公安調査局長・公安調査事務所長会議における公安調査庁長官訓示
2015年5月27日 更新
野々上公安調査庁長官訓示
我が国を取り巻く内外の諸情勢は,厳しさを増しています。
まず,国際情勢を見ますと,テロ情勢については,ISIL(いわゆる「イスラム国」)を始めとする国際テロ組織が,世界各地でテロを続発させているほか,欧米においても,「ホームグロウン・テロリスト」やシリアから帰国した者などによるテロ事件が相次いで発生しております。こうした中,本年1月から3月にかけて,シリアやチュニジアで,日本人がテロの犠牲者となる事件が発生し,我が国に対する国際テロの脅威が現実のものであることが改めて浮き彫りとなりました。
北朝鮮は,金正恩第1書記を頂点とする独裁的な指導体制の下,核・ミサイルの開発を始め,軍事力の強化を図っており,最近におきましても,米韓合同軍事演習の実施に合わせ,短距離弾道ミサイルを相次いで発射するなど挑発的行動をとっています。
中国では,習近平総書記への「権力の一極集中」が一層鮮明となり,その強固な権力基盤を背景に,対外政策においても中国主導の国際秩序の形成を目指すなど,大国主義的な姿勢が顕著になりつつあります。このような中,我が国との関係では,「抗日戦争勝利70周年」を機に活発な国際世論戦を展開しており,安倍総理の「戦後70年談話」に関して,その内容をけん制する発言を繰り返しております。
ロシアは,ウクライナ問題で欧米との対立姿勢を鮮明にし,停戦合意の実現はなお不透明な状況にあります。我が国との関係では,対ロ制裁措置により経済交流が停滞しつつある中,プーチン大統領の訪日を含め関係改善を模索する一方で,北方領土における駐留軍の再編等を着実に進めております。
このほか,北朝鮮等の懸念国による大量破壊兵器関連物資・技術等の調達,情報機関によるサイバー空間を含めた諜報活動の脅威については,引き続き警戒が必要な状況です。
国内情勢に目を転じますと,観察処分を受けているオウム真理教については,引き続き麻原の影響下にあり,主流派は“麻原絶対”を堅持しつつ,組織拡大に向けた活動に力を注ぐ一方,上祐派は麻原色の払拭を装う取組を進めるなどしております。また,過激派や右翼団体等の諸団体が,沖縄米軍基地,歴史認識,安全保障法制などの問題を捉え,活発な活動を展開しています。
こうした現下の情勢に鑑み,当面,留意していただきたい事項を申し述べます。
第1は,国際テロ関連調査の一層の推進・拡充についてです。
テロの脅威は,深刻化の度合いを深めており,当庁として,来年の主要国首脳会議のほか,5年後の2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催も見据えた情報収集・分析機能の抜本的な強化が強く求められております。各局・事務所におかれましては,情報網の強化・拡充を図り,関連情報の収集に遺漏なきよう,鋭意その推進を図っていただきたいのです。
第2は,北朝鮮・朝鮮総聯に関連する情報収集の一層の強化についてです。
北朝鮮に関しましては,日本人拉致問題の解決に資する情報の入手に引き続き努めるとともに,核・ミサイル開発や不透明な統治体制が国際社会に脅威をもたらしていることなどを踏まえ,北朝鮮の内外動向に関し,より具体的な情報を,時宜を失することなく入手していただきたいのです。また,北朝鮮による朝鮮総聯指導や朝鮮総聯の組織と活動の実態についても同様です。
第3は,オウム真理教に対する観察処分の適正かつ厳格な実施についてです。
本年1月,公安審査委員会は,当庁の請求に理由があると認め,引き続き当該団体の活動状況を継続して把握する必要があるとして,観察処分の期間更新を決定しました。
この決定においても示されたとおり,当該団体には,依然として無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認められますので,各局・事務所におかれましては,観察処分を適正かつ厳格に実施することで,団体の危険性の増大を抑止し,国民の恐怖感・不安感の払拭という当庁に課せられた使命を果たしていただきたいのです。
