日本学術会議「幹事会だより No.123」について
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幹 事 会 だ よ り No.123
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平成27年9月30日発行
日本学術会議会長
大西 隆
今回は9月18日(金)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受
け、8月28日(金)に開催されました第217回幹事会の議事の概要を御報告いたします。
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会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
9月18日の幹事会では、冒頭の議題として、文部科学省・常盤豊高等教育局長が出席し
て、国立大学、特に6月8日の同省通知で取り上げられた人文社会科学系のあり方について
の説明が行われました。説明は、主として、「新時代を見据えた国立大学改革」と題する
「文部科学省高等教育局」名の文書を基に行われました(文書については、日本学術会議
の幹事会資料として日本学術会議HPに掲載済。http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf23/siryo218-3.pdf)。
そして、通知で「・・・人文社会科学系学部・大学院については・・・組織見直し計画を
策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること
とする」とされていることに関して、上記文書では「例えば、いわゆる『新課程』を廃止
するとともに、その学内資源を活用して・・・新たな教育組織を設置すること等を想定し
ている」と書かれ、人文社会科学系全体に対して組織の廃止を求めているものではないと
の説明がありました。いうまでもなく、18歳人口の減少傾向はもとより、進学率の増加、
グローバル化、社会の人材ニーズの多様化を背景に、人文社会科学を含めた、大学、国立
大学のカリキュラム、教育システム、入学定員の改革・改善は不断に行われる必要があり
ます。したがって、日本学術会議が先に出したこの問題での幹事会声明(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-kanji-1.pdf)
でも、こうした改革の必要は明記しています。ただ、その際に、文系全体の廃止を求める
と読めるような通知は適当ではない、としたものでした。今回の常盤局長の説明で、文科
省の考えと幹事会声明と大きく異なるものではないことが理解できたことは良かったと思
います。文科省におかれては、引き続き、こうした文書を基に、各方面に丁寧に説明し、
誤解を解く努力をしていただきたいと思います。また、この通知は海外でも注目されてお
り、日本では人文社会科学系学部・大学院廃止するというニュースが流れたり、またこれ
に対処した日本学術会議の幹事会声明を支持するメッセージが海外の学術団体から寄せら
れたりしています。国内外に対して、十分な説明を行い、諸改革が不安なく、前向きな姿
勢で行われるようにするべきだと考えます。
一方で、国立大学運営費交付金、私立大学助成金、あるいは科学研究のための国費は、
国の財政難の下に、引き続き厳しい状況にあります。次代を担う人材育成や科学・技術研
究の蓄積による産業・社会の発展はわが国の将来にとって不可欠であることがより広範に
認識されることを通じて、これらの基盤的経費、競争的研究経費が十分な国際競争力を保
てる水準に確保されることが望まれます。
〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
大西会長からもご紹介がありましたが、9月の幹事会には文部科学省・常盤高等教育局
長がお越しになり、6月8日の文部科学大臣通知の意図が「人文社会科学系学部・大学院の
廃止」にないことを明言し、「文部科学省の人文社会科学系の学問の軽視」を否定しまし
た。常盤局長の来訪は、6.8通知、それに対して発出した7月23日の幹事会声明以降も収ま
る気配のない、国立大学における人文社会科学の在り様をめぐる混乱収拾が意図されてい
たと思われます。それまでに既に、文科省の「真意」が6.8通知とは異なるところにある
こと――すなわち「人文社会科学系学部・大学院の廃止」を意図していないこと――は、
様々な場で語られていたようですが、一旦公の文書で言語化された言葉を取り消すことは
容易ではありません。
例えば、グローバルな大学ランキングで知られるTimes Higher Educationがこの問題を
"Social sciences and humanities faculties to close in Japan after ministerial
decree"との見出しで取り上げたのは、9月半ばのことでした(電子版2015年9月14日.)。6.8
通知のあの文章は、"close"、すなわち人文社会科学系学部・大学院の「廃止」としか
読めない、ということなのでしょう。記事では、日英2言語で同時公表した7.23幹事会声
明への言及もあります。私は、この記事を例示しながら、常盤局長には国際社会への対応
について質問しました。ITで簡単につながる今の世界では、「言葉」が決定的に重要な役
割を果たします。今後の文科省の対応に注目したいと思います。
ちなみに、同じ記事は、私も委員として出席する第19回国際科学会議(ICSU)の「人権
と研究健全化に関する委員会(CFRS)」(平成27年10月1日〜2日に開催予定)でも取り上
げられるという連絡が入りました。国内の大学に対して「政治学教育の廃止」を通達した
というウズベキスタン政府通達と並んで取り上げられる予定となっていることが、少し気
になるところですが、当該会議では、委員としてしっかり対応して参ります。
〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
去る9月15〜16日に日本学術会議講堂で、日本-フランス・スマートシティシンポジウ
ムを開催しました。このシンポジウムは、在東京フランス大使館からの申し出に端を発し
て共同準備作業を経て開催したものです。東京都とパリ市の協力を得て、さらに民間、国
からも多様な話題をいただきました。この日仏の合同シンポジウムは昨年も開催してお
り、昨年のテーマは「エネルギーの将来のための先端材料科学」というもので、今回のテ
ーマと必ずしも連続性を持っているわけではありません。むしろ、タイムリーな話題をフ
ランス側が提案してきて、それに日本学術会議側が乗ることによってシンポジウムが実現
しています。今回のスマートシティのテーマには、とりわけ姉妹都市である東京とパリに
