ミサイル巡洋艦
ミサイル巡洋艦(ミサイルじゅんようかん)とは軍艦の艦種の一つで、ミサイルを搭載している巡洋艦の事である。主にアメリカ合衆国とロシア連邦で開発・運用されているが、両国においてその性格は異なっている。
概要
[編集 ]アメリカとイギリスでは、それぞれ1943年ごろより艦対空ミサイルの開発に着手しており、大戦末期に日本軍が行った特別攻撃(特攻)の脅威を受けて開発は加速していた。アメリカでは、1944年に開始されたバンブルビー計画を基本として開発が進められており、ここから派生した中射程型のテリアは1948年、本命と位置付けられていた長射程型のタロスも1950年には試作に入った[1] 。
アメリカ海軍において、これらのミサイルは、まず既存の軽巡洋艦と重巡洋艦への改修によって装備化されることになり、1952年度予算でボルチモア級重巡洋艦2隻がテリアを搭載したボストン級として改装されたのを端緒として、順次に改装が進められた。また兵装のミサイル化と同時に機関の核動力化も図った「ロングビーチ」も建造されたが、巨額な建造費が災いして、同型艦は建造されなかった[2] 。また、特にテリアは、より小さい駆逐艦ベースの船体でも十分に収容できることが判明したことから、巡洋艦への改装はそれ以上行われないことになり、かわって駆逐艦を拡大したミサイル・フリゲート(DLG/DLGN)の整備が進められた[1] 。しかしこのミサイル・フリゲートはどんどん大型化・有力化していったこともあり、1975年の艦種再編の際にミサイル巡洋艦 と改称された。また1978年度のタイコンデロガ級は、スプルーアンス級駆逐艦を元にイージスシステムを搭載するよう設計を修正したという経緯もあり、当初はミサイル駆逐艦として類別されていたものの、結局ミサイル巡洋艦に類別変更されている[3] 。
一方、ソ連海軍では、1956年より「誘導ジェット兵器を備える駆逐艦」の開発を進めていたが、巡洋艦を失うことを憂慮した海軍上層部への配慮から、これは1960年代に入って58型ミサイル巡洋艦と改称され、ミサイル巡洋艦(RKR)[注 1] の嚆矢となった。アメリカ海軍のミサイル巡洋艦が艦対空ミサイルを主兵装とした防空艦であったのに対し、これらのソ連海軍のミサイル巡洋艦は、むしろ艦対艦ミサイルを主兵装として、対水上戦を主任務としていた[5] [注 2] 。
海上自衛隊では、保有する護衛艦には基本的に駆逐艦を意味する「DD」・「DE」あるいはこれに接尾辞を付した艦種記号を付与してきたが、2024年に訓令を改訂した際に、ミサイル巡洋艦を意味する「CG」の艦種記号を制定した[7] 。海自は、ミサイル防衛を基本としつつ各種戦能力を備えたイージス・システム搭載艦の建造を計画しており[8] 、従来の護衛艦と比べて大型化することから、新しい艦種記号が制定されたものとみられている[7] 。
また運用者自身はミサイル駆逐艦と類別していても、外部観測筋によってミサイル巡洋艦と種別されることもある。例えば国際戦略研究所では、満載排水量9,750トン以上の水上戦闘艦を一律にミサイル巡洋艦としており[9] 、海上自衛隊のあたご型護衛艦(満載排水量10,000トン)とまや型護衛艦(満載排水量10,250トン)、大韓民国海軍の世宗大王級駆逐艦(満載排水量10,290トン)や中国人民解放軍海軍の055型駆逐艦(満載排水量13,000トン)はミサイル巡洋艦として扱われている[10] [11] [12] 。
ミサイル巡洋艦一覧
[編集 ]- ボストン級ミサイル巡洋艦
- ガルベストン級ミサイル巡洋艦
- プロビデンス級ミサイル巡洋艦
- 原子力ミサイル巡洋艦「ロングビーチ」
- オールバニ級ミサイル巡洋艦
- リーヒ級ミサイル巡洋艦 [注 3]
- 原子力ミサイル巡洋艦「ベインブリッジ」[注 3]
- ベルナップ級ミサイル巡洋艦 [注 3]
- 原子力ミサイル巡洋艦「トラクスタン」[注 3]
- カリフォルニア級原子力ミサイル巡洋艦 [注 3]
- バージニア級原子力ミサイル巡洋艦 [注 3]
- タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 [注 4]
ミサイル巡洋艦と種別されることもある艦艇
[編集 ]脚注
[編集 ]注釈
[編集 ]- ^ ロシア語では誘導ミサイルとロケットの区別がなく、いずれも「ロケット」(Ракета)と称されるため、日本語に訳出される際に便宜的に区別が付されることが多い[4] 。
- ^ なお、1970年代からは対潜戦重視の大型対潜艦(BPK)が建造されているが、このうちミサイル巡洋艦から派生した大型艦については、西側からは「巡洋艦」とみなされた[6] 。
- ^ a b c d e f 1975年の艦種再編以前はミサイル・フリゲート(DLG)あるいは原子力ミサイル・フリゲート(DLGN)と種別されていた。
- ^ 計画当初はミサイル駆逐艦(DDG)と種別されていた。
- ^ 計画当初は防空・対潜艦、1966年から1977年までは大型対潜艦と種別されていた。
出典
[編集 ]参考文献
[編集 ]- Friedman, Norman (2012), British Cruisers of the Victorian Era, Naval Institute Press, ISBN 978-1591140689
- Gardiner, Robert (1979), Conway's All the World's Fighting Ships 1860-1905 , Naval Institute Press, ISBN 978-0870219122
- Gardiner, Robert (1984). Conway's All the World's Fighting Ships 1906-1921. Naval Institute Press. ISBN 978-0870219078
- JSF「防衛省訓令第317号「自衛艦の名称等を付与する標準」変更でCG(巡洋艦)とCVM(多目的空母)が追加」『Yahoo!ニュース』2025年9月16日。https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9fddd976ed42f6417895aca77460849d54cad466 。
- Polutov, Andrei V.「ソ連/ロシア巡洋艦建造史」『世界の艦船』第734号、海人社、2010年12月、NAID 40017391299。
- Saunders, Stephen (2009), Jane's Fighting Ships 2009-2010 , Janes Information Group, ISBN 978-0710628886
- Wertheim, Eric (2013), The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World (16th ed.), Naval Institute Press, ISBN 978-1591149545
- IISS (2016), The Military Balance, ラウトレッジ, ISBN 978-1857438352
- 青木栄一「アメリカ巡洋艦建造の歩み」『世界の艦船』第464号、海人社、129-137頁、1993年4月。
- 石橋孝夫「アメリカ巡洋艦の技術的特徴」『世界の艦船』第464号、海人社、138-147頁、1993年4月。
- 大塚好古「米艦隊防空艦発達史 (特集 米イージス艦「アーレイ・バーク」級)」『世界の艦船』第769号、海人社、90-97頁、2012年11月。 NAID 40019440596。
- 岡部いさく「条約型重巡の後継者たち (特集・回想の条約型重巡)」『世界の艦船』第659号、海人社、102-107頁、2006年6月。 NAID 40007281481。
- 鳥居信夫「近代軍艦の艦種類別」『世界の艦船』第332号、海人社、82-83頁、1984年2月。
- 中川務「イギリス巡洋艦史」『世界の艦船』第517号、海人社、1996年11月。ISBN 978-4905551577。
関連項目
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