多くの人に潜伏感染もしくは持続感染しているJCウイルスが、免疫力が低下した状況で再活性化して脳内に多発性の病巣( 脱髄病巣 [用語解説を参照])をきたす病気です。
「PML診療ガイドライン2023」に掲載されている報告では、本邦では1979年から2014年のまでの間、累計184例がPMLに罹患して死亡しています。最近の日本での発生頻度は0.9人/1000万人です。日本においてはHIVの感染が増加していることや、一部の生物由来製品[用語解説を参照]の副作用としてのPML発生などで新規のPML発生が増加することが予想されます。また、病態修飾薬 [用語解説を参照] の副作用としてのPML発生が増加しています。
HIV感染により免疫機能が低下した患者さんや、血液系悪性腫瘍・膠原病・自己免疫疾患・臓器移植などの背景により免疫を抑制する治療を受けている患者さんに多くみられます。近年は一部の生物学的製剤や多発性硬化症の病態修飾薬の使用を背景としたPML発症もみられます。
ヒトのポリオーマウイルス科に分類されるJCウイルスというウイルスです。このウイルスは通常多くの皆さんが感染していますが(日本人では健常者の70%以上)、何も症状を示しません。
遺伝はしません。
PMLの臨床症状は病名である「多巣性」を反映して多彩ですが、よく見られる初発症状としては片麻痺・四肢麻痺・ 認知機能 障害・失語・視覚異常などです。その後、初発症状の増悪とともに四肢麻痺・構音障害・ 嚥下障害 ・ 不随意運動 ・脳神経麻痺・失語などが加わり、無動無言状態(寝たきりの状態)に至ります。
JCウイルスに対する 特異的 で有効な治療はありません。そのため、PMLの治療は基礎疾患に伴う免疫能低下を回復/正常化を目指すことが主体となります。HIVを基礎疾患にしている場合はその治療を優先します。薬物治療が原因の場合は速やかな中止が求められます。免疫の改善やウイルスの増殖を阻止する薬で病気の進行を止める場合もありますが、症例によっては効かない場合もあります。近年、メフロキン・ミルタザピン併用療法(どちらも保険適応はありませんので、治療を受けている施設での判断を要します)を試みる症例が増えており、一部の症例では有効と考えられています。
一般に週単位から月単位で進行しますが、治療効果や患者さんの免疫力の改善などにより進行が止まり、回復する場合もあります。HIVを基礎疾患としたPMLの中央生存期間は1.8年、その他の疾患を基礎疾患としたPMLは中央生存期間が3ヶ月とされています。 生命予後 が非常に悪い疾患です。
PMLの大多数がHIV感染症や免疫抑制状態を基礎疾患にもつ患者さんに発症しますので、健常者の方は特に注意はありません。ただし、HIV感染予防は一般の方でも重要です。
HIV感染者や前述の基礎疾患で免疫抑制状態にある方は、6)に記した症状が出現した場合は主治医とよく相談して下さい。頭部MRIを撮影して、MRIの所見によりPMLが疑われれば脳脊髄液検査[用語解説を参照]が必要となります。
該当する病名はありません。
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「プリオン病 及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」(編).進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)診療ガイドライン2023. http://prion.umin.jp/guideline/index.html
プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
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がん・感染症センター都立駒込病院 PML情報センター
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