おけるプロジェクトの紹介などが含まれています。その背景には、本年11月末からCOP21
がパリで開催予定である、という盛り上がりがありました。
スマートシティという題材は非常に幅広で、都市や地域の計画、自動車交通、建物と人
の暮らし、ビッグデータの活用など、現代の社会の問題に応える面が多く見られます。様
々なスマートシティの計画を実現するためには、資金のこともさることながら、制度面の
整備が必要である、との専門家の声も聞かれました。特に個人情報の扱いは大きな課題で
す。スマートフォンによる一人一人の位置データの発信は、そのデータに基づく道路混雑
情報などが現状でも一般に提供されていますが、提供されている元の個別情報には一人ひ
とりの移動に関する詳細な情報があるわけですから、その管理は非常にデリケートな問題
です。この種の個人の情報に基づく人間の動態の把握は、新しい技術による「光」です
が、その一方で、情報が悪用されたり漏洩すると、これは大きな「影」の問題をもたらし
てしまいます。
さて、上記の日仏シンポジウムとはまったく別に、第三部では、「科学技術の光と影」
に焦点を当てて、この問題への取り組みを始めています。光と影の例はたくさんありま
す。先に述べた情報系は問題の宝庫になっています。また、誰でも使えるようになり、無
責任な使い方が問題を起こしているドローンも光と影の例です。以前からあるものとして
は、自動車がもたらした、利便性という光と、交通事故の影などが典型例です。第三部で
は、これから光と影に関していろいろな例を分析していこう、ということにしています。
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以下、第217回幹事会の概要となります。
◎にじゅうまる第217回幹事会(平成27年8月28日(金)13:30〜15:55)
1 冒頭、事務局の人事異動(事務局長、審議第二担当参事官、国際業務担当参事官)に
伴う挨拶が行われました。
2 前回議事要旨の確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 補欠の連携会員の選任の要望を承認し、推薦を行う部を第一部に決定しました。
(2) 課題別委員会と幹事会附置委員会の位置付けを整理するために、「課題別委員会設置
の在り方について」の一部を改正するとともに、課題別委員会及び幹事会附置委員会に係
る諸規程の改正を行うことを決定した。さらに、この改正に伴い、課題別委員会と位置付
けるに相応しい委員会(11委員会)について、幹事会附置委員会から課題別委員会への変
更を行うために、各委員会の運営要綱を改正することを決定しました。
(3) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置3件、名称及び審議事項の変更1件)及び
分科会等委員(3分科会、4小委員会)を決定しました。
〇新規設置
・基礎生物学委員会・基礎医学委員会・臨床医学委員会合同 生物リズム分科会
・農学委員会・食料科学委員会合同 農学分野における名古屋議定書関連検討分科会
・経営学委員会・総合工学委員会合同 サービス学分科会 サービス学の参照基準策定小委
員会
○しろまる名称及び審議事項の変更
・社会学委員会 フューチャー・ソシオロジー分科会
(4) 若手アカデミー分科会の設置(新規4件)を決定しました。
〇新規設置
・若手アカデミー 若手による学術の未来検討分科会
・若手アカデミー 若手科学者ネットワーク分科会
・若手アカデミー イノベーションに向けた社会連携分科会
・若手アカデミー 国際分科会
(5) 日本学術会議が既に加入しているIAP(国際問題に関するインターアカデミーパネル)
及びIAC(インターアカデミーカウンシル)が、IAMP(インターアカデミーメディカルパネ
ル)と統合され、新IAP(インターアカデミーパートナーシップ)が設立されることを受
け、日本学術会議が、新IAPに加盟することを決定しました。
(6) 中国科学技術協会(CAST)とMOUを締結することを決定し、MOU締結に関する打ち合わ
せに会員を派遣することを決定しました。
(7) 平成27年度代表派遣について、実施計画に基づく10-12月期の会議派遣者を決定しま
した。
(8) ICSU (国際科学会議) CFRS (科学研究における自由と責任に関する委員会)に会員を
派遣することを決定しました。
(9) ICSU (国際科学会議) CSPR(科学計画評価委員会)に連携会員を派遣することを決定
しました。
(10)ICSU(国際科学会議)-UNU(国連大学)-IAMP(インターアカデミー・メディカル・
パネル) Programme on Urban Health and Wellbeing: A Systems Analysis Approach科
学委員会に会員を派遣することを決定しました。
(11)世界科学フォーラム(WSF)2015への連携会員の派遣及び外国人の招集を決定しまし
た。
(12)7件のシンポジウム等の開催、2件の国際会議及び3件の国内会議の後援を決定しまし
た。
(13)内閣府特命担当大臣(防災担当)の求めに応じ、日本学術会議が、内閣総理大臣が主
催する「防災推進国民会議」の構成機関になることを決定した。また、大西会長より、日
本学術会議の代表者として、大西会長が「防災推進国民会議」の議員になることについて
報告があり、承認しました。
4 その他事項として、今後の幹事会及び第170回総会の開催日程について確認が行われま
した。
5 以下の非公開審議が行われた。
(1) 補欠の会員候補者について選定することと、その補欠の会員の所属部について決定す
ることについて、それぞれ総会に提案することを決定しました。
(2) 定年により退任する会員の連携会員への就任を決定しました。
(3) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(1分科会)及び小委員会委員(5
小委員会)を決定しました。
特段の事情を考慮し、健康・生活科学委員会看護学分科会に、複数名の特任連携会員が任
命されました。
(4) 防災減災・災害復興に関する学術連携委員会における委員(特任連携会員)(1委員
会)を決定しました。
(5) 国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定しました。
◇◆だいやまーく◇次回の総会日程について◇◆だいやまーく◇―――――――――――――――――――――
次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
「第170回総会」 平成27年10月1日(木)〜10月3日(土)
「第171回総会」 平成28年4月14日(木)〜4月16日(土)
「第172回総会」 平成28年10月6日(木)〜10月8日(土)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆だいやまーく◇