ハイサイセッション番外編 〜ロハスヴィラ滞在記〜
さて、ロハスヴィラに宿泊したことについて話す時がついにきた
泊まってからすでに17日の歳月が経っているが、こびりついた悪夢のようにその時のことを記憶している
いや、忘れようがない、としか言いようがない
それほどのインパクトの物件である
このブログから読み始めたという人がもしかしたらいるかもしれないので軽く説明したい
ロハスヴィラというのは、沖縄県那覇国際通り、ごりごりの観光地であり繁華街に建っている宿泊施設である
その宿泊費の安さから、沖縄にツアーに来たミュージシャンが利用したりするのだが、最低最悪魑魅魍魎阿鼻叫喚地獄絵図の名声を欲しいままにしている激ヤバホテルとの噂しか流れてこない
いったいぜんたいどんなホテルなんだろう
話を聞いているとだんだん気になってきて、まあ翌朝の飛行機の時間早いしどうせ寝るだけだから、ということで、今回勇気を出して泊まってみることにした
泊まる予定の2日前に予約サイトから予約
1500円のシングルルームというやつを予約した
1200円の部屋もあったが、今となってはどちらの部屋がよかったかの答え合わせはできない
19時頃到着
おお、ここか、この雑居ビルの3階か
ほんとに繁華街の中にあるので立地は非常に良い
1階が「どん亭」という24時間営業のチェーンの牛丼屋である
3階までエレベーターで上がる
小さくて小汚くてガタガタ音がする雑居ビルらしいごく普通のエレベーターだ
ロハスヴィラ到着
ドアが、右から左に横に引くタイプの透明なガラスの手動ドアだ
ホテルで手動の引き戸とはなかなか風流じゃないか
がらがら開けて入るとすぐに受付があり、おっさんと青年が並んで座っている
一応南国リゾート感を演出しているような内装だが、それでわくわくすることは一切なく、パプアニューギニアのジャングルの奥地に迷い込んだような不安に包まれる
「あ、こんにちわ、予約してたニタナイです」
「そこで券買ってください」
特に予約の確認はなく、食い気味におっさんにぼそっと言われ、右を見るとラーメン屋や蕎麦屋にあるような券売機がある
なるほど、支払いは券売機システムのホテルか
池袋北口の24時間やってる飲み屋「大都会」のシステムといっしょってことね
1500円のボタンをぽちっと押して出てきた券をおっさんに渡す
「あい」と言われて、セロテープでRと貼ってある、めっちゃ小さい鍵を渡される
大きさも見た目もママチャリの鍵に似ている
そこでおっさんとの会話は終わった
本人確認もないし、住所の記入もない
これ予約する必要なかったのでは?
通常は、風呂はなんちゃらで、とか、チェックアウトは何時で、とか説明をしてくれるのが一般的だが、そういったガイダンスもない
「ごゆっくりおくつろぎくださいませ」なんてもちろんない
ただただ、地蔵のようにそこに座っているのみである
隣に座ってる青年なんてなおさら何もしてないので、そこにいる意味がまったくない
おっさんに任せて先に帰っていいと思う
ふと見ると机の上に竹製のザルが置かれていて、その中に「帰るときは鍵をここに置いてください。21時以降は店員はいなくなります。」と置き手紙のようなものがある
そうなんだね、と心中でつぶやいて自分の部屋を探す
Rって書いてある部屋を探せばいいわけだな
すぐあった
受付カウンターから後ろに徒歩5歩のところにあった
木のドアにRの刻印がある
聞こえなかった人のためにもう一度言おう
木 の ドア、だ
お?
これ?
この部屋?
これは・・・?
部屋なのか?
その木のドアがすごく細い
成人男性の場合、少し体をななめにしないと入れない
部屋に入るというよりロッカールームの中に入っていく感覚に近い
鍵をさす
一応鍵穴に入るが回そうにもなかなか回らない
なにかコツがあるのかもしれない
格闘しているうちに、少しドアを押しながら回すと鍵が回ることがわかった
その少しドアを押すときに、みしっと音がするので、おそらくこのRの部屋は鍵で入るより足で蹴り破って入ったほうが速いと思う
ドアを開ける
おお
これはなんとシンプルなお部屋なんでしょう
ミニマリストが入ったら涎をたらして喜ぶに違いない
あるのは、枕とマットレスと掛け布団
それのみである
窓もない
トイレもない
シャワーもない
エアコンもない
ティッシュもない
奥行きもない
幅もない
ひどく低い天井
薄暗い照明
ホテルの部屋というよりやはりロッカールームにぶちこまれた感覚、いや、なんかくそでかい巨人のおっさんの鼻の穴の中に入ってしまった時みたいな感じである
閉所恐怖症の人だったら一発アウトの発狂部屋だ
なんかスースー音がする
エアコンはないので何の音かわからない
換気扇も見当たらない
すきま風かもしれない
こんな密室にも風は吹くのだ
マットレスに座ってみる
床に直に置いてある
布団も枕も固くも柔らかくもないが、なんだか手触りが悪い
きっとこれまで一度も太陽を浴びたことがない布団と枕だ
湿ってるのにざらついていて、まるでおっさんの鼻の穴の中にいるみたいだ
床を見ると、埃やいろんな毛がいっぱい落ちている
なんの毛かはわからない
たぶん鼻毛だ
あ!
かろうじてコンセント発見!
これはすごく嬉しい
サービスが行き届いてると言える
スマホが充電できるんならなんとかサバイブできよう
ギターとキャリーケースを置くだけで部屋の半分が埋まってしまう
とりあえずホテル内になにがあるか探索してみるか
さすがにトイレはあってほしい
蹴り破りたくなる衝動をおさえて手でドアを開けて部屋を出る
Rと同じくほっそいドアがカプセルホテルのようにずらっと横並びに並んでいる
Aのドアに至っては、細いうえに縦幅が短い
なんていえば伝わるだろう
寸足らずというか、ドアが床から少し浮いたところにあるのだ
Aをあてがわれた宿泊客は、部屋に入る際に、ちいさくジャンプしないと部屋に入れないと思う
宿泊者は他にもいるのだろうか?
まったく人の気配がしない
どこかに出払ってるのかもしれない
奥まで進むと共同トイレと共同シャワールームを発見
なんとトイレは洋式なうえにウォシュレットまでついてる
おお、これはこれは大サービスじゃないか
良きかな良きかな
シャワールームは奥まってて様子がわからない
今は入る必要ないし行かなくていいか
通路の途中にこの建物内で唯一の窓を発見
その下に洗面台がある
洗面台というより、なんか緑色と黒を混ぜたような色の楕円の水瓶に、水道の蛇口がにょきっとついてる
言葉では説明が難しい
なんか怪しいということだけ知ってもらいたい
20時頃LINEを確認してみると、ヨシムラタカシバンドの面々で安里で飲んでいるとのこと
合流しよう
ロハスヴィラにこのままいてもなにか邪悪なものに精神と体が浸食されてしまう
Rの部屋に鍵をかけて(ちゃんとかかった)(蹴破れるけど)外へ
カウンターにいるはずのおっさんと青年はいなくなってた
どこ行った?
21時以降はいないとのことだったが、きっと早上がりしたのだろう
それを証明するかのように、このあとおっさんと青年と会うことは二度となかった
ロハスヴィラを出て国際通りを抜けて安里まで歩く
祝日前の国際通りは激しく賑やかだ
東京に例えると、浅草と歌舞伎町を合わせたような感じ
ぎらっぎらだけど、闇もしっかり感じる
観光客しかいないんだろうけど、地元の人とおぼしき人も見受けられる
『一番餃子』に到着
外の路地にテーブルを豪快に出してそこで飲ませてくれる気持ちの良い店だ
中国人の女性が切り盛りしている
簡単な中国語で話しかけたら、めっぽう喜んでくれた
ヨシムラタカシとタケウチ夫妻に加えて、ビーチパーリーにも来てくれたやっぴーと片桐仁オブザワールドさん、じゅんやくんもいる
ビーチパーリーにはケンゴくんも来てたし、ヨシムラタカシバンドの面々はなんだかんだで入れ替わり立ち替わりオールメンバー会った
みんな飲むのが好きで仕方ないのだろう
リンダさんはビーチで戦死、自宅に搬送されたそうだ
ヨシムラタカシ「どうですか?ロハスヴィラは」
「ええ、噂通り楽しいホテルですね」
ヨシムラタカシ「プラネタリウムが見える部屋があるそうです、にたないさんのとこは?」
「ほお、いや、まだわかりませんね」
ヨシムラタカシ「壁に芝生が生えてる部屋もあるそうですが、いかがでしたか?」
「いや、壁は壁でしたね、あれはたぶん壁です」
そうこうしているうちに、遅れてじゃっくさんが到着
もう閉店の時間だったので、店を移し『ボトルネック』へ
こちらも閉店間際だったけど、少々わがままを言って沖縄そばをいただく
この沖縄そばが鰹出汁だけで勝負した非常にシャープなスープで大変に旨い
いわゆるコクというものはないが、それが良い
具も入ってなくて潔い
ネギすら入ってない
中国で食べる拉麺(らーめん)や湯麵(たんめん)はこんな感じである
限りなく無味に近い究極までさっぱりした滋味深いスープと麺のみ
僕はこういう麺料理が大好きだ
ヨシムラさんはここの沖縄そばが一等好きらしい
飲み終わって退店
みんな帰るというが、どういうわけかタケウチ夫妻と3人でまだ飲みに行くことになり、片桐仁オブザワールドさんが車で送ってくれる
のうれんプラザのあたりにある飲み屋街へ
『所作バー』へ行くと、昨日対バンした海野のギターボーカル半くん、ヨシムラタカシバンドのトロンボーンのタツヤさんまでいる
そのあと隣にあった『酔狂連』にも行き、マスターと仲良くなる
東京でバンドやってた時に今は無き渋谷clubKINOTOによく出演していたとの共通点が見つかる
お会計して退店
もう26:30だ
こちとらあと7時間半後に飛び立つ飛行機に乗らなければいけないのだ
まだ飲みたがるタケウチ夫妻を振り切って、歩いてロハスヴィラまで帰る
おお、懐かしのロハスヴィラ
Rの部屋に鍵をさして入室(蹴り破れるけど)
すぐにでも寝なくてはいけない
5時間は寝られるか?
シャワーは朝浴びればいいか
とりあえず歯を磨きに、水瓶(洗面台)へ
蛇口をひねって水を出そうとしたら、水道管ががくがくがくっと上下にぼいんぼいんし始め、なんぞ!?下にトランポリンでもあるのかえ!?と小さなパニックになったが、水道管を右手で押さえながら左手で蛇口をひねることでぼいんぼいんを防ぎ水を出すことに成功、まこと珍妙な洗面台だった
さあ、寝るぞ
部屋に戻り、マットレスに横たわってはじめて気づく
オーマイブッダ、そういうことか
僕は身長168センチなのだが、足が伸ばせない
ぎりぎり伸ばせない
正確に言うと、足の裏が壁についてる感じ
その微妙さがかえって気色が悪い
仕方ないので仰向けはやめて体を横向きにして足を折り曲げて寝よう
横向きになると、床に広がる大量の埃や体毛が目に入ってしまう
えい、ままよ、とにかく寝るのみだ
電気を消すと、さらなる仕掛けがあることに気づく
まだこれ以上のサービスがあるなんて、どんなホスピタリティしてんだよロハスヴィラ
なんと暗闇の中で壁や天井が粒粒に光っている
これか!ヨシムラさんの言ってたプラネタリウムってのは!
「お、プラネタリウムだ、へえ〜、きれいだな〜、粋な計らいだね」って、誰がなるか!
いらんわこんな星空!足伸ばせねえし!
どこになんの金かけてんねん
もっと他に予算を割く場所があるだろうがよ
しかもよくよく見ると、星空というにはなんだか奇妙だ
なにかの星座のように星を配置しているわけではないし、星がやけに多すぎる
そこで思ったのだが、これはプラネタリウムではなく、暗いところで光るダニのようなものなのだろう
トコジラミ(南京虫)がいる可能性はそもそもあるが、光るなんて聞いたことはない
きっとロハスヴィラという過酷な環境下においてのみ誕生生息繁殖している固有種、ロハスダニにちがいない
そいつらが暗闇でホタルよろしく光っているだけだ
それがプラネタリウムだなんて、笑わせやがる
今すぐ放火してすべてを焼き尽くしたい衝動に駆られたが自分も死にそうなので思いとどまる
それにしたって、9月の沖縄の熱帯夜で、この密室で、エアコン無しはきつすぎる
外より暑いかもしれない
ふだん寝つきはすごくいいし大量に酒を飲んでるので、すぐ寝られそうなものをちっとも寝られない
そうこうまどろんでるうちに、なにやら夢を見る
内容はうろ覚えだが、邪悪な宇宙人のようなものが地球に飛来して大量虐殺される話だ
その宇宙人が1人1人がヒグマくらいでかいうえにちょっと虫っぽくて手が鎌になっている
必死に抵抗を試みるが、ジョズエもイヌガヨもヨシムラタカシバンドもみんな残酷な殺され方で殺されてしまい(グロいので詳細は省く)、なぜか自分だけが生き残り、逃げたくてもなぜか足が動かなくて、あとなぜかお尻がめちゃくちゃ痒い、号泣しながら逃げるのに動けない
叫びながら目を覚ます
夢か!あれ?叫んじゃった?
よかった、朝か、今何時だ?あれ?スマホは?スマホどこ?ってか暗っ、暗すぎ、なにも見えない、電気どこ?え?あれ?電気は?暗すぎ、なにも見えないんだけど、暗闇より暗くない?ほんで、なんでこの星空、あ、間違えた、ロハスダニは見えるのに、こんな暗いの?光ってんならもっといろいろ照らしてくれ、どういう原理?光ってるのに暗いってなに?
そう思いながら、いやいや手をがさがさしてもがき続けてやっと電気のスイッチを発見
スマホも発見
朝何時だ?と思って画面を見ると
は?
え?
4時?
20分ぐらいしか寝てないってこと?
さっきの夢、体感で3時間ぐらいあったけど
まじ?
殺されただけじゃなくて途中で温泉行ったり気球乗ったり牧場だと思ったらそこが岡部さんの家だったりいろんなシーンがあってどう考えても3時間はあったけど?
20分?
寝汗すごいし、すげえ疲れたんだけど
絶望してトイレにて小用
もしやと思ったが、よかった、普通に水が出て流せる
ロハスヴィラの中でトイレが一番居心地がいいかもしれない
そこからなんとなくRの部屋に戻るのが嫌になってしまい、だってどうせ寝れないし、寝ても悪夢見るの嫌だし、誰もいない薄暗いロビーの椅子に座っていたら、若者の調子に乗って騒ぎまくる声が爆音で聞こえてきて、とにかくめちゃくちゃにうるさい
2階にあるダーツバーから聞こえてくる声のようだ
筒抜けの声から察するに、ダーツなんて絶対誰もやってない、なにやら王様ゲームとだるまさんがころんだを合成したような珍奇なスポーツを泥酔しながらプレイしている様子だ
なんだそれ
沖縄のヤンキーやギャルの間で流行ってるんだろうか
そこで急に人の気配を察知し、そっちを振り向くと、なんとロハスヴィラの他の宿泊者に初めて遭遇
時刻はまもなく朝5時といったところか
体の細いおっさんでのっそり歩きながら外へ出ていった
あなたも悪夢見はったんですか?
いやいやながらRの部屋に戻ると、2つ隣のPの部屋から音がする
これはおそらくスマホから鳴ってるアラームの音だ
鳥が、きゅきゅぷるきゅきゅぷるー、と鳴いている音だ
その音が永久に鳴っている
そのPの宿泊者がまったく起きないのか、スマホが見つからないぐらい部屋が暗いのか、それともすでにご存命ではないのか、それとも宿泊者自身が発狂して鳥の鳴き真似をしているのか、Pで何が起きているのかはさっぱりわからないが、その、きゅきゅぷるきゅきゅぷるーがいっこうに鳴り止まず、ロハスヴィラ中に永遠に響き渡っているので、俺は決めた
よし、もう出よう
飛行機の時間までまだずいぶんあるが、ここから出よう
調べたらもうすぐ那覇空港への始発も出るし
とにかく俺は、ここではないどこかに行きたい
シャワー浴びてないけど、もういい
浴びない
もう何も起きるな
それより誰か酒をくれ
今、俺は、狂おしいほど酒を飲みたい
すぐに身支度を整え、Rを出て、ちいさなカギを竹ザルの中にぶちこんでホテルを出る
シャワーを浴びなかったことでロハスヴィラ全面クリアには至らなかったが、それよりも我は精神と身体の平和と健康と安寧を求めた
ロハスダニは大量にいたが、トコジラミはいなかったのが不幸中の幸いである
他の部屋がいったいどうなってるのか気になるが、正直言ってもう泊まりたくない
1500円で泊まれるかもしれないが、1500円もらっても泊まりたくない
いや、1万円もらっても泊まりたくない
3万円くれたら泊まってもいい
朝6時の国際通り
とぼとぼと牧志駅へ向かう
もちろんコンビニで買った酒を片手にだ
朝9時40分
那覇空港の搭乗口付近の待合ロビーに我はいた
トイレを済ませておこうと席を立つとじゃっくさんに偶然遭遇
じゃっく「さっきね、ヨシムラくんにも会いましたよ、昨日はどうでした?」
「大変でした、ちょっと一言で語れないので、今は何も言えないんですが、ロハスヴィラには泊まらないほうがいいということだけ言っておきます」
じゃっく「はっはっはっは、では僕は行きます、ほなまた」
羽田空港行きの飛行機の座席について、そういえばロハスってなんなんと思い、調べてみる
「ロハスとは、心身の健康を大事に考える生活様式のことである」と出てきた
僕は小さくファックとつぶやき、少しでも寝ておこうと目を閉じた
〜終〜
泊まってからすでに17日の歳月が経っているが、こびりついた悪夢のようにその時のことを記憶している
いや、忘れようがない、としか言いようがない
それほどのインパクトの物件である
このブログから読み始めたという人がもしかしたらいるかもしれないので軽く説明したい
ロハスヴィラというのは、沖縄県那覇国際通り、ごりごりの観光地であり繁華街に建っている宿泊施設である
