内外情勢の回顧と展望(平成18年1月)
第3 平成17年の国内情勢
オウム真理教(教団)は,現在,日本国内に約1,650人(出家信徒約650人,在家信徒約1,000人)の信徒を擁し,このうち,出家信徒の約94%,在家信徒の約73%を地下鉄サリン事件以前に入信した信徒で占めており,依然として麻原の影響力を強く受けた信徒を多数擁する組織であると認められる。
こうした中,1月には,高温の湯に浸かる「温熱修行」により幹部信徒が死亡し,麻原の教えに基づく危険な修行を継続している事実が明らかになった。また,一部幹部信徒は,「皆から受け入れられないことは,修行にとって最高の環境」などと反社会的姿勢をあらわにしたり,「権力が震え上がるぐらいの帰依をみせつけよう」などと反権力の姿勢を示した。
なお,麻原に対する控訴審において,東京高裁は,麻原の訴訟能力の有無を調査するため,職権で麻原を精神鑑定に付した。同控訴審をめぐっては,幹部信徒が「死刑になっても尊師の心や意思は変わらない」,「尊師はやがては仮の体をなくしてしまうが,エネルギーは変わらない」などと,麻原の死刑判決確定後も見据え,教団内における麻原の絶対者としての地位は不変であるとする説法を行った。
教団は,平成15年10月以降,重要事項については正大師・上祐史浩の意見を求めつつ,正悟師5人によって運営が行われてきた。その後,正悟師・野田成人が平成16年7月に薬事法違反で逮捕され,これに対する社会的批判が集まる中,上祐は,教団が麻原への絶対的帰依を強調する指導方針を鮮明化させていることは教団の存続を危うくするとして,平成16年末ころ,表面上麻原の影響力の払拭を装う"麻原隠し"に向けた取組を再開した。
上祐は,平成17年に入り,インターネット上にブログを立ち上げて自己の主張を展開する一方,首都圏を中心に教団施設外で頻繁に集会を開催して,"麻原隠し"の必要性を訴えるとともに,7月以降は,地方に赴き在家信徒との面談を重ねるなどして,上祐支持派の掘り起こしに努めた。
こうした上祐の動きに対し,正悟師・村岡達子,同・二ノ宮耕一を始め"麻原隠し"に異議を唱える反対派は,"麻原隠し"の問題点をけん伝して対抗する一方,麻原の子への「王権継承」の正統性を訴えるなどして,麻原の権威を盾に,麻原への絶対的帰依をより強調する姿勢をあらわにした。
こうした中,中立的立場にあった正悟師・杉浦実は,9月中旬以降,事態の収拾に乗り出したが,支持派と反対派との溝は埋まらず,さらに,上祐が,10月下旬,説法会を2年振りに再開させ,"麻原隠し"の必要性を強調するなどしたため,両派の確執が激化している。
教団では,年初,幹部信徒が"信徒倍増計画"を表明し,在家信徒にも入信勧誘の方法などを指導する一方,これまでと同様,出家信徒が中心となり,東京,大阪,京都などの全国の主要都市において,ヨーガ指導や占星術鑑定などを装った教室やサークルなどを運営した。なかには,地域情報誌に広告を掲載するなどして会員獲得を図った事案もみられ,集まった会員には徐々に実体を明らかにして入信を働き掛けるなど,活発な勧誘活動がみられた。
教団は,全国の支部・道場において正悟師説法会を毎月開催し,参加費や布施を徴収したほか,5月及び8月の集中セミナーでは合計6,000万円以上の資金を獲得した。
一方,事業関係では,無許可で複数の信徒を労働者として供給しソフト開発業務に従事させていたとして,職業安定法違反で正悟師・杉浦茂ら信徒7人が逮捕され(5〜6月),平成16年の薬事法違反事件に続き,再び組織的な違法行為が発覚したが,本件捜査の結果,教団が平成13年11月から同17年1月までの間に約4億5,700万円の収益を上げたことが明らかとなった。
こうした中,教団は,地下鉄サリン事件などの被害者への賠償に関して,6月末までに支払うこととなっていた9億6,000万円のうち,未払残額約3億9,000万円については,破産管財人との間で,9月,収益悪化を理由として支払期限を3年間延長し,毎年4,000万円以上を支払うことで合意した。
