アミノ酸のひとつであるグリシンを分解する「グリシン開裂 酵素 」と呼ばれる酵素の働きが先天的に低下しているために起こる病気です。体内に分解されないグリシンが蓄積し、血中や尿中のグリシン濃度が高くなります。また、脳や脊髄を取り巻いている液体である髄液のグリシン濃度も上昇します。意識障害やけいれんなどを起こす点で、脳症と呼ばれる病気と症状が似ているため、「グリシン脳症」とも呼ばれます。
患者さんの数は、100名未満と考えられます。この病気の発症は、全国で毎年1~2人です(発症に男女差はありません)。
生まれたばかりの赤ちゃんの病気です。発症がもう少し遅く、乳児期に症状が出ることもあります。
この病気で働きが悪くなっている「グリシン開裂酵素」の設計図にあたる遺伝子に 変異 (遺伝子のキズ)があるために起こります。
病気の原因となる 遺伝子の変異 は、親から子へ遺伝します。しかしながら、ご両親には発症しません。この様な遺伝の仕方を「潜性遺伝(劣性遺伝)」と言います。病気の原因となっているグリシン開裂酵素の遺伝子は2本存在します。ご両親は共に、そのうち1本の遺伝子のみに変異を持つため、グリシン開裂酵素の働きは半分になりますが、健康上の問題はありません(この状態を 保因者 と呼びます)。病気のお子さんには、父由来と母由来の両方の遺伝子変異を受け継ぐため、グリシン開裂酵素の働きが極めて低くなり病気を発症します。
生後数日で意識障害、筋力低下、呼吸困難、けいれん、しゃっくり、などの症状で発症します。症状が出始めた新生児期には自発呼吸が無くなることが多く、人工呼吸器による呼吸管理が必要になります。急性期を乗り切った大部分のお子さんは、自発呼吸が戻り、人工呼吸器は必要なくなりますが、発達が遅れるため生涯にわたる療養が必要になります。
乳児期に発症する場合は、無呼吸となることは希で、けいれん、筋力低下、発達のおくれ、などの症状で発症します。
確実に効くと証明された治療法はありません。急性期には、大部分のお子さんが人工呼吸器を必要とします。薬物療法として、次のお薬がよく使われています。
・安息香酸ナトリウム: 体内に蓄積したグリシンを尿中に排泄し、血中グリシンを低下させる目的で使用されます。
・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物: 脳内に高濃度に存在するグリシンは、神経を過興奮させると考えられており、その興奮を抑制する目的で用いられている。
・抗けいれん薬: けいれんを伴うことが多いので、けいれんを弱くしたり、予防したりするために用いられます。お薬としては、フェノバルビタール、ジアゼパム、クロバザム、ゾニサミド、などが用いられます。
新生児期に呼吸障害で亡くなるお子さんも存在します。急性期を人工呼吸などの集中治療で乗り切り、自発呼吸が戻ってきたお子さんの多くは、人工呼吸器なしで生活できるようになりますが、重い心身障がいを持ちます。
乳児期に発症するお子さんは、新生児期に発症した場合に比べ軽症であることが多く、呼吸障害などは認めません。症状として、知的障害、筋緊張低下、けいれん、行動異常などを示し、一部の患者さんは、学校生活を終え、就労しています。
抗けいれん薬によるけいれんのコントロール、適切な療育、生活支援が重要です。乳児型の学童期では、けいれんのコントロールに加え、行動異常に対する薬物治療が行なわれることもあります。
新生児型非ケトーシス型高グリシン血症
乳児型非ケトーシス型高グリシン血症
グリシン脳症
診療ガイドラインは、
先天代謝異常学会ホームページ
(https://jsimd.net/index.html)をご参照下さい。
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