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VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU 酒蔵を巡りつつ地域の魅力に触れるツアー

佐賀県鹿島市の酒蔵通りを散策するツアー参加者
Photo: 細野ほその 助博すけひろ

日本酒をはじめとした酒蔵を巡り、酒を味わうだけでなく、地域の文化や食、自然と一体となった体験ができる新たな旅のスタイルとして注目される「酒蔵ツーリズム®1。その普及に尽力する中央大学名誉教授の細野ほその 助博すけひろさんに話を聴いた。

「日本国内には、日本酒、焼酎、泡盛、ワイン、ビールなどの酒蔵が約1350蔵あります。お酒についてもっと知りたい、味わいたいというかたにおすすめなのは、やはり造っている現地に行って、そこの自然環境や気候に触れながら酒蔵を訪ねてお酒を味わい、酒造りをしているかたから直に話を聞くことです」と細野さんは語る。

酒蔵を巡りつつ、その土地の魅力に触れる「酒蔵ツーリズム®」。各地の観光関係企業、自治体や酒蔵などが連携して、地域の日本酒に親しむ企画がさまざまな形で行われている。酒蔵見学や試飲会、また、蔵開き2といったイベントを開催する蔵や、酒造りの一部を体験ができる蔵などもある。

細野さんが昨年(2024年)に参加したさまざまな酒蔵巡りの旅の中で、特筆すべき事例は本州の南西に位置する九州北部の地域を電車で移動しながら、各地の、酒蔵が立ち並ぶような酒の産地を巡る旅だという。

「JR九州の観光電車・特急ふたつ星3で移動する旅が印象的でした。福岡県の博多駅(福岡市)からの特急は佐賀県鹿島市4肥前ひぜんはま駅へ。駅のプラットフォームは、列車が到着すると同時に試飲会場やお土産屋さんに早変わりします。乗客は一斉に列車を降り、地元の酒とおいしいものを堪能していました。私はこのツアーの参加者のお迎え役として駅にいたのですが、何より駅舎の中にあるこじんまりした日本酒バーに乗客が入ってきたことが印象的で、一緒においしい地酒の飲み比べができたことがとても楽しい思い出になりました。その後私はツアー参加者と同様に地元の神社へ参拝し、駅で特産品を購入し、酒蔵通りを散策するなど、充実した時間を過ごしました。酒蔵自体へ行き、そこで試飲をしたりするスタンダードなツアーもよいですが、この企画のように公共交通機関と地元の酒蔵などが連携して駅などでツアー客をおもてなししてくれる、特別感のある企画が増えています。東京でも、都内にある五つの酒蔵へ電車などを使って自分で移動し、三つ以上巡ると特典が抽選でもらえる、という企画が毎年催されています」。


電車で巡る土地の酒を楽しむツアーでは、駅のホームでお酒の試飲や買い物も企画されていた。
Photo: 細野 助博

佐賀県鹿島市の肥前浜駅舎の中にある日本酒バーでは地元の酒を5種類飲み比べができる。
Photo: 細野 助博

もともとワイン好きだった細野さんだが、日本の酒に関心を持つようになったのは、「日本酒蔵ツーリズム推進協議会」の会長として、日本のお酒はツーリズムの付加価値の高いコンテンツとして地域経済活性化を牽引けんいんするポテンシャルが大きいと確信したからだという。

「ワインには、「テロワール」5という戦略概念があり、ブドウ畑の自然環境がその年のワインの個性や品質に大きく影響し、それが付加価値となります。日本にもお米もさることながら、おいしい水が湧き出る自然環境に恵まれた土地には必ずおいしい酒があります。日本の酒ならではのこの土地の個性に、地元の人たちはもっと目を向けて、酒とともに、それを生み出す地域の産物や景観の価値を高めてほしいですね。酒蔵を訪れる人が増えることで、地域の活性化にもつながります。全国各地にあるおいしい酒を造っている酒蔵へ国内外の多くのかたが訪ね、土地の料理と酒のペアリングを楽しみ、自然景観を楽しむ。泊まり込みの酒造り体験や、原材料となる米の田植え・稲刈り体験、発酵文化の学びなど、特別なプログラムを提供する酒蔵もあります。日本酒をきっかけとした地域の魅力に深く触れられる旅は、これからの観光のスタイルとして、もっと広がっていくと思います」。


酒蔵見学の一例。千葉県酒々井しすいまちの酒蔵の代表銘柄を醸造している様子。
Photo: Masashi Nakata 写真提供: 飯沼本家、tegusu.inc

千葉県酒々井しすいまちの酒蔵見学ではハイライトとしての試飲会が行われる。
Photo: Sono Aida 写真提供: 飯沼本家、tegusu.inc

日本政府の国税庁が提供する酒蔵マップ(国税庁のホームページで公開)では、見学の可否や英語対応の有無など、詳細な情報が確認できる。日本語だけでなく、英語版、中国語版(簡体字及び繁体字)、韓国語版も掲載されている。旅の計画を立てる際に活用していただき、日本の美しい風景とともに、お気に入りの酒蔵を訪れてみてはいかがだろうか。


「酒蔵ツーリズム®」の一例。千葉県酒々井しすいまちの酒造メーカーが所有する田で田植え体験をする様子。やがて、その米が日本酒の原料となる。
Photo: Sono Aida 写真提供: 飯沼本家、tegusu.inc
  • 1. 「酒蔵ツーリズム®」は佐賀県鹿島市の登録商標。多くの地域で酒蔵に親しむイベントが組まれ、全国的にも酒蔵を巡るこうした観光スタイルが注目されている。
  • 2. 日本酒の酒蔵で新酒ができたことを祝うイベント。伝統的な製法で酒造りをする蔵では2月中旬ごろの開催が多い。
  • 3. 正式名称は特急 ふたつ星4047よんまるよんなな。九州西部の佐賀県、長崎県を巡るJR九州の観光列車。
  • 4. 九州北部にある佐賀県南部にある市。有明海の海産物、みかんや米、酒造りが盛ん。城下町であったことから歴史的な景観が残っている。
  • 5. 本来は土壌を意味するフランス語の言葉で、ワインの特徴に影響を与える産地の様々な自然的要因と人的要因の両方を含んだ概念。それを活かして、ワインに明確な個性をもたらすマーケティング戦略でもある。

By TANAKA Nozomi
Photo: HOSONO Sukehiro; Masashi Nakata; Sono Aida

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