平成30年6月8日
公正取引委員会
公正取引委員会は,平成26年4月1日の消費税率の引上げを踏まえ,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から,消費税の転嫁拒否等の行為(以下「転嫁拒否行為」という。)の未然防止のための取組と,転嫁拒否行為に対する迅速かつ厳正な対処のための取組を進めてきたところ,平成29年度の消費税転嫁対策に関する取組状況は以下のとおりである。
(1) 転嫁拒否行為等についての相談対応
公正取引委員会は,転嫁拒否行為等に関する事業者からの相談や情報提供を一元的に受け付けるための相談窓口を,本局及び全国の地方事務所等に設置しており,平成29年度において,392件の相談に対応した(第1表参照)。
(注) 転嫁カルテル及び表示カルテルの届出に関する相談件数並びに情報提供件数を含む。
(2) 事業者及び事業者団体に対するヒアリング調査
公正取引委員会は,様々な業界における転嫁拒否行為に関する情報や取引実態を把握するため,平成29年度において,1,009名の事業者及び346の事業者団体に対してヒアリング調査を実施した(第2表参照)。
(3) 移動相談会
公正取引委員会は,事業者にとって,より一層相談しやすい環境を整備するため,全国各地で移動相談会を実施することとしており,平成29年度において,移動相談会を43回実施した(第3表参照)。
(4) 書面調査
ア 中小企業・小規模事業者等に対する書面調査
公正取引委員会は,転嫁拒否行為を受けた事業者にとって自らその事実を申し出にくい場合もあると考えられることから,転嫁拒否行為を受けた事業者からの情報提供を受身的に待つだけではなく,書面調査を実施し,転嫁拒否行為に関する情報収集を積極的に行うこととしている。
公正取引委員会は,平成29年度においても転嫁拒否行為を監視するため,平成28年度に引き続き中小企業庁と合同で,中小企業・小規模事業者等(約280万名)に対する悉皆的な書面調査を実施した。また,中小企業庁と合同で,個人事業者(約350万名)に対する書面調査を実施した。
イ 下請法の書面調査等の活用
公正取引委員会は,下請法の書面調査等を通じて,転嫁拒否行為に関する情報も併せて収集し,転嫁拒否行為に関する情報が得られた場合には,速やかに調査を行うとともに,消費税転嫁対策特別措置法に基づく調査において,下請法に違反する事実が判明した場合には,下請法に基づき迅速かつ厳正に対処するなど,下請法と一体的に効率的な運用を行っている。
(1) 措置件数
公正取引委員会は,様々な情報収集活動によって把握した情報を踏まえ,立入検査等の調査を積極的に実施しており,違反行為が認められた事業者に対しては転嫁拒否行為に係る不利益の回復などの必要な改善措置を迅速に行っている。
平成29年度は,勧告5件,指導370件の措置を講じている(第4表参照)。勧告については,勧告を行うとともに,違反行為を行った特定事業者(注1)名,違反行為の概要等を公表している(勧告の概要は別紙1,主な指導の概要は別紙2参照)。
なお,措置件数(勧告又は指導を行った事件の件数をいう。以下同じ。)375件の地区ごとの内訳は,第5表のとおりである。
(注1) 特定事業者とは,[1]大規模小売事業者,[2]特定供給事業者(注2)から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者である。
(注2) 特定供給事業者とは,[1]大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者,[2]資本金等の額が3億円以下である事業者,個人事業者等である。
年 度
勧 告
指 導
合 計
(注) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
《 》内の件数は,大規模小売事業者に対する勧告又は指導の件数で内数。
北海道地区(北海道)
東北地区(青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県)
関東甲信越地区(茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,山梨県,長野県)
中部地区(富山県,石川県,岐阜県,静岡県,愛知県,三重県)
近畿地区(福井県,滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県,和歌山県)
中国地区(鳥取県,島根県,岡山県,広島県,山口県)
四国地区(徳島県,香川県,愛媛県,高知県)
九州地区(福岡県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県,鹿児島県)
沖縄地区(沖縄県)
(注1) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
(注2) 措置を採った特定事業者の本店所在地により区分している。
(注3) 地区ごとの消費税転嫁対策特別措置法の運用状況等については別途公表することとしている。
(2) 措置件数の業種別内訳
平成29年度に措置を採った特定事業者について,業種別で分類すると,製造業が84件(22.4%)と最も多く,建設業54件(14.4%),情報通信業43件(11.5%)がこれに続いている(第6表及び第1図参照)。
