「公安調査局長・公安調査事務所長会議」及び「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関連特別調査本部会議」における公安調査庁長官訓示
2021年6月7日 更新
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和田公安調査庁長官訓示
本日,ここに公安調査局長・公安調査事務所長会議を開催するに当たり,コロナ禍という困難な状況の中,厳しさを増す内外情勢を踏まえ,公安調査庁長官として,皆様に留意していただきたい事項を申し述べます。
第一に,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の安全開催に向けた取組についてです。
新型コロナウイルス感染症の影響が広がる中,当庁は,感染対策に取り組みつつ,全庁一丸となって,東京大会の脅威となるテロやサイバー攻撃等に関する情報の収集・分析機能を強化するとともに,国内外の関係機関との連携強化を進めてきました。
目前に迫った東京大会に向けて,これまでの総仕上げとも言える集中調査を,より一層の緊張感と使命感を持って推進していただきたいと思います。
第二に,経済安全保障に関する取組の強化・推進についてです。
懸念国は,我が国が保有する機微な技術・データ・製品等の獲得に向けた動きを活発化させており,近年,技術・データ等の獲得という真の目的を秘匿し,一見すると適正な経済活動等を装って企業や大学等に接近する事案や,情報窃取を目的としたサイバー攻撃等が頻発しています。当庁には,こうした技術流出等の実態解明や未然防止に資する情報収集・分析が強く求められています。
我が国の経済安全保障に脅威を与えうる懸念国の活動は企業買収・投資や人材リクルート,サイバー攻撃,重要施設等周辺の不動産取得など,広範にわたるところ,これまでに次の取組を進めてきました。
一つ目は,関係機関との連携の強化です。経済安全保障に関し,政府内での検討が活発に行われているところ,各政府機関と緊密に連携するとともに,これら機関の情報関心を的確に把握し,その施策に資する情報提供に取り組んでいます。
二つ目は,産学官連携の推進です。企業や業界団体,大学等との意見交換を進めているほか,本年4月には,経済安全保障に係るリーフレット及び啓発動画を作成するなど,啓発・対外発信も強化しています。
三つ目は,体制・機能の強化です。本年2月,本庁に「経済安全保障関連調査プロジェクト・チーム」を発足させ,この分野の企画・調査に関する機能を強化しています。
こうした取組を更に進め,その実効性を高めていくためには ,各局・事務所における対応を一層強化することが不可欠となります。本庁からの指示を踏まえ,各局・事務所においては,経済安全保障に係る情報収集活動を抜本的に強化していくとともに,これに資する取組として,各地域における産学官連携の推進,調査に必要な体制・基盤の整備や調査官の育成をこれまで以上に積極的に推進していただきたいと思います。
第三は,我が国の周辺国等に関する各種動向の迅速かつ的確な把握についてです。
北朝鮮は,本年1月の朝鮮労働党第8回大会において,大陸間弾道ミサイルの能力向上や潜水艦発射弾道ミサイルの開発など核兵器の開発目標を提示し,米国バイデン新政権の接触要請を拒みつつ,3月末,新型弾道ミサイルの発射を強行しました。米国との交渉で優位を占めるべく,再び軍事挑発に出る可能性もあり,我が国国民の安全に影響が及ぶおそれも否定できません。このような中,米国新政権に対する北朝鮮の戦略や,それに関連した北朝鮮指導部の動向及び経済の実態などに関する情報の収集に鋭意取り組んでいただきたいと思います。
また,拉致問題の解決等に資する情報の収集や,朝鮮総聯の組織及び活動の実態解明についても,引き続き重点的に取り組んでいただきたいと思います。
次に,中国は,欧米などとの摩擦が続く中,内政面では,本年7月の中国共産党建党100周年を控え,一党支配体制の強化と愛国意識の高揚を図っており,外交面では,ポスト・コロナ時代の国際関係秩序の形成を視野に,医療物資やワクチンの供与などを通じ,自国に有利な外交環境を確保する動きを見せています。また,活発な海洋進出を展開し,尖閣諸島周辺への中国海警局に所属する船舶の派遣など,力による現状変更の試みを続けています。
続いて,ロシアは,シリア問題,ナゴルノ・カラバフ問題など国際問題への積極的な関与で影響力を誇示する一方,9月の下院選挙を控え反体制派への締付けを強化しています。我が国との間では,対話を継続する方針を確認しつつも,昨年7月の改正憲法で領土割譲禁止をうたったほか,北方領土での軍備増強の動きが見られます。
さらに,これら周辺国等は,その政治的・軍事的目的を達成するため,サイバー空間を利用した諜報活動や重要インフラへのサイバー攻撃,偽情報の流布などによる情報操作といったサイバー戦能力を強化しているとみられており,我が国の安全保障にとって,重大な懸念となっております。
また,国際テロ情勢については,ISILなどに関係したテロが各地で発生しているほか,欧米諸国等においては,ISILなどが宣伝する過激な主義主張に感化された者によるテロの脅威が続いております。コロナ禍が世界各地の社会経済などに与える負の影響が長期的にテロの脅威を増加させるおそれがあるとも指摘されており,引き続き,厳重な警戒が必要です。
第四は,いわゆるオウム真理教に対する観察処分の適正かつ厳格な実施についてです。
当該団体は,現在,「Aleph」,「山田らの集団」及び「ひかりの輪」を中心に活動していますが,依然として,麻原の影響下にあり,その本質的な危険性にいささかの変化も認められません。特に,「Aleph」については,団体規制法により義務付けられている組織や活動の現状に関する報告において,保有する資産の一部を報告せず,当庁の度重なる補正の指導にも従わないほか,立入検査に従事した調査官に暴行を加える公務執行妨害の事案をじゃっ起するなど,従前からの敵対姿勢を一層強めています。
公安審査委員会は,本年1月,これらの集団につき,第7回目の観察処分の期間更新を決定しました。各局,事務所におかれましては,本庁との連携を図りつつ,引き続き,教団への観察処分を適正かつ厳格に実施し,公共の安全の確保と国民の不安解消・緩和に尽力していただきたいと思います。
以上,当面の諸課題について申し述べましたが,我が国を取り巻く内外の諸情勢は今後も厳しい状況が続くものと予想されます。皆様におかれましては,内外の諸情勢に注視しつつ,情報の力で公共の安全を守るという崇高な使命を胸に,各人の職責を果たしていただきたいと思います。
合わせて,当庁の職員には,厳正な規律と高い倫理観の保持も求められます。職員の法令違反や信頼失墜行為は当庁に対する国民の信頼を大きく損ない,職務遂行に多大な影響を及ぼすことになります。組織運営を担う皆様におかれましては,自らを厳しく律するとともに,部下職員に対しても,服務規律の遵守だけでなく,強い使命感と高い倫理観を持って職務に励むよう,徹底していただきたいと思います。また,職員が職務に専心することができるよう,ワークライフバランス等に配慮した職場環境の整備に一層努めていただきたいと思います。
最後に,皆様の平素の御労苦に,心からの敬意と謝意を表し,私の訓示といたします。