教団は,ロシア人信徒約300人のうち約50人を,モスクワ市内の複数の施設に出家信徒として分散居住させた。これら信徒に対しては,常駐の日本人幹部らが麻原の教えに基づく修行の指導を行った。また,同市内でロシア人信徒が運営するヨーガ教室では,麻原の写真を掲示し,受講者に対して,麻原が唱える呪文(マントラ)の音声を聞かせたり,ロシア語に翻訳した麻原の著書を配付するなど,一般市民を対象とした布教活動にも活発に取り組んだ。
こうした中,2月にモスクワ市内の施設で「温熱修行」を行ったロシア人信徒が死亡したとの報道がロシア国内でなされたことから,教団は,4月,治安当局の追及を恐れ,相次いで施設を退去又は移転するとともに,常駐の日本人信徒全員を一時帰国させたが,6月ころには従来の活動を再開した。
これらの立入検査の結果,各施設で,麻原の著書や同人の説法を収録したビデオ・カセットテープ,DVD,CDが多数使用・保管されていたほか,施設内で麻原の唱える呪文(マントラ)や説法が流されるなど,依然として,教団が麻原の強い影響下にあることが認められた。
このうち,教団名を秘匿して確保した埼玉県・越谷大里施設に対する立入検査(5月20日)では,製造した麺類などの食品に麻原の唱える呪文(マントラ)を流して"浄化"するなど,同施設が教団信徒向けの"お供物"と称される食品の製造工場であることが明らかとなった。
また,埼玉県・東大宮施設に対する立入検査(7月14日,15日)では,施設内に教団特有の祭壇を備えた道場が設けられていたほか,「グルがそれを殺せと言うときは,相手はもう死ぬ時期に来ている」などと殺人をも肯定する内容の説法を始め,麻原の行ったすべての説法がビデオテープ,DVD,CDで一括管理・保管されているなど,同施設が教団の枢要な部署であることが判明した。
さらに,公安調査庁は,平成17年中4回にわたり,教団から3か月ごとに組織や活動の現状に関する報告書を徴取した(平成12年3月の第1回以降,通算24回)。これら教団からの報告書の内容のほか立入検査や調査の結果などについては,団体規制法第32条に基づき,1月から11月末までの間,延べ46回(平成12年2月から通算40自治体,延べ304回)にわたり,請求のあった3都県13市区に対して情報提供した。
公安調査庁は,平成15年1月の観察処分の期間更新決定後も,教団については,(1)麻原を「グル」,「尊師」と呼んで絶対的に帰依・服従するなど,麻原が依然絶対的な影響力を保持していること,(2)松本及び地下鉄両サリン事件の首謀者である麻原が現在も代表者・構成員であるほか,両サリン事件に関与した土谷正実,新實智光ら5名が現在も構成員であること,(3)麻原が両サリン事件当時も現在も代表者であるほか,当時「大臣」たる役員であった上祐史浩,野田成人及び杉浦茂が現在も役員であること,(4)麻原及び教団の教義に従う社会を建設する「日本シャンバラ化計画」を保持し,同計画の実現のため,教団の活動に反対する勢力や悪業を積む者は殺害することも正しいとする教えを含むタントラ・ヴァジラヤーナを実践することが信徒の行動規範となっているなど,殺人を勧める綱領を依然保持していること,(5)麻原及び麻原の説く教義に絶対的に従うことを目的とした修行体系や,上命下服の位階制度,出家信徒を施設に集団居住させ外部との接触を困難にする閉鎖社会を維持するほか,両サリン事件を殺人を勧める教義(タントラ・ヴァジラヤーナ)の実践として正当化するなど教団には無差別大量殺人行為に及ぶ危険性が認められる上,前記のように一般社会と隔絶した閉鎖社会を形成し,組織の実態を明らかにせず,それを隠ぺいしようとする姿勢が顕著であり,地域住民も,不安感,恐怖感を抱いており,多くの地域住民や関係地方公共団体が国に観察処分の期間の更新等を要請していることから,その活動状況を継続して明らかにする必要があると判断し,11月25日,公安審査委員会に対し,同処分の期間を3年間更新(第2回目)することを求める請求を行った。
