全国まで僅か1票の涙(埼玉県高等学校美術展)
本日11月22日(土)、北浦和の近代美術館にて行われている第68回埼玉県高等学校美術展に行ってきました。
この展覧会は、県内高校生美術家たちにとって1年間の活動の集大成となる渾身の作品を出展し、その出来栄えを競う最も思い入れの強い展覧会であるとともに、来夏に秋田県で行われる第68回全国高等学校総合文化祭に出展する埼玉県代表作品を決定する選考会を兼ねており、本展覧会で優秀賞を獲得した作品のうち、平面部門11点、立体部門6点の上位作品が全国総文祭への出展権を獲得する名誉ある展覧会となっています。
本校からは、美術部の精鋭7名(2年生4名、1年生3名)が1年近い年月をかけて描き上げた力作を出展しました。
美術部の部員たちは、自分の感性に基づいて長い時間をかけて1つの作品を作り上げるという活動の特性から、普段は管理棟3階の美術室に籠ってひたすらキャンバスに向かって制作活動に没頭することが多く、その活動の様子は運動部に比べて派手さがなく、どちらかというと、自分の世界に入って物静かに黙々と取り組んでいるイメージがありますが、実際に部員たちと話してみると、どの部員もとても無邪気で明るく元気な生徒たちばかりで、ONとOFFの切り替えの上手な生徒たちが多いんだなと感じます。
もちろん、ひとたび筆を手にキャンバスに向かえば、その眼差しは真剣そのもので、相手と対峙して勝負に立ち向かう運動部員たちのそれと何ら変わりはありません。そうした意味では、趣味や嗜好は異なるものの、自分の個性を生かした活動の中で直向きに高みを目指す姿は、まさに高校生として最高の輝きを放つ純粋な姿であると感じます。
また、どちらかというと人の目に触れる機会が少ないため、なかなかその凄さ、素晴らしさが伝わりにくい部分がありますが、1本の筆で繊細に描かれた作品には、作者の感性と想像力が無限に詰め込まれており、作品を通じて自分なりの「美」を力強く語りかけているのだと思います。
故に、どの作品からも作者が何を感じたのか、何を伝えたいのかが伝わってくる作品ばかりで、そのメッセージが強い作品ほど高い評価を受けるのだと感じます。こうして、観る者の心に訴え、感情を揺さぶることができるのは、スポーツだけではなく、音楽や書道と同様に美術作品もまた、人の心を動かす素晴らしい力を持っているのだと思います。
本校部員たちの作品は、それぞれモチーフこそ異なりますが、7作品どの作品も作者の心に刻まれたワンシーンを丁寧に描いたもので、光と影のコントラストや遠近の構図を上手に描き、今にも動き出しそうな素晴らしい出来栄えの作品ばかりでした。
その中で、部長の星野汐里さん(2年)の作品「幼年期の追憶」は、幼いころ、暑い夏の日に通りかかった商店の店先に並んだ清涼飲料水の涼し気な風景を描いたもので、氷水の中で冷やされた美味しそうなサイダーに心を奪われた幼年期の気持ちが伝わる素晴らしい作品でした。特に水の描写が美しく、今にも零れ落ちそうな水の動きが繊細でとても印象的でした。
素人の私でも目に留まったこの作品は、数多ある作品の中で埼玉県教育委員会教育長賞や埼玉県芸術文化祭実行委員会会長賞を含め平面部門で31点しか選ばれない優秀賞を見事に受賞しましたが、その中でもたくさんの審査員の方々から非常に高い評価をいただいており、全国大会出展作品(11点)の最後の1作品を決める最終候補2作品のうちの1つに選ばりており、僅か1票の差で残念ながら県代表作品の栄誉と来夏の全国総文祭秋田行きが叶わなかったのだと聞きました。
県内には芸術を専門とする学科を設置する高校がいくつかあり、そうした学校の生徒たちの作品には高校生離れした凄みがある作品が多数ありますが、そうした学校の生徒の作品に劣らないインパクトのある作品で、星野さんにとっては「あと一歩で全国に行けた」という悔しさを感じたと同時に、県代表となった作品との僅かな差や自身の作品に足りなかったものも素直に感じることができたのだと思います。
僅か1票の差だっただけに、悔しさを感じることに変わりはありませんが、こうした悔しさを経験して人は強く逞しくなっていくのです。日頃から地道に努力を積み重ねてきただけに、無念の気持ちもありますが、同時に本県代表作品の最終候補となったという実績は紛れもない事実であり、多くの専門家たちからいただいた高い評価に自信を深め、堂々と胸を張ってほしいと願います。また、今後の活動では、今回感じた想いを糧に、更なる高みを目指して精進してほしいと願います。そしていつの日か、輝く栄光を手にできる日が来ることを信じています。本校の美術部員たちの作品は、以下のとおりとなっています。
頑張れ、越南生!頑張れ、美術部!
【優秀賞】
「幼年期の追憶」星野汐里(2年)
【出展作品】
「Smile Shot!」島﨑美穂(2年)
「無題」和田悠雅(2年)
「にゃんでもない日」横島朱莉(2年)
「二度と見れない景色」米沢柚花(1年)
「飛来」櫻井優月(1年)
「芽生え」中野里桜(1年)