マーケティングは研究開発活動そのものである
筆者は技術と経営の融合に重点をおいたマネジメント・コンサルタントとして活動しているが、最近多くの企業で「良いテーマが少ない」「有望なネタが見つからない」という声を耳にする。
アジア諸国の猛追を受けている昨今、日本企業が継続的に成長を続けるためには、新市場創造型で高付加価値の商品を生み続けるしかない。つまり、その開発力を獲得できた企業にしか明日はないと言っても過言でないと思う。ただし、このような商品開発を実践する場合には、従来の改良型新商品を開発するときとは異なるテーマ・マネジメントが必要になる。そこで、冒頭のような嘆きが多く聞かれるようになったのかもしれない。
この、テーマ・マネジメントの一手法として「ステージゲート法」というものがある。多くの企業でその導入が検討され、実際に活用され始められているものだ。手法の細部に入ることは避けるが、そもそもこの手法は、日米貿易摩擦が問題となっていたころアメリカで進められた日本研究の中で生み出されたものである。考案された状況が、日本企業がアジア諸国の追い上げを受けている今日の状況と酷似しているのがおもしろい。
その目的は、新市場創造型開発にある。日本企業の技術力向上により窮地に立たされたアメリカ企業がその競争に勝ち成長し続けるためには、高品質な製品を安定してつくっているだけではダメ、それに替わりリスクを覚悟した新市場創造型開発を進めなければならないと考えた。そのための手法として開発されたのが、ステージゲート法だという。
新市場を定常的に開拓
現在日本企業がおかれている立場は、まったく同じである。アジア諸国からの追い上げを受けている中で成長し続けるには、当時のアメリカが熟慮の末にたどりついたように、新市場創造型の開発を積極的に進めるしかない。最近のヒット商品を見ても、このことがよくわかる。
日経ビジネスの12月10日号に掲載された「2007年のヒット商品ランキング」によれば、「新しいにはもう飽きた」。単に商品として新しいだけではなく、新しいコンセプトの提案によって新市場の創造に成功した商品がヒットしているのである。iPod商品シリーズ、Wiiなどが代表例だろう。
これは以前からみえている現象であり、印象に残っているヒット商品でもこの種のものが多い。シャープのスチーム調理器「ヘルシオ」、花王の健康飲料「ヘルシア」、英国ダイソンの掃除機など、多くは同種の従来商品と比べると高価格であるが、新しいコンセプトを提案したものばかりである。
現在多くの企業に求められていることは、このような商品の開発を定常的に進めていくための仕組み、体制を構築することである。従来は、このような前例のないような新しいコンセプトの商品を開発しようとする際は、技術シーズ・プッシュで開発し、市場に投入してみたら結果として売れたとか売れなかったとかいうことで一喜一憂していたものである。
これではマネジメントも何もない。だから、成功確率は低いし、結果的に非常に効率の悪い開発活動になってしまう。
ユーザーの課題から発想する
ただし、「ユーザーに欲しいものを聞いて、それに対応する」いわゆる受身のユーザーニーズ対応型の開発では現状と連続性の高い商品ばかりになってしまい、新しいコンセプトの商品は生まれにくいことを多くの読者の方々は実感しているところであろう。ほとんどの人は、知らない物、見たことのない物については語れない。だから、現行品を「もっと安く」「もっと小さく」「もっと軽く」といった要望しか思いつかないのである。これでは、新しいコンセプトの商品を考えようとする際の参考にはならない。
望ましい対応は、やはり発想のベースを市場におくことには違いはないのであるが、ユーザーの課題を見出すことである。ユーザーの発言そのものではなく、その背景にある「ユーザーが困っていること(ニーズ=ほしい物ではない)、ユーザーがかかえている問題などを的確にとらえ、その解決策(=ソリューション)を商品やサービスとして提供するのである。
これを研究開発活動の出発点である「テーマ設定」に当てはめてみると、「市場の未決の課題を革新的に解決する」ということになる。「未決の課題」はあくまで未決であるから、それに対するソリューションを考えれば必ずトップランナーになれる。少なくとも、その時点においては競争相手がいない。
研究者・技術者が主役に
こう言ってしまえば簡単そうだが、実はそうでもない...(次のページへ)
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