その宿泊費の安さから、沖縄にツアーに来たミュージシャンが利用したりするのだが、最低最悪魑魅魍魎阿鼻叫喚地獄絵図の名声を欲しいままにしている激ヤバホテルとの噂しか流れてこない
いったいぜんたいどんなホテルなんだろう
話を聞いているとだんだん気になってきて、まあ翌朝の飛行機の時間早いしどうせ寝るだけだから、ということで、今回勇気を出して泊まってみることにした
泊まる予定の2日前に予約サイトから予約
1500円のシングルルームというやつを予約した
1200円の部屋もあったが、今となってはどちらの部屋がよかったかの答え合わせはできない
19時頃到着
おお、ここか、この雑居ビルの3階か
ほんとに繁華街の中にあるので立地は非常に良い
1階が「どん亭」という24時間営業のチェーンの牛丼屋である
3階までエレベーターで上がる
小さくて小汚くてガタガタ音がする雑居ビルらしいごく普通のエレベーターだ
ロハスヴィラ到着
ドアが、右から左に横に引くタイプの透明なガラスの手動ドアだ
ホテルで手動の引き戸とはなかなか風流じゃないか
がらがら開けて入るとすぐに受付があり、おっさんと青年が並んで座っている
一応南国リゾート感を演出しているような内装だが、それでわくわくすることは一切なく、パプアニューギニアのジャングルの奥地に迷い込んだような不安に包まれる
「あ、こんにちわ、予約してたニタナイです」
「そこで券買ってください」
特に予約の確認はなく、食い気味におっさんにぼそっと言われ、右を見るとラーメン屋や蕎麦屋にあるような券売機がある
なるほど、支払いは券売機システムのホテルか
池袋北口の24時間やってる飲み屋「大都会」のシステムといっしょってことね
1500円のボタンをぽちっと押して出てきた券をおっさんに渡す
「あい」と言われて、セロテープでRと貼ってある、めっちゃ小さい鍵を渡される
大きさも見た目もママチャリの鍵に似ている
そこでおっさんとの会話は終わった
本人確認もないし、住所の記入もない
これ予約する必要なかったのでは?
通常は、風呂はなんちゃらで、とか、チェックアウトは何時で、とか説明をしてくれるのが一般的だが、そういったガイダンスもない
「ごゆっくりおくつろぎくださいませ」なんてもちろんない
ただただ、地蔵のようにそこに座っているのみである
隣に座ってる青年なんてなおさら何もしてないので、そこにいる意味がまったくない
おっさんに任せて先に帰っていいと思う
ふと見ると机の上に竹製のザルが置かれていて、その中に「帰るときは鍵をここに置いてください。21時以降は店員はいなくなります。」と置き手紙のようなものがある
そうなんだね、と心中でつぶやいて自分の部屋を探す
Rって書いてある部屋を探せばいいわけだな
すぐあった
受付カウンターから後ろに徒歩5歩のところにあった
木のドアにRの刻印がある
聞こえなかった人のためにもう一度言おう
木 の ドア、だ
お?
これ?
この部屋?
これは・・・?
部屋なのか?
その木のドアがすごく細い
成人男性の場合、少し体をななめにしないと入れない
部屋に入るというよりロッカールームの中に入っていく感覚に近い
鍵をさす
一応鍵穴に入るが回そうにもなかなか回らない
なにかコツがあるのかもしれない
格闘しているうちに、少しドアを押しながら回すと鍵が回ることがわかった
その少しドアを押すときに、みしっと音がするので、おそらくこのRの部屋は鍵で入るより足で蹴り破って入ったほうが速いと思う
ドアを開ける
おお
これはなんとシンプルなお部屋なんでしょう
ミニマリストが入ったら涎をたらして喜ぶに違いない
あるのは、枕とマットレスと掛け布団
それのみである
窓もない
トイレもない
シャワーもない
エアコンもない
ティッシュもない
奥行きもない
幅もない
ひどく低い天井
薄暗い照明
ホテルの部屋というよりやはりロッカールームにぶちこまれた感覚、いや、なんかくそでかい巨人のおっさんの鼻の穴の中に入ってしまった時みたいな感じである
閉所恐怖症の人だったら一発アウトの発狂部屋だ
なんかスースー音がする
エアコンはないので何の音かわからない
換気扇も見当たらない
すきま風かもしれない
こんな密室にも風は吹くのだ
マットレスに座ってみる
床に直に置いてある
布団も枕も固くも柔らかくもないが、なんだか手触りが悪い
きっとこれまで一度も太陽を浴びたことがない布団と枕だ
湿ってるのにざらついていて、まるでおっさんの鼻の穴の中にいるみたいだ
床を見ると、埃やいろんな毛がいっぱい落ちている
なんの毛かはわからない
たぶん鼻毛だ
あ!
