※(注記)こちらの内容は以下の難病共通になります。
下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)
下垂体性TSH分泌亢進症(指定難病73)
下垂体性PRL分泌亢進症(指定難病74)
クッシング病(指定難病75)
下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症(指定難病76)
下垂体性成長ホルモン分泌亢進症(指定難病77)
下垂体前葉機能低下症(指定難病78)
○しろまる 概要
1.概要
下垂体から分泌されるADH、ACTH、TSH、GH、LH、FSH、PRLの単独ないし複数のホルモン分泌障害あるいは分泌亢進により、主として末梢ホルモン欠乏あるいは過剰による多彩な症状を呈する疾患である。病因は、下垂体自体の障害と、下垂体ホルモンの分泌を制御する視床下部の障害及び両者を連結する下垂体茎部の障害に分類される。実際は障害部位が複数の領域にまたがっていることも多い。
全ての前葉ホルモン分泌が障害されているものを汎下垂体機能低下症、複数のホルモンが種々の程度に障害されているものを複合型下垂体機能低下症と呼ぶ。また、単一のホルモンのみが欠損するものは、単独欠損症と呼ばれる。一方、分泌亢進は通常単独のホルモンのみとなる。
2.原因
汎ないし部分型下垂体機能低下症では、脳・下垂体領域の器質的疾患、特に腫瘍(下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍など)、炎症性疾患(肉芽腫性疾患としてサルコイドーシス、IgG4関連疾患など、自己免疫性炎症性疾患としてリンパ球性下垂体炎など)、外傷・手術によるものが最も多い。分娩時大出血に伴う下垂体梗塞(シーハン症候群)の頻度は低下している。一方、単独欠損症はGHやACTHに多く、前者では出産時の児のトラブル(骨盤位分娩など)が、後者では自己免疫機序の関与が示唆されている。さらに抗PIT-1下垂体炎(抗PIT-1抗体症候群)など自己免疫で複合型の下垂体機能低下症をきたすこともある。まれに遺伝子異常に起因する例があり、POU1F1(PIT1; TSH、GH、PRL複合欠損)、PROP1(TSH、GH、PRL、LH、FSH複合欠損)、TPIT(ACTH)、GH1、GHRHR(GH)などが知られている。カルマン(Kallmann)症候群の原因遺伝子であるANOS1(KAL1)などの異常はLH、FSH欠損による先天性性腺機能低下症の原因となる。近年、頭部外傷、くも膜下出血後、小児がん経験者においても下垂体機能低下症を認めることが報告されている。
また、分泌亢進症に関しては、腺腫、上位の視床下部における調節機能異常などが挙げられる。
3.症状
欠損あるいは過剰となるホルモンの種類により多彩な症状を呈する。
4.治療法
基礎疾患に対する治療
原因となっている腫瘍性ないし炎症性疾患が存在する場合は、正確な診断のもとに、各々の疾患に対し、手術や薬物療法、放射線療法などの適切な治療法を選択する。
ホルモン欠乏に対する治療
下垂体機能低下症に対しては、欠乏するホルモンの種類や程度に応じたホルモン補充療法が行われる。下垂体ホルモンはペプチドないし糖蛋白ホルモンのため、経口で投与しても無効である。このため、通常、各ホルモンの制御下にある末梢ホルモンを投与する。GHやFSHのように、遺伝子組み換えホルモン等を注射で投与する場合もある。
以下に、ホルモンごとの補充療法の概略を示す。
分泌亢進症に対する治療
前述した基礎疾患の治療と並行して、あるいは治療後にもホルモン過剰による症状が残存した場合には、以下の治療を行う。薬物療法が不十分な場合には定位放射線療法が必要なことがある。
<重症度分類>
重症を対象とする。
軽症: 重症以外
重症: 以下のいずれかを満たす
1. 血中IGF-1濃度SDスコア +2.0以上
2. 臨床的活動性を示す症候あるいは合併症を2項目以上認める
※(注記) 臨床的活動性を示す症候及び合併症
(1)発汗過多
(2)頭痛
(3)視力・視野障害
(4)月経異常
(5)睡眠時無呼吸症候群
(6)耐糖能異常
(7)高血圧
(8)不正咬合
(9)変形性関節症、手根管症候群
(10)頭蓋骨及び手足の単純X線の異常
78 下垂体前葉機能低下症
<診断基準>
以下のAからEに示す各ホルモンの分泌低下症のいずれかの診断基準を満たす「Definite」を対象とする。
A.ゴナドトロピン分泌低下症
1.主要項目
(1)主症候
1二次性徴の欠如(男子15歳以上、女子14歳以上)または二次性徴の進行停止
2月経異常(無月経、無排卵周期症、又は稀発月経)
3性欲低下、勃起障害、不妊
4陰毛・腋毛の脱落、性器萎縮、乳房萎縮
(2)検査所見
1血中ゴナドトロピン(LH、FSH)は高値ではない。
2ゴナドトロピン分泌刺激検査(LHRH、クロミフェン、又はエストロゲン負荷)に対して血中ゴナドトロピンは低反応ないし無反応(注1)。
3血中、尿中性ステロイドホルモン(エストロゲン又はテストステロン)の低値。
2.参考所見
小陰茎、停留精巣、尿道下裂、類宦官体型、無嗅症(Kallmann症候群)、頭蓋内器質性疾患の合併ないし既往歴、治療歴又は分娩時の大量出血の既往がある場合がある。また、Kallmann症候群ではMRIにて嗅球無形成又は低形成を認めることが多い。ゴナドトロピン負荷に対して性ホルモン分泌増加反応を認めることが多いが、先天性では反応が低下することもある。
3.除外規定
ゴナドトロピン分泌を低下させる薬剤投与や、高度肥満・神経性やせ症を除く。
4.診断のカテゴリー
Definite:
1.1の(1)の1項目以上を満たし、1の(2)の全てを満たし、3の除外規定を満たすもの。
2.Kallmann症候群の基準を満たすもの(注2)。
(注1)視床下部性ゴナドトロピン分泌低下症の場合は、LHRHの連続投与後に正常反応を示すことがある。
(注2)Kallmann症候群ではゴナドトロピン分泌低下症に加えて、2.参考所見の身体所見、及び原因遺伝子の変異を認めることがある。
B.副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌低下症
1.主要項目
(1)主症候
1易疲労感、脱力感
2食欲不振、体重減少
3消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛)
4血圧低下
5精神障害(無気力、嗜眠、不安、性格変化)
6発熱
7低血糖症状
8関節痛
(2)検査所見
1血中コルチゾールの正常低値〜低値(注1)
2尿中遊離コルチゾール排泄量の低下
3血中ACTHは高値ではない(注2)。
4ACTH分泌刺激試験[CRH試験(100 μg静注)(注3)、インスリン低血糖試験(注4)]に対して、血中ACTH及びコルチゾールは低反応ないし無反応を示す(注5)。
5迅速ACTH試験(コートロシン® 250 mg静注)に対して血中コルチゾールは低反応を示すことが多い。ただし、ACTH-Z試験(コートロシンZ® 500 mg、3日間筋注)に対しては増加反応がある。
2.除外規定
ACTH分泌を低下させる薬剤投与を除く。特にグルココルチコイド(注射薬、内服薬、外用薬、吸入薬、点眼薬、関節内注入薬など)については十分病歴を確認する。
3.診断のカテゴリー
Definite:1の(1)の1項目以上を満たし、1の(2)の1から4の全てを満たし、2の除外規定を満たすもの(注6)。
(注1)血中コルチゾール値に関しては、約10%の測定誤差を考慮して判断する。
(注2)血中ACTHは10 pg/ml以下の低値の場合が多いが、一部の症例では血中ACTHは正常ないし軽度高値を示す。生物活性の乏しいACTHが分泌されている可能性がある。CRH負荷前後の血中コルチゾールの増加率は、原発性副腎機能低下症を除外できれば、生物活性の乏しいACTHが分泌されている可能性の鑑別に参考になる。
(注3)血中コルチゾール反応が18 μg/dl未満で、反応不良を疑う。CRH受容体異常によって、血中ACTHの低値と分泌刺激試験での血中ACTHの低反応が認められることがある。
(注4)原則として、血糖値45 mg/dl以下となった場合を有効刺激とする。インスリン感受性亢進のため、インスリン投与量を場合によっては、通常(0.1 U/kg 静注)から半分(0.05 U/kg 静注)にする。低血糖ストレスによって嘔吐、腹痛、ショック症状を伴う急性副腎機能不全に陥ることがあるので、注意深く観察する。血中コルチゾール反応が18 μg/dl未満で、反応不良を疑う。
(注5)視床下部性ACTH分泌低下症の場合は、CRHの1回投与でACTHは正常〜過大反応を示すことがあるが、コルチゾールは低反応を示す。またCRH連続投与ではACTHとコルチゾールは正常反応を回復する。
(注6)1の(2)の5を満たす場合はより確実である。
(附)ACTH分泌低下症の原因として、下垂体及び近傍の器質性疾患や炎症性疾患に加え、近年では免疫チェックポイント阻害薬によるACTH分泌低下症が増加している。免疫チェックポイント阻害薬使用の際はACTH分泌低下症に伴う副腎不全に十分な注意が必要である。
C.甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症
1.主要項目
(1)主症候(注1)
1耐寒性の低下
2不活発
3皮膚乾燥
4徐脈
5脱毛
6発育障害
(2)検査所見
1血中甲状腺ホルモン(特に遊離T4)の低値(注2)。
2血中TSHは低値〜軽度高値(注3)。
3画像検査で間脳下垂体に器質性疾患を認める。あるいは、頭蓋内器質性疾患の合併、既往歴、治療歴、又は周産期異常の既往歴を有する。
4TRH試験(200〜500 μg)に対する血中TSH(注4)
1) 低反応又は無反応
2) 遷延又は遅延反応
を示す(注5)。
2.除外規定
TSH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
非甲状腺疾患(nonthyroidal illness、low T3症候群)を除外する(注2)。
3.診断のカテゴリー
Definite 1: 1の(1)の1項目以上を満たし、1の(2)の1、2、3を満たし、2の除外規定を満たすもの。
Definite 2: 1の(1)の1項目以上を満たし、1の(2)の1、2を満たし、1の(2)の4の1)、2)のいずれかを満たし、2の除外規定を満たすもの。
Probable: 1の(2)の1及び2を満たすもの。
(注1)ほとんど症状を認めない症例も多い。
(注2)血中遊離T3が低値、遊離T4が正常の場合には、nonthyroidal illness(low T3症候群)が疑われるが、さらに重症例では遊離T4、TSHも低値となる。
(注3)間脳下垂体腫瘍による中枢性甲状腺機能低下症では、血中TSHは基準値内を示すことが多い。少数例では軽度高値を示すこともある。生物活性の乏しいTSHが分泌されている可能性がある。TRH試験後の血中T3増加率(120分後)は、原発性甲状腺機能低下症を除外できていれば、生物学的活性の乏しいTSHが分泌されている可能性の鑑別に参考となる。
(注4)腺腫が大きい場合下垂体卒中の危険性があることを説明する必要がある。
(注5)視床下部性の場合は、TRHの1回又は連続投与で正常反応を示すことがある。また、TRH受容体異常によって、血中TSHの低値とTRH試験での低反応が認められることがある。
D.成長ホルモン(GH)分泌不全症
D-1.小児(GH分泌不全性低身長症)
1.主要項目
(1)主症候
1成長障害があること。
通常は、身体のつりあいはとれていて、身長は標準身長(注1)の-2.0SD以下、あるいは身長が基準範囲であっても、成長速度が2年以上にわたって標準値(注2)の-1.5SD以下であること。但し、頭蓋内器質性疾患(注3)や他の下垂体ホルモン分泌不全がある場合は、成長速度の観察期間は2年未満でもよい(注4)。
2乳幼児で、低身長を認めない場合であっても、成長ホルモン分泌不全が原因と考えられる症候性低血糖がある場合。
3頭蓋内器質性疾患(注3)や他の下垂体ホルモン分泌不全がある場合。
(2)検査所見
成長ホルモン(GH)分泌刺激試験(注5)として、インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA負荷、クロニジン負荷、グルカゴン負荷又はGHRP-2負荷試験を行い、下記の値が得られること(注6、注7):インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA負荷、クロニジン負荷、又はグルカゴン負荷試験において、原則として負荷前及び負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間)にわたり、30分毎に測定した血清(血漿)中GH濃度の頂値が6 ng/ml以下であること。GHRP-2負荷試験で、負荷前及び負荷後60分にわたり、15分ごとに測定した血清(血漿)GH頂値が16 ng/ml以下であること。
