ブライトン大学のコリーナ・チオカン主任講師と打ち合わせをしました
コンピュータサイエンス学部の宇田隆哉准教授が、2025年8月22日(金)にブライトン大学(The University of Brighton)のコリーナ・チオカン(Corina Ciocan)主任講師(Principal Lecturer)を訪問し、現状の問題についてお話を聞き、将来的な共同研究の打ち合わせをしました。
チオカン先生はイギリスでは有名な海洋生物学者で、宇田准教授の訪問前日にもBBCからインタビューを受けていたそうです。宇田准教授は、2024年にもブライトン大学を訪問し、チオカン先生からマイクロプラスチックが生物に与える影響についてのお話を聞いています。その内容はこちらの記事にあります。
今回は、チオカン先生に見せていただいた資料について説明します。研究資料ですので残念ながら公開はできませんが、いくつかの写真を見せていただき、お話を伺うことができました。
チオカン先生は、マイクロプラスチックの中でも、GRP (Grass-fiber Reinforced Plastic)による影響に着目しています。これは、グラスファイバーのプラスチックです。皆さんは、グラスファイバーのプラスチックが繊維状である聞くと、それが砕けて小さくなった破片について、食物繊維のようなものを思い浮かべるかもしれません。食物繊維であれば、動物の体内に入っても、腸の掃除をしてくれて役に立ちそうな感じもします。
チオカン先生が最初に見せてくださったのは、マイクロプラスチックや小さなゴミを電子顕微鏡で拡大した写真です。チオカン先生の研究対象でもあるグラスファイバーのマイクロプラスチックも写っています。チオカン先生は、グラスファイバーの破片を見分けるのは簡単だと言って、写真の中のプラスチック片を指し示しましたが、その形状は想像していたものとは異なりました。それは、食物繊維ではなく、まさに欠けたシャープペンシルの芯でした。チオカン先生は目視でマイクロプラスチックを数えているのですが、「絶対に見間違えない」とおっしゃっていました。それ以外のマイクロプラスチックはとくに決まった形がありませんので、確かに見間違えないと思いました。また、マイクロプラスチックではありませんが、削れたタイヤの屑も写っていました。
"欠けたシャープペンシルの芯"の時点で皆さんも想像されると思いますが、生物への影響という問題があります。チオカン先生は、グラスファイバーのマイクロプラスチックが小さな生物に与える影響を示した写真を見せてくださいました。非常に小さな生物が、グラスファイバーに串刺しになっている写真は衝撃的です。チオカン先生は「ジャベリン(槍)のよう」という表現をされていましたが、ミジンコのような生物が複数のジャベリンに貫かれていました。このようにして小さな生物が死んでしまうと、それを捕食するはずだった生物も数が減ってしまい、生態系に影響が出るそうです。
グラスファイバーを使ってプラスチックの板を作る際には、ラーメンの麺のようなグラスファイバーをフタレートで接着するそうです。チオカン先生によりますと、このフタレートも生物に有害とのことです。
グラスファイバーによるプラスチックの板は、安くて頑丈です。この素材が使われる代表的な例が、レジャーボートなどの船だそうです。この管理方法が、ヨーロッパでは問題になっています。ボートは、自動車のように1台ずつ登録されて管理されません。そうしますと、ボートの不法投棄が後を絶たないそうです。
アメリカのいくつかの州では、廃棄するボートをリサイクルして、歩道の舗装に使っているとのことでした。舗装は時間の経過とともに傷みますので、グラスファイバーのマイクロプラスチックが地上に流出する問題は変わりません。
チオカン先生は、グラスファイバー製の板から、どれくらいの量のマイクロプラスチックが流出するのか調査しています。完璧な状態の板からはマイクロプラスチックは流出しませんが、塗装が傷んだ箇所や亀裂から流出が始まります。今回の訪問では、人工知能による流出量の予測方法について宇田准教授が提案し、将来的な共同研究に繋げることができないか話し合いました。チオカン先生は、人工知能による予測について「So excited!」とおっしゃっていました。
2025年9月22日 (月)