第4は,公共の安全に影響を及ぼすおそれのある諸団体の組織,活動等の把握についてです。
本年は,沖縄米軍基地問題を始め,安全保障法制整備や戦後70年を契機とする歴史認識問題をめぐって,過激派などの諸団体による政府への批判活動が活発化するとみられます。また,尖閣諸島など我が国領土をめぐる諸動向などにも注視していく必要があります。
当庁としては,これら諸団体の組織や活動を的確に把握し,テロ等破壊活動の未然防止などに全力で取り組むとともに,その過程で収集した情報を適宜適切に政府中枢に提供することで,政府の施策に貢献することが強く求められます。
また,我が国の領土や海洋権益をめぐって周辺国は様々な動きを見せて我が国との緊張を高めており,我が国の公共の安全に大きな影響を及ぼしている上,国際的な懸念も高まっております。これらの動きに関連した団体・組織等の動向調査,関連情報の収集に特に力を入れていただきたいのです。加えて,軍事転用可能物資・技術の不正取得や政府機関等の重要情報の窃取を狙った諜報活動は,現実空間のみならず,サイバー空間においても展開されており,一層の警戒を要する状況であります。これら対日有害活動に関する情報収集についても,一層の力点を置く必要があります。
以上,るる申し述べましたが,当庁は,団体規制機関として,公共の安全を確保するとともに,情報コミュニティのコアメンバーとして,国家安全保障会議を始め官邸・政府機関等に対する情報貢献に大きな期待が寄せられております。これに応えるため,現場の最高責任者である皆様には,当庁に課せられた職責の重さを再認識した上で,部下職員の指導監督や組織運営に一層の御尽力をお願いします。その際には,当然のことながら,ワークライフバランスの実現にも格別の配慮をお願いします。
終わりに,皆様の平素の御労苦に心から敬意と謝意を表し,私の訓示といたします。
我が国を取り巻く内外の諸情勢は,厳しさを増しています。
まず,国際情勢を見ますと,テロ情勢については,ISIL(いわゆる「イスラム国」)を始めとする国際テロ組織が,世界各地でテロを続発させているほか,欧米においても,「ホームグロウン・テロリスト」やシリアから帰国した者などによるテロ事件が相次いで発生しております。こうした中,本年1月から3月にかけて,シリアやチュニジアで,日本人がテロの犠牲者となる事件が発生し,我が国に対する国際テロの脅威が現実のものであることが改めて浮き彫りとなりました。
北朝鮮は,金正恩第1書記を頂点とする独裁的な指導体制の下,核・ミサイルの開発を始め,軍事力の強化を図っており,最近におきましても,米韓合同軍事演習の実施に合わせ,短距離弾道ミサイルを相次いで発射するなど挑発的行動をとっています。
中国では,習近平総書記への「権力の一極集中」が一層鮮明となり,その強固な権力基盤を背景に,対外政策においても中国主導の国際秩序の形成を目指すなど,大国主義的な姿勢が顕著になりつつあります。このような中,我が国との関係では,「抗日戦争勝利70周年」を機に活発な国際世論戦を展開しており,安倍総理の「戦後70年談話」に関して,その内容をけん制する発言を繰り返しております。
ロシアは,ウクライナ問題で欧米との対立姿勢を鮮明にし,停戦合意の実現はなお不透明な状況にあります。我が国との関係では,対ロ制裁措置により経済交流が停滞しつつある中,プーチン大統領の訪日を含め関係改善を模索する一方で,北方領土における駐留軍の再編等を着実に進めております。
このほか,北朝鮮等の懸念国による大量破壊兵器関連物資・技術等の調達,情報機関によるサイバー空間を含めた諜報活動の脅威については,引き続き警戒が必要な状況です。
