[フレーム]
Skip to Content

VOL.204 JUNE 2025
JAPAN’S RELATIONSHIP WITH WATER 日本最古の美しき石積み式マルチプルアーチダム「豊稔池堰堤(ほうねんいけえんてい)

日本最古の石積み式ダム「豊稔池ほうねんいけ堰堤えんてい

香川県観音寺かんおんじにある「豊稔池ほうねんいけ堰堤えんてい」は、日本最古で唯一の石を積んで造られたマルチプルアーチダム1として知られている。農業用のため池として築かれたこのダムは、その歴史的・技術的価値が評価され、国の重要文化財にも指定されている。

四国地方の香川県西南部に位置する観音寺市は、西に瀬戸内海の燧灘ひうちなだ、南には讃岐さぬき山脈を境に徳島県や愛媛県と接する自然豊かな地域だ。

[画像:豊稔池堰堤の地図]

山あいを流れる柞田川くにたがわの上流には、「豊稔池堰堤」が築かれている。石を積んで造られたアーチ型の堰堤には、中世ヨーロッパの古城を思わせる威容と風格があり、観光スポットとしても高い人気を誇っている。このダムが建設された背景を観音寺市文化振興課の岡田おかだ 洋輔ようすけさんに伺った。

「瀬戸内海に面した香川県は、もともと雨が少なく、大きな川もないことから、長年にわたり水不足に悩まされてきました。中でも大野原おおのはらちょう(現在の観音寺市)は、特に干ばつの被害が深刻で、「大野原は月夜に焼ける」とも言われるほど、乾燥した原野が広がっていました。1920年代前半に二度の大きな干ばつが起きたことをきっかけに近代的なため池を造ろうという機運が高まり、豊稔池堰堤の建設計画が始まりました。1926年に工学博士の佐野さの 藤次郎とうじろう2氏の指導のもと、香川県の直営事業として工事が始まり、地元の農家を中心とした作業班の協力により、わずか3年8か月という短期間で工事が完了。堤長145.5m、堤高30.4mを誇るダムが完成しました」


上部のアーチ部分には当時としては斬新なコンクリートブロックを使用している。

日本のコンクリートダム築造技術が草創期であった当時において、総勢約15万人が携わった大工事であったにもかかわらず、無事故で誰一人命を落とすことなくダムが完成したことは、当時の公共事業としては非常に評価が高く、また、建築様式も非常に画期的な手法がとられていたという。

「当時は、重力の重みで水をせき止める「重力式コンクリートダム」が主流でしたが、豊稔池堰堤は複数のアーチを支える壁を組み合わせた「石積み式マルチプルアーチダム」として建設されました。さらに、洪水を逃すための「洪水こうずいばき」を壁のなかに組み込むサイフォン式構造や、施工が難しい外壁にコンクリートブロックを活用するなど、当時としては非常に革新的な設計と技術が取り入れられており、今なお高く評価されています」


豊稔池堰堤では放水の様子を間近で見ることができる。

豊稔池堰堤が作られたことで、周囲の生活も大きく変化した。

「豊稔池に約160万トンの水をたくわえることができるようになり、水の供給が安定しました。これによって観音寺市は、柞田川西岸に広がる530ヘクタールの農地が潤い、現在では米の生産のほか野菜作りも盛んになり、全国有数のレタスの生産地となっています」

また、豊稔池は、農地だけでなく下流域の市街地においても、貯水と放流の調整によって水害の軽減に寄与しており、地域の防災インフラとして都市機能とも密接に結びついている。

これからの季節は水田に水を供給するための豊稔池の「ゆる抜き」が行われ、多くの見物客でにぎわうという。

「季節の風物詩である「ゆる抜き」は、池のゆる(取水しゅすいせん)を開け、水を田んぼへ流す行事です。下流に位置する他のため池との貯水量を調整するため、毎年7月下旬から8月上旬にかけて行われています。轟音とともに毎秒4トンもの水が放流され、壮観な景色が広がります。見応えがあるこの景色をぜひ楽しんでいただきたいです」


毎秒4トンもの水が放流される「ゆる抜き」
Photo: 観音寺市
  • 1. 複数のアーチ構造とそれを支える柱(扶壁ふへき又はバットレスという)を組み合わせて水圧を分散させる構造のダム。石積みで造られ、強度と軽量化を両立する設計。日本では珍しい形式で、農業用水確保のため築造された。
  • 2. 日本の近代土木技術の発展に貢献した工学博士。農業用ため池やダム建設の専門家として知られる。

By MOROHASHI Kumiko
Photo: Kan-onji City; PIXTA

Was this article interesting?

Feedback and Comments

NEWSLETTER

Subscribe to our e-mail newsletter for receiving monthly updates.

E-mail Newsletter

Links

You will be redirected to an external website. Would you like to proceed?
If you wish to continue, please click the link below.

Link
Please Note:
  • The linked website is distinct from the website of the Public Relations Office of the Cabinet Office.
  • The URL of the website mentioned in this notice is as of November 21, 2023.
  • The website's URL may be discontinued or changed. Please verify the latest URL on your own.
Top

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /