2025年10月06日

バインミーをコンビニで買う時代

年老いたバックパッカーだから、昔といまの旅の違いを訊かれることは多い。大きな違いはインターネットとコンビニだと思う。僕が旅をはじめた頃、ネットというツールがなかった。飛行機の予約は旅行代理店に出向いた。ホテルは安宿街で一軒、一軒値段を訊いた。コンビニもなかったから、雑貨屋で水やビールを買った。
日本でもコンビニはよく使うが、海外に出てもコンビニは便利な存在だ。僕はひとつの街を何回も訪ねることが多い旅人である。訪ねる街のコンビニの進化を目の当たりにすることになる。
バンコクにコンビニができはじめた頃、それはただ便利な存在だった。しかしコンビニは急速に店舗数を増やし、やがてコンビニ間の競合の時代にはいっていく。先日、若い旅行者とバンコクでの朝食の話をした。彼は毎朝、セブン-イレブンのホットサンドを食べているという。
「あれは優れものですよ。店でちゃんと焼いてくれる。30バーツぐらいで安いでしょ。日本のコンビニでもやってほしいですよ。いまは円安、バーツ高だから、もうコンビニが頼り。カフェで朝食となると、100バーツは簡単に超えますからね」
「タイ料理は食べないんだ」
そう水を向けてみた。
「そう、それが気になって、今日はお粥を買ってみたんです。ちゃんと電子レンジで温めてくれました。タイでジョークって呼ばれるお粥でした。これもかなりのレベル。その辺のお粥屋よりおいしいかもしれない」
タイのコンビニはそういう世界に入っていた。便利さだけでは競争に勝てない。食べ物の味で客を集める時代......。日本のコンビニもスイーツや弁当、高齢者向けのおかずなどで競いあっている。
しばらくベトナムに滞在した。『歩くベトナム』の製作がはじまったからだ。外国人が集まるホーチミンシティのデタム界隈は、在住者にはあまり縁がない社会で、僕が手伝うことになった。
朝食の話になった。
「朝はやっぱりバインミーでしょ。屋台でベトナム風フランスパンにいろいろ挟んでもらって、ベトナムコーヒーを飲みながら......」
するとこんな声が聞こえてきた。
「セブン-イレブンのバインミーがいけるんですよ。屋台はハムだけど、セブン-イレブンは保温機で豚肉のつくねのような物を温めていて、それを野菜と一緒にパンに挟んでくれる。それを焼くから香ばしい。値段も屋台と変わらないですから」
ベトナムのバインミーもコンビニがとり込みはじめていた。店によってはブンという麺料理もはじめたという。ベトナムもコンビニ間の競争が激しい時代に入っていた。
僕も食べてみた。店内で若いスタッフがマニュアルを横目で見ながらつくってくれた。たしかに香ばしい。値段は2万7000ドン、日本円で150円ほど。屋台のバインミーが2万5000ドン前後だから高くはない。
ホーチミンシティのセブン-イレブンには豆から挽くコーヒーマシンも置かれていた。コンデンスミルク入りやアイスコーヒーなど選択肢も多い。アルミ製の容器で淹れるコーヒー屋台の客をとり込もうとしているかのようだった。
近くの公園のベンチに座り、バインミーを頬張り、コーヒーを啜る。
「ベトナムの朝もコンビニの時代か......」
そうこうしていると、台北から連絡がはいった。そろそろ『歩く台北』の企画を考える時期だった。その内容案を見ると、特集案のなかにコンビニの文字が躍っていた。なんでも航空会社や車メーカーとのコラボコンビニが面白いという。飛行機と車とコンビニはどうコラボするのだろうか。
コンビニの進化は止まりそうもない。


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Posted by 下川裕治 at 11:12│Comments(0)
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