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1986年、ビルマ式社会主義末期に農村の社会経済調査をはじめて間もなく、二つの自問が湧いてきました。その一つは、ミャンマー(ビルマ)は農業国であり、農村には農民が住んでいるはずなのに、意外にも村の総世帯数に占める農家の割合は少ないのではないか、もう一つは、ミャンマーの村は村ではないのではないか、少なくとも私が専業農家の長男として生まれ育った日本の村とは全く異なるコミュニティではないのか、という問いです。その後、二百ヵ村を超えるミャンマー全国の村々を歩き、先人の労著を参照しつつ、この二つの問いへの自答を試みたのが本書です。
一つめの問いに関しては、1986年から2019年に至る33年間の農村社会の変容を「De-agrarianisation(脱農化あるいは脱農)」という視点から描いてみました。既存の同概念に景観、社会変動、権力構造、消費生活といった新たな要素を加えて、ミャンマー農村の社会経済史を論じました。二つめの問いに関しては、日本の農村社会との対比から「村落共同体の不在」を実証しつつ、二者関係を集団へと導く「触媒論」、ミャンマー村落社会論としての「場の親族論」を展開しました。
本書によって、議会制民主主義、社会主義、軍政、そして再民主化と政治経済体制が変化してきた、ミャンマーの農村部の社会経済変容と、それでも不変であった社会構造のコアが見えてきます。
髙橋 昭雄 著
『ミャンマーの体制転換と農村の社会経済史――1986-2019年』
東京大学出版会, 304ページ 2021年2月 ISBN: 9978年4月13日-040296-5