アジアオープンデータハッカソン2017開催報告 ‐ 日本のテーマは気象データの有効活用 ‐
※(注記)このコラムは、「行政&情報システム」(2017年10月号)に掲載した連載企画「資源としてのデータを考える(第8回)」の内容を、発行者である「一般社団法人行政システム研究所」の了解を得て、掲載しています。
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アジアオープンデータハッカソン2017
2017年9月15日(金)、アジアオープンデータハッカソン2017の表彰式が台湾・台北市で行われた。アジアオープンデータハッカソンは、2015年から台湾が中心となって取組んできたイベントであり、2017年5月11日(木)に、台湾のOpen Data Allianceと、日本の一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構(VLED)の間で、オープンデータに関する相互協力の覚書が締結されたのがきっかけで、日本も参加することになった。日本、台湾以外には、韓国、タイが参加した。
7月22(土)の国際インプットセミナーから始まり、8月5日(土)、6日(日)には丸2日かけてハッカソンを行い、8月19日(土)にはデモデイが行われた(表1)。国際インプットセミナーでは、参加4カ国の会場をネットで結んで、各国のテーマや提供するオープンデータなどが紹介された。日本のテーマは「気象データの有効活用」。2017年3月に気象ビジネス推進コンソーシアムが立ち上がったことや、気象データを活用した防災・災害対応などは参加各国の共通課題であることなどから、このテーマが選ばれた。その他は、台湾が「食の安全」、韓国が「政府の透明性」、タイが「社会経済格差」である。
日本側のイベントの主催は、前述のVLEDとOpen Knowledge Japan(OKJP)。データ提供には気象庁の協力も得た。運営は株式会社HackCampに委託した。
日本では、東京、大阪、富山の3会場でハッカソンが行われ、全部で約90名が参加した(図1)。最年少は富山会場の小学3年生。計19作品が開発され、この中から主催者と事務局で5作品を選定した。
選定された5作品は、デモデイに向けてさらにアプリをブラッシュアップするとともに、英語のプレゼン資料の作成やスピーチの練習などを行った。
デモデイは各国で予選を通過した5チーム(計20チーム)が、それぞれ5分でプレゼン。各国3名(計12名)の審査員が審査し、各国上位2チームを選定した(表2)。
※(注記)4カ国をネットでつないで開催
※(注記)大阪会場、富山会場にも中継
アベノハルカス(大阪会場)
真成寺会館(富山会場)
※(注記)4カ国をネットでつないで開催
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図1 ハッカソンの様子(東京会場)
撮影:HackCamp
AITalk特別賞
国際オープンデータ賞
優秀チームの作品
最優秀賞(日本の1位)を受賞したのは「STANDY」(図2)。天候などで子供の機嫌が変わることを独自の数式で「uzu uzu 指数」として定量化し、ディープラーニングなども駆使して、遊び場の提案や友達作りのきっかけを提供するというユニークなアプリ。独自にデザインした熊のキャラクターのかわいらしさや、ハッカソンのスポンサーの一社である株式会社エーアイの音声合成ソフト「AITalk」を使った楽しい会話、そして完成度の高さなどから高い評価を得た。
vled-column201710_002.png図2 最優秀賞に選ばれた「STANDY」
出所:チーム「STANDY」
優秀賞(日本の2位)を受賞した「Always Sunny」は、通常の経路検索に気象データを組合せたアプリ。ドライブする際に経路上の天候を確認したり、複数のルートがあるときは天候のよいほうを選択したりできるなど、利便性とわかりやすさが高く評価された。
最優秀賞と優秀賞の2チームが、9月15日(金)の台湾での表彰式に招待された。
惜しくも上位2チームからは漏れたが、参加チームの相互投票で「Team's choice賞」に輝いたのが「そらつり」。大阪会場がアベノハルカスだったことから、超高層ビルの特徴を活かしてARを使った魚釣りのゲームアプリを開発した。高度(気圧)を水深(水圧)に見立て、高い位置ほど深海魚が釣れたり、その日の気圧によって魚が出てくる高さが変わったりするユニークな作品。お魚大好きというリーダーの女子大生の思いが形になった。
その他の作品も、惜しくも選には漏れたが、どれもユニークな作品ばかりで、質の高さを感じるハッカソンだった。
国際色豊かなハッカソン
海外と共同で行うハッカソンの企画・運営に携わるのは初めての経験で、株式会社HackCampの支援なしでは成功しなかったと思う。また、各国それぞれ文化や習慣が異なり、しかもオンラインでのコミュニケーションが主体であったことから、物事がなかなか決まらなかったり、一度決まったことがすぐに変更されるなど、準備段階では(特にHackCampの担当の青木さんの)苦労も多かった。一方、各国の課題に対する真摯な取組み姿勢や熱意などを感じられた。特に台湾は、最初から海外での利用も視野に入れた作品が多く、まず国内で成功して、その後海外へという考え方が主流の日本との違いを感じた。今回、最優秀賞、優秀賞を受賞した2チームは、マレーシア、インド、ロシアなど海外メンバーも参加した国際色豊かなチームで、開発のコミュニケーションも英語で行っていた。日本でも今後はこのような風景が当たり前になるように思う。
「気象データアナリスト」の育成
今回のハッカソンには、実はもうひとつ狙いがあった。それは気象予報士の参加である。
国際インプットセミナーには、気象予報士の三浦まゆみさんが登壇し、気象データの活用方法などを解説した。三浦さんはデモデイの審査員も努めた。また、ハッカソンには、三浦さんを含めて計4名の気象予報士が参加し、開発チームに対して気象の専門家の見地からアドバイスを行った。これにより、各開発チームは様々な気象データの活用性を検討でき、一方、気象予報士の方々も、これまでとはまったく違う気象データの活用方法が次々と出てくるのを見て、すごく刺激になったという。
今後、行政、企業、地域など様々な主体が、もっと気象データを有効活用するためには、これらの主体と気象データをつなぐ人材の育成が不可欠である。今回のようなイベントを通して、気象データの新たな可能性を発見し、企業や開発者などと接点を持つことで、気象予報士の中から「気象データアナリスト」が次々と生まれることを期待したい。