(注1) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
(注2) 複数の業種にわたる場合は,当該事業者の主たる業種により分類している。「その他」は娯楽業,医療福祉,事業サービス業(ビルメンテナンス業,警備業等)等である。
(注3) ( )内の数値は合計値に占める割合であり,小数点以下第2位を四捨五入しているため,合計は必ずしも100とならない。
(3) 措置件数の行為類型別内訳
平成29年度の措置件数について行為類型別で分類すると,減額(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号前段)が36件,買いたたき(同法第3条第1号後段)が363件,本体価格での交渉の拒否(同法第3条第3号)が1件となっている(第7表及び第2図参照)。
(注1) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
(注2) 1件の事件において複数の違反行為類型について勧告又は指導を行っている場合があるため,違反行為の類型別件数の合計と第4表から第6表に記載の措置件数とは一致しない。
(注3) ( )内の数値は合計値に占める割合であり,小数点以下第2位を四捨五入しているため,合計は必ずしも100とならない。
(4) 特定供給事業者が被った不利益の原状回復の状況
平成29年度において,転嫁拒否行為によって特定供給事業者が被った不利益については,特定事業者357名から,特定供給事業者21,698名に対し,総額8億1008万円の原状回復が行われた(第8表参照)。行為類型別でみると,買いたたきに係る原状回復が最も多い(第9表参照)。原状回復額に関し,転嫁拒否行為を行った特定事業者について,業種別にみると,[1]不動産業が最も多く(2億2649万円,28.0%),[2]情報通信業(1億8647万円,23.0%),[3]小売業(9783万円,12.1%)がこれに続いている(第3図参照)。
(注1) 累計の数値は,平成26年4月から平成30年3月までの累計。
(注2) 各期間の原状回復額は1万円未満を切り捨てている。
(注1) 累計の数値は,平成26年4月から平成30年3月までの累計。
(注2) 特定事業者数及び特定供給事業者数は延べ数であり,合計の値は第8表に記載の事業者数とは必ず
しも一致しない。
(注3) 各期間の原状回復額は1万円未満を切り捨てている。
公正取引委員会は,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として,消費税転嫁対策特別措置法の周知等,転嫁拒否行為を未然に防止するための各種の施策を実施している。消費税転嫁対策の広報として,当委員会のウェブサイトに「消費税転嫁対策コーナー」を設けて各種の資料を掲載しているほか,リーフレット,パンフレット及びポスターの配布を行っている。また,消費税転嫁対策特別措置法の運用を踏まえて,「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」を作成し,当委員会のウェブサイトに掲載している(注)。このほか,以下のとおり,消費税転嫁対策特別措置法に係る説明会等の開催や,講師の派遣を実施している。
(注) http://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/tenka-FAQ.html
公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法の内容を広く周知するため,事業者及び事業者団体を対象として,当委員会主催の説明会を実施しており,平成29年度において,42回の説明会を実施した(第10表参照)。
公正取引委員会は,商工会議所,商工会,事業者団体等が開催する説明会等に,当委員会事務総局の職員を講師として派遣しており,平成29年度において,職員を15回派遣した(第11表参照)。
公正取引委員会は,転嫁拒否行為が禁止されていること,転嫁拒否行為に対して当委員会が厳しく監視していること及び転嫁拒否行為に関する積極的な情報提供を求めていることを広く周知するため,平成29年11月に,新聞広告,雑誌広告,ラジオ広告及びインターネット広告により,事業者向け広報を集中的に実施した(別紙3参照)。
消費税転嫁対策特別措置法では,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため,事業者又は事業者団体が行う,消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為(転嫁カルテル)及び消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為(表示カルテル)について,公正取引委員会に事前に届け出ることにより独占禁止法に違反することなく行うことができるものとしている。
公正取引委員会は,平成29年度において,転嫁カルテルについては7件,表示カルテルについては1件の届出を受け付けた。また,平成30年3月末現在で,転嫁カルテルについては194件,表示カルテルについては140件となっている(別紙4参照)。