他方,右翼団体の多くは,陸上自衛隊のイラク派遣を「日本の防衛力を世界に示すためにも重要な任務である」などとして賛同する姿勢を堅持し,第5次から第8次の復興支援群の出発時には各駐屯地付近で,地元の右翼団体を中心に激励文の提出を始め,日の丸や派遣隊員の無事帰還を祈る黄色い旗を持ちながら,派遣隊員を見送る取組を実施した。
このほか,共産党や過激派は,平成16年に続き,「米軍の劣化ウラン弾でイラク駐留の自衛隊員が被ばくしている」として自衛隊撤退を訴える劣化ウラン兵器廃絶運動や,自衛隊派遣を違憲として派遣差止めを求める自衛隊派遣違憲訴訟運動など,反戦市民団体が取り組む運動への介入・連携にも力を注いだ。これらの運動では,イラク人医師やフセイン元イラク大統領の弁護人であるヨルダン人弁護士らの講演会を各地で開催し,「イラク戦争の不法性」,「自衛隊撤退」を強く訴えた。
共産党や過激派は,自衛隊の派遣期限再延長を「イラク侵略戦争を継続・激化させるもの」などと批判し,再延長後に初となる第9次復興支援群が陸上自衛隊第一師団(東京)により編成されるとの報道を受け,10月には,中核派系団体が東部方面隊総監部に派遣中止を申し入れた。
平成18年は,年初から「第9次派遣阻止」を掲げた取組を活発化させつつ,米国におけるイラク反戦デモの状況を訴えるなどして,自衛隊撤退世論の盛り上げに努めていくものと予想される。こうした中,「革命的武装闘争の本格的飛躍」との強硬な主張を繰り返す革労協解放派・反主流派などが,自衛隊イラク派遣と在日米軍再編問題とを絡め,自衛隊や在日米軍関連施設を狙ったゲリラ事件を引き起こすおそれもあり,警戒を要する。
共産党や過激派は,日米両政府による在日米軍再編協議が進められる中で,沖縄・米軍普天間基地の移設を始めとする米軍基地機能の移転・再編案を「在日米軍基地の機能強化」と決め付けて活発な反対運動を展開した。また,被爆60周年の取組などを通じて核兵器廃絶運動の高揚を図った。
沖縄・米軍普天間基地の代替施設建設予定地(共同) 沖縄・米軍普天間基地の返還問題をめぐり,沖縄県内の共産党や過激派などは,反基地団体による「基地の即時返還・県内移設反対」を掲げた基地包囲行動や反基地集会に積極的に参加した。
また,同基地代替施設の建設予定地である名護市辺野古では,海底ボーリング調査の開始を警戒し,地元の反対派住民と座込み監視行動に継続して取り組むとともに,辺野古海域に設置された調査作業用の足場を占拠し,小型船による海上パトロール行動を連日にわたり実施した。こうした一連の反対運動に対し,本土の過激派などは,沖縄現地に活動家を派遣したり,活動資金調達のカンパ活動に取り組むなどして支援した。
一方,米陸軍第一軍団司令部の座間基地移転や厚木基地の空母艦載機の岩国基地移駐などが取り沙汰される中,共産党などは,これら基地の周辺で反対デモや街頭宣伝活動に取り組むとともに,自治体などが実施した反対署名運動に参加したり,移転案反対を表明する自治体首長と意見交換し,自治体への働き掛けを強めた。
共産党や過激派は,10月に発表された在日米軍再編協議の中間報告に対し,「再編案は,在日米軍基地機能を強化し,在日米軍と自衛隊の一体化を促進するもの」などと批判した。また,再編協議の争点とされた普天間基地代替施設の建設予定地について,辺野古沖から米軍キャンプ・シュワブの沿岸部に変更になったことをとらえ,「沖縄県民の声を無視した県内での基地たらい回し」と反発し,反対活動を強化していくことを強調した。特に,11月の米国大統領の来日に対しては,米軍再編反対を掲げて抗議行動を繰り広げた。
共産党や過激派は,反基地団体と共闘したり,自治体との連携を模索しながら,在日米軍基地の撤去を求める活動を継続するものとみられる。
共産党は,被爆60周年に当たる平成17年を「核兵器の廃絶に向けた転機の年」と位置付け,核兵器廃絶運動の盛り上げを図った。共産党の反核運動の推進母体である原水爆禁止日本協議会(原水協)は,5月,核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に合わせ,米国に約830人の代表団を派遣し,平成15年8月から取り組んできた核兵器廃絶を求める署名約500万筆を国連本部に提出した。また,米国の反核団体などがニューヨークで実施した核兵器廃絶を訴える集会やパレードに参加するなど,海外団体との交流にも積極的に取り組んだ。
8月の原水爆禁止世界大会では,非核保有国の政府代表や海外反核・平和団体と連携する一大共同行動を目指し,過去最高の29か国264人の海外代表を招請した。大会では,NPT再検討会議が核軍縮に向けた合意に至らないまま終了したことをとらえ,米国の核政策を「核兵器独占体制強化を進めている」と批判した上で,国連加盟国に対し,NPTの遵守と軍縮義務の履行に向けた国連会議の開催を要求する国際共同キャンペーンを展開することを決定した。さらに,日本政府に核兵器廃絶に向けてイニシアチブを発揮するよう求めたほか,非核保有国や海外反核・平和団体と連携して運動を盛り上げていくことを確認した。
また,原水協は,大会期間中,「被爆体験の継承」を目的に「青年のつどい」を初めて開催し,海外の青年を含め約3,000人(主催者発表)を集めた。他方,中核派も,広島において労組や市民団体とともに「青年労働者交流集会」を開催し,青年労働者が反戦反核運動の先頭に立つよう呼び掛けた。
共産党や過激派は,今後も,核軍縮に向けた非核保有国政府や海外反核・平和団体への働き掛けを活発に展開するとともに,青年層への運動の浸透に力を注ぐものとみられる。
共産党や過激派は,衆参両院における憲法調査会の最終報告書の議決(4月)や衆院憲法調査特別委員会の設置(9月)など,与党や民主党の憲法改正に向けた動きに反発し,「憲法9条を守れ」などと訴えて様々な反改憲運動を展開した。
共産党は,第3回中央委員会総会(4月)で,改めて反改憲運動を重視する方針を示し,著名人による講演会などに取り組む「九条の会」の地域・職場単位における組織結成に積極的な役割を果たすよう督励した。また,憲法記念日には,「朝日」及び「毎日」の両紙に全面広告を掲載し,「9条改定は日本を『海外で戦争をする国』に変えること」などと訴えて,反改憲運動への結集を呼び掛けた。さらに,衆院憲法調査特別委員会における国民投票法制定に向けた議論の開始や自民党の「新憲法草案」及び民主党の「憲法提言」の公表(10月)をとらえて,「自民,民主の両党は改憲案づくりを加速させている」,「焦点は憲法9条第2項の改変に当てられている」などと批判する活動を行った。
過激派は,憲法記念日に各地で開催された反改憲集会を始め,市民団体などが主催する集会や学習会に活動家を参加させ,ビラ配布などを行って反改憲運動の盛り上げを図った。
各地の採択の結果,「つくる会」歴史教科書の採択率は0.4%であったが,これに対して,共産党は,「『二度とあのような戦争をしてはならない』という国民の良識が発揮された結果」などと評価した。
小泉総理の靖国神社参拝について,共産党は,「過去の侵略戦争を自存自衛の戦争などと正当化する靖国神社の戦争観に政府公認のお墨付きを与えるもの」として"靖国批判キャンペーン"を展開し(5〜7月),総理の参拝中止を求める世論の盛り上げを図った。また,過激派は「中国・朝鮮への新たな侵略戦争に乗り出すことを宣言するもの」などと批判した。
就任後5回目となった総理の靖国神社参拝(10月17日)に際しては,共産党が「日本外交の行き詰まりを一層深刻化させるもの」と批判したほか,中核派が同神社付近で「参拝糾弾」のシュプレヒコールを繰り返すなどの抗議活動を行った。
共産党や過激派は,今後,国民投票法制定をめぐる動きや靖国神社参拝などの諸問題を注視しつつ,様々な反対運動を引き続き強化していくものとみられる。
中核派は,労働運動を重視する「新指導路線」(平成15年提起)に基づき,労働戦線における勢力拡大の取組に全力を傾注した。特に,教員への浸透を「教労決戦」と称して,高校などの卒業・入学式の国歌斉唱,国旗掲揚時の起立問題に揺れる教員に対し,東京を始め大阪,広島などで,出勤時に「日の丸・君が代強制拒否」を訴えるビラを配布した。さらに,同派の大衆団体「とめよう戦争への道!百万人署名運動」のメンバーらを動員し,教職員組合事務所を個別に訪問させるなど,オルグ活動を繰り広げた。また,「新しい歴史教科書をつくる会」編纂の教科書が文部科学省の検定に合格したのを受け,これに反発する教職員組合や市民団体に対し,中核派系大衆団体を前面に立て共同行動を呼び掛けるなどして,自治体に不採択を求める署名運動や要請行動などに取り組む中で,教員や市民を同派主導の学習会に招いたり,採択阻止の集会に参加させるなどして取り込みを図った。こうした結果,"全党総決起の場"として,11月に開催した恒例の「全国労働者総決起集会」(東京都内)には,過去最高の約2,700人(平成16年は約2,350人)の参加者を集めた。また,同集会には,韓国・全国民主労働組合総連盟や米国・国際港湾倉庫労働組合から代表団を招き,「労働者の国際連帯」を内外に強くアピールした。
中核派は,平成18年も,機関紙「前進」に年頭の「革命軍アピール」を掲載し,武装闘争路線を堅持しながら,当面,組織拡大に向けた取組を継続・強化していくものとみられる。
革労協解放派の主流派と反主流派は,それぞれ,東京,福岡などのいわゆる「寄せ場」で,日雇い労働者などを対象に,炊き出しなどの生活支援や労働条件の改善を求める行政機関への要請行動などに取り組み,組織のすそ野の拡大に努めた。
また,革マル派は,基幹産業労組への影響力の拡大に取り組むとともに,反改憲運動を通じて市民層への浸透に努めた。これに対して共産党は,「しんぶん赤旗」で,革マル派が反改憲運動に入り込んでいるとした上で,「市民団体を装って憲法運動に接近する革マル派の狙いは,民主的な運動のかく乱・破壊である」などと指摘した。
また,MDSは,政府の有事体制づくりに反対する運動として,ジュネーヴ諸条約追加議定書を根拠に,「無防備地区宣言」条例の制定運動に取り組み,東京・荒川区など8自治体の住民らで運動体を組織し,それぞれ条例制定の直接請求に必要な法定数を超える署名を集めた。さらに,MDSは,各地の運動体で構成する全国ネットワークが,著名人らを呼び掛け人として運動推進を呼び掛ける「1,000人アピール」への賛同人集約や学習会に取り組むなど運動の伝播に努める中,運動に協力した市民に,傘下団体の集会への参加を呼び掛けたり,機関紙の購読や組織への加盟を働き掛けた。
MDSは,今後も,イラク「民主化勢力」への支援運動と「無防備地区宣言」運動を活動の柱に据え,市民の結集に努めていくものとみられる。
共産党は,平成15年の総選挙(20議席→9議席),16年の参院選(15議席→4議席)で議席を大幅に減らし,「自民か民主か」という「二大政党制」の構図に埋没する事態に直面する中で,「新しい政治の軸」づくりとして,(1)「野党」としての存在をアピールし,国民の間に党の価値・必要性を浸透させる,(2)党員と「しんぶん赤旗」読者を拡大して党の力量を強化する,ことを目指し,年初から総力を挙げて取り組んだ。
「野党」を押し出す取組では,4月の第3回中央委員会総会(3中総)で,民主党の「政権準備政党」宣言(2月)における「野党」という呼び方はやめるとの部分をとらえ,これは同党が自民党政権を批判する立場を放棄したものと指摘した上で,「まっとうな野党」としての共産党の役割が一層鮮明になっていると強調し,民主党を連立与党と同一視した批判・宣伝を行うとの姿勢を示した。その後,街頭や演説会で,「憲法改定でも消費税増税でも,自民・公明と民主による悪政の競い合いが進行している」と繰り返し訴えて,自民党政治と対峙する共産党の存在を強く印象付けることに努めた。さらに,10月の第4回中央委員会総会で,「二大政党づくり」との闘いは長期的課題であることを改めて確認し,民主党への批判宣伝を継続する構えを示した。
9月の総選挙では,「たしかな野党」をキャッチフレーズにして,選挙戦の争点となった郵政民営化方針に断固反対の姿勢を採り,さらに,税・社会保障問題と憲法改正問題を主要なテーマに掲げ,無党派層や反自民層からの支持獲得に努めた。
