ダムの書誌あれこれ(46)〜千葉県のダム〔中〕(片倉、郡、矢那川、保台、山内)〜 3ページ - ダム便覧



11.矢那川ダム(矢那川)の建設

矢那川は千葉県君津に位置し、その源を草敷付近に発し、丘陵部を西流し、途中、田高川、鎌足川、平川等を合流しながら流下し木更津市の市街地を貫流し、東京湾に注ぐ流域面積34.4km、流路延長13.6?qの二級河川である。

矢那川流域は東日本型気候を示し、降雨量は梅雨期、台風期に多く、特に台風期の豪雨により災害が多く発生している。矢那川流域の年平均降水量は1 200〜1 500?o、流域の地勢勾配は上流部1/100、中流部1/300、下流部1/1000となっている。平成2年における流域の土地利用状況は山林が56%、市街地16%、田畑等28%である。

ダムサイト付近の地質は第四期洪積世の藪層、清川層、姉ケ崎層からなり、この上をローム層が覆っており、河床部には第四期洪積世の段丘堆積物が沢および山脚には崖錐が分布している。

矢那川流域は古くからたびたび洪水被害を受けており、特に昭和49年7月の集中豪雨、57年9月の台風18号により、木更津市街は被害を被った。さらに、上流域にかずさアカデミーパーク、下流域では既成市街地周辺の土地区画整理事業、東京湾横断道路のインパクトを受けて都市化が進み洪水被害の増加の恐れがあり、そのために矢那川の上流に治水ダム事業の必要性を生じさせた。このような背景から矢那川ダムは矢那川水系田高川の木更津市大字矢那字田高左岸)、同字上名主ケ谷(右岸)地先に平成11年に完成した。このダム建設記録について、アイドールエンジニヤリング株式会社編「矢那川ダム工事誌」(千葉県矢那川・片倉ダム建設事務所、平成12年)、同「矢那川ダム工事誌概要版」がある。


「矢那川ダム工事誌」

「矢那川ダム工事誌概要版」
この書より、矢那川ダムの目的、諸元、特徴について、追ってみたい。
ダムは2つの目的を持って造られた。

(1)洪水調節は、年間を通じて標高54.2mから標高42.0mの間の容量140万m3を利用してダムサイトにおける計画高水流量115m3/sのうち96m3/sを調節する。また、間接流域からの流入量は導水路全長960mの設置により貯水池に導水する。

(2)下流既得用水の補給等流水の正常な機能の維持と増進をはかるため、標高42.0mから標高38.0m間の20万m3を利用して補給する。

ダムの諸元は堤高29.3m、堤頂長284m、堤体積60万m3(ブランケットを含めると88万m3)、総貯水容量172万m3、有効貯水容量160万m3、型式は傾斜遮水壁ゾーン型フィルダムである。起業者は千葉県、施工者は鹿島建設・フジタ・若築建設共同企業体である。事業費は399.5億円を要し、その内訳は治水費306.8億円、かずさアカデミーパーク事業92.7億円で、事業費割振は河川76.8%、流出増対策23.2%となっている。

主なる補償関係は、用地取得面積34ha、移転家屋2戸、公共補償として木更津市水道施設移転補償、付替道路県道木更津・末吉線延長400m、木更津市道1 660mの補償工事であった。
次に矢那川ダムの建設経過をみてみたい。

昭和63年12月 ダム事業の説明会
平成元年4月 矢那川ダム地権者対等協議
会設立
2年10月 矢那川ダム建設事業に関す
る協定書調印
3年12月 矢那川ダム建設事業に伴う
補償基準に関する協定書調

4年9月 ダム本体工着手
6年1月 仮排水路トンネル貫通
7月 導水路トンネル貫通
10月 ダム堤体盛立開始
7年1月 定礎式
9年2月 ダム堤体盛立完了
10月 試験湛水開始
11年11月 矢那川ダム完成式

矢那川ダムは、前述のダムに隣接するかずさアカデミーパークによる開発に伴う流出増に対応する事業となっており、次のような特徴が挙げられる。

(1)ダム型式は傾斜遮水壁ゾーン型フィルダムであり、上下流面の勾配を緩くして大きな地震に対し、安全な形状をなしている。このことにより、基礎地盤にかかる荷重を小さくする工夫がなされている。

(2)堤体盛土材料として貯水池内掘削やかずさアカデミーパークの造成から発生する土砂を有効に使用。

(3)遮水材として関東ローム層を使用する治水ダムは我が国で初めてのダムである。

(4)ダム基礎地盤の遮水は砂質の基礎地盤に対して、土質ブランケットにより浸透路長を延ばし、浸透流速を低減させる方向での対策とし、遮水の範囲はダム軸から上流240mとし、構造的には河床ブランケット(貯水池底面は関東ロームを使用した厚さ2?pのソイルセメントによる保護層を設置)と山腹ブランケット(貯水池法面は関東ロームを使用、上部は関東ロームをブランケット安定確保のために配し、その表面は法面保護を兼ねた補強土工法を施工し、また、下部には砂質土および法面保護としたソイルセメントに保護層を設置)

(5)洪水調節はゲートのない孔あきのオリフィス型型式の自然調節方式とし、常用洪水吐きの導流部仮排水トンネルを転用した。

(6)非常用洪水吐きは非調節型の自由越流(横越 流)型式。

(7)低水放流設備は下流の利水流量と河川維持流量を放流する施設で、放流能力0.2m3/s である。

(8)矢那川本流の集水面積9.3km2分の高水から低水をダム貯水池に導水する導水路全長960mを設置。
水路構造として開渠の上流側から台形水路、沈砂池、トンネル取付部、矩形水路となり、暗渠部分は上流側トンネル、下流側はアーチカルバートとなっている。これによって、間接流域からの流入量は導水トンネルを経由するので、この部分より、水理的に制限されることになる。

(9)下流河道にダムアップによる水のエネルギー増加を与えないように、放流設備末端で放流を減勢させている。即ち、減勢工水深を確保するために水叩き部分を掘り下げて下流端に段上がり構造となっている。

(10)流入土砂量は300m3/km2/年で、100年分の堆砂を貯めようとすると35万m3の容量を必要とするが、矢那川ダムでこの容量を最低水位以下に確保するには地形的に困難であるため直接流域沈砂池と間接流域沈砂池により掃流砂をカットして貯水池の堆砂量を軽減する。これらの沈砂池の維持管理は、開水路護岸に斜路を設け重機の進入を可能にし、沈殿した砂を搬出する。

(11)ダムの安全管理として、漏水量(漏水量計6ケ所)、変形(層別沈下計、現地盤沈下計、境界面すべり変位計、多段式地盤沈下計、表面沈下計)、浸潤線・地下水面(オープンピエゾメータ)、間隙水圧(間隙水圧計)、土圧(土圧計)により、計測し、監視を行っている。

(12)周辺水環境については、かずさアカデミーパークに近接しており、自然公園として、水辺の広場、円形広場等、ダムと一体となった整備がなされた。

以上、矢那川ダムをこのようにみてくると、最近のダム造りは、地元の要請や協議のうえに基づき民主的に建設されていることが理解できる。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /