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第212回国会(臨時会)衆議院法務委員会における小泉龍司法務大臣所信表明

令和5年11月7日(火)

はじめに

この度、法務大臣を拝命いたしました小泉龍司です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
武部委員長を始め、理事及び委員の皆様方には、平素から法務行政の運営について格別の御理解と御尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、改めて申し上げるまでもありませんが、法規範とそれを遵守する国民の意識が我が国の社会におけるあらゆる営みの基盤となっています。国民が互いを信頼し合える社会をつくり、維持することこそ、今日、国民が法務行政に求める最も大きな課題であると考えます。
この大きな使命を念頭に置き、時代の変化を踏まえ、何が国民の幸せにつながるのか、という視点から、法務省設置法三条一項に掲げられた法務省の五つの任務を改めて掘り下げていくことが必要です。

以下、大きなくくりとして、法秩序の維持、国民の権利擁護、出入国及び外国人の在留の公正な管理、法務行政における国際貢献、時代に即した法務行政に向けた取組等に分けて、当面する具体的課題を述べてまいります。

法務行政の具体的課題への取組

1 法秩序の維持に向けた取組

(再犯防止に向けた取組の推進)
第一次再犯防止推進計画下においては、国・地方公共団体・保護司を始めとする民間協力者の連携が進み、犯罪をした者に対し、刑事司法手続終了後も含め、再犯防止を図るための様々な取組が行われてきました。そうした取組の結果、再犯者数が着実に減少し、出所受刑者の2年以内再入率を令和3年までに16パーセント以下にするという数値目標を令和元年出所者について達成するなど、一定の成果も認められました。
しかし、刑法犯で検挙された者の約半数が再犯者という状況は続いています。こうした状況を踏まえ、第二次再犯防止推進計画下においては、犯罪をした者等が地域社会に立ち戻っていくことができるよう、保健医療・福祉関係機関を含め、国・地方公共団体・民間協力者の連携をこれまで以上に進めていきます。まだ道半ばではありますが、再犯の防止に向けてしっかりと取り組んでいきます。

(拘禁刑時代における新たな処遇の実現に向けた取組等)
令和7年6月に拘禁刑が導入されます。拘禁刑は、個々の受刑者の特性に応じたきめ細かな処遇の実施により、効果的な改善更生と円滑な社会復帰を図ることを目的としています。その導入に向けて、運用の検討を進めるとともに、刑務所等における適正な処遇の実施に努めてまいります。

(性犯罪・性暴力対策の推進)
性犯罪・性暴力は、被害者の尊厳を著しく傷つけ、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続けます。「性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針」等を踏まえ、先の通常国会で成立した改正刑法等の趣旨・内容の周知、同法による厳正な対処及び再犯防止施策の更なる充実強化等を図り、性犯罪・性暴力対策を進めます。

(経済安全保障の確保等)
我が国における経済安全保障の確保やテロ関連動向の把握に向け、公安調査庁は、サイバー空間上の脅威を含む関連の情報収集・分析能力を一層強化するとともに、その成果を関係機関へ提供することなどにより、政府の施策に更に積極的に貢献します。
北朝鮮に対しては、人的往来の規制強化措置等を適切に実施し、核・ミサイル関連の動向、日本人拉致問題を含む対外動向や北朝鮮内部の状況等について、関連情報の収集・分析等を進めます。我が国の領土・領海・領空の警戒・警備に関しても、関係機関と連携し、適時適切な情報提供を行います。
さらに、いわゆるオウム真理教について、団体規制法に基づく観察処分の適正かつ厳格な実施やアレフに対する再発防止処分の実効性の確保等を通じた公共の安全確保に努めます。

2 国民の権利擁護に向けた取組

(犯罪被害者等の方々への支援等)
犯罪被害者等の方々に対しては、「第四次犯罪被害者等基本計画」及び「犯罪被害者等施策の一層の推進について」に沿って、きめ細やかな支援を実施します。
また、本年12月から、刑事施設等において、申出のあった被害者や御遺族の方々からその心情等を聴取し、矯正処遇・矯正教育に生かすほか、受刑者等に伝達する制度の運用が開始されます。その円滑な導入に向けて必要な各種準備を進め、犯罪被害者等の方々に寄り添った制度となるよう、万全を期します。その心情、その置かれている状況を十分に考慮し、犯罪被害者等の方々の思いに応える保護観察処遇等の充実にも取り組みます。

(困難を抱えるこどもたちへの取組)
困難を抱える子供たちへの取組を進めるため、父母の離婚等に伴う子の養育の在り方について、所要の制度の見直しについて検討するとともに、運用上の対応にも取り組みます。また、児童虐待については、政府で取りまとめた「児童虐待防止対策の更なる推進について」も踏まえ、関係機関と連携し、その根絶に取り組みます。

(様々な人権問題等への対応)
いじめや虐待、マイノリティの方々に対する偏見や差別、インターネット上の人権侵害など、様々な人権問題への対応については、一人一人がお互いを尊重し合える社会を目指し、関係省庁等と連携し、人権相談や調査救済活動を充実強化します。また、効果的な人権啓発活動等の取組を推進します。

(総合法律支援の充実・強化)
法テラスと関係機関・団体等との緊密な連携の下、専門家等によるサポートなど、様々な困難を抱える方々に寄り添った総合法律支援の一層の充実と、そのために必要な体制の強化に努めます。

(「旧統一教会」問題への対応)
「旧統一教会」について社会的に指摘されている問題等に関しては、法テラスの総合的対応窓口において一元的な相談対応を行います。また、関係機関等との必要な情報共有を図り、被害の実効的な救済に万全を尽くします。

