第210回国会(臨時会)衆議院法務委員会における齋藤健法務大臣所信表明
はじめに
このたび法務大臣を拝命した齋藤健です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
まず、何よりも、前任者のこととはいえ、委員会の皆様に多大なる御迷惑をおかけしましたことを心からお詫び申し上げます。
国内外を取り巻く課題が山積しているこの時期に法務大臣を拝命することとなり、その職責が特に重大であることを痛感いたしております。
私といたしましては、委員長始め委員の皆様方の御理解と御協力を賜りまして、法務行政の各分野にわたり、時代の要請に応じた適切な施策を講じ、国民から信頼される法務行政を目指して、誠実に職責を果たしてまいりたいと存じます。
さて、国民が日々、安全に、そして安心して暮らすためには、その基盤である法秩序が揺るぎなく維持され、国民の権利がしっかりと保全されていなければなりません。法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護等を任務としており、まさに国民生活の基盤を守ることを使命としているものと考えています。
私は、国民から信頼される法務行政を目指し、誠心誠意、その使命を果たしてまいりたいと存じます。
法務行政における具体的課題への取組について、述べてまいります。
法務行政の具体的課題への取組
1 共生社会の実現
まず、共生社会の実現は、法務行政における重要な課題の一つです。
(外国人との共生社会の実現)
外国人との共生社会の実現については、これまで、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に基づき、関係府省庁と連携し、外国人在留支援センター(FRESC)における支援等の取組を推進してまいりました。また、本年6月には、目指すべき外国人との共生社会のビジョン、その実現に向けて中長期的に取り組むべき重点事項及び具体的施策を示した「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定しました。
今後、これらに基づき、関係府省庁等と緊密に連携し、外国人との共生社会の実現に向けた環境整備を一層推進してまいります。
そのような環境整備の前提として、解決しなければならない課題があります。
すなわち、退去強制令書が発付されたにもかかわらず、様々な理由で送還を忌避する者が後を絶たず、入管施設での収容の長期化が生じており、かねてよりこの問題の解決の必要性が指摘されてきました。
この問題を解決し、退去強制手続を一層適切かつ実効的なものとするための制度を早期に整備することは、喫緊の課題です。
また、昨年3月に名古屋出入国在留管理局において発生した被収容者の死亡事案を重く受け止めなければなりません。この場をお借りして、改めて、亡くなられた方の御冥福をお祈りするとともに、御遺族にお悔やみ申し上げます。法務省においては、調査報告書で示された改善策を中心として、出入国在留管理庁の組織・業務の改革を更に進めるとともに、被収容者の人権に配慮した適正な処遇の実施を徹底するための制度の整備を行うことが必要です。
さらに、我が国は、本年2月にロシアによるウクライナ侵略が発生した後、人道上の観点から、ウクライナから避難された方々を幅広くかつ柔軟に受け入れてきました。このような人道上の危機に直面する真に庇護すべき方々を、より確実に保護する制度の整備もまた、早急に対応すべき重要な課題の一つです。
これらの課題を一体的に解決し、出入国在留管理制度全体を適正に機能させるための法整備を速やかに検討してまいります。
加えて、特定技能制度及び技能実習制度については、本年2月から7月まで「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会」が開催されました。
今後は、この勉強会で把握した課題・論点等も踏まえつつ、関係省庁とも連携しながら、両制度の在り方について政府全体でしっかりと検討を行ってまいります。
(再犯防止に向けた取組)
再犯防止に向けた取組については、国・地方公共団体・民間協力者が一体となった「息の長い支援」が可能となるよう、保護司等の民間の方々の活動に対する支援や、地方公共団体の取組への支援などにより、地域における支援ネットワークの一層の充実強化に取り組んでまいります。
また、先の通常国会で成立した「刑法等の一部を改正する法律」の施行を見据え、新たな自由刑や被害者等の心情等を処遇に反映するための制度の施行や、更生緊急保護制度の拡充等の満期釈放者対策等の実施に向けた体制の整備に取り組んでまいります。
さらに、再犯防止推進計画に基づくこれまでの取組の成果や課題を踏まえ、次期再犯防止推進計画の策定に向けた検討を進めます。
加えて、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」に基づく再犯防止施策の充実強化等に取り組むとともに、関連する刑事法の整備について、引き続き、しっかりと検討を進めてまいります。
(様々な人権問題等への対応)
お互いを尊重し合える社会を目指し、人権相談や調査救済活動を充実強化するとともに、効果的な人権啓発活動等の取組を推進してまいります。
また、インターネットの利用に関し、関係府省庁や民間事業者と連携し、そのルールやマナーの啓発と、不適切な書き込みの解消に取り組みます。
(法教育の推進)
全ての人々が、自らの考えをしっかりと持ち、多様な考え方・生き方を尊重し、共に協力して生きていく力を身に付けることは、共生社会実現の礎となるものです。その基礎となる諸原理や法の役割を理解し、法的なものの考え方を身に付けるための法教育を一層推進してまいります。
2 困難を抱える方々への取組の推進
次に、困難を抱える方々への取組の推進も、法務行政が取り組むべき重要な課題です。
(児童虐待防止対策・困難を抱える子どもたちへの取組)
児童虐待については、本年9月に政府で取りまとめた「児童虐待防止対策の更なる推進について」も踏まえ、児童相談所等との関係機関と連携し、その根絶に取り組んでまいります。
また、いわゆる無戸籍問題については、一人一人に寄り添った支援を行うとともに、その発生を防ぐため、民法の嫡出推定制度に関する見直し等を内容とする「民法等の一部を改正する法律案」につき、今国会での成立を目指してまいります。
さらに、父母の離婚等に伴う子の養育の在り方について、制度の見直しについて検討するとともに、運用上の対応にも取り組んでまいります。
(犯罪被害者等の方々への支援等)
犯罪被害者やその御家族が、被害から回復し、平穏な生活を取り戻せるよう、第四次犯罪被害者等基本計画に沿って、きめ細やかな支援を実施してまいります。
また、刑事手続を通じて犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための法整備について、法制審議会の答申を踏まえ、法整備に向けた検討を進めてまいります。
(総合法律支援の充実)
多様化する法的需要に即応し、困難を抱える方々の特性に応じた法的支援に積極的に取り組むことで、誰一人取り残さない社会の実現を目指します。
法テラスが、総合法律支援の中核を担い、社会のセーフティネットとしての役割を十分果たせるよう、関係機関等との更なる連携を図るとともに、その業務の充実・体制の強化に努めてまいります。
(「旧統一教会」問題への対応)
「旧統一教会」について社会的に指摘されている問題等に関し、今後、関係省庁連絡会議において取りまとめられた「被害者の救済に向けた総合的な相談体制の充実強化のための方策」について、関係省庁と連携して実施するとともに、法テラスの人的・物的体制を強化し、関係機関・団体等との連携の強化を図り、利用しやすい相談体制を整備するなど、被害者の実効的な救済に向けた取組を強力に推進してまいります。
3 時代に即した法務・司法制度の実現
次に、時代に即した法務・司法制度の実現も法務行政における喫緊の課題です。
(デジタル化・IT化の推進)
まず、民事執行等の民事裁判手続、人事訴訟手続及び家事事件手続等のIT化について、スピード感を持って検討を進めるとともに、デジタル技術を活用した裁判外紛争解決手続であるODRの推進についても、積極的に取り組んでまいります。
また、刑事手続においても情報通信技術を活用することにより、手続に関与する国民の負担軽減や更なる手続の円滑化・迅速化を図るとともに、情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に刑事法として対処することを検討してまいります。これらの点については、先般、法制審議会に諮問をしたところであり、今後、審議結果を踏まえ、必要な法整備を行ってまいります。あわせて、IT基盤の整備についても、高い情報セキュリティの確保を前提として、検討を推進してまいります。
さらに、法テラスでは、情報提供や法律相談におけるデジタル技術の活用を推進するとともに、デジタル人材の活用による情報システムの構築を図るなど、デジタル基盤の強化に努めてまいります。
このほか、保護司活動を含めた更生保護行政のデジタル化についても、情報セキュリティに十分に配慮しつつ、スピード感を持って進め、 人権相談・人権啓発活動においても、時代に即したインターネット・SNS等の積極的な活用を推進してまいります。
(経済安全保障の確保等)
近年、経済安全保障の重要性が一層高まっており、本年5月には日米豪印4か国の首脳が、重要・新興技術を含む幅広い分野での緊密な連携を確認しています。また、国内では、経済安全保障推進法が成立し、今後、政府において、経済安全保障分野における自律性の向上や優位性の確保等に向けた施策が進められます。公安調査庁は、経済安全保障の確保に資する情報収集・分析能力を一層強化するとともに、官民連携に向けた取組を推進し、サイバー空間上の脅威についても関連情報の収集及び分析等を進め、これらの成果を適時適切に関係機関へ提供することなどにより、これら施策に更に積極的に貢献してまいります。
そして、国内外におけるテロ関連動向の把握に努め、関係機関との連携を緊密にしつつ、情報収集・分析機能の強化を図ります。
また、北朝鮮に対しては、人的往来の規制強化措置等を適切に実施するとともに、核・ミサイル関連の動向、日本人拉致問題を含む対外動向や国内状況等について、関連情報の収集・分析等を進めます。我が国の領土・領海・領空の警戒・警備に関しても、関係機関と連携し、適時適切な情報提供を行ってまいります。
さらに、いわゆるオウム真理教について、団体規制法に基づく観察処分の適正かつ厳格な実施等を通じた公共の安全確保に努めてまいります。
