○しろまる 概要
1.概要
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、8週以上にわたる慢性進行性あるいは再発性の四肢の筋力低下・感覚障害を主徴とした末梢神経疾患である。
多巣性運動ニューロパチーは慢性進行性の筋力低下、筋萎縮を主徴とする末梢神経疾患である。
2.原因
末梢神経のミエリン構成成分に対する自己免疫によって発症すると考えられている。
3.症状
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、四肢の運動障害(筋力低下)、感覚障害(しびれ、感覚低下)を呈する。脳神経が障害されることもある。臨床症状が左右対称で、筋力低下が遠位筋だけでなく近位筋にも分布する典型的CIDP(typical CIDP)とそれ以外のCIDP variantsの大きく2つに分類される。CIDP variantsには、distal CIDP、multifocal CIDP、sensory CIDP、motor CIDP、focal CIDPが含まれる。
多巣性運動ニューロパチーは、筋力低下、筋萎縮を呈し、感覚障害を欠く。症状の分布は通常非対称性で、初発部位は上肢であることが多い。
4.治療法
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、ステロイド療法、免疫グロブリン療法、血液浄化療法が標準治療として確立されている。
多巣性運動ニューロパチーは、免疫グロブリン療法が標準治療として確立されている。ステロイドは増悪の要因となりうる。
5.予後
いずれの疾患も継続的な治療を必要とすることが多い。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎では臨床的な寛解に至る例もあるが、一部に難治例も存在する。
多巣性運動ニューロパチーは、長期の経過で筋萎縮が緩徐に進行することが多い。
○しろまる 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
4,617人
2.発病の機構
不明(自己免疫性の機序が考えられる。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治治療なし。)
4.長期の療養
必要(慢性進行性、再発性がある。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
Barthel Indexを用いて、85点以下を対象とする。
○しろまる 情報提供元
「神経免疫疾患のエビデンスに基づく診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証」班
研究代表者 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 教授 桑原 聡
研究分担者 千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学 准教授 三澤園子
<診断基準>
1.主要項目
(1)発症と経過
12か月以上の経過の、寛解・増悪を繰り返すか、慢性進行性の経過をとる多発ニューロパチーである。
2当該患者の多発ニューロパチーを説明できる明らかな基礎疾患、薬物使用、毒物への暴露がなく、類似疾患の遺伝歴がない。
(2)検査所見
1末梢神経伝導検査で、2本以上の運動神経において、脱髄を示唆する所見を示す。※(注記)注
2脳脊髄液検査で、蛋白増加を認め、細胞数は10/mm3未満である。
3ステロイド療法、血漿浄化療法、免疫グロブリン静注療法、その他の免疫療法などにより改善を示した病歴がある。
4MRIで神経根あるいは馬尾の肥厚又は造影所見がある。
5末梢神経生検で脱髄を示唆する所見がある。
(3)支持的診断所見
a.慢性炎症性脱髄性多発神経炎
1.末梢神経伝導検査による感覚神経における異常所見
2.体性誘発電位における異常所見
3.免疫療法(ステロイド薬、血漿浄化療法、免疫グロブリン静注療法)により改善を示した病歴
b.多巣性運動ニューロパチー
1.球麻痺を含む脳神経症状・上位運動ニューロン徴候がない
2.血清における抗GM1 IgM 抗体が陽性
3.免疫療法(免疫グロブリン静注療法)により改善を示した病歴
2.鑑別診断
(1)以下の疾患に伴う末梢神経障害
糖尿病、アミロイドーシス、膠原病、血管炎、固形癌、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、POEMS症候群、HIV感染症、サルコイドーシスなど
(2)薬物・毒物への暴露による末梢神経障害
(3)ビタミンなどの栄養障害による末梢神経障害
(4)末梢神経障害を起こす遺伝性疾患
3.診断のカテゴリー
1.主要項目の(1)12及び(2)1の全てを認め、(2)2から5のうちいずれか1つを満たし、(3)で疾患を区別できる。
※(注記)注 2本以上の運動神経で、脱髄を示唆する所見(1伝導速度の低下、2伝導ブロック又は時間的分散の存在、3遠位潜時の延長、4F波欠如又は最短潜時の延長の少なくとも1つ)が見られることを記載した神経伝導検査レポート又はそれと同内容の文書の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付すること。
<重症度分類>
機能的評価:Barthel Index
85点以下を対象とする。
質問内容
点数
1
食事
自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える
10
部分介助(例えば、おかずを切って細かくしてもらう)
5
全介助
0
2
車椅子からベッドへの移動
自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(歩行自立も含む)
15
軽度の部分介助又は監視を要する
10
座ることは可能であるがほぼ全介助
5
全介助又は不可能
0
3
整容
自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)
5
部分介助又は不可能
0
4
トイレ動作
自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む)
10
部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する
5
全介助又は不可能
0
5
入浴
自立
5
部分介助又は不可能
0
6
歩行
45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず
15
45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む
10
歩行不能の場合、車椅子にて45m以上の操作可能
5
上記以外
0
7
階段昇降
自立、手すりなどの使用の有無は問わない
10
介助又は監視を要する
5
不能
0
8
着替え
自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む
10
部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える
5
上記以外
0
9
排便コントロール
失禁なし、浣腸、坐薬の取扱いも可能
10
ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取扱いに介助を要する者も含む
5
上記以外
0
10
排尿コントロール
失禁なし、収尿器の取扱いも可能
10
ときに失禁あり、収尿器の取扱いに介助を要する者も含む
5
上記以外
0
※(注記)診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
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研究班名 | 神経免疫疾患領域における難病の医療水準と患者のQOL向上に資する研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和7年6月) |