なお,転嫁カルテル及び表示カルテルの届出状況は,届出を受け付けた月ごとに取りまとめて,公正取引委員会のウェブサイトに掲載している(注)。
(注) http://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/tenka-hyoujitodokede.html
[1] 住友不動産株式会社に対する件(平成29年7月14日)
特定事業者
住友不動産株式会社
事業内容
不動産取引業・建築工事業等
取引の内容
大工工事の請け負わせ
違反行為の概要
【買いたたき(第3条第1号後段)】
大工工事を請け負わせている個人事業者又は法人事業者の一部に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに請負代金を据え置いて支払った。
原状回復額
特定供給事業者418名に対し,総額6148万9724円
【勧告前に返還済み】
(注)事件の詳細については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jul/170714.html
[2] 株式会社ニチイ学館に対する件(平成29年9月14日)
特定事業者
株式会社ニチイ学館
事業内容
医療事務,介護及び保育関連事業,教育講座の運営等
取引の内容
教育指導業務の委託
違反行為の概要
【買いたたき(第3条第1号後段)】
教育指導業務を委託している個人事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料を据え置いて支払った。
原状回復額
特定供給事業者2,634名に対し,総額6101万8638円
【勧告前に返還済み】
(注1)事件の詳細については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/sep/170914_4.html
(注2)中小企業庁長官からの措置請求案件。
[3] 株式会社西日本新聞社に対する件(平成29年12月14日)
特定事業者
株式会社西日本新聞社
事業内容
日刊新聞等の制作,発行及び販売
取引の内容
[1] 日刊新聞の販売促進業務の委託
[2] 日刊新聞等に掲載する記事,写真,イラスト等の原稿作成業務の委託
違反行為の概要
【買いたたき(第3条第1号後段)】
ア 日刊新聞の販売促進業務を委託している人格のない社団等である事業者又は法人事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料を据え置いて支払った。
イ 日刊新聞等に掲載する記事,写真,イラスト等の原稿作成業務を委託している個人事業者又は法人事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料を据え置いて支払った。
原状回復額
特定供給事業者154名に対し,総額6136万317円
(注)事件の詳細については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/dec/171214_1.html
[4] エコロシティ株式会社に対する件(平成30年2月1日)
特定事業者
エコロシティ株式会社
事業内容
駐車場事業
取引の内容
駐車場用地の賃借
違反行為の概要
【買いたたき(第3条第1号後段)】
駐車場用地の賃貸人に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに賃料を据え置いて支払った。
原状回復額
特定供給事業者791名に対し,総額8403万5237円
【勧告前に返還済み】
(注1)事件の詳細については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/180201_2.html
(注2)中小企業庁長官からの措置請求案件。
[5] 株式会社山野楽器に対する件(平成30年2月6日)
特定事業者
株式会社山野楽器
事業内容
楽器等の小売及び卸売,音楽教室の運営等
取引の内容
[1] 音楽講師業務の業務委託
[2] 顧客が楽器を選定するための助言等を行う業務の委託
違反行為の概要
【買いたたき(第3条第1号後段)】
ア 音楽講師業務を委託している事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに委託料を据え置いて支払った。
イ 顧客が楽器を選定するための助言等を行う業務を委託している事業者に対し,消費税率の引上げ分を上乗せせずに手数料を据え置いて支払った。
原状回復額
特定供給事業者964名に対し,総額3389万6566円
【勧告前に一部返還済み】
(注1)事件の詳細については,以下のリンク先を参照。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/feb/180206.html
(注2)中小企業庁長官からの措置請求案件。
[1] 大規模小売事業者であり,スポーツ用品の販売等を行うA社は,納入業者(特定供給事業者)に対し,仕入代金について,納入ごとに本体価格に消費税率を乗じて1円未満の端数を切り捨てた額を消費税額として支払うことで,支払ごとに商品の本体価格を合計し消費税額を計算した場合と比べ,支払総額を1円以上減じていた。