かろうじてコンセント発見!
これはすごく嬉しい
サービスが行き届いてると言える
スマホが充電できるんならなんとかサバイブできよう
ギターとキャリーケースを置くだけで部屋の半分が埋まってしまう
とりあえずホテル内になにがあるか探索してみるか
さすがにトイレはあってほしい
蹴り破りたくなる衝動をおさえて手でドアを開けて部屋を出る
Rと同じくほっそいドアがカプセルホテルのようにずらっと横並びに並んでいる
Aのドアに至っては、細いうえに縦幅が短い
なんていえば伝わるだろう
寸足らずというか、ドアが床から少し浮いたところにあるのだ
Aをあてがわれた宿泊客は、部屋に入る際に、ちいさくジャンプしないと部屋に入れないと思う
宿泊者は他にもいるのだろうか?
まったく人の気配がしない
どこかに出払ってるのかもしれない
奥まで進むと共同トイレと共同シャワールームを発見
なんとトイレは洋式なうえにウォシュレットまでついてる
おお、これはこれは大サービスじゃないか
良きかな良きかな
シャワールームは奥まってて様子がわからない
今は入る必要ないし行かなくていいか
通路の途中にこの建物内で唯一の窓を発見
その下に洗面台がある
洗面台というより、なんか緑色と黒を混ぜたような色の楕円の水瓶に、水道の蛇口がにょきっとついてる
言葉では説明が難しい
なんか怪しいということだけ知ってもらいたい
20時頃LINEを確認してみると、ヨシムラタカシバンドの面々で安里で飲んでいるとのこと
合流しよう
ロハスヴィラにこのままいてもなにか邪悪なものに精神と体が浸食されてしまう
Rの部屋に鍵をかけて(ちゃんとかかった)(蹴破れるけど)外へ
カウンターにいるはずのおっさんと青年はいなくなってた
どこ行った?
21時以降はいないとのことだったが、きっと早上がりしたのだろう
それを証明するかのように、このあとおっさんと青年と会うことは二度となかった
ロハスヴィラを出て国際通りを抜けて安里まで歩く
祝日前の国際通りは激しく賑やかだ
東京に例えると、浅草と歌舞伎町を合わせたような感じ
ぎらっぎらだけど、闇もしっかり感じる
観光客しかいないんだろうけど、地元の人とおぼしき人も見受けられる
『一番餃子』に到着
外の路地にテーブルを豪快に出してそこで飲ませてくれる気持ちの良い店だ
中国人の女性が切り盛りしている
簡単な中国語で話しかけたら、めっぽう喜んでくれた
ヨシムラタカシとタケウチ夫妻に加えて、ビーチパーリーにも来てくれたやっぴーと片桐仁オブザワールドさん、じゅんやくんもいる
ビーチパーリーにはケンゴくんも来てたし、ヨシムラタカシバンドの面々はなんだかんだで入れ替わり立ち替わりオールメンバー会った
みんな飲むのが好きで仕方ないのだろう
リンダさんはビーチで戦死、自宅に搬送されたそうだ
ヨシムラタカシ「どうですか?ロハスヴィラは」
「ええ、噂通り楽しいホテルですね」
ヨシムラタカシ「プラネタリウムが見える部屋があるそうです、にたないさんのとこは?」
「ほお、いや、まだわかりませんね」
ヨシムラタカシ「壁に芝生が生えてる部屋もあるそうですが、いかがでしたか?」
「いや、壁は壁でしたね、あれはたぶん壁です」
そうこうしているうちに、遅れてじゃっくさんが到着
もう閉店の時間だったので、店を移し『ボトルネック』へ
こちらも閉店間際だったけど、少々わがままを言って沖縄そばをいただく
この沖縄そばが鰹出汁だけで勝負した非常にシャープなスープで大変に旨い
いわゆるコクというものはないが、それが良い
具も入ってなくて潔い
ネギすら入ってない
中国で食べる拉麺(らーめん)や湯麵(たんめん)はこんな感じである
限りなく無味に近い究極までさっぱりした滋味深いスープと麺のみ
僕はこういう麺料理が大好きだ
ヨシムラさんはここの沖縄そばが一等好きらしい
飲み終わって退店
みんな帰るというが、どういうわけかタケウチ夫妻と3人でまだ飲みに行くことになり、片桐仁オブザワールドさんが車で送ってくれる
のうれんプラザのあたりにある飲み屋街へ
『所作バー』へ行くと、昨日対バンした海野のギターボーカル半くん、ヨシムラタカシバンドのトロンボーンのタツヤさんまでいる
そのあと隣にあった『酔狂連』にも行き、マスターと仲良くなる
東京でバンドやってた時に今は無き渋谷clubKINOTOによく出演していたとの共通点が見つかる
お会計して退店
もう26:30だ
こちとらあと7時間半後に飛び立つ飛行機に乗らなければいけないのだ
まだ飲みたがるタケウチ夫妻を振り切って、歩いてロハスヴィラまで帰る
おお、懐かしのロハスヴィラ
Rの部屋に鍵をさして入室(蹴り破れるけど)
すぐにでも寝なくてはいけない
5時間は寝られるか?
