更新請求書(平成20年12月1日)
2008年12月1日 更新
無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律第12条第1項後段の規定に基づき,下記のとおり,同法第5条第4項の処分を請求する。
記
第1 被請求団体
1 名称
平成12年1月28日,公安審査委員会によって,3年間,公安調査庁長官の観察に付する処分を行う決定を受け,平成15年1月23日及び平成18年1月23日に,同決定に係る処分の期間を更新する決定を受けた「麻原彰晃こと松本智津夫を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とし,同人が主宰し,同人及び同教義に従う者によって構成される団体」
2 主たる事務所の所在地
(1) 埼玉県越谷市北越谷1丁目20番6号
「さくらマンション」101号室
(2) 東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号
「GSハイム烏山」1階
3 代表者
氏 名 麻原彰晃こと松本智津夫
昭和30年3月2日生(当53年)
職 業 団体主宰者
居 所 東京都葛飾区小菅1丁目35番1号 東京拘置所
4 主幹者
(1) 氏 名 上田竜也
昭和39年8月4日生(当44年)
職 業 団体役員
住 所 東京都足立区保木間5丁目27番5号
「第三立山ビル」1階
(2) 氏 名 松下孝寿
昭和43年1月27日生(当40年)
職 業 団体役員
住 所 東京都足立区保木間5丁目27番5号
「第三立山ビル」1階
(3) 氏 名 上祐史浩
昭和37年12月17日生(当45年)
職 業 団体役員
住 所 東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号
「GSハイム烏山」201号室
平成12年1月28日,公安審査委員会によって,3年間,公安調査庁長官の観察に付する処分を行う決定を受け,平成15年1月23日及び平成18年1月23日に,同決定に係る処分の期間を更新する決定を受けた「麻原彰晃こと松本智津夫を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とし,同人が主宰し,同人及び同教義に従う者によって構成される団体」
2 主たる事務所の所在地
(1) 埼玉県越谷市北越谷1丁目20番6号
「さくらマンション」101号室
(2) 東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号
「GSハイム烏山」1階
3 代表者
氏 名 麻原彰晃こと松本智津夫
昭和30年3月2日生(当53年)
職 業 団体主宰者
居 所 東京都葛飾区小菅1丁目35番1号 東京拘置所
4 主幹者
(1) 氏 名 上田竜也
昭和39年8月4日生(当44年)
職 業 団体役員
住 所 東京都足立区保木間5丁目27番5号
「第三立山ビル」1階
(2) 氏 名 松下孝寿
昭和43年1月27日生(当40年)
職 業 団体役員
住 所 東京都足立区保木間5丁目27番5号
「第三立山ビル」1階
(3) 氏 名 上祐史浩
昭和37年12月17日生(当45年)
職 業 団体役員
住 所 東京都世田谷区南烏山6丁目30番19号
「GSハイム烏山」201号室
第2 請求に係る処分の内容及び根拠となる法令の条項
公安調査庁長官の観察に付する処分の期間の更新(無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(以下「法」という。)第5条第4項)
第3 更新の理由となる事実
1 被請求団体の現況
(1) 概要
被請求団体(以下「本団体」という。)は,麻原彰晃こと松本智津夫(以下「麻原」という。)を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とし,麻原が主宰し,麻原及び同教義に従う者によって構成される団体である。その構成員は,現在,日本国内に約1,500名(出家約500名,在家約1,000名)及びロシア連邦内に約200名おり,日本国内の15都道府県に計30施設,ロシア連邦に数施設を確保している。
(2) 平成18年1月23日付けの観察処分の期間更新決定後の本団体の動向等
ア 本団体は,無差別大量殺人行為である「松本サリン事件」及び「地下鉄サリン事件」(以下「両サリン事件」という。)を行った「オウム真理教」と同一の団体であり,平成18年1月23日付けの観察処分の期間更新決定(以下「本件期間更新決定」という。)時は,「宗教団体アーレフ」(以下「アーレフ」という。)を中心的組織として活動を行っていたところ,アーレフにおいて代表を務めるなどしていた上祐史浩(以下「上祐」という。)を中心とする一部の構成員が,平成19年3月8日にアーレフから脱退した旨を,同年5月7日には「ひかりの輪」を設立した旨をそれぞれ表明した。また,アーレフは,平成20年5月20日,その名称を「Aleph」に変更した。
イ 現在,本団体においては,「Aleph」の名称を用いて活動する内部組織及び「ひかりの輪」の名称を用いて活動する内部組織が中心的な組織として活動している。
(3) 本団体の活動概況等
ア 本団体は,麻原を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とする団体であるところ,オウム真理教の教義は,「主神をシヴァ神として崇拝し,創始者である麻原の説く教えを根本とし,衆生救済の実現,すなわち,全ての生き物を輪廻の苦しみから救済して絶対自由・絶対幸福・絶対歓喜の世界(マハー・ニルヴァーナ,涅槃の境地)に導くことを最終目的として,シヴァ神の化身である麻原に対する絶対的な浄信と帰依を培った上,自己の解脱・悟りに到達する道である小乗(ヒナヤーナ)を修めるとともに,衆生の救済を主眼とする道である大乗(マハーヤーナ),及び衆生救済に至る最速の道である秘密金剛乗(タントラ・ヴァジラヤーナ)の各修行を実践する」というものである。 麻原は,これらのうち,衆生救済への最速の道であるタントラ・ヴァジラヤーナを最も重視し,その具体的な規範として,真理の実践を行う者にとっては結果が第一であり,結果のためには手段を選ばないなどと説くとともに,タントラ・ヴァジラヤーナの実践のためには,弟子が自己の意思を捨て,絶対的な存在である麻原が課した課題・試練を乗り越える「マハームドラーの修行」が重要であるとした。
イ 本団体構成員は,いずれも,麻原の説く教えを根本とし,麻原に対する絶対的な帰依を培いつつ,最終目的たる衆生救済の実現に向けた活動を行っているが,麻原の意思の捉え方や目的実現のための活動方針は必ずしも一様ではない。 「Aleph」の名称を用いて活動する構成員は,従来の活動形態を維持しつつ,各修行を実践して,麻原の意思を実現することが重要であって,それが麻原に対する真の帰依であるとの観点から,麻原を前面に出し,麻原に対する絶対的帰依を明示的に強調する活動方針をより一層鮮明にしており,集中的に麻原の説法等を教学させたり,麻原の脳波が注入されるとする修行用の器具であるPSI(パーフェクト・サーヴェーション・イニシエーション)の着用を奨励するなどしている。
一方,「ひかりの輪」の名称を用いて活動する構成員は,タントラ・ヴァジラヤーナの具体的な規範である結果のためには手段を選ばないとの教えを背景に,従来の活動形態を変更してでも麻原の意思を実現することこそが麻原に対する真の帰依であるとの信念に基づいて活動している。そして,麻原が,かねて教団の維持・発展のために麻原の影響力を隠した「別団体」を組織して,「別団体」との間で役割分担しながら活動することを求めていたことを重視し,麻原の意思の実現のためには「別団体」を組織することによって障害となる観察処分を免れることが必要であるとの認識から,「マハームドラーの修行」の実践として,「ひかりの輪」の設立表明を始めとして,麻原の位置付けを変更したとする規約等を作成したり,「オウム真理教」,「アーレフ」時代の教材を廃棄したり,新たな教材を作成したりするなど,真実は,麻原に絶対的に帰依し,その教義を広め,麻原の意思を実現することを目的としながら,外形上,麻原の影響力を払拭したかのように装う,いわゆる「麻原隠し」を殊更に展開している。
(4) 小括
本団体の本件期間更新決定後の動向,活動概況等は以上のとおりであって,本団体の組織構成に変化は見られるものの,「ひかりの輪」の設立表明等も麻原の意思に従い,麻原の説く教義を広め,これを実現するためのものであって,本団体全体としては,依然として,その本質に基本的変化はなく,「特定の共同目的」たる「オウム真理教の教義を広め,これを実現すること」を維持していると認められるとともに,いずれの構成員も麻原に対して帰依し,麻原の意思の実現のためには麻原の指示に従う者であり,主宰者たる麻原を頂点とした構造において,主宰者たる麻原を介し,麻原の説く教義を広め,これを実現するための多数人の継続的結合体として存在しており,本団体は,依然として団体としての同一性を保持しているものと認められる。
2 法第5条第1項各号該当性
本団体は,次のとおり,法第5条第1項各号に掲げる事項のいずれにも該当する。
(1) 第5条第1項第1号該当性
本団体は,本件期間更新決定後も,無差別大量殺人行為である両サリン事件の首謀者であった麻原を組織の頂点に位置付け,麻原及び麻原の説く教義への絶対的帰依を培い,麻原の意思を実現することを根本的な目的としており,麻原の指示に従い,また,明示的な指示がない場合にも,麻原の意思を推し量りながら,活動方針等に関する重要事項を決定している。
そして,前記1(3)イのとおり,本団体のうち,「Aleph」の名称を用いて活動している構成員は,従来の活動形態を維持しており,麻原及び麻原の説く教義に対する絶対的帰依を明示的に強調して,集中的に麻原の説法等を構成員に教学させたり,PSIの着用を奨励するなどして,麻原及び麻原の説く教義に絶対的に従う意識の扶植を図っていることが認められ,また,「ひかりの輪」の名称を用いて活動している構成員は,積極的な「麻原隠し」の活動により,外形上,麻原の影響力を払拭したかのように装っているものの,「ひかりの輪」の設立表明を始めとする「麻原隠し」の活動自体が麻原の意思の実現のため,麻原が,かねて教団の維持・発展のため麻原の影響力を隠した「別団体」を組織して,「別団体」との間で役割分担をしながら活動することを求めていたことに基づくものであって,麻原が本団体の活動に絶対的な影響力を有していることは明らかである。
(2) 同第2号該当性
ア 本団体は,無差別大量殺人行為である両サリン事件の首謀者であった麻原を組織の頂点に位置付け,麻原及び麻原の説く教義への絶対的帰依を培い,麻原の意思を実現することを根本的な目的としているところ,麻原は,自らが本団体の代表者であり,教祖としてこれを主宰するものであることを明確に供述し,本団体において,麻原は,依然として絶対的な地位を有している。そして,本団体は,麻原の指示に従い,また,明示的な指示がない場合にも,麻原の意思を推し量りながら,活動方針等に関する重要事項を決定しているほか,麻原は,現在も面会によってその意思を本団体に伝え,いつでも本団体の意思決定及び事務に関与し得る状況にある。したがって,麻原は,現在も,本団体において,団体の代表者たる役員であり,かつ,構成員であると認められる。
イ さらに,無差別大量殺人行為に関与した他の者のうち,土谷正実,新實智光,横山真人,渡部和実及び角川知己の5名は,いずれもその言動から,麻原及び麻原の説く教義に従い,同教義を広め,これを実現することを目的として共有している者であると認められる。また,このうち,角川については,本団体がその構成員として公安調査庁長官に対する報告に明記しているほか,土谷,新實,横山及び渡部の4名についても,本団体を脱退する意思を表明したりすることもなく,本団体の内部組織であって,構成員に対する裁判支援等の活動を行っている「人権救済基金」から,弁護士費用の支出や差入れ,面会等の支援を受けており,現在も,土谷,新實,横山,渡部及び角川の5名は本団体の構成員であると認められる。
(3) 同第3号該当性
本団体においては,両サリン事件が行われた時に代表者たる役員であった麻原が,現在も代表者たる役員であると認められるほか,両サリン事件が行われた時に,「ロシア支部大臣」として本団体の重要な業務を統括し,本団体の重要な意思決定に関与し得る立場の役員であったと認められる上祐は,現在も,本団体の活動方針等に関する重要事項を決定するなどしており,本団体の役員であると認められる。
(4) 同第4号該当性
ア 本団体は,麻原を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とするところ,本団体の教義の根幹をなすものは,衆生救済の実践であるとしてきた。そして,本団体は,衆生救済を実現するため,麻原の教義に基づく理想郷(シャンバラ)を我が国に建設する「日本シャンバラ化計画」を推進するとともに,衆生救済に至る最速の道であるタントラ・ヴァジラヤーナの実践を重視してきた。麻原の説くタントラ・ヴァジラヤーナには,その具体的規範として,結果のためには手段を選ばず,本団体の活動に反対する勢力や悪業を積む者については,これを殺害することも正当化されるなどとする殺人を勧める内容が含まれている。そして,構成員に対しては,それを実践するための修行として,自己の意思を捨て,絶対的な存在である麻原が課した課題・試練を乗り越えさせる「マハームドラーの修行」を課していたところ,両サリン事件も,当時の構成員が,「マハームドラーの修行」として,自己の意思を捨てて麻原の意思に従い,衆生救済のためのタントラ・ヴァジラヤーナの実践として引き起こしたものである。
イ この点に関し,本団体の多数の構成員は「Aleph」の名称を用いて活動するところ,そこでは,幹部構成員が,麻原の説く「日本シャンバラ化計画」の実現や衆生救済の実現を明示的に強調した上で,構成員に天変地異の発生などを説いて危機感をあおり,衆生救済を実現するには麻原に従うしかないとして,「マハームドラーの修行」を受けさせたり,両サリン事件をタントラ・ヴァジラヤーナの実践として正しいものであったなどとする指導を行っている。その他の一部の構成員は,「ひかりの輪」の名称を用いて,麻原の影響力を排除したかのように装っているものの,「ひかりの輪」の設立表明を始めとする「麻原隠し」の活動自体が,タントラ・ヴァジラヤーナを背景に,麻原の意思に従い,麻原の意思を実現するための「マハームドラーの修行」の実践として行われたものであり,麻原が説いた「日本シャンバラ化計画」や悪業を積む者の殺害を勧めるタントラ・ヴァジラヤーナの教えなどを依然として保持し,実践している。以上の事実からは,本団体は,引き続き,麻原の説く教義に従い,衆生救済のため,「日本シャンバラ化計画」を推進するとともに,麻原が説いたタントラ・ヴァジラヤーナの実践を構成員の行動規範としており,現在も殺人を勧める「綱領」を保持していることは明白である。
(5) 同第5号該当性
本団体については,現在も,(1)衆生救済の名の下,麻原及び麻原の説く教義に従う社会の実現を目的とし,かつ,殺人を勧める内容を含むタントラ・ヴァジラヤーナの実践をその行動規範として,両サリン事件の首謀者である麻原を絶対的帰依の対象としていること,(2)両サリン事件当時,麻原を頂点とし,麻原の指示に絶対的に従う上命下服の位階制度を敷き,一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を構築していたことを基礎として,組織的かつ秘密裏に両サリン事件を計画準備し,実行し得たと考えられるところ,現在も,上命下服の制度や一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を維持していること,(3)本団体の代表者・主宰者である麻原が両サリン事件についての自己の責任を否定し何ら反省もしていないこと,(4)本団体は,「サリン量産プラント建設事件」や「武器等製造法違反事件」に関与した構成員など,各種犯罪行為に関与した構成員を多数擁していること,(5)麻原奪還を企てたいわゆる「シガチョフ事件」に関与したロシア人構成員が,ロシア連邦内に所在する活動用施設に出入りしていること,(6)観察処分を免れるための「ひかりの輪」設立表明等を通じて,結果のためには手段を選ばない特質と隠蔽体質を強めていること,(7)炭疽菌の培養・散布等で極めて重要な役割を果たした上祐が中心的に活動していること,などの事実が認められる。
以上の事実を総合すれば,本団体が無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があることは明らかである。
3 引き続き本団体の活動状況を継続して明らかにする必要性(法第5条第4項)
本団体に対しては,本件観察処分決定並びに平成15年1月及び平成18年1月の同決定に係る期間更新の決定に基づき,これまで173回の立入検査を実施し,36回の公安調査庁長官に対する報告を徴取し,48の関係地方公共団体の長に延べ455回にわたってその調査結果を提供してきたが,以下のとおり,引き続き本団体の活動状況を継続して明らかにする必要があると認められる。
(1) 本団体の閉鎖性,欺まん性に起因して活動状況を把握することが困難であること
ア 本団体は,現在も,出家した構成員をその管理下の施設に集団居住させ,食事等の日常的な行為を管理統制して閉鎖的な居住空間を形成した上,出家した構成員と外部との接触を困難にして,一般社会と融和しない独自の閉鎖社会を構築しており,その内部における活動状況を外から知ることは極めて困難である。 また,法に基づく公安調査官の立入検査の際にも,組織ぐるみで非協力的な姿勢を徹底しており,現に,検査着手後,未検査のパーソナルコンピュータを公安調査官に無断で操作して,電源の切断やその設定を変更するなどしたり,検査対象物である活動状況が記録された画像の写真撮影を拒否するなど,その組織的体質は閉鎖的である。 さらに,法に基づく公安調査庁長官あての報告においても,構成員の一部を殊更報告せず,活動に関する意思決定についても実態に即した内容を報告しないなどの不正確な報告を繰り返しており,公安調査庁から改善すべき点を具体的に指摘して報告内容の改善方を指導しているにもかかわらず,一向にこれを改めようとせず,組織の実態や活動の状況を偽ろうとする姿勢が顕著であるほか,施設確保に際しても,修行場として使用するにもかかわらず,その使用目的を偽るなどしており,欺まん的組織体質も認められる。
イ 以上のとおり,本団体の閉鎖性,欺まん性は,本件観察処分決定以降,全く改善されておらず,むしろ「ひかりの輪」の設立表明等により,組織の在り方が変化したことなどから,本団体全体について,これまで以上に実態を把握することが困難になっており,本件観察処分がその期間を満了して終了し,法に基づく公安調査官による立入検査や公安調査庁長官による報告徴取が不可能となった場合には,その活動状況を明らかにすることが極めて困難となることは明白である。
これに加えて,本団体が,現在も一般社会と融和しない独自の閉鎖社会を構築し,無差別大量殺人行為に関する危険な要素を堅持し続けていることからすれば,観察処分が終了すれば,両サリン事件当時と同様に,閉鎖社会の中で秘密裏に無差別大量殺人行為に結び付く危険な要素を増大させるおそれが大きいと言わざるを得ない。その場合に,法に基づく立入検査や報告徴取を行うことができなければ,危険な要素の増大を適時的確に把握して法第8条に基づく再発防止処分を行うことができなくなる懸念も大きい。
(2) 本団体の閉鎖性及び欺まん性に起因して,地域住民等が本団体に対して恐怖感・不安感を抱いており,適切な情報提供が求められていること
本件期間更新決定後も,本団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があることに加えて,その組織体質が依然として閉鎖的かつ欺まん的であることに起因し,地域住民等は,本団体に対して恐怖感・不安感を抱いている。特に,「ひかりの輪」設立表明等の意図が観察処分を免れることにあることから,地域住民等は本団体に対する恐怖感・不安感を以前にも増して募らせていて,地域住民等によって組織された協議会等は,本団体の解散等を求める各種集会・デモ,署名活動等を実施し,国などに対して要請等を行うなどしているほか,関係地方公共団体等も,国に対して観察処分の期間の更新等を求める要請等を行っている。
そして,関係地方公共団体からは,法第32条に基づく調査結果の提供の請求が多数回にわたってなされており,このことは,観察処分に基づく調査の結果得た情報に対する需要が極めて大きいことを示している。したがって,観察処分を継続して本団体の活動状況を引き続き明らかにするとともに,その結果得た情報を提供して,地域住民等の恐怖感・不安感の解消・緩和に努める必要がある。
(3) テロ対策を推進する国際的な取組に寄与すべき必要性があること
アメリカ合衆国,欧州連合,オーストラリア及びカザフスタンは,それぞれのテロ対策法に基づき,本団体の危険性を認定した上で,「外国テロリスト組織」に指定するなど,本団体を国際的な監視の対象としている。かかる国際的なテロ対策の取組を無に帰することがないよう,本団体の本拠がある我が国においても,これら諸外国の取組と軌を一にして,本団体に対する観察処分を継続すべき国際的必要性は極めて大きい。また,近年,テロリズムの防止及び根絶を目的として,国際連合安全保障理事会決議や関係する国際会議において,テロ対策を推進するよう各国に対し要請がなされており,我が国も国際社会の一員として,この国際的な取組に寄与すべき責務を果たすことが求められている。
したがって,本件観察処分の期間を更新し,本団体の活動状況を継続して明らかにする必要性があることは明白である。
第4 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の規定に基づく規制措置の手続等に関する規則第2条第4項に規定する法第5条第4項の処分に関する意見
1 処分の期間
3年間
2 法第5条第5項において準用する同条第3項第6号に規定する公安審査委員会が特に必要と認める事項
(1) 本団体の構成員に関する出家信徒及び在家信徒の別並びに出家信徒の位階を報告させること
(理由)
本団体は,一般社会との関係を断絶して活動する出家信徒とその他の在家信徒に区分しており,その状況を明らかにする必要があるほか,出家信徒について,位階制度を維持しており,位階と団体内における地位・役割との対応関係を明らかにする必要がある。
(2) 本団体作成のインターネット上のホームページに係る接続業者名,契約名義人の氏名及び掲載の管理・運営責任者の氏名を報告させること
(理由)
本団体は,インターネット上のホームページを利用して団体の活動を広報するとともに,構成員に対する指示・連絡を行っていることから,同ホームページへの掲載が本団体の意思決定によるものであるかどうかを把握し,本団体の活動状況を継続して明らかにする必要がある。
(3) 本団体(その支部,分会その他の下部組織を含む。)の営む収益事業(いかなる名義をもってするかを問わず,実質的に本団体が経営しているものをいう。)の種類及び概要,事業所の名称及びその所在地,当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所(その会計帳簿が電磁的記録で作成されている場合には,当該電磁的記録媒体の保管場所)を報告させること
(理由)
本団体は,収益事業によって多額の収入を得ているところ,各報告期間末日における現金の現在額及び預貯金の種類,残高等の報告を受けるだけでは当該事業の実態を把握することができず,本団体が,仮に,当該事業の収益によって無差別大量殺人行為の準備のために自己資金を秘密裏に蓄え,あるいは,かかる資金を用いて武器等の危険物を購入するなどしても把握することができないことから,当該報告期間末日における本団体の資産・負債の総額の報告を受けることに加え,収益事業の種類及び概要,事業所の名称及びその所在地,当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所を報告させて,本団体の収益事業の収支状況を把握する必要がある。
(以下略)
(1) 概要
被請求団体(以下「本団体」という。)は,麻原彰晃こと松本智津夫(以下「麻原」という。)を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とし,麻原が主宰し,麻原及び同教義に従う者によって構成される団体である。その構成員は,現在,日本国内に約1,500名(出家約500名,在家約1,000名)及びロシア連邦内に約200名おり,日本国内の15都道府県に計30施設,ロシア連邦に数施設を確保している。
(2) 平成18年1月23日付けの観察処分の期間更新決定後の本団体の動向等
ア 本団体は,無差別大量殺人行為である「松本サリン事件」及び「地下鉄サリン事件」(以下「両サリン事件」という。)を行った「オウム真理教」と同一の団体であり,平成18年1月23日付けの観察処分の期間更新決定(以下「本件期間更新決定」という。)時は,「宗教団体アーレフ」(以下「アーレフ」という。)を中心的組織として活動を行っていたところ,アーレフにおいて代表を務めるなどしていた上祐史浩(以下「上祐」という。)を中心とする一部の構成員が,平成19年3月8日にアーレフから脱退した旨を,同年5月7日には「ひかりの輪」を設立した旨をそれぞれ表明した。また,アーレフは,平成20年5月20日,その名称を「Aleph」に変更した。
イ 現在,本団体においては,「Aleph」の名称を用いて活動する内部組織及び「ひかりの輪」の名称を用いて活動する内部組織が中心的な組織として活動している。
(3) 本団体の活動概況等
ア 本団体は,麻原を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とする団体であるところ,オウム真理教の教義は,「主神をシヴァ神として崇拝し,創始者である麻原の説く教えを根本とし,衆生救済の実現,すなわち,全ての生き物を輪廻の苦しみから救済して絶対自由・絶対幸福・絶対歓喜の世界(マハー・ニルヴァーナ,涅槃の境地)に導くことを最終目的として,シヴァ神の化身である麻原に対する絶対的な浄信と帰依を培った上,自己の解脱・悟りに到達する道である小乗(ヒナヤーナ)を修めるとともに,衆生の救済を主眼とする道である大乗(マハーヤーナ),及び衆生救済に至る最速の道である秘密金剛乗(タントラ・ヴァジラヤーナ)の各修行を実践する」というものである。 麻原は,これらのうち,衆生救済への最速の道であるタントラ・ヴァジラヤーナを最も重視し,その具体的な規範として,真理の実践を行う者にとっては結果が第一であり,結果のためには手段を選ばないなどと説くとともに,タントラ・ヴァジラヤーナの実践のためには,弟子が自己の意思を捨て,絶対的な存在である麻原が課した課題・試練を乗り越える「マハームドラーの修行」が重要であるとした。
イ 本団体構成員は,いずれも,麻原の説く教えを根本とし,麻原に対する絶対的な帰依を培いつつ,最終目的たる衆生救済の実現に向けた活動を行っているが,麻原の意思の捉え方や目的実現のための活動方針は必ずしも一様ではない。 「Aleph」の名称を用いて活動する構成員は,従来の活動形態を維持しつつ,各修行を実践して,麻原の意思を実現することが重要であって,それが麻原に対する真の帰依であるとの観点から,麻原を前面に出し,麻原に対する絶対的帰依を明示的に強調する活動方針をより一層鮮明にしており,集中的に麻原の説法等を教学させたり,麻原の脳波が注入されるとする修行用の器具であるPSI(パーフェクト・サーヴェーション・イニシエーション)の着用を奨励するなどしている。
一方,「ひかりの輪」の名称を用いて活動する構成員は,タントラ・ヴァジラヤーナの具体的な規範である結果のためには手段を選ばないとの教えを背景に,従来の活動形態を変更してでも麻原の意思を実現することこそが麻原に対する真の帰依であるとの信念に基づいて活動している。そして,麻原が,かねて教団の維持・発展のために麻原の影響力を隠した「別団体」を組織して,「別団体」との間で役割分担しながら活動することを求めていたことを重視し,麻原の意思の実現のためには「別団体」を組織することによって障害となる観察処分を免れることが必要であるとの認識から,「マハームドラーの修行」の実践として,「ひかりの輪」の設立表明を始めとして,麻原の位置付けを変更したとする規約等を作成したり,「オウム真理教」,「アーレフ」時代の教材を廃棄したり,新たな教材を作成したりするなど,真実は,麻原に絶対的に帰依し,その教義を広め,麻原の意思を実現することを目的としながら,外形上,麻原の影響力を払拭したかのように装う,いわゆる「麻原隠し」を殊更に展開している。
(4) 小括
本団体の本件期間更新決定後の動向,活動概況等は以上のとおりであって,本団体の組織構成に変化は見られるものの,「ひかりの輪」の設立表明等も麻原の意思に従い,麻原の説く教義を広め,これを実現するためのものであって,本団体全体としては,依然として,その本質に基本的変化はなく,「特定の共同目的」たる「オウム真理教の教義を広め,これを実現すること」を維持していると認められるとともに,いずれの構成員も麻原に対して帰依し,麻原の意思の実現のためには麻原の指示に従う者であり,主宰者たる麻原を頂点とした構造において,主宰者たる麻原を介し,麻原の説く教義を広め,これを実現するための多数人の継続的結合体として存在しており,本団体は,依然として団体としての同一性を保持しているものと認められる。
2 法第5条第1項各号該当性
本団体は,次のとおり,法第5条第1項各号に掲げる事項のいずれにも該当する。
(1) 第5条第1項第1号該当性
本団体は,本件期間更新決定後も,無差別大量殺人行為である両サリン事件の首謀者であった麻原を組織の頂点に位置付け,麻原及び麻原の説く教義への絶対的帰依を培い,麻原の意思を実現することを根本的な目的としており,麻原の指示に従い,また,明示的な指示がない場合にも,麻原の意思を推し量りながら,活動方針等に関する重要事項を決定している。
そして,前記1(3)イのとおり,本団体のうち,「Aleph」の名称を用いて活動している構成員は,従来の活動形態を維持しており,麻原及び麻原の説く教義に対する絶対的帰依を明示的に強調して,集中的に麻原の説法等を構成員に教学させたり,PSIの着用を奨励するなどして,麻原及び麻原の説く教義に絶対的に従う意識の扶植を図っていることが認められ,また,「ひかりの輪」の名称を用いて活動している構成員は,積極的な「麻原隠し」の活動により,外形上,麻原の影響力を払拭したかのように装っているものの,「ひかりの輪」の設立表明を始めとする「麻原隠し」の活動自体が麻原の意思の実現のため,麻原が,かねて教団の維持・発展のため麻原の影響力を隠した「別団体」を組織して,「別団体」との間で役割分担をしながら活動することを求めていたことに基づくものであって,麻原が本団体の活動に絶対的な影響力を有していることは明らかである。
(2) 同第2号該当性
ア 本団体は,無差別大量殺人行為である両サリン事件の首謀者であった麻原を組織の頂点に位置付け,麻原及び麻原の説く教義への絶対的帰依を培い,麻原の意思を実現することを根本的な目的としているところ,麻原は,自らが本団体の代表者であり,教祖としてこれを主宰するものであることを明確に供述し,本団体において,麻原は,依然として絶対的な地位を有している。そして,本団体は,麻原の指示に従い,また,明示的な指示がない場合にも,麻原の意思を推し量りながら,活動方針等に関する重要事項を決定しているほか,麻原は,現在も面会によってその意思を本団体に伝え,いつでも本団体の意思決定及び事務に関与し得る状況にある。したがって,麻原は,現在も,本団体において,団体の代表者たる役員であり,かつ,構成員であると認められる。
イ さらに,無差別大量殺人行為に関与した他の者のうち,土谷正実,新實智光,横山真人,渡部和実及び角川知己の5名は,いずれもその言動から,麻原及び麻原の説く教義に従い,同教義を広め,これを実現することを目的として共有している者であると認められる。また,このうち,角川については,本団体がその構成員として公安調査庁長官に対する報告に明記しているほか,土谷,新實,横山及び渡部の4名についても,本団体を脱退する意思を表明したりすることもなく,本団体の内部組織であって,構成員に対する裁判支援等の活動を行っている「人権救済基金」から,弁護士費用の支出や差入れ,面会等の支援を受けており,現在も,土谷,新實,横山,渡部及び角川の5名は本団体の構成員であると認められる。
(3) 同第3号該当性
本団体においては,両サリン事件が行われた時に代表者たる役員であった麻原が,現在も代表者たる役員であると認められるほか,両サリン事件が行われた時に,「ロシア支部大臣」として本団体の重要な業務を統括し,本団体の重要な意思決定に関与し得る立場の役員であったと認められる上祐は,現在も,本団体の活動方針等に関する重要事項を決定するなどしており,本団体の役員であると認められる。
(4) 同第4号該当性
