(手前から)味宝卵のだし巻き卵サンド、やわらかハーブソーセージドッグ、自家製トマトソースチョリソーホットドッグ
ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰。日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)。
小倉は商店街が元気な町だ。1951(昭和26)年、日本ではじめてできたアーケード街「魚町銀天街」。小倉駅近くから続く約400メートルに地元密着の店、昔ながらの店が生き残る。中には、イマドキなパン屋も存在する。「SHUN PAN LABO」の扉を開ければ、「これは食べたい!」「こんなのがほしかった」、そんなパンがあふれかえっている。
×ばつ鳴海屋 めんたいバゲット」。ぐにっ、ぱっつん。九州産小麦らしい嚙(か)みごたえとともに、バターのような香ばしさがにじむ。まもなく、やわやわとした中身にじゅわり染み込んだ明太ペーストが、小麦のミルキーさといっしょにあふれだしてくる。旨(うま)みの沸騰、ぐいぐいくる塩気にもう一口をやめられない。
皮はばりばり、明太はとろとろ。注文後にオーブンで焼き、あつあつを提供しているからだ。おかげで一番人気の商品に駆け上がった。
「スタッフがまかないとして、オーブンから出たすぐのを食べていました。『やっぱりこれがおいしいよね』と、焼きたてを提供することになりました。5分ほど時間がかかるので、常連さんは入店されたら、すぐ『明太1本』と注文される。『とりあえずビール』みたいに」
と語るのは、藤川俊シェフ。傑出した演出力で、食べる人の心を鷲(わし)づかみにするのだ。
毎日15時前、店の前に必ず行列ができるという。お目当ては、15時に発売される1日限定50個「とろとろクリームクロワッサン」の整理券。
クロワッサンの中に、純生クリームを合わせた特製のカスタードクリームをたっぷり注入。ざくざくクロワッサンが壊れると、とろとろのカスタードクリームがあふれかえる。いわゆる「反則」というやつだ。
わずか150円という値段も魅力。いわば、戦略的に行列を作り出した。
「数量限定ってつい食いついてしまいますよね。列ができ出したら、人がますます並ぶし、お店の宣伝になる。居酒屋さんのハッピーアワーと同じです。15分前に焼き上がったクロワッサンに、ちゃんとしたクリームをしぼってるから、できたてを食べてほしくて、賞味期限1時間。(買ったらすぐ食べないといけないため)近くの小倉城を歩きながら食べるというニーズができて、街にも貢献できますよね」
同じビルの2階にある「ビストロ バンケット」、パンランチが人気で、行列必至の店。なんとストウブ(フランスのほうろう鍋)で焼いたパンがあつあつで出てきて、しかも食べ放題というズルい演出。運営はSHUN PAN LABOと同じ、小倉中心に行列店、人気店を数々手がける「太陽の船株式会社」。藤川シェフの演出力はこの土壌があって花開いた。
「味宝卵(みほうらん)のだし巻き卵サンド」のヴィジュアルは最強レベル。なんたって、黄色いだし巻き卵がどどーん。コッペパンから大きくはみだしているのだから。
「卵焼きは大きく、パンはちっちゃめにして、そこからはみだしてたらおもしろくない?って」
ふわふわとろっ。じゅわー。ジューシーにあふれかえる卵のやさしい甘さ。ぷるんと跳ね、消える。さらにすごいのは、卵焼きとコッペパンの食感が完全シンクロしていること。そのやわらかさ、なめらかさ、口溶けよさにおいて。
コッペパンの生地は、北海道産小麦100%。生クリームとヨーグルトと発酵バターを入れて、水を110%も加えたことが、やわらかさ、ぷるぷる感の秘密だ。
ヴィジュアルから虜(とりこ)にしてしまうのは、藤川シェフの常套(じょうとう)手段。「ゴルゴンゾーラのキッシュ」を思わず2度見した。なんだ、このでかさ。アパレイユの厚みが普通のキッシュの1.5倍、下手すりゃ2倍近くあるだろう。この厚みでなければ味わえないおいしさがある。じゅるり。茶碗(ちゃわん)蒸しレベルのジューシーさ、ほとばしるダシ感。卵の甘さの中に、野菜の香りが溶け込んでいるのだ。ゴルゴンゾーラの香りがスパイス替わり、下にはタルト生地のざくざくが待ち受ける。
藤川シェフ、もともとは北九州市の西部・折尾の出身。地元の名店「ブーランジェリータカス」で腕を磨いた。
「新商品を初日、2日目で100〜200個も売る店。最初のインパクトでいかにアピールしてバズらせるかが大事だと教わりました」
そんなイズムを胸に、小倉にやってきた。
「折尾にいた頃は、福岡に出かけるほうが多く、小倉のことをあまり認知していませんでした。でも、自分がいざやるとなったとき、小倉の人がどんなこと思ってきてくれるんだろうってすごく考えるようになりました。自分の考えたアイデアが小倉の人に刺さったときはすごくうれしいです」
住めば都。パンの力でこの商店街を盛り上げるつもりだ。
SHUN PAN LABO
福岡県北九州市小倉北区魚町2丁目3-4 1階
093-383-8231
9:00~20:00(売り切れ次第終了)
不定休
https://www.instagram.com/shun_pan_labo/