また,小選挙区に候補者を擁立したのは275選挙区であり,初めて300選挙区すべてに候補者を擁立しなかった。小選挙区での候補者擁立をめぐっては,平成16年11月の全国都道府県委員長会議で,候補者を絞り込んでも優先する比例票の積み上げができる態勢づくりを進めるとの方針を示したが,突然の解散・総選挙でこうした態勢づくりが不十分だったことから,積極的に候補者を擁立した。
選挙の結果は,比例で前回総選挙を約33万票上回る約492万票を得票して現有9議席(小選挙区では議席を獲得できず)を維持し,「11の比例ブロックのすべてでの議席獲得」という目標には届かなかったものの,平成12年からの国政選挙の連続後退に歯止めを掛けた。こうした点をとらえて共産党は,「善戦・健闘」と評価した上で,今後の国政選挙で本格的な前進を築く上で重要な土台となるとの見解を示した(9月12日,常任幹部会声明)。
過去10年間の党員数と「しんぶん赤旗」部数の推移 党勢拡大では,平成18年1月に第24回大会を開催することを表明した前記3中総で,大会に向けた「党勢拡大の大運動」(到達目標は党員約45万人,「しんぶん赤旗」約200万部)を提起し,伸び悩んでいる党勢の伸長を目指した。しかし,6月から7月は都議選に全国の党組織による支援体制を採り,8月から9月は総選挙に総力を挙げて取り組んだことから,入党及び「しんぶん赤旗」購読の勧誘活動にまで力を注ぐことができず,年初と比べて党員数(約40万人)は微増にとどまり,「しんぶん赤旗」部数(約165万部)は減少した。
共産党は,第24回大会で,増税問題,憲法改正問題及び安全保障問題を重要課題とする活動方針を決定し,自民党政治と対峙する「たしかな野党」としての存在をアピールしながら,喫緊の課題である無党派層や反自民層の取り込みと党勢拡大に力を注ぐものとみられる。
日本赤軍支援者らは,テルアビブ空港乱射事件が発生した昭和47年(1972年)5月30日(日本赤軍は同事件を「リッダ闘争」と呼称)を「リッダ闘争記念日」とし,毎年,同日前後に集会を開催しているが,平成17年も,5月28日に関東地区,7月18日に関西地区で,それぞれ集会を開催した。しかし,これらの集会開催に当たっては,事前に呼び掛けビラの配付などの宣伝活動は見受けられず,また,支援者らの参加も両地区合わせて約40人にとどまるなど,平成16年と同様,低調なものとなった。
こうした中,日本赤軍の公然面での後継組織「ムーブメント連帯」(「連帯」)は,機関紙「ニュースレターmovement連帯」を平成16年に引き続き不定期で発行しただけで,「連帯」主催でのパレスチナ関係の集会などは開催しなかった。
日本赤軍メンバーのうち,レバノンに逃亡(レバノン政府は「政治亡命者」として受入れ)している岡本公三のほか,奥平純三,佐々木則夫,坂東国男ら過去にハイジャック事件など数々の凶悪事件を引き起こしたメンバー計7人は,依然として逃亡している。
一方,国内では,日本赤軍リーダー重信房子が,関東地区で開催された「5・30集会」(5月28日開催)に向け,平成16年に引き続いて「連帯」機関紙に掲載する形で「声明」を発表し,その中で,日本赤軍の出発点となったテルアビブ空港乱射事件を引き続き評価した。また,「連帯」も,同様の評価をした「声明」を同時掲載した。
こうした動きは,日本赤軍の危険な体質に変化がないことを示すものであり,今後もこれらメンバーの動向などには注意を要する。
世界の反グローバル化勢力は,1月,ブラジル・ポルトアレグレにおいて,過去最大規模となる135か国・約15万5,000人(主催者発表)が参加して「第5回世界社会フォーラム」を開催した。同フォーラムは,「ブッシュ大統領のイラク戦争反対」などを訴えるデモ行進で始まり,6日間にわたって,「平和,脱軍事化と戦争,自由貿易と債務に抗する闘争」,「ネオリベラルな資本主義に対する人々の経済主権」など11のテーマに則して約
2,500に上る分科会が開催された。また,同フォーラムに出席したベネズエラのチャベス大統領が,米国の一極主義を非難する発言を繰り返し,聴衆の喝采を浴びるなど反米色が一層鮮明になった。
このほか,分科会の「世界社会運動会議」において,アジア地域における反グローバル化運動の強化も狙って,世界貿易機関(WTO)第6回閣僚会議(12月13〜18日,香港)に対する現地抗議行動に取り組むとの方針が採択された。
国内の反グローバル化運動については,JRCL(旧第四インター派)主導の「ATTAC-Japan」を中心に,韓国の左翼労働団体を始め反グローバル化運動に取り組むアジア各国団体との連携強化を図りつつ,「新自由主義グローバリゼーションを世界的規模で推進する機関」と批判してきたWTOの第6回閣僚会議に対する反対行動を軸に,運動の拡大・強化に取り組んだ。
「ATTAC-Japan」は,1月の「第5回世界社会フォーラム」に,我が国からは最大勢力の約30人を派遣し,各国のATTACなどとの交流に努めるとともに,前記「世界社会運動会議」に出席して,反WTO行動への結集を申し合わせた。同会議の決定を受け,WTO香港閣僚会議反対行動を平成17年の最重要課題に位置付けた上で,共産同統一委員会主導の「アジア共同行動日本連絡会議」(AWC日本連)などにも働き掛けて,2月,香港で開催された反対行動の準備会議(23か国・地域,約250人)に活動家を派遣し,国際共同行動として取り組むWTO香港閣僚会議反対行動の実施策について協議した。また,7月には,香港における反WTO行動を主導する「香港市民連合」の代表を招いてシンポジウムを開催し,国内の反グローバル化運動団体に向けて国際共同行動への参加を呼び掛けた。
さらに,「ATTAC-Japan」は,韓国で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚・首脳会議(11月15〜19日,釜山)を「WTOの合意形成を下支えするもの」ととらえ,韓国の団体からの呼び掛けにこたえて,反WTO国際共同行動の前哨戦としてAPECに対する現地抗議行動にも取り組むことを決定した。その上で,9月から10月にかけ,AWC日本連などと共同で,韓国の労働団体幹部を招き,東京,福岡など全国14か所で「全国連鎖行動」と銘打った集会・デモを実施し,反対行動の盛り上げを図った。11月のAPECに際しては,ブッシュ米国大統領の出席阻止を最大の目標として取り組まれた現地抗議行動に,「ATTAC-Japan」やAWC日本連などが総勢約80人を派遣し,韓国を始め米国,フィリピンなどの団体と連携・共闘して,連日にわたり集会・デモなどを繰り広げ,「戦争と貧困を拡大するAPEC反対」などを訴えた。また,「ATTAC-Japan」は,抗議行動の一環として開催されたアジア各国の反グローバル化運動団体の連携強化を目的とする「釜山国際民衆フォーラム」に参加し,反WTO国際共同行動について意思統一した。
平成18年の「世界社会フォーラム」は,世界5か所で分離開催され,「ATTAC-Japan」などは,10月にタイで開催予定の「東アジア社会フォーラム」に積極的に参加し,反APEC・反WTO行動でのアジア各国の団体との共同行動を足掛かりとした連携・交流を進め,東アジア規模における反グローバル化運動の強化を目指すものとみられる。
右翼団体の組織勢力は,暴力団の勢力拡大競争の影響を受けて支配下に糾合される団体が増加傾向にあり,なかでも,組長交代があった山口組系の団体の増加が顕著となった。こうした中,各団体は,経済不況や取締り強化などで,依然として慢性的な財政難から脱却できず,経費節減に苦慮しながら,国民の関心が高い外交・領土問題を中心に,課題を選択して活動に取り組んだ。
右翼団体は,3月末ころから中国各地で続発した反日デモを,「中国政府が国民の不満のはけ口として利用している」ととらえ,在日中国公館周辺で「被害を賠償しろ」などと抗議したり,政府の「弱腰外交」を批判する活動を活発に展開した。4月下旬には,右翼団体構成員が中国銀行横浜支店に向けて火炎瓶を投てきする事件などを引き起こした。5月以降,中国国内での反日デモは鎮静化したものの,中国政府要人が出席した京都でのアジア欧州会議(ASEM)外相会合や愛知万博中国ナショナルデー開催(5月)の機会をとらえて抗議活動に取り組んだほか,東京,横浜,大阪などで「中国との国交断絶」などを訴える「反中共デー」と称する抗議活動(9月),名古屋で中国公館の開設に反対する「中共領事館を設置させるな!反中共青年統一行動」(10月)などを実施した。