2.参考所見
1.明らかな周産期障害がある。
2.24時間あるいは夜間入眠後3〜4時間にわたって20分毎に測定した血清(血漿)GH濃度の平均値が正常値に比べ低値である。
3.血清(血漿)IGF-1値が正常値に比べ低値である。
4.骨年齢(注8)が暦年齢の80%以下である。
3.除外規定
GH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
4.診断のカテゴリー
Definite:
1.1の(1)の1を満たし、1の(2)の2種類以上の分泌刺激試験において検査所見を満たし、3の除外規定を満たすもの。
2.1の(1)の2を満たし、1の(2)の1種類の分泌刺激試験において検査所見を満たし、3の除外規定を満たすもの。
3. 1の(1)の1及び3を満たし、1の(2)の1種類の分泌刺激試験において検査所見を満たし、3の除外規定を満たすもの。
Possible:
1.1の(1)の1又は2を満たし、2の参考所見の4項目のうち3項目以上を満たし、3の除外規定を満たすもの。
2.1の(1)の1を満たし、(2)の1種類の分泌刺激試験において検査所見を満たし、2の参考所見のうち2項目を満たし、3の除外規定を満たすもの。
3.1の(1)の1及び3を満たし、2の参考所見のうち2項目以上を満たし、3の除外規定を満たすもの。
[病型分類]
成長ホルモン分泌不全性低身長症は、分泌不全の程度により次のように分類する。
重症: 主症候が(1)の1を満たし、かつ(2)の2種以上の分泌刺激試験におけるGH頂値が全て3 ng/ml以下(GHRP-2負荷試験では10 ng/ml以下)のもの。
又は、主症候が(1)の2又は、(1)の1と3を満たし、かつ(2)の1種類の分泌刺激試験におけるGH頂値が3 ng/ml以下(GHRP-2負荷試験では10 ng/ml以下)のもの。
中等症: 「重症成長ホルモン分泌不全性低身長症」を除く成長ホルモン分泌不全性低身長症のうち、全てのGH頂値が6 ng/ml以下(GHRP-2負荷試験では16 ng/ml以下)のもの。
軽症(注9):成長ホルモン分泌不全性低身長症のうち、「重症成長ホルモン分泌不全性低身長症」と「中等症成長ホルモン分泌不全性低身長症」を除いたもの。
注意事項
(注1)横断的資料に基づく日本人小児の性別・年齢別平均身長と標準偏差値を用いること。
(注2)縦断的資料に基づく日本人小児の性別・年齢別標準成長率と標準偏差値を用いること。ただし、男児11歳以上、女児9歳以上では暦年齢を骨年齢に置き換えて判読すること。
(注3)頭蓋部の照射治療歴、頭蓋内の器質的障害、あるいは画像検査の異常所見(下垂体低形成、細いか見えない下垂体柄、偽後葉)が認められ、それらにより視床下部-下垂体機能障害が生じたと判断(診断)された場合。
(注4)6か月〜1年間の成長速度が標準値(注2)の−1.5SD以下で経過していることを目安とする。
(注5)正常者でも偽性低反応を示すことがあるので、確診のためには通常2種以上の分泌刺激試験を必要とする。但し、乳幼児で頻回の症候性低血糖発作のため、早急に成長ホルモン治療が必要と判断される場合等では、この限りでない。
(注6)次のような状態においては、成長ホルモン分泌が低反応を示すことがあるので、下記の対応をおこなった上で判定する。
□しろいしかく甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンによる適切な補充療法中に検査する。
□しろいしかく中枢性尿崩症:DDAVPによる治療中に検査する。
□しろいしかく成長ホルモン分泌に影響を与える薬物(副腎皮質ホルモンなど)投与中:可能な限り投薬を中止して検査する。
□しろいしかく慢性的精神抑圧状態(愛情遮断症候群など):環境改善などの原因除去後に検査する。
□しろいしかく肥満:体重をコントロール後に検査する。
(注7)現在のGH測定キットはリコンビナントGHに準拠した標準品を用いている。キットによりGH値が異なるため、成長科学協会のキット毎の補正式で補正したGH値で判定する。