シャワーは朝浴びればいいか
とりあえず歯を磨きに、水瓶(洗面台)へ
蛇口をひねって水を出そうとしたら、水道管ががくがくがくっと上下にぼいんぼいんし始め、なんぞ!?下にトランポリンでもあるのかえ!?と小さなパニックになったが、水道管を右手で押さえながら左手で蛇口をひねることでぼいんぼいんを防ぎ水を出すことに成功、まこと珍妙な洗面台だった
さあ、寝るぞ
部屋に戻り、マットレスに横たわってはじめて気づく
オーマイブッダ、そういうことか
僕は身長168センチなのだが、足が伸ばせない
ぎりぎり伸ばせない
正確に言うと、足の裏が壁についてる感じ
その微妙さがかえって気色が悪い
仕方ないので仰向けはやめて体を横向きにして足を折り曲げて寝よう
横向きになると、床に広がる大量の埃や体毛が目に入ってしまう
えい、ままよ、とにかく寝るのみだ
電気を消すと、さらなる仕掛けがあることに気づく
まだこれ以上のサービスがあるなんて、どんなホスピタリティしてんだよロハスヴィラ
なんと暗闇の中で壁や天井が粒粒に光っている
これか!ヨシムラさんの言ってたプラネタリウムってのは!
「お、プラネタリウムだ、へえ〜、きれいだな〜、粋な計らいだね」って、誰がなるか!
いらんわこんな星空!足伸ばせねえし!
どこになんの金かけてんねん
もっと他に予算を割く場所があるだろうがよ
しかもよくよく見ると、星空というにはなんだか奇妙だ
なにかの星座のように星を配置しているわけではないし、星がやけに多すぎる
そこで思ったのだが、これはプラネタリウムではなく、暗いところで光るダニのようなものなのだろう
トコジラミ(南京虫)がいる可能性はそもそもあるが、光るなんて聞いたことはない
きっとロハスヴィラという過酷な環境下においてのみ誕生生息繁殖している固有種、ロハスダニにちがいない
そいつらが暗闇でホタルよろしく光っているだけだ
それがプラネタリウムだなんて、笑わせやがる
今すぐ放火してすべてを焼き尽くしたい衝動に駆られたが自分も死にそうなので思いとどまる
それにしたって、9月の沖縄の熱帯夜で、この密室で、エアコン無しはきつすぎる
外より暑いかもしれない
ふだん寝つきはすごくいいし大量に酒を飲んでるので、すぐ寝られそうなものをちっとも寝られない
そうこうまどろんでるうちに、なにやら夢を見る
内容はうろ覚えだが、邪悪な宇宙人のようなものが地球に飛来して大量虐殺される話だ
その宇宙人が1人1人がヒグマくらいでかいうえにちょっと虫っぽくて手が鎌になっている
必死に抵抗を試みるが、ジョズエもイヌガヨもヨシムラタカシバンドもみんな残酷な殺され方で殺されてしまい(グロいので詳細は省く)、なぜか自分だけが生き残り、逃げたくてもなぜか足が動かなくて、あとなぜかお尻がめちゃくちゃ痒い、号泣しながら逃げるのに動けない
叫びながら目を覚ます
夢か!あれ?叫んじゃった?
