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VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU 日本の伝統儀礼と日本酒の役割

神前結婚式で行われる三々九度さんさんくどの様子。

日本では神事や祝いの場で日本酒が重要な役割を果たしてきた。神々への供物くもつとして捧げられ、儀式の中で、神と日本酒を分かち合い、お互いの絆を深めることに意味がある。日本文化に詳しい国士舘大学 名誉教授の原田はらだ 信男のぶをさんに伝統儀礼における日本酒の意義や役割について話を聴いた。

現代日本でも行われている伝統的な神前結婚式1の中で、「三々九度さんさんくど2」の儀式がある。新郎新婦が三つのさかずき3で酒を交互にみ交わし、夫婦や両家の絆を深めるためのものだ。また、日本では伝統的に祝い事の時には日本酒が付きもので、鏡開かがみびら4と称する儀式があり、づち酒樽さかだる5ふたを割り、樽の中の酒を皆で分かち合う。このように日本酒は儀礼や祝いの場に欠かせないものとされている。原田さんはこの背景についてこう語る。

「日本人は米を大切にしてきました。古く神事では、米そのもの(生米)、米でつくる餅、そして米をかもしてつくる日本酒が供えられます。そして神に捧げた後、人々が共に食する儀礼を直会なおらい6といいます。これは単なる宴会ではなく、神と人とが同じものを食して、心を通わせ合うという意味を持つ重要な儀式なのです」。

三々九度の儀式も、この神とのきょうしょくの考えに基づいており、夫婦の誓いとして受け継がれている。


鏡開きの一例。づちで酒樽の蓋をたたいて割る。

また、日本には、毎年11月23日に行われる新嘗祭にいなめさい7という重要な儀式がある。これは、その年の米や麦など主要な穀物が実ったことに感謝する祭りだ。宮中で祭儀として古代から行われている。原田さんはこの儀式における日本酒の役割について説明を続ける。

「宮中における新嘗祭は、天皇が新穀やその新穀でかもした酒を神々にお供えになって、神恩を感謝された後、自らもお召し上がりになる祭典です。宮中恒例祭典の中の最も重要なものとされ、天皇自ら栽培された米の新穀もお供えになります。また、新しい天皇が即位後に行われる大がかりな新嘗祭が大嘗祭だいじょうさい8になります。今日でも新帝即位の際にかぎり、行われています。新嘗祭や大嘗祭では、参列されたかたがたへも同じ酒が儀式後の祝宴や直会でふるまわれていると聞きます。宮中で最も重い儀礼においても、酒は最高の供物として神に捧げられ、大切に扱われてきたのです」

日本では、現在においても神社に日本酒の一升瓶いっしょうびん9や酒樽が奉納されているのをよく見かける。特に大きな神社では、地元の酒蔵や信者からの寄進きしんとして多くの酒樽が納められる。原田さんは、説明する。

「実は、古くから酒のほか、それぞれの地域の特産品、例えば鳥類や魚類あるいはシカやイノシシなどを捧げる神社も少なくありませんでしたが、明治時代(1868年から1912年)以降10になると、ほとんど全国各地の神社への供物は、米、餅、日本酒を中心としたものになりました。日本人にとって特別な存在である米を使った酒は、神と人とをつなぐ神聖な供物として今でも大切にされています 」

伝統儀式の中で重要な役割を果たしてきた日本酒。結婚の誓いを交わす三々九度、さまざまな祝い事の際の鏡開き、豊穣に感謝して祈る新嘗祭や大嘗祭。これらの儀式を知ることで、日本酒が単なる飲み物ではなく、日本人の伝統的精神が宿っていることも想起できよう。


神に供えられている米と酒(右側の器の中に入っている)の一例。
  • 1. 日本固有の信仰で、自然や祖先の神々を崇拝する神道の儀礼による結婚式。
  • 2. 神前式で行われる結婚の儀式で、新郎新婦が三つの盃で交互にお酒を酌み交わすこと。共食の考えに基づき、夫婦及び両家のきずなを深める。
  • 3. 口径が大きく、少量の酒をゆったりと味わうのに適する酒器。婚礼などの儀礼の場でも用いられるものは漆塗りの装飾的なものが一般的。
  • 4. 祝い事の際に酒樽の蓋を開く儀式で、酒屋で酒樽の上蓋のことを鏡と呼んでいたためその名前がついた。
  • 5. 日本酒を保存し、儀式や祝いの場で使われる木製の容器。
  • 6. お祭りの終了後に神前に供えたものを、神職をはじめ参列者の方々でいただくこと。神と人とが一体となることが根本的意義とされるという。
  • 7. 一般的に11月23日、その年にとれた穀物などの収穫への感謝の意を表す祭で、「にいなめまつり」「しんじょうさい」とも言う。各地の神社でも行われている。
  • 8. だいじょうさい、おおにえのまつり等の読み方がある。
  • 9. 日本の伝統的なガラス製の瓶。容量は1.8リットル。「しょう」とは日本の体積の単位。日本酒の保存や提供に広く使用されている。
  • 10. 米を神への中心的な供物とする習慣が、全国各地の神社に一般化したのは、1868年の神仏分離令(神道と仏教との区別を明確にしようとする、1868年から推し進められた政府の宗教政策に係る命令)がきっかけとされる。

By TANAKA Nozomi
Photo: PIXTA

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