(注8)Tanner-Whitehouse-2(TW2)法に基づいた日本人標準骨年齢を用いることが望ましいが、Greulich & Pyle法、TW2原法又はCASMAS(Computer Aided Skeletal Maturity Assessment System)法でもよい。
(注9)諸外国では、非GH分泌不全性低身長症として扱う場合もある。
(附1)診断名は、1993年改訂前は下垂体性小人症。ICD-10では、下垂体性低身長又は成長ホルモン欠損症となっている。
(附2)遺伝性成長ホルモン分泌不全症(type IA、IB、type IIなど)は、家族歴有り、早期からの著明な低身長(-3SD以下)、GHRH負荷試験を含むGH分泌刺激試験で、GH値の著明な低反応、血中IGF-1、IGFBP-3値の著明な低値などを示す。遺伝子診断により確定診断される。
(附3)新生児・乳児早期には、分泌刺激試験の頂値が6 ng/ml(GHRP-2負荷試験では 16 ng/ml)を超えていても、成長ホルモン分泌不全を否定できない。
(附4)成長ホルモン分泌不全性低身長症のうちで、とくに(1)主症候が3を満たす重症例を中心にして、その後に成人成長ホルモン分泌不全症と診断される場合があるので、思春期以降の適切な時期に成長ホルモン分泌能及び臨床所見を再評価することが望ましい。
D-2.成人(成人GH分泌不全症)
1.主要項目
I.主症候及び既往歴
1.小児期発症では成長障害を伴う(注1)。
2.頭蓋内器質性疾患の合併ないし既往歴、治療歴(注2)又は周産期異常の既往がある。
II.検査所見
1.GH分泌刺激試験として、インスリン負荷、アルギニン負荷、グルカゴン負荷又はGHRP-2負荷を行い(注3)、下記の値が得られること(注4、注5):
1) インスリン負荷、アルギニン負荷又はグルカゴン負荷において、負荷前及び負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間)にわたり、30分ごとに測定した血清GHの頂値が3 ng/ml以下である(注4、注5)。
2) GHRP-2負荷において、負荷前及び負荷後60分にわたり、15分ごとに測定した血清GH頂値が9 ng/ml以下である(注4、注5、注6)。
2.GHを含めて複数の下垂体ホルモンの分泌低下がある(注7)。
III.参考所見
1.血清(血漿)IGF-1値が年齢及び性を考慮した基準値に比べ低値である(注8)。
2.除外規定
GH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
3.診断のカテゴリー
成人成長ホルモン分泌不全症(「Definite」)
1.1のIのいずれかを満たし、IIの1の2種類以上のGH分泌刺激試験において基準を満たし、2の除外規定を満たすもの。
2.1のIの2を満たし、1のIIの2を満たし、IIの1の1種類のGH分泌刺激試験において基準を満たし、2の除外規定を満たすもの。
[病型分類]
重症成人成長ホルモン分泌不全症:
成人成長ホルモン分泌不全症のうち、下記を満たすもの。
1.Iの1又は2を満たし、かつIIの1で2種類以上のGH分泌刺激試験における血清GHの頂値が1.8 ng/ml以下(GHRP-2負荷試験では9 ng/ml以下)のもの。
2.Iの2及びIIの2を満たし、かつIIの1で1種類のGH分泌刺激試験における血清GHの頂値が1.8 ng/ml以下(GHRP-2負荷試験では9 ng/ml以下)のもの。
重症以外の成人成長ホルモン分泌不全症:
成人成長ホルモン分泌不全症の診断基準に適合するもので、重症成人成長ホルモン分泌不全症以外のもの。
注意事項
(附1)易疲労感、スタミナ低下、集中力低下、気力低下、うつ状態、性欲低下などの自覚症状及び生活の質(QOL)の低下をきたし、皮膚の乾燥と菲薄化、体毛の柔軟化、ウェスト/ヒップ比の増加を認めることが多い。
(附2)検査所見として、体脂肪(内臓脂肪)の増加、除脂肪体重の減少、筋肉量減少、骨塩量減少、脂質代謝異常、耐糖能異常、脂肪肝(注9)を認める。
(附3)本診断基準は原則として18歳以上で用いるが、18歳未満であってもトランジション期には本疾患の病態はすでに始まっているため、適切な時期に評価を検討する。
(附4)小児期にGH分泌不全性低身長症と診断されてGH投与による治療歴があるものでも、成人においてGH分泌刺激試験に正常な反応を示すことがあるので再度検査が必要である。