よかった、朝か、今何時だ?あれ?スマホは?スマホどこ?ってか暗っ、暗すぎ、なにも見えない、電気どこ?え?あれ?電気は?暗すぎ、なにも見えないんだけど、暗闇より暗くない?ほんで、なんでこの星空、あ、間違えた、ロハスダニは見えるのに、こんな暗いの?光ってんならもっといろいろ照らしてくれ、どういう原理?光ってるのに暗いってなに?
そう思いながら、いやいや手をがさがさしてもがき続けてやっと電気のスイッチを発見
スマホも発見
朝何時だ?と思って画面を見ると
は?
え?
4時?
20分ぐらいしか寝てないってこと?
さっきの夢、体感で3時間ぐらいあったけど
まじ?
殺されただけじゃなくて途中で温泉行ったり気球乗ったり牧場だと思ったらそこが岡部さんの家だったりいろんなシーンがあってどう考えても3時間はあったけど?
20分?
寝汗すごいし、すげえ疲れたんだけど
絶望してトイレにて小用
もしやと思ったが、よかった、普通に水が出て流せる
ロハスヴィラの中でトイレが一番居心地がいいかもしれない
そこからなんとなくRの部屋に戻るのが嫌になってしまい、だってどうせ寝れないし、寝ても悪夢見るの嫌だし、誰もいない薄暗いロビーの椅子に座っていたら、若者の調子に乗って騒ぎまくる声が爆音で聞こえてきて、とにかくめちゃくちゃにうるさい
2階にあるダーツバーから聞こえてくる声のようだ
筒抜けの声から察するに、ダーツなんて絶対誰もやってない、なにやら王様ゲームとだるまさんがころんだを合成したような珍奇なスポーツを泥酔しながらプレイしている様子だ
なんだそれ
沖縄のヤンキーやギャルの間で流行ってるんだろうか
そこで急に人の気配を察知し、そっちを振り向くと、なんとロハスヴィラの他の宿泊者に初めて遭遇
時刻はまもなく朝5時といったところか
体の細いおっさんでのっそり歩きながら外へ出ていった
あなたも悪夢見はったんですか?
いやいやながらRの部屋に戻ると、2つ隣のPの部屋から音がする
これはおそらくスマホから鳴ってるアラームの音だ
鳥が、きゅきゅぷるきゅきゅぷるー、と鳴いている音だ
その音が永久に鳴っている
そのPの宿泊者がまったく起きないのか、スマホが見つからないぐらい部屋が暗いのか、それともすでにご存命ではないのか、それとも宿泊者自身が発狂して鳥の鳴き真似をしているのか、Pで何が起きているのかはさっぱりわからないが、その、きゅきゅぷるきゅきゅぷるーがいっこうに鳴り止まず、ロハスヴィラ中に永遠に響き渡っているので、俺は決めた
よし、もう出よう
飛行機の時間までまだずいぶんあるが、ここから出よう
調べたらもうすぐ那覇空港への始発も出るし
とにかく俺は、ここではないどこかに行きたい
シャワー浴びてないけど、もういい
浴びない
もう何も起きるな
それより誰か酒をくれ
今、俺は、狂おしいほど酒を飲みたい
すぐに身支度を整え、Rを出て、ちいさなカギを竹ザルの中にぶちこんでホテルを出る
シャワーを浴びなかったことでロハスヴィラ全面クリアには至らなかったが、それよりも我は精神と身体の平和と健康と安寧を求めた
ロハスダニは大量にいたが、トコジラミはいなかったのが不幸中の幸いである
他の部屋がいったいどうなってるのか気になるが、正直言ってもう泊まりたくない
1500円で泊まれるかもしれないが、1500円もらっても泊まりたくない
いや、1万円もらっても泊まりたくない
3万円くれたら泊まってもいい
朝6時の国際通り
とぼとぼと牧志駅へ向かう
もちろんコンビニで買った酒を片手にだ
朝9時40分
那覇空港の搭乗口付近の待合ロビーに我はいた
トイレを済ませておこうと席を立つとじゃっくさんに偶然遭遇
じゃっく「さっきね、ヨシムラくんにも会いましたよ、昨日はどうでした?」
「大変でした、ちょっと一言で語れないので、今は何も言えないんですが、ロハスヴィラには泊まらないほうがいいということだけ言っておきます」
じゃっく「はっはっはっは、では僕は行きます、ほなまた」
羽田空港行きの飛行機の座席について、そういえばロハスってなんなんと思い、調べてみる
「ロハスとは、心身の健康を大事に考える生活様式のことである」と出てきた
僕は小さくファックとつぶやき、少しでも寝ておこうと目を閉じた
〜終〜