右翼団体は,島根県議会の2月22日を「竹島の日」とする条例制定(3月)以降,韓国内で日の丸や小泉総理の写真を燃やすなどの反日活動が活発化したことから,抗議の矛先を在日韓国公館に向けて「不法占拠している竹島から出て行け」などと訴える抗議活動を活発に展開した。なかには,「竹島問題への意気込みを示す」として,自ら切断した小指と抗議の血判状を日韓両政府に提出したり(3月),「政府が竹島問題に取り組むきっかけをつくりたい」として,島根県・隠岐島から船舶で竹島方面に向けて出航した(6月)ほか,「竹島奪還全国統一行動」と称し,各地の在日韓国公館に抗議する(10月)などの動きもみられた。
右翼団体は,北朝鮮問題に関し,「日本人拉致や核開発問題に具体的な進展がみられない」として,経済制裁の実施を訴える街宣活動や「万景峰92」新潟入港への抗議活動を継続したほか,拉致被害者支援団体などが開催した集会・デモ行進に参加する団体もみられた。北朝鮮が実施したミサイル発射実験をめぐっては,元右翼団体構成員が,我が国に対する宣戦布告であるとの抗議の意味から,朝鮮総聯中央本部付近で自らの身体に火を放つ事案(5月)が発生した。
右翼団体は,戦後60年を機会に,小泉総理の公約である終戦記念日の靖国神社参拝を求める主張を繰り返したほか,国内外から参拝の自粛や中止を求める声が出たことに反発し,中国,韓国の在日公館や参拝に反対する政財界関係者らへの抗議・要請活動を展開した。こうした中,京都の西本願寺が総理の参拝を違憲とする内容の声明を出したことに反発した右翼団体構成員が,刃物を持って同寺阿弥陀堂に侵入し,灯油をまく事件(9月)が発生した。一方,秋季例大祭初日の10月17日に総理が参拝したことについては,おおむね肯定的に評価したものの,一部団体からは,例年に比べ略式の参拝形式となったことに不満の声が上がった。
右翼団体は,北朝鮮問題を始め,領土,歴史認識問題など中国,韓国との外交問題を中心に,引き続き,政府・自民党に強い対応を求める活動を展開していくほか,国立追悼施設建設に向けた動きについても注視している。なお,皇位継承に絡む皇室典範改正問題に関しては,「我々が意見を言うこと自体おそれ多い」としつつも,強い関心を示している。
特異集団は,社会通念とかけ離れた主義・主張を掲げ,平成17年中も,これに基づいた特異な活動を展開した。
「かつて首都圏での大地震を予言し,これに乗じたクーデター計画を目論んでいた」などと報道された集団は,一連の報道を機に,会員を対象とする儀式をマスコミ関係者に公開する一方,クーデター計画については「会員に覚悟を持たせるためで,実現の見込みはなかった」旨主張してこれを打ち消す動きをみせたが,6月には,同集団の関連会社運営をめぐり,社員に給与の一部を返還させる手口で資金を不正捻出したとして,3年間で1億3,000万円の申告漏れが指摘され,約3,600万円が追徴課税される事案が発覚した。
また,10年以内に300万人会員の達成を目標とする集団が,相次ぐ自然災害をとらえて「巨大地震・異常気象は大闘争の前兆」などと恐怖心をあおり,「男子精鋭十万の結集で亡国日本を救わん」と訴えて布教を呼び掛けたほか,大学生などの若年層を対象として,執拗な勧誘を展開し,監禁容疑で逮捕され関連施設などが家宅捜索される事件(7月)を引き起こすなど,社会との軋れきを顕在化させる動きもみられた。
このほか,「朝鮮半島の統一」を標榜して,我が国で在日韓国・朝鮮人を糾合する新組織への結集を目指し,これら在日関係者を韓国の大会に参加させるなどして,在日組織との間で軋れきを生じさせるといった動きを示す集団もあった。
こうした特異集団は,引き続き,独自の主義・主張の具現化に向け,危機感や不安感をあおって勢力拡大を図っており,その過程で不法事案を引き起こすことも懸念される。