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トピックス

富田史章ポストドクトラル研究員らの論文がアメリカ地球物理学連合(AGU)のResearch Spotlightに選出

2021年6月15日

富田史章ポストドクトラル研究員らによる論文「Development of a Trans-Dimensional Fault Slip Inversion for Geodetic Data」が、アメリカ地球物理学連合(AGU)のResearch Spotlightに選ばれ、機関誌Eosに取り上げられました。Research Spotlightは、AGUの学術誌22誌において出版された全論文から毎月15件程度が選ばれる注目研究です。

対象となった論文は、Reversible-jump MCMC(リバーシブルジャンプ・マルコフ連鎖モンテカルロ)法という近年注目されつつある解析手法を、地震等による断層すべり分布の推定に適用することで、断層面上のすべり分布を従来よりも柔軟に推定することが可能になったという内容で、『JGR Solid Earth』に2021年4月2日付け(オンライン掲載日)で掲載されたものです。

論文の紹介記事:
https://eos.org/research-spotlights/a-new-approach-to-calculate-earthquake-slip-distributions
論文タイトル:
Development of a Trans-Dimensional Fault Slip Inversion for Geodetic Data
著者:
Fumiaki Tomita, Takeshi Iinuma, Ryoichiro Agata, Takane Hori
URL:
https://doi.org/10.1029/2020JB020991

論文の概要
背景

地球の地下では、プレート運動によって地下の岩盤同士が常に力を及ぼし合っている状態にあり、岩盤内部には地震を起こすエネルギーが蓄積していきます。プレート境界断層や内陸の断層などの弱面でその両側が固着している部分があると、そこに変形が集中していきます。そして、固着によって生じた変形を解消するように、地下の断層が急激にずれる「断層すべり」が時折発生します。この急激な断層すべりが地震の正体であり、急激なずれ動きで生じる地震波により地震の揺れが起こります。また、地震の発生によって全ての固着の影響が解消されずに、地震後にゆっくりとした断層すべり(余効すべり)が発生してエネルギーを解放することもあります。余効すべりはゆっくりと進行するため、地震のような揺れを伴いません。こうした、地震前の固着・地震時の急速な断層すべり・地震後の余効すべりという一連の固着・すべりが時空間的にどのように生じているかを正確に調べることは、どこに地震を起こすエネルギーが蓄積しているのか、また、地震や余効すべりが蓄積されたエネルギーをどこまで解消したのかを把握する上で非常に重要です。

地下での固着・すべりの分布は、地表での地殻変動データ等を用いて推定することが可能で、最小二乗法によって連立方程式を解く、逆解析が行われることが一般的です。最小二乗法を使った逆解析手法では、安定した推定値が求まるように、固着・すべりの分布が空間的に一様な滑らかさを持つという仮定を置いたり、固着・すべりの推定値がガウス分布という特定の誤差分布に従っているという仮定を置いたりしています。そのため、もし、こうした仮定が成り立たない場合、固着・すべりの分布が正しく推定できない状況が生じていました。

成果

富田史章ポストドクトラル研究員らは、統計分野で発達してきたReversible-jump MCMC(リバーシブルジャンプ・マルコフ連鎖モンテカルロ)法を用いて、地殻変動観測データから固着・すべり分布を推定する逆解析手法を開発しました。この手法では、最小二乗法で必要とされていた仮定を置くこと無く、柔軟にモデル化を行えます。最小二乗法に比べて極めて計算量が多いという短所もある手法ですが、海洋研究開発機構の所有する大型計算機(DAシステム)を活用した並列計算によって効率的に解析を行うことに成功しました。

本論文では、数多くの数値シミュレーションを実施して、開発した手法により、最小二乗法の得意とする滑らかな固着すべり分布も、また、最小二乗法の苦手とする急峻な分布も、どちらも再現できることを確かめました(図1)。また、逆解析において、客観的な設定が難しい、異なる観測手法で得られたデータ同士の重みを、本手法を用いることでデータから適切に推定可能であることも示しました。

本手法を、2011年東北地方太平洋沖地震で生じた地殻変動データに適用して、地震時のプレート境界でのすべり分布を推定したところ、従来の最小二乗法では検討することのできなかった、ガウス分布に従わない推定誤差を評価することが可能となりました(図2)。こうした結果は、地震時の断層すべりがどこまで広がったかをより詳しく検討するのに重要です。将来的には、本手法を地震後の地殻変動データに適用して、余効すべり等を含めた、プレート境界での固着・すべりがどのように推移しているのかを明らかにしていくことが期待できます。また、南海トラフや千島海溝沿いなどの、巨大な地震の発生が危惧されている領域における、プレート境界での現在の固着状態を詳細に解明していくことにも活用できます。

謝辞

本研究は、科学研究費助成事業 若手研究採択課題 「2011年東北沖地震に伴う断層すべりの時空間発展の高解像度推定(代表者:富田史章,課題番号: JP20K14588)」の支援を受けて行われました。

図:

[画像:図1]

図1:数値シミュレーションによる断層すべりの再現性評価
左側のパネルが入力値として与えた断層すべり分布を示す(上段は滑らかな断層すべり分布を仮定した場合、下段は急峻な断層すべり分布を仮定した場合)。真ん中のパネルが従来の最小二乗法を用いて再現された断層すべり分布を、右側のパネルが本手法によって再現された断層すべり分布を示す。

[画像:図2]

図2:本手法を2011年東北地方太平洋沖地震時の断層すべり推定に適用した結果
左側の地図に推定された断層すべり分布を色で示す。右側のヒストグラムは、地図内の4地点(A–D)における断層すべりの推定値の分布を示す。

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