(注1)適切なGH補充療法後や頭蓋咽頭腫の一部(growth without GHと呼ばれる)では成長障害を認めないことがある。また、性腺機能低下症の存在、それに対する治療の影響も考慮する。
(注2)頭蓋内の器質性疾患、頭部の外傷歴、手術及び放射線治療歴、あるいは画像検査において視床下部下垂体系の異常所見が認められ、それらにより視床下部下垂体機能障害の合併が強く示唆された場合。
(注3)重症成人GH分泌不全症が疑われる場合は、インスリン負荷試験又はGHRP-2負荷試験をまず試みる。インスリン負荷試験は虚血性心疾患や痙攣発作を持つ患者では禁忌である。追加検査としてアルギニン負荷あるいはグルカゴン負荷試験を行う。クロニジン負荷、L-DOPA負荷は偽性低反応を示すことがあり、GHRH負荷試験は視床下部障害や放射線療法後に偽性反応を示すことがあるため診断基準には含まれていない。
(注4)現在のGH測定キットはリコンビナントGHに準拠した標準品を用いている。キットによりGH値が異なるため、成長科学協会のキットごとの補正式で補正したGH値で判定する。
(注5)次のような状態においては、GH分泌刺激試験において低反応を示すことがあるので注意を必要とする。
1. 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンによる適切な補充療法中に検査する。
2. 中枢性尿崩症:DDAVPによる治療中に検査する。
3. 成長ホルモン分泌に影響を与える下記のような薬剤投与中:可能な限り投薬中止して検査する。
薬理量の糖質コルチコイド、α -遮断薬、β -刺激薬、抗ドパミン作動薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗コリン作動薬、抗セロトニン作動薬、抗エストロゲン薬
4. 高齢者、肥満者(アルギニン負荷、グルカゴン負荷試験の場合)、中枢神経疾患やうつ病に罹患した患者
(注6)重症型以外の成人GH分泌不全症を診断できるGHRP-2負荷試験の血清(血漿)GH基準値はまだ定まっていない。
(注7)器質性疾患による複数の下垂体前葉ホルモン分泌障害を認める場合には、下垂体炎など自己免疫機序によるものを除いて、ほとんどの場合GH分泌が障害されている。
(注8)栄養障害、肝障害、コントロール不良な糖尿病、甲状腺機能低下症など他の原因による血中濃度の低下がありうる。
(注9)単純性脂肪肝だけではなく、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変の合併にも注意が必要である。
E.プロラクチン(PRL)分泌低下症
1.主要項目
(1)主症候
産褥期の乳汁分泌低下
(2)検査所見
1血中PRL基礎値の低下(注1)
2TRH負荷試験
TRH負荷(200〜500μg静注)に対する血中PRLの反応性の低下又は欠如を認める(注2)。
2.除外規定
PRL分泌を低下させる薬剤投与を除く。
3.診断のカテゴリー
Definite:1の(1)を満たし、1の(2)の全てを満たし、2の除外規定を満たすもの。
(注1)複数回測定し、いずれも施設基準値を下回る場合に低値とする。
(注2)視床下部性下垂体機能低下症では、血中PRLは正常ないし高値を示す。下垂体腫瘍患者にTRH負荷試験を施行する場合、下垂体卒中を引き起こすことがあるので、その施行の可否に関して患者毎に判断する必要がある。
<重症度分類>
重症を対象とする。
軽症: 重症以外
重症: 以下のいずれかを満たす
間脳下垂体腫瘍などの器質的疾患に伴うもの
先天異常に伴うもの
複合型下垂体ホルモン分泌不全症又は汎下垂体機能低下症
重症の成長ホルモン分泌不全症
ACTH単独欠損症、ゴナドトロピン単独欠損症
※(注記)診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
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研究班名 | 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班 研究班名簿 |
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情報更新日 | 令和6年4月(名簿更新:令和7年6月) |