(公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備)
保釈中の被告人等の逃亡を防止し、公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について、法制審議会の答申を踏まえ、法整備に向けた検討を進めてまいります。
(所有者不明土地問題への対策等)
所有者不明土地問題への対策は、政府全体で取り組むべき重要課題であり、相続登記の申請義務化を始めとする新たな民事法制の円滑なスタートに向けて、関係機関と連携した様々な取組を推進します。
また、今後急増することが見込まれる老朽化マンション等においても所有者不明土地と共通の課題があることを踏まえ、区分所有法制の見直しに向けて、しっかりと検討を進めてまいります。
あわせて、土地に関する重要な情報基盤である登記所備付地図の整備に向けて、法務局の地図作成事業について、国民のニーズを踏まえ、着実に推進してまいります。
(法務省施設の耐震化・老朽化対策等)
矯正施設を始めとする法務省施設の耐震化・老朽化対策を着実に推進することに加え、災害発生時の避難所としての機能確保も進めてまいります。
(高度・複雑化する法務・司法制度を支える人材育成等)
高度・複雑化する法的需要に対応できる法曹人材確保に向け、より多くの有為な人材が法曹を志望し、社会の様々な分野で活躍できるよう、文部科学省を始めとする関係機関等と連携し、法曹養成制度改革法の着実な実施を含め、必要な取組を積極的に進めてまいります。
また、訟務機能の充実強化にも取り組んでまいります。
(裁判官及び検察官の報酬等)
裁判官の報酬月額及び検察官の俸給月額を改定するための「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案」につき、今国会での速やかな成立を目指してまいります。
4 国際化・国際貢献の推進
最後に、国際化・国際貢献の推進についてです。この点も、法務行政における重要な課題です。
(法の支配の推進に向けた国際協力)
我が国は、長年にわたり、開発途上国等に対し、相手国の実情に応じたきめ細やかな法制度整備支援を行うとともに、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を通じた国際研修等の実施により、国際社会における法の支配の確立に貢献してまいりました。
ロシアによるウクライナ侵略をはじめとする力による一方的な現状変更の試みにより国際社会が大きな歴史の岐路に立つ中で、法の支配や基本的人権の尊重といった普遍的原理を世界各国に発信・共有する必要性がますます高まっています。国際社会の平和と安定のため、こうした国際協力を通じた「司法外交」を一層強力に推進してまいります。
(国際展開への取組)
昨年3月の京都コングレスの成果を具体化することを通じ、「ルールに基づく国際秩序」の維持・強化に引き続き主導的役割を果たしてまいります。
また、京都コングレスのサイドイベント「世界保護司会議」で採択された「京都保護司宣言」を踏まえ、我が国が誇る保護司制度を世界へ発信・普及させる取組を推進してまいります。
さらに、令和5年に、ASEAN各国の法務・司法大臣を日本にお招きし、日ASEAN特別法務大臣会合を開催すべく準備を進めます。この会合を通じ、ASEAN地域における「ルールに基づく国際秩序」を維持し、強化していくとともに、法制度整備支援・各種研修の実施等の長年の取組を更に深化させ、戦略的な司法外交を推進してまいりたいと考えています。
(経済活動の国際化を支える環境整備)
日本経済の成長のためには、国際商取引の円滑化、対日投資の促進が重要であり、その基盤の整備に向けて全力で取り組んでまいります。
まず、関係府省庁と連携し、体制の強化等を図り、法令外国語訳の国際発信に向けた取組を一層推進するとともに、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)等の国際機関と連携して、国際商取引及びその紛争解決に関する国際ルールの形成に積極的に貢献してまいります。
また、我が国の国際仲裁の活性化に向けて、日本国際紛争解決センター(JIDRC)のサービス向上のほか、人材育成や広報啓発の取組を更に進めるとともに、仲裁法等の改正に向けた関連法案を国会に早期に提出することができるよう、所要の準備を進めます。
(新型コロナウイルス感染症の水際対応及びポストコロナ時代を見据えた出入国審査の実施)
新型コロナウイルス感染症の水際対策においては、出入国在留管理行政を担う立場から、強い使命感を持って対策に取り組みます。また、ポストコロナを見据え、「2030年に訪日外国人旅行者数6千万人」の政府目標に向けて、より一層円滑かつ厳格な出入国審査を実現するため、デジタル技術等を活用した出入国審査業務の高度化を着実に進めてまいります。
結び
私は、門山宏哲副大臣、高見康裕政務官の御協力を得ながら、すべての法務省職員と力を合わせ、信頼される法務省を目指し、全力を尽くしてまいります。
委員長を始め、理事、委員の皆様方には、より一層の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。