3 出入国及び外国人の在留の公正な管理を実現するための取組

(外国人との共生社会の実現)
急速なグローバル化が進む中で、我が国は外国人とどのような形で共生社会をつくることが必要であり、また適切であるかという大きな課題に直面しています。
この課題に対処していくため、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」では、「安全・安心な社会」、「多様性に富んだ活力ある社会」、「個人の尊厳と人権を尊重した社会」という三つのビジョンが明示されています。
外国人との共生社会を実現するための法務行政の具体的な在り方としては、「外国人の人権に配慮しながら、ルールにのっとって外国人を受け入れ、適切な支援等を行うとともに、ルールに反する者に対しては厳正に対応する」ことを基本とします。

(入管法等改正法の施行に向けた取組)
こうした視点に立ち、さきの通常国会において成立させていただいた入管法等改正法については、現在、入管庁において、法案審議での御指摘の趣旨も踏まえ、その施行準備を進めています。特に、人道上の危機に直面する真に保護すべき方々をより確実に保護するための補完的保護対象者の認定制度の創設に関する規定や、衆議院の修正において追加された難民の認定等を適切に行うための措置についての規定等は、本年12月1日に施行することとしていますので、その準備に万全を期するとともに、制度の適正な運用を図ります。

(技能実習制度及び特定技能制度の見直し)
技能実習制度及び特定技能制度の見直しについては、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」において取りまとめられる予定の最終報告書等も踏まえ、制度の具体化に向けて、関係省庁等とも連携の上、政府全体でしっかりと取り組みます。

4 法務行政における国際貢献に向けた取組等

(法の支配の推進に向けた国際協力及び司法外交の推進)
国際情勢が大きく変化する中、「法の支配」や「基本的人権の尊重」といった価値は、主要先進国に共通する理念としてその重みを一層増しつつあります。
法務省は、既に国連と協力して60年以上にわたり国際研修等を実施してきたほか、約30年に及ぶ東南アジア諸国を中心とした法制度整備支援を行ってまいりました。これらに加えて、法の支配等の価値を世界に浸透させる司法外交を一層推進します。
とりわけ、本年7月には、ASEANとG7双方の閣僚級が一堂に会する史上初の会合であるASEAN・G7法務大臣特別対話等を主催しました。今後、各会議の成果文書に掲げられたコミットメントを着実に実行に移します。
また、京都コングレスの成果の一つである「京都保護司宣言」を踏まえ、我が国が誇る保護司制度を世界へ発信・普及させる取組も推進します。

(経済活動の国際化を支える環境整備)
国際商取引及びその紛争解決に関する国際ルールの重要性に鑑み、国連国際商取引法委員会、UNCITRAL等の国際機関との連携を強化し、そのような国際ルールの形成を主導します。また、我が国における国際仲裁の活性化に向けた取組を進めます。
我が国法令の外国語訳を整備して国際発信することは、国際商取引を円滑化し、対日投資を促進するための基盤となるものであり、関係省庁等との緊密な連携の下、AI翻訳を活用した新たな業務スキームを活用するなどして取組を一層加速させます。

5 時代に即した法務行政に向けた取組等

最後に、時代に即した法務行政に向けた取組について、主要な項目を申し上げます。

(法務・司法のDXに向けた取組等)
法務・司法のIT化、デジタル化を強力に推し進めます。
具体的には、刑事手続における情報通信技術の活用等や、司法試験等におけるCBT方式の導入、保護司活動を含めた更生保護行政のデジタル化、ODRの推進、法テラスにおけるデジタル人材の活用や各種業務・手続のデジタル化などにしっかりと取り組みます。
また、「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人」の政府目標に向け、今後も訪日外国人旅行者数の増加が見込まれる中、デジタル技術等の活用による出入国審査業務の更なる高度化を着実に進めるとともに、出入国管理体制を計画的に整備します。

(所有者不明土地問題への対策等)
所有者不明土地問題への対策は、将来を見据えて政府全体で取り組むべき課題です。
来年4月から施行される相続登記の申請義務化は、この対策の中核を成すものであり、関係機関と連携し、幅広い国民への周知・広報などに取り組みます。
これと共通の課題があり、今後急増することが見込まれる老朽化マンション等についても、区分所有法制の見直しに向けて、しっかりと検討を進めます。
土地に関する重要な情報基盤である登記所備付地図の整備については、全国において法務局の地図作成事業を推進します。また、令和7年度以降の次期地図整備計画の策定に向けた検討を進めます。

(法務省施設の耐震化・老朽化対策等の強靱化)
矯正施設を始めとする法務省施設の耐震化・老朽化対策については、中長期的な視点に立ち着実に推進します。また、災害発生時の避難所としての機能確保にも努めます。

(法教育の推進)
自由で公正な社会を実現するには、社会を形作る一人一人が自らの考えをしっかりと持つこと、そして、多様な考え方を認め合い、互いを尊重して生きていく力を身につけることが重要です。その基礎となる諸原理や法の役割を理解し、法的な物の考え方を身につけられるよう、法教育を積極的に推進します。

(高度・複雑化する法務・司法制度を支える人材育成等)
法的需要の高度、複雑化に対応できる法曹人材確保に向け、関係機関等と連携し、より多くの人材が法曹を志望する環境整備を推進します。また、訟務機能の充実強化に取り組みます。

(裁判官・検察官の報酬等)
裁判官の報酬月額及び検察官の俸給月額を改定するための「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」につき、今国会での速やかな成立を目指します。

結び

私は、副大臣、大臣政務官の御協力を得ながら、全ての法務職員と力を合わせ、公正、公平な社会の実現を目指し、全力で努力してまいります。また、法務省は、5万人を超える職員が働く「人が支える官庁」です。その能力が最大限発揮されるよう、ワーク・ライフ・バランスの実現にもしっかりと取り組みます。
武部委員長を始め、理事、委員の皆様方には、より一層の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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