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分散コンピュータの性能を最大限に引き出すソフトウェアを開発。| UTOKYO VOICES 099

UTOKYO VOICES 099 - 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授/情報基盤センター長 田浦健次朗

情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授/情報基盤センター長 田浦健次朗

分散コンピュータの性能を最大限に引き出すソフトウェアを開発。

コンピュータの脳に例えられるCPU。その処理速度は年々速くなり、かつてのスーパーコンピュータは机上に乗るパソコンになった。しかし、CPUがいくら速くなっても、それを処理するプログラムが最適化されなければ計算速度は上がらない。計算を加速するには、CPUを複数個つなげて計算させる並列・分散処理が必要となる。田浦が長年取り組むのが、この研究だ。

インターネットでつながったコンピュータ(クラウド)活用が一般的になった今日だが、その普及にさきがけて約20年前に田浦らが取り組んだのが「InTriggerプロジェクト」。東大、京大、早稲田大など国内16拠点に分散した1,000台規模の計算資源を統合する試みだ。「きわめて少ない導入コストで多数の計算資源を利用できるよう、並列処理のためのライブラリやツールを設計し、環境に応じて通信を最適化する集合通信アルゴリズムを開発。誰でも使えるプラットフォームをつくることができました」。

もともと数学の道を志して東大へ入学した田浦だが、急成長する情報分野で社会に役立つ研究をしたいと思うようになり、情報科学科へ進んだ。「与えられた課題をこなす3年生までの授業よりも、自ら問題そのものを見つけて研究する方が性に合っていた」といい、大学院へ進学。以来、多様な分野で役立ち、今まで不可能と思われてきたことを実現するプログラム開発をモットーとしている。社会の発展に資するという志は相変わらずだが、「なるべく早く世の中の役に立つテーマと、長期間かけて追究するテーマにバランス良く取り組む」よう心がけているという。

この「なるべく早く役に立つ」が、2020年に思わぬ形で実現された。東大のITシステムを運用管理する情報基盤センター長でもある田浦が、コロナ禍におけるオンライン授業の態勢づくりを主導したのだ。授業に使うツールの選択や運用方法を短期間でまとめ上げ、情報を集約したポータルサイトやマニュアルを作成。4月6日から実験や実習を除く5,000を超える講義などのオンライン化に成功し、全国に先駆けたいち早い対応が注目を集めた。

現在力を注ぐのが、国立情報学研究所、産総研、全国の情報基盤センターと協力して取り組む、次世代学術情報ネットワーク・データ基盤の整備だ。「全国の研究者がそれぞれの大学で保持する研究データを簡単に共有でき、それを全国の情報基盤センターのパワフルなマシンで簡単に、高速に処理できるしくみです。また、リアルタイムデータ(各種センサー、自動車、スマートフォン、ソーシャルメディアなどから送られてくる、環境や人の活動データ)を解析するための基盤づくりにも取り組んでいます」。

「コンピュータはソフトがあってなんぼ。革新的なアルゴリズムを開発できれば、その使い方は劇的に変わります。それがとても面白いところです」

小物:万年筆とボールペン

Memento

2015年に学生からプレゼントされた、田浦の名前が彫られた万年筆とボールペン。紙に文字を書く機会が少なくなった最近でも、常に持ち歩いている。

直筆コメント:感謝

Maxim

何事も一人で成果を出せるものではない。「センターの任務でも研究でも周りのすべての人に支えられて初めてどうにかなっている。常にそれを有難く感じながら仕事をしています」

Profile
田浦健次朗(たうら・けんじろう)

1992年東京大学理学部情報科学科卒業、1996年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻 博士課程中退 同専攻助手、1997年博士号(理学)取得(東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻)、1999年〜2000年カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、2001年東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻講師、2002年准教授、2015年教授、2018年情報基盤センター長。

取材日: 2020年11月20日
取材・文/佐原 勉、撮影/今村拓馬

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