し車軸を回す力にする変速機(トランスミッション)は自動車には欠かせないものだ。従来の歯車(ギア)を段階的に切り替えて変速するものに加え、近年では無段階に変速が可能なCVTが登場し、よりスムーズにエンジンの動力を伝えることが可能となっている。自動車メーカーのHondaは、このCVTの要の部品となるベルトの開発により、大幅な燃費向上、CO2の削減に加え、耐久性の向上をも実現した。2024年度文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した、このCVTベルトの開発について紹介する。
変速機はエンジンの回転数を調整して車両の速度に応じた最適な動力を提供する。この働きによって車はスムーズに加速、減速が可能となり、エンジンの出力を効率的に利用できるようになっている。CVTは、自動車やバイクなどに用いられる無段変速機(Continuously Variable Transmission)のこと。ギアチェンジを運転者自身が手動で行うマニュアルトランスミッション(MT)と異なることはもちろん、車が自動でギアチェンジを行うオートマチックトランスミッション(AT)の中でもCVTは段階的な変速ギアを用いないのが特徴だ。二つ一組で幅が可変するプーリー(滑車)と、それを結ぶ金属製のベルトの働きで変速を行う(写真参照)。CVTは無段変速のため、変速ショックや振動が極めて小さく、なめらかな走りを実現する。特にストップ&ゴーが多い街乗りの小型車に適している。自動で変速され、エンジンの回転数を常に最適な状態に保つことができ、燃費効率も向上する。当然、CO2排出量も削減される。また、部品数がATに比べて少なくて済むため、生産コストを抑えることも可能だ。
Photo: Honda
CVTが日本に普及し始めたのは1990年代半ばからだが、当初、CVTの要の部品である金属ベルトは、オランダのメーカー製のみであった。金属ベルトを含むCVTの自社での製作にいち早く取り組んできたHondaは、2001年、日本国内でのCVTの量産化に成功した。以来、同社ではCVTの高効率化をめざし、進化型CVTベルトの開発を続けてきた。
CVTベルトは、400枚ほどのエレメントの両側にリングが差し込まれた構造だが、金属製であるが故にリングとエレメント、エレメントとエレメントの間に滑りや摩擦が生じ、どうしてもエネルギーのロスが起こる。このエネルギーロスを少しでも減らすために、同社が取り組んだのがエレメントの設計仕様の改良とそれを実現するための高度な精密せん断加工1技術の開発だ。そこで、せん断加工の際に素材に薄い溝をつけることで、素材のゆがみを抑え、切断面の反りや曲がりを小さくすることに成功した。また、せん断加工時に従来はダイ2の侵入角が大きな角度であったが、侵入角を小さな角度で多段にすることで、素材との摩擦流動を減少させ、素材内部の塑性流動3を活かしてより精密な「ファンネルフロー型せん断技術」(図1参照)を実現した。これらの技術により、エレメントの表面がより滑らかに加工され、摩擦や滑りによるベルトとのズレが減少することで、動力伝達効率が向上した進化型CVTベルトが完成、実用化にこぎつけた。
図提供: Honda
Photo: Honda
この進化型金属ベルトを採用した小型車は主にタイ国で販売されているが、ガソリン1リットルあたりの燃費が従来型の20km/Lから23.25km/L以上に向上、また走行時のCO2排出量は120g/kmから100g/km以下に改善された。また、「ファンネルフロー型せん断技術」を用いたCVTベルトは年間125万台流通している。
この進化型CVTベルトの開発を主導したHondaの矢ヶ崎 徹エキスパートエンジニアは「進化型金属ベルトが世界で最も金属ベルトCVTが普及している日本で開発されたことは歴史的にも意義深い。金属ベルトCVTの動力伝達効率を向上させた点にとどまらず、迅速な材料試験法や新たなせん断加工法が今後も世界の技術発展に貢献することを期待する」と述べた。
- 1. 材料に対して、上下一対の金型を用いて圧力をかけ、ずらす力を利用して切断する技術。
- 2. せん断加工時に素材の下部分となる。せん断加工はダイに素材を載せ、パンチで上から押すことで素材を押し切る。
- 3. 力を加えたときに物質が変形する現象。
By FUKUDA Mitsuhiro
Photo: Honda