海岸とその周辺には、津波や高潮による被害を軽減する効果があるモノが存在します。砂丘のように自然に形成されたものもあれば、防潮林のように人工的に構築されたもの、さらには、過去の津波伝承のように、形はなくとも地域の減災には欠かせないものもあります。
国総研では、それら全てをまとめて「自然・地域インフラ」と呼び(図-1)、その効果や限界の評価方法、活用法について平成26年度から研究してきました。
2011年に東北地方太平洋沖地震によって発生した津波の来襲時に確認された効果として、以下が挙げられます。
1)砂丘・浜堤
砂丘が陸上への津波の遡上を抑制した事例がみられました(写真-1)。
2)保安林
樹木が流されなければ、漂流物を捕捉することができます。海から内陸への漂流物の流入を防ぐこともできますし、内陸のものが海へ流出することを防ぐ場合もあります。
3)道路盛土
仙台東部道路の盛土によって、仙台平野の広い範囲で津波の遡上が止められ、第2の堤防としての効果を発揮しました(写真-2)。また、道路部分が一時的な避難場所として利用されることで、多くの命を救いました。
自然・地域インフラを地域の減災対策として利用していくには、以下の課題があります。
1)減災効果の限界
自然・地域インフラの減災効果には限界があり、特に巨大な津波に対しては効果が限定的となる場合もあることに留意する必要があります。
2)関連法規に則った保全・改良
海岸砂丘などの自然地形、防潮林、旧堤防、盛土には、海岸法や森林法などによる規制等がかかったものもありますので、それらを保全・改良していくには、各地物等の法制度上の位置づけを整理する必要があります。
3)津波防護施設への指定
自然・地域インフラの中には、津波防災地域づくりに関する法律に定める津波防護施設に指定できるものもあります。法的な位置づけが明確になることで、保全・改良が着実に実施されるようになることが期待されますが、まだ指定が進んでいません。
海岸研究室では自然・地域インフラの概念と留意点を整理するとともに、津波を減勢する効果を有する砂丘等の保全・改良の検討方法、津波の減勢による減災効果の評価方法等について研究してきました。成果の一部は、以下でご覧いただけます。
自然インフラを活用した海岸防災の事例として、2012年のハリケーン・サンディによって被災したニューヨーク市のハワードビーチ地区における対策案に着目し、策定に関わった環境NPOであるThe Nature Conservancyを訪問し、インタビューもおこないました。