証拠法
証拠法(しょうこほう、英: Evidence act )は、イギリス、オーストラリア、インド、マレーシア、アメリカ合衆国で、事実の立証、及び事実審理者(Trier of fact)がその真偽や存否を判断するための証拠の取扱いを規定した法律。
概要
[編集 ]証拠法は、コモンロー(判例法)を採用する国の司法において、裁判官などによる証拠の取捨選択の権限(裁量)を制限し、適切な証拠に基づく判断が行われるよう、また、証拠の取扱いに一定のルールを課すことで、判決や決定、審判や命令などの裁判結果の信頼性を確保できるよう、議会が作る法律によって設けられた[1] 。
また、法律や行政府が作る法令は一般的に、問題視されている事実や社会現象への対策として立案されることから、証拠法に基づく裁判と、国法の成立の原理は、同一である[1] 。
各国の証拠法
[編集 ]イギリスにおいては1851年、また英領インドでは1871年に証拠法が成立した[2] 。この証拠法及び陪審の職務に関する規則に変更を加えた裁判所規則は、無効とされている[3] [注釈 1] [注釈 2] 。英米法の大きな特色がの一つが膨大な証拠法であるが、これは「陪審をして誤った評決をなさしめる恐れのある証拠を排斥する陪審の統御抑制」の必要性から発達したためである[6] 。したがって、証拠法の改正は議会が行っており、1898年には被告人の配偶者の証人能力を認めるなどの改正があった[7] 。
アメリカ合衆国では1973年にアメリカ合衆国最高裁判所の内規として証拠法が設置されたが、議会の審議を経て、1975年には法制化された[8] 。
ドイツは近年、雇用契約透明化を推進しており、2024年には証拠法(Nachweisgesetz、NachwG、「検証法」)においてデジタル雇用契約書を証拠として見做す改正を行い、雇用主の負担を軽減した[9] 。
日本は法廷証拠主義を採用しておらず、1948年の刑事訴訟法318条や1996年の民事訴訟法247条に基づき自由心証主義を採用しており、裁判官の裁量権で証拠が取捨選択されているため証拠法という名称の法律は存在しない。ただ、司法研究所や検察研究所は証拠法を研究している [注釈 3] 。
関連項目
[編集 ]- 証明責任
- 最良証拠主義 - 最良証拠の原則 (英語版)
- 証拠に基づく政策策定のための基本法(Foundations for Evidence-Based Policymaking Act)- アメリカ合衆国
- 開示手続(Discovery、Disclosure of Evidence)- 電子情報開示
- 証拠の保存(Evidence packaging)
- 証拠方法
- 証拠裁判主義 - 証拠に基づく訴追(Evidence-based prosecution)- 予備審問 - 公訴事実 - 訴因 - 公訴
- 証拠調べ - 検証 - 鑑定 - 法廷に採用される証拠(Admissible evidence)- 合理的な疑い - 推定 - 相当な理由 (英語版) - 事実認定
- 有罪証拠・実質証拠(Inculpatory evidence)・有責証拠
- 一次的証拠・直接証拠(Firsthand Evidence) - 人証、物証、書証
- 状況証拠・情況証拠・情供証拠・間接証拠(Curcumstantial evidence、人証、物証、書証、意見証拠、他)
- 反証 (法律)(Rebuttal evidence)- 間接反証 - 反証テスト
- 二次的証拠(Secondhand evidence)- 伝聞証拠(Hearsay)
- 伝聞証拠禁止の原則 - 口頭証拠排除の原則 (英語版) - 文書提出命令
- 違法収集証拠排除法則 - 毒樹の果実
- 証拠の改ざん (英語版) - 証拠の偽造 (英語版)(でっちあげ、偽造、偽証)
- 紛れ込んだ関係ない証拠 (英語版)
- 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
脚注
[編集 ]- 注釈
- ^ 同条文は証拠法則(the rules of evidence)と、陪審公判での口頭尋問による証拠提出方法(the mode of giving evidency by the oral examination of witness in trials with a jury)、また陪審員及び陪審に関する法律(The law relating to jurymen or juries)を保護する。アイルランド法、カナダ法も同様である[4] [5] 。
- ^ 同条文は、例外は裁判所が事件を陪審公判または非陪審公判のいずれとするかを判別するための規程や、特定事実の証明手段とその証拠提出方法に関する規程を制定することと、裁判所が特別事由により証言調書や宣誓供述書の朗読を許可する権限のみとしている。
- ^ 『米国刑事証拠法』(「司法研究報告書」第1集3号、1949年)、『刑事証拠法について』(検察研究所資料第8号、1950年)などの文献が存在する。
- 出典
- ^ a b Best 1882.
- ^ イギリス「Evidence Act 1851」。1851年。
- ^ An Act respecting the Supreme Court of British Columbia., 第64条。
- ^ アイルランドの条文(第66条)。
- ^ カナダの条文(第64条)
- ^ 細野幸雄 1949.
- ^ 細野幸雄 1949, p. 143.
- ^ The Federal Rules of Evidence 。1975年1月2日。
- ^ 「ドイツ証拠法に関するニュース」(英語版)。
参考文献
[編集 ]- ジェームス・フィッツジェームス・スティーブン (英語版) Indian Evidence Act (インド証拠法)。1872年、Macmillan and Co. 。イギリス。
- J. F. スティーブン A Digest of Evidence Law 。イギリス。
- 秋山源蔵 訳『英国証拠法詳解』北畠秀雄、1885年。https://dl.ndl.go.jp/pid/795095 。
- W. M. ベスト、他. The principles of the law of evidence: with elementary rules for conducting the examination and cross‐examination of witnesses. 1,2. J. Cockcroft & Company. https://www.google.co.jp/books/edition/The_Principles_of_the_Law_of_Evidence/PAs-AAAAIAAJ?hl=ja&gbpv=0 。(証拠法原則及び証人聴取及び証人尋問の実施第一規則)。1882年。アメリカ合衆国。
- 河原徳治『米国刑事証拠法』《司法研究報告書 1輯3号》最高裁判所事務総局、1949年。https://dl.ndl.go.jp/pid/1342698/1/34 。
- 細野幸雄『英国における裁判所の規則制定権の歴史』《司法研究報告書 1輯4号》最高裁判所事務総局、1949年。https://dl.ndl.go.jp/pid/3001710/1/48?keyword=証拠法 。
- アメリカ合衆国「The Federal Rules of Evidence」
- マイケル・ザンダー (英語版)The police and criminal evidence act 1984 Sweet & Maxwell. 1985年。
- イギリス国「Prosecution of Offences Act 1985 」
- 法務省「イギリス警察・刑事証拠法、イギリス犯罪訴追法」『法務資料』第447巻、法務大臣官房司法法制調査部、1988年。
- 増井清彦『わかりやすい刑事証拠法』立花書房、1985年。https://dl.ndl.go.jp/pid/12016502/ 。
- 中野哲弘『わかりやすい民事証拠法概説』信山社、1997年。
外部リンク
[編集 ]- Evidence (英語) - スタンフォード哲学百科事典「証拠法」の項目。
- Evidence Act 1951 - イギリス証拠法
- Police and Criminal Evidence Act 1984 (PACE) - イギリス警察刑事証拠法
- Indictments Act 1915- イギリス犯罪訴追法