履行勧告手続等
1. 履行確保の手続について
家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない人に対して,それを守らせるための履行勧告という制度があります。相手方が取決めを守らないときには,家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると,家庭裁判所では,相手方に取決めを守るように説得したり,勧告したりします。
履行勧告の手続に費用はかかりませんが,義務者が勧告に応じない場合は支払を強制することはできません。
2. 強制執行の手続について
強制執行の手続には,直接強制と間接強制とがあります。
(1)直接強制
ア 直接強制は,権利者の申立てにより,地方裁判所が義務者の財産(不動産・債権など)を差し押さえて,その財産の中から満足を得るための手続です。
強制執行の申立てには,
- 調停調書,審判書,判決書などの書面(正本)※(注記)1
- 送達証明書※(注記)2
- 審判の場合,これが確定したことの証明書
が必要です。これらの書面は,調停,審判,判決などをした家庭裁判所に申請して交付を受けることができます。このほかに住民票や商業登記簿謄抄本などの書類が必要になることがあります。
債権執行の申立てには,手数料(原則として4,000円)及び郵便切手(実費3,000円程度。各裁判所によって異なります。)が必要です。※(注記) 詳しくはこちらをご覧ください。
※(注記)1 家事事件手続法別表第2に掲げる事項についての調停事件以外の調停調書や人事訴訟の判決,和解調書の場合には執行文(強制執行ができるという証明)が必要となります。
※(注記)2 正式の手続で,1の書面が義務者に送付されたこと(送達)の証明書。1の書面が義務者に送達されていない場合には,送達申請の手続きが必要となります。
イ 養育費等の特則(将来の分の差押え)について(平成16年4月1日からの制度です。)
差押えは,通常の場合,支払日が過ぎても支払われない分(未払分)についてのみ行うことができます。しかし,裁判所の調停や判決などで定めた養育費や婚姻費用の分担金など,夫婦・親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する権利で,定期的に支払時期が来るものについては,未払分に限らず,将来支払われる予定の,まだ支払日が来ていない分(将来分)についても差押えをすることができます。また,将来分について差し押さえることができる財産は,義務者の給料や家賃収入などの継続的に支払われる金銭で,その支払時期が養育費などの支払日よりも後に来るものが該当し(民事執行法151条の2第1項),原則として給料などの2分の1に相当する部分までを差し押さえることができます(通常は,原則として4分の1に相当する部分までです。)。
(2)間接強制(平成17年4月1日からの制度です。)
間接強制とは,債務を履行しない義務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告した決定をすることで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な支払を促すものです。
原則として,金銭の支払を目的とする債権(金銭債権)については,間接強制の手続をとることができませんが,金銭債権の中でも,養育費や婚姻費用の分担金など,夫婦・親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する権利については,間接強制の方法による強制執行をすることができることになっています((1)イとは異なり,定期的に支払時期が来るものに限られません。)。
ただし,この制度は,直接強制のように義務者の財産を直接差し押さえるものではありませんので,間接強制の決定がされても義務者が養育費等を自発的に支払わない場合,養育費や間接強制金の支払を得るためには,別に直接強制の手続をとる必要があります。また,義務者に支払能力がないために養育費等を支払うことができないときなどには,間接強制の決定がされないこともあります。