ア 本団体は,麻原を教祖・創始者とするオウム真理教の教義を広め,これを実現することを目的とするところ,本団体の教義の根幹をなすものは,衆生救済の実践であるとしてきた。そして,本団体は,衆生救済を実現するため,麻原の教義に基づく理想郷(シャンバラ)を我が国に建設する「日本シャンバラ化計画」を推進するとともに,衆生救済に至る最速の道であるタントラ・ヴァジラヤーナの実践を重視してきた。麻原の説くタントラ・ヴァジラヤーナには,その具体的規範として,結果のためには手段を選ばず,本団体の活動に反対する勢力や悪業を積む者については,これを殺害することも正当化されるなどとする殺人を勧める内容が含まれている。そして,構成員に対しては,それを実践するための修行として,自己の意思を捨て,絶対的な存在である麻原が課した課題・試練を乗り越えさせる「マハームドラーの修行」を課していたところ,両サリン事件も,当時の構成員が,「マハームドラーの修行」として,自己の意思を捨てて麻原の意思に従い,衆生救済のためのタントラ・ヴァジラヤーナの実践として引き起こしたものである。
イ この点に関し,本団体の多数の構成員は「Aleph」の名称を用いて活動するところ,そこでは,幹部構成員が,麻原の説く「日本シャンバラ化計画」の実現や衆生救済の実現を明示的に強調した上で,構成員に天変地異の発生などを説いて危機感をあおり,衆生救済を実現するには麻原に従うしかないとして,「マハームドラーの修行」を受けさせたり,両サリン事件をタントラ・ヴァジラヤーナの実践として正しいものであったなどとする指導を行っている。その他の一部の構成員は,「ひかりの輪」の名称を用いて,麻原の影響力を排除したかのように装っているものの,「ひかりの輪」の設立表明を始めとする「麻原隠し」の活動自体が,タントラ・ヴァジラヤーナを背景に,麻原の意思に従い,麻原の意思を実現するための「マハームドラーの修行」の実践として行われたものであり,麻原が説いた「日本シャンバラ化計画」や悪業を積む者の殺害を勧めるタントラ・ヴァジラヤーナの教えなどを依然として保持し,実践している。以上の事実からは,本団体は,引き続き,麻原の説く教義に従い,衆生救済のため,「日本シャンバラ化計画」を推進するとともに,麻原が説いたタントラ・ヴァジラヤーナの実践を構成員の行動規範としており,現在も殺人を勧める「綱領」を保持していることは明白である。
(5) 同第5号該当性
本団体については,現在も,(1)衆生救済の名の下,麻原及び麻原の説く教義に従う社会の実現を目的とし,かつ,殺人を勧める内容を含むタントラ・ヴァジラヤーナの実践をその行動規範として,両サリン事件の首謀者である麻原を絶対的帰依の対象としていること,(2)両サリン事件当時,麻原を頂点とし,麻原の指示に絶対的に従う上命下服の位階制度を敷き,一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を構築していたことを基礎として,組織的かつ秘密裏に両サリン事件を計画準備し,実行し得たと考えられるところ,現在も,上命下服の制度や一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を維持していること,(3)本団体の代表者・主宰者である麻原が両サリン事件についての自己の責任を否定し何ら反省もしていないこと,(4)本団体は,「サリン量産プラント建設事件」や「武器等製造法違反事件」に関与した構成員など,各種犯罪行為に関与した構成員を多数擁していること,(5)麻原奪還を企てたいわゆる「シガチョフ事件」に関与したロシア人構成員が,ロシア連邦内に所在する活動用施設に出入りしていること,(6)観察処分を免れるための「ひかりの輪」設立表明等を通じて,結果のためには手段を選ばない特質と隠蔽体質を強めていること,(7)炭疽菌の培養・散布等で極めて重要な役割を果たした上祐が中心的に活動していること,などの事実が認められる。
以上の事実を総合すれば,本団体が無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があることは明らかである。
3 引き続き本団体の活動状況を継続して明らかにする必要性(法第5条第4項)
本団体に対しては,本件観察処分決定並びに平成15年1月及び平成18年1月の同決定に係る期間更新の決定に基づき,これまで173回の立入検査を実施し,36回の公安調査庁長官に対する報告を徴取し,48の関係地方公共団体の長に延べ455回にわたってその調査結果を提供してきたが,以下のとおり,引き続き本団体の活動状況を継続して明らかにする必要があると認められる。
(1) 本団体の閉鎖性,欺まん性に起因して活動状況を把握することが困難であること
ア 本団体は,現在も,出家した構成員をその管理下の施設に集団居住させ,食事等の日常的な行為を管理統制して閉鎖的な居住空間を形成した上,出家した構成員と外部との接触を困難にして,一般社会と融和しない独自の閉鎖社会を構築しており,その内部における活動状況を外から知ることは極めて困難である。 また,法に基づく公安調査官の立入検査の際にも,組織ぐるみで非協力的な姿勢を徹底しており,現に,検査着手後,未検査のパーソナルコンピュータを公安調査官に無断で操作して,電源の切断やその設定を変更するなどしたり,検査対象物である活動状況が記録された画像の写真撮影を拒否するなど,その組織的体質は閉鎖的である。 さらに,法に基づく公安調査庁長官あての報告においても,構成員の一部を殊更報告せず,活動に関する意思決定についても実態に即した内容を報告しないなどの不正確な報告を繰り返しており,公安調査庁から改善すべき点を具体的に指摘して報告内容の改善方を指導しているにもかかわらず,一向にこれを改めようとせず,組織の実態や活動の状況を偽ろうとする姿勢が顕著であるほか,施設確保に際しても,修行場として使用するにもかかわらず,その使用目的を偽るなどしており,欺まん的組織体質も認められる。
