大杉谷国有林からの手紙(55通目)
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たくましく生きる植物たち 2022年5月
桜の季節も終わり暖かく感じる日が増える中、大杉谷国有林では4月10日から11日にかけて「大杉谷登山歩道合同パトロール」が行われました。
大杉谷は日本三大渓谷にも数えられ、多くの登山者が訪れる人気のある山岳コースとなっています。そして、登山道からの滑落等による死傷者が発生していることも事実です。そこで例年、山開き前の4月上旬に大杉谷登山センターの主催により、行政機関や警察署、山岳救助隊などの関係機関が集まり、救助体制の確認や登山道の点検・整備などを行っています。
登山パトロールについては16、31、51通目の手紙でもご紹介していますので、今回は登山パトロール中に出会った、大杉谷に生きるたくましい植物たちをご紹介します。
(1)岩場に成長する木々
写真1は、大杉谷の見せ場の一つであるシシ淵の景色です。シシ淵は、岩の間からニコニコ滝を見ることができる絶景ポイントです。少し視線を上げるてみると、こちらに迫り来るように反り立っている岩壁が目に飛び込んできます。そして、その岩のわずかな隙間には、細いながらもたくましく、岩に張り付くように木々が成長していることが分かります(写真2)。
大杉谷は日本有数の多雨地帯として知られています。岩場に生える木々は岩の隙間からしみ出す水を糧に成長しているのでしょうか。登山パトロールでは、シシ淵のような絶景からはもちろんのこと、たくましく成長する木々からも元気をもらうことができました。
写真1 シシ淵
写真2 岩場に成長する木々
(2)ひっそりと花を咲かせるスミレ
写真3 スミレの花
登山パトロールでは、登山する方が足を滑らせないように登山道に積もった落ち葉を掻きながら歩いていきます。そんな中、階段の岩陰にひっそりと生えているスミレを見つけました(写真3)。山岳連盟の方によると、登山者は足下の花には気付かず、踏んでしまっていることもあるとのことです。登山の際には、足下の安全には充分に気を配りつつもひっそりと花を咲かせている植物を見つけながら歩いてみるのも良いかもしれません。
(3)今にも走り出しそうな・・・
大台ヶ原に向けて登山道を登っていくと、標高が高くなるにつれて徐々に森林の植生が変化していきます。シャクナゲが生い茂るシャクナゲ平では、根が宙に浮いており、今にも走り出しそうな雰囲気のリョウブを発見しました(写真4)。なぜこのような形になっているのでしょうか?
調べてみたところ、倒木の上で成長した樹木は根が立ち上がった形で成長することがあると分かりました。倒木の上で樹木の芽生えが成長する現象は、「倒木更新」と呼ばれ、成長する樹木が他の植物との光の競争に有利であるなどの利点があります。樹木が倒木上に定着してしばらくの時がたち、土台となっていた倒木が土壌に還ると成長した根が立ち上がった「根上がり」という状態になるそうです。
倒木更新は北海道の針葉樹林で多く見られる現象と言われていますが、アカマツの倒木上でリョウブの芽生えが高頻度で定着していることを見つけた研究もありました。もしかするとこのリョウブもかつては倒木の上で成長していたのかもしれませんね。
写真4 リョウブ
写真5 ヒカゲツツジの花
このように、登山パトロールでは、たくましく生きる植物たちに出会うことができました。また、ご紹介した植物以外にも、写真5のヒカゲツツジの花などこの季節ならではの植物が見られました。皆さんも大杉谷を訪れる際には、素敵な植物を見つけてみてください。
また、登山者の方に大杉谷登山道を安全に利用していただくため、各機関により様々な取組が行われています。今後も登山パトロールへの参加などを通して大杉谷の安全に貢献していきたいと思います。
最後に、令和4年度の大杉谷登山道のシーズン期間は4月18日から11月23日までとなっています。登山の際には、大杉谷登山センターのホームページ<https://www.oosugidani.jp/>で新着情報や登山前の注意事項などをご確認いただくとともに、安全第一で登山していただきますようお願いします。
また、今年度より「大杉谷国有林からの手紙」を担当することになりました。これからも引き続き大杉谷国有林に関する様々な情報を発信していきますので、よろしくお願いいたします。
2022年5月
編集:三重森林管理署 尾鷲森林事業所 係員
発行:三重森林管理署 尾鷲森林事務所 地域統括森林官
お問合せ先
三重森林管理署
ダイヤルイン:050-3160-6110
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