1
ダムを好きでもない友人とダムについて話をしていた時に不意にこんな言葉が出てきました。
「ダムの放流で事故がおきたことがあるでしょう。」
一般の人がダムについて知っている事の方が珍しいので多分あの事だろうと頭に浮かんだのは1999年の神奈川県で起きたキャンパーの事故でした。
「玄倉川の事例ですか?あれは再三の退避勧告を無視した末の事故で特殊だと思いますが。」
私の声に相手は首を振ります。
「いや...もっと前の事です。」
「昔あった事故ですか?どんな事故だったんですか。」
「よく覚えていないんですが上流のダムが放流した為に下流で人が死んだという話です。」
「原因がダムであると?」
「そう報道されていたと記憶しています。」
「ダムは放流前にサイレンで通知するんです。それを無視したというならダムの責任ではないのではないかと思いますが。」
「
ゲート操作はダムの管理所の人の判断によるんですよね。その人達が操作をミスするという事はありえませんか。」
「人が行う事ですから100%という言い方は出来ませんけど個々のダム管理所だけの判断でゲートは開けられないんですよ。河川局と連絡をとりながら下流に注意をはらい、急激な水位変化を起こさないように行う事が決められているんです。」
「ではダムだけのせいで起きた事故ではなかったのかもしれませんね。」
その時はそれだけで終わってしまったこの会話がひどく心に引っかかっていました。
2
春から秋にかけて、都心からほど近い広い川原を持つ河川にバーベキューを楽しむ人がたくさん集っているのを見ます。
車横付けで、家の台所をそのまま持ってきたような手軽さで川原で快適に食事をとっている人々。
マナーさえ守って、ゴミを出さず、ペットを好き放題に暴れさせず周囲に迷惑をかけずにいるなら、それはとても楽しい事です。時間に追われる日々、昔のようなやり方で飯盒炊爨を楽しむにはとても時間が足りないけれど、少ない時間の中で自然の中でレジャーを楽しみたい人にオートキャンプは時代にあった方法だと思います。
地元で有名なある河川敷の例ですが、キャンプ場やバーベキュー場として整備はされていなかったのですが
週末になれば大阪、京都、奈良、三重などから物凄い車が押し寄せ、大渋滞を起こすポイントがありました。
一番広い川原に車で入る道が一本ついているのですが、元々、車一台半分の幅しかありません。
車両対向困難の為に最近は交通整理の誘導員が立つようになりました。
そこに多い時には数百台の車が入っていくのです。
最近は町もキャンプ場として整備し始めましたがそれでも渋滞は凄いものがあります
そこで見ていて気がかりなのは、多くのパーティーが車で来ているのにドライバーまで楽しさに撹乱されてしまって飲酒している事です。
ただでさえ難しい狭路を進まなくてはならないのに、これでもし、上流で激しい降雨があってダム放流のサイレンが鳴ったらあなたのパーティーは無事にちゃんと帰れますか。
あなたがもし飲酒をしていなくても周囲で飲酒をしているドライバーが運転を誤ってこの一本しかない侵入路を脱輪で塞いでしまったりしたらどうなるのか考えると怖くなりませんか。
いつもそう思ってこの河川敷を見ています。
飲酒運転のまま帰途につくに事はもちろん危険です。
そのまま酔いが覚めるまで河川敷でキャンプするにしても皆が集うからといって川原が市街地の公園のように地形的に安全な場所だという勘違いがありはしないかと心配です。
上流にダムがあるから大丈夫と考える人は少なくて、ダムが放流するというサイレンを聞いた事が無く聞き流してしまう人々。たいした事ではないと信用してない人々が大半で、通常の川と濁流と化した川の姿が同じ物と考えていない人が集まる河川敷。
ダムは放流する前にサイレンを鳴らします。発電ダムでも灌漑用ダムでも治水ダムでもそれは同じです。
発電ダムの放流で静かに水位が安全な範囲でゆっくりと上昇する場合でもサイレンは鳴ります。
上流の集中豪雨で治水ダムが放流する時でもサイレンは鳴ります。
発電ダムの静かな通常操作による放流サイレンに遭遇したキャンパーが、水位が殆ど上がらない様子を見てダムの放流を"たいした事ではない"と認識してしまったら、その人は周りに『ダムの放流なんてたいした事無い、嘘っぱちだ』と触れて回るかもしれません。
そして毎年おきる河川敷の事故。
何故、自治体がオートキャンプ場を設置するのか。
もちろん観光地として整備し集客するという側面もあるでしょう。
しかし、河川敷に立ち入り禁止を設けて、安全な場所を別に提供しないと、押し寄せるオートキャンプ客が危険な区域にも侵入し安全確保が出来ないという事も無関係とは言えないのではと思われます。
川に近づきたくて来ているのだからと、そういう安全第一の行政のやり方に不満を持ち立ち入り禁止の区間に突入する車両。自然を良く知っている人なら近づかない砂防ダムの上でのキャンプ。整備された場所に不満を持つ人が事故に遭遇し、そのせいでどんどん厳しくなる安全管理。
川の水位が上昇したら川の上流に雨が降ったということ。
自分たちの上に雨雲が無くても上流には雨雲があるかもしれないということ。
これを知らない人は退路を考えずに川に入っていきます。
川を知らない人が川で事故に遭う。
事故を防ぐ為にどうしたらよいのか。
川に絶対に立ち入らないようにしてもらうというのは非現実的な話です。
河川の急激な水位の上昇が予見される時にはいち早くそれを知らせるというのが最良の策になって来るでしょう。
3
ダム巡りを続けている時にあるダムで管理所の方とお話をする機会に恵まれました。
そのダムは昭和57年に近畿地方を襲った豪雨災害と戦ったダムでした。
昭和57年水害といえば台風10号による長崎水害が有名です。
しかし同じ台風が近畿にも深刻な被害を出していました。
この昭和57年水害を調べている時に偶然、ダム災害についての記事を目にする事になったのです。
奈良県吉野郡川上村の大迫ダム。
近畿農政局の管轄の灌漑ダムとして吉野川に造られたダムでした。