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禅宗様

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
功山寺仏殿(山口県、国宝)

禅宗様(ぜんしゅうよう)は、日本の伝統的な建築様式の一つ。唐様とも言う。

鎌倉時代初期から禅宗寺院で取り入れられ始め、武士の帰依を受けたことで13世紀後半から盛んになった様式で、当時の中国建築の直写が目指された。従来の寺院建築様式である和様、また鎌倉時代初期にもたらされた大仏様に対する言葉。大仏様とは共通する部分も多く、あわせて鎌倉新様式または宋様式と総称される。

概要

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飛鳥天平時代に中国から伝えられた建築様式は、平安時代を通じて日本化し、柱を細く、天井を低めにした穏やかな空間が好まれるようになった。平安時代以降、日本化した建築様式を和様と呼ぶ。

平安時代後期になると、平清盛大輪田泊対外開港など中国()との交易が活発になったことで、再び中国の建築様式が伝えられた。まず入ってきたのは東大寺再興の際に用いられた様式で、大仏様と呼ぶ。

その後、禅僧が活発に往来し、中国の寺院建築様式が伝えられた。これは禅宗寺院の仏堂に多く用いられ、禅宗様と呼ぶ。

用語

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大工の伝承では、寺院建築に和様・天竺様・唐様という区別が行われ、明治時代以降の建築史でも使用してきた。第二次世界大戦後、建築史家太田博太郎が「天竺様ではインドの建築様式と誤解される。大仏殿の復興に使われたので大仏様と呼ぶべき」「唐様は禅宗寺院に使われたので、禅宗様と呼ぶべき」と提唱し、現在の建築史では一般的に和様・大仏様・禅宗様が使われている。歴史教科書などでは、天竺様・唐様という呼び方も残る。

禅宗様の特徴

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詰組(神奈川・建長寺仏殿)
鏡天井と化粧屋根裏(和歌山・善福院釈迦堂)

一部は大仏様の特徴にも通じる。

  • 南北を基本軸とした東西対称の伽藍配置(例外あり)
  • 仏殿は平面正方形で、間仕切りのない一室堂
  • 屋根に強い反り。ただし裳階屋根の反りは小さい
  • 放射状に垂木を置く扇垂木。ただし裳階は平行垂木が一般的
  • 柱と柱の間にも組物を入れる詰組(つめぐみ)
  • 和様では用いられなくなった三手先の使用(例外多し)
  • 貫(ぬき) を使い構造を強化(長押は用いられず)
  • 柱は丸柱で上下端をすぼませる
  • 柱の下にそろばんの玉を大きくしたような形の礎盤を置く
  • 柱の上部同士をつなぐ頭貫の上に水平材の台輪を置く
  • '瓶子形の大瓶束(たいへいづか)の下部には結綿(ゆいわた)とよばれる彫刻がある。
  • 木鼻(貫の先端)には繰り型といわれる装飾(渦巻、若草)を付けている
  • 欄間は弓欄間(波欄間、火炎欄間とも)で連子子が弓型となっている
  • 窓は上部に複雑な曲線の付いた火灯窓 (花頭窓)
  • 扉は四周の框と縦横の数本の桟を組み、桟と框の間に入子板を嵌め込んだ桟唐戸
  • 壁は竪板壁で土壁は殆どない
  • 床は土間床で、瓦の四半敷(目地が縦横の線に対し45度になる敷き方)で仕上げる
  • 建物の外部には彩色をしない素木造りだが、内部はその限りではない

代表的な建造物

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本格的な禅宗様建築は残っていないが、建築様式は忠実に継承された。

名称 建立年代 所在地 状態 備考
こうさんしふつてん/功山寺仏殿 鎌倉時代(1320年) 35山口県下関市 国宝 現存日本最古の禅宗様建築
せんふくいんしゃかとう/善福院釈迦堂 鎌倉時代(1327年) 30和歌山県海南市 国宝
あんらくしはつかくこしゆうのとう/安楽寺八角三重塔 鎌倉時代末期 20長野県上田市 国宝
しようふくしちそうとう/正福寺地蔵堂 室町時代(1407年) 13東京都東村山市 国宝
あんこくしきようそう/安国寺経蔵 室町時代(1408年) 21岐阜県高山市 国宝
せいはくしふつてん/清白寺仏殿 室町時代(1415年) 19山梨県山梨市 国宝
さいおんしふつてん/洞春寺観音堂 室町時代(1430年) 山口県山口市 重要文化財
えんかくししやりてん/円覚寺舎利殿 室町中期(15世紀) 14神奈川県鎌倉市 国宝
さいおんしふつてん/最恩寺仏殿 室町中期(1393-1466年) 山梨県南部町 重要文化財
さいおんしふつてん/東光寺仏殿 室町後期(1467-1572年) 山梨県甲府市 重要文化財
さいおんしふつてん/園城寺一切経蔵(旧国清寺経蔵) 室町中期/1393-1466 滋賀県大津市 重要文化財
ふとういんほんとう/不動院本堂 戦国時代(1540年) 34広島県広島市 国宝
ふとういんほんとう/不動院楼門 桃山/1593 34広島県広島市 重要文化財
ふとういんほんとう/不動院鐘楼 室町中期/1433 34広島県広島市 重要文化財
さいおんしふつてん/建長寺仏殿 江戸後期/1825 神奈川県鎌倉市 重要文化財
さいおんしふつてん/建長寺法堂 江戸時代(1825年) 神奈川県鎌倉市 重要文化財
さいおんしふつてん/東慶寺仏殿(現・三渓園) 江戸時代(1634年) 神奈川県横浜市 重要文化財
さいおんしふつてん/大乗寺仏殿 江戸時代(1702年) 石川県金沢市 重要文化財
さいおんしふつてん/善通寺金堂 江戸時代(1699年) 香川県善通寺市 重要文化財
さいおんしふつてん/多久聖廟 江戸時代(1708年) 佐賀県多久市 重要文化財
さいおんしふつてん/永保寺開山堂 室町前期/1333-1392 岐阜県多治見市 国宝 裳階なし
さいおんしふつてん/永保寺観音堂 室町前期/1333-1392 岐阜県多治見市 国宝
さいおんしふつてん/瑞龍寺仏殿 江戸前期/1659 富山県高岡市 国宝
さいおんしふつてん/国分寺金堂 江戸後期/1779 山口県防府