国内情勢に目を転じますと,観察処分を受けているオウム真理教については,引き続き麻原の影響下にあり,主流派は“麻原絶対”を堅持しつつ,組織拡大に向けた活動に力を注ぐ一方,上祐派は麻原色の払拭を装う取組を進めるなどしております。また,過激派や右翼団体等の諸団体が,沖縄米軍基地,歴史認識,安全保障法制などの問題を捉え,活発な活動を展開しています。
こうした現下の情勢に鑑み,当面,留意していただきたい事項を申し述べます。
第1は,国際テロ関連調査の一層の推進・拡充についてです。
テロの脅威は,深刻化の度合いを深めており,当庁として,来年の主要国首脳会議のほか,5年後の2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催も見据えた情報収集・分析機能の抜本的な強化が強く求められております。各局・事務所におかれましては,情報網の強化・拡充を図り,関連情報の収集に遺漏なきよう,鋭意その推進を図っていただきたいのです。
第2は,北朝鮮・朝鮮総聯に関連する情報収集の一層の強化についてです。
北朝鮮に関しましては,日本人拉致問題の解決に資する情報の入手に引き続き努めるとともに,核・ミサイル開発や不透明な統治体制が国際社会に脅威をもたらしていることなどを踏まえ,北朝鮮の内外動向に関し,より具体的な情報を,時宜を失することなく入手していただきたいのです。また,北朝鮮による朝鮮総聯指導や朝鮮総聯の組織と活動の実態についても同様です。
第3は,オウム真理教に対する観察処分の適正かつ厳格な実施についてです。
本年1月,公安審査委員会は,当庁の請求に理由があると認め,引き続き当該団体の活動状況を継続して把握する必要があるとして,観察処分の期間更新を決定しました。
この決定においても示されたとおり,当該団体には,依然として無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認められますので,各局・事務所におかれましては,観察処分を適正かつ厳格に実施することで,団体の危険性の増大を抑止し,国民の恐怖感・不安感の払拭という当庁に課せられた使命を果たしていただきたいのです。
第4は,公共の安全に影響を及ぼすおそれのある諸団体の組織,活動等の把握についてです。
本年は,沖縄米軍基地問題を始め,安全保障法制整備や戦後70年を契機とする歴史認識問題をめぐって,過激派などの諸団体による政府への批判活動が活発化するとみられます。また,尖閣諸島など我が国領土をめぐる諸動向などにも注視していく必要があります。
当庁としては,これら諸団体の組織や活動を的確に把握し,テロ等破壊活動の未然防止などに全力で取り組むとともに,その過程で収集した情報を適宜適切に政府中枢に提供することで,政府の施策に貢献することが強く求められます。
また,我が国の領土や海洋権益をめぐって周辺国は様々な動きを見せて我が国との緊張を高めており,我が国の公共の安全に大きな影響を及ぼしている上,国際的な懸念も高まっております。これらの動きに関連した団体・組織等の動向調査,関連情報の収集に特に力を入れていただきたいのです。加えて,軍事転用可能物資・技術の不正取得や政府機関等の重要情報の窃取を狙った諜報活動は,現実空間のみならず,サイバー空間においても展開されており,一層の警戒を要する状況であります。これら対日有害活動に関する情報収集についても,一層の力点を置く必要があります。
以上,るる申し述べましたが,当庁は,団体規制機関として,公共の安全を確保するとともに,情報コミュニティのコアメンバーとして,国家安全保障会議を始め官邸・政府機関等に対する情報貢献に大きな期待が寄せられております。これに応えるため,現場の最高責任者である皆様には,当庁に課せられた職責の重さを再認識した上で,部下職員の指導監督や組織運営に一層の御尽力をお願いします。その際には,当然のことながら,ワークライフバランスの実現にも格別の配慮をお願いします。
終わりに,皆様の平素の御労苦に心から敬意と謝意を表し,私の訓示といたします。