イ 以上のとおり,本団体の閉鎖性,欺まん性は,本件観察処分決定以降,全く改善されておらず,むしろ「ひかりの輪」の設立表明等により,組織の在り方が変化したことなどから,本団体全体について,これまで以上に実態を把握することが困難になっており,本件観察処分がその期間を満了して終了し,法に基づく公安調査官による立入検査や公安調査庁長官による報告徴取が不可能となった場合には,その活動状況を明らかにすることが極めて困難となることは明白である。
これに加えて,本団体が,現在も一般社会と融和しない独自の閉鎖社会を構築し,無差別大量殺人行為に関する危険な要素を堅持し続けていることからすれば,観察処分が終了すれば,両サリン事件当時と同様に,閉鎖社会の中で秘密裏に無差別大量殺人行為に結び付く危険な要素を増大させるおそれが大きいと言わざるを得ない。その場合に,法に基づく立入検査や報告徴取を行うことができなければ,危険な要素の増大を適時的確に把握して法第8条に基づく再発防止処分を行うことができなくなる懸念も大きい。
(2) 本団体の閉鎖性及び欺まん性に起因して,地域住民等が本団体に対して恐怖感・不安感を抱いており,適切な情報提供が求められていること
本件期間更新決定後も,本団体に無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があることに加えて,その組織体質が依然として閉鎖的かつ欺まん的であることに起因し,地域住民等は,本団体に対して恐怖感・不安感を抱いている。特に,「ひかりの輪」設立表明等の意図が観察処分を免れることにあることから,地域住民等は本団体に対する恐怖感・不安感を以前にも増して募らせていて,地域住民等によって組織された協議会等は,本団体の解散等を求める各種集会・デモ,署名活動等を実施し,国などに対して要請等を行うなどしているほか,関係地方公共団体等も,国に対して観察処分の期間の更新等を求める要請等を行っている。
そして,関係地方公共団体からは,法第32条に基づく調査結果の提供の請求が多数回にわたってなされており,このことは,観察処分に基づく調査の結果得た情報に対する需要が極めて大きいことを示している。したがって,観察処分を継続して本団体の活動状況を引き続き明らかにするとともに,その結果得た情報を提供して,地域住民等の恐怖感・不安感の解消・緩和に努める必要がある。
(3) テロ対策を推進する国際的な取組に寄与すべき必要性があること
アメリカ合衆国,欧州連合,オーストラリア及びカザフスタンは,それぞれのテロ対策法に基づき,本団体の危険性を認定した上で,「外国テロリスト組織」に指定するなど,本団体を国際的な監視の対象としている。かかる国際的なテロ対策の取組を無に帰することがないよう,本団体の本拠がある我が国においても,これら諸外国の取組と軌を一にして,本団体に対する観察処分を継続すべき国際的必要性は極めて大きい。また,近年,テロリズムの防止及び根絶を目的として,国際連合安全保障理事会決議や関係する国際会議において,テロ対策を推進するよう各国に対し要請がなされており,我が国も国際社会の一員として,この国際的な取組に寄与すべき責務を果たすことが求められている。
したがって,本件観察処分の期間を更新し,本団体の活動状況を継続して明らかにする必要性があることは明白である。
第4 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の規定に基づく規制措置の手続等に関する規則第2条第4項に規定する法第5条第4項の処分に関する意見
1 処分の期間
3年間
2 法第5条第5項において準用する同条第3項第6号に規定する公安審査委員会が特に必要と認める事項
(1) 本団体の構成員に関する出家信徒及び在家信徒の別並びに出家信徒の位階を報告させること
(理由)
本団体は,一般社会との関係を断絶して活動する出家信徒とその他の在家信徒に区分しており,その状況を明らかにする必要があるほか,出家信徒について,位階制度を維持しており,位階と団体内における地位・役割との対応関係を明らかにする必要がある。
(2) 本団体作成のインターネット上のホームページに係る接続業者名,契約名義人の氏名及び掲載の管理・運営責任者の氏名を報告させること
(理由)
本団体は,インターネット上のホームページを利用して団体の活動を広報するとともに,構成員に対する指示・連絡を行っていることから,同ホームページへの掲載が本団体の意思決定によるものであるかどうかを把握し,本団体の活動状況を継続して明らかにする必要がある。
(3) 本団体(その支部,分会その他の下部組織を含む。)の営む収益事業(いかなる名義をもってするかを問わず,実質的に本団体が経営しているものをいう。)の種類及び概要,事業所の名称及びその所在地,当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所(その会計帳簿が電磁的記録で作成されている場合には,当該電磁的記録媒体の保管場所)を報告させること
(理由)
本団体は,収益事業によって多額の収入を得ているところ,各報告期間末日における現金の現在額及び預貯金の種類,残高等の報告を受けるだけでは当該事業の実態を把握することができず,本団体が,仮に,当該事業の収益によって無差別大量殺人行為の準備のために自己資金を秘密裏に蓄え,あるいは,かかる資金を用いて武器等の危険物を購入するなどしても把握することができないことから,当該報告期間末日における本団体の資産・負債の総額の報告を受けることに加え,収益事業の種類及び概要,事業所の名称及びその所在地,当該事業の責任者及び従事する構成員の氏名並びに各事業に関する会計帳簿を備え置いている場所を報告させて,本団体の収益事業の収支状況を把握する必要がある。
(以下略)