[2] 住宅販売業を営むB社は,住宅の建築工事を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成25年10月から平成26年3月の間に発注し,平成26年4月1日以後に引渡しを受けた物件の工事代金について,消費税率の引上げ分相当額を減じて支払っていた。
[3] 建設業を営むC社は,空調設備工事を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,工事代金から消費税相当額を減じて支払っていた。
[4] 小売業を営むD社は,システム保守業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,あらかじめ本体価格で定めたシステム保守業務の委託代金から消費税率の引上げ分相当額を減じて支払っていた。
[5] ソフトウェアの制作業を営むE社は,スマートフォン向けゲームのシナリオの制作を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,著作権の譲渡代金について消費税相当額を減じて支払っていた。
[1] 放送業を営むF社は,翻訳作業,取材,原稿執筆等の業務を委託している事業者(特定供給事業者)及びライブカメラ設置場所の賃貸人(同)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの対価を据え置いていた。
[2] 情報通信業(ソーシャルネットワーキングサービスの提供)を営むG社は,記事等のコンテンツの制作業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。
[3] 総合病院及び老人福祉施設等を運営するH法人は,院内食堂の運営,給食の提供,電気設備点検,清掃作業及び生花の活け込みの業務を委託しているそれぞれの事業者(特定供給事業者)並びに事務所及び駐車場の賃貸人(同)に対し,平成26年4月1日以後(賃料は同年4月分以降)も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの対価を据え置いていた。
[4] 軽貨物配送業を営むI社は,配送業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後の委託代金について,消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの対価を据え置き,又は消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低く定めていた。
[5] 市場調査業を営むJ社は,調査業務を委託している個人事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以降も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。
[6] 建築用金物の製造販売業を営むK社は,法律顧問,技術顧問,清掃及び産業医の派遣に係る業務を委託しているそれぞれの事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。
[7] アニメーション等の企画・制作を行うL社は,アニメーション,3次元コンピュータグラフィックス及び遊技機の制作を委託しているそれぞれの事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。
[8] 老人福祉・介護事業を営むM社は,社員教育業務を委託している事業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの委託代金を据え置いていた。
[9] 観光事業を営むN協同組合は,インストラクター業務を委託している組合員事業者(特定供給事業者),器材のリース先事業者(同)及び看護業務を委託している事業者(同)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率の引上げ分を上乗せすることなく,消費税込みの対価を据え置いていた。
病院を運営するO法人は,平成26年4月1日以後の医薬品及び医療用材料の納入業者(特定供給事業者)との価格交渉において,税込価格での交渉を余儀なくさせていた。
(注1) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
(注2) 消費税転嫁対策特別措置法第13条第2項に基づき主務大臣への通知を要する組合からの届出である。
製造業
卸売業
小売業
サービス業
その他
年度合計
(注1) 累計の数値は,平成25年10月から平成30年3月までの累計。
(注2) 複数の業種にわたる場合の届出があるので,年度合計の数字は上記「1」に記載の届出件数と一致しない。
(注3) 「その他」の業種は,運輸業,建設業等である。
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問い合わせ先 公正取引委員会事務総局取引部消費税転嫁対策調査室
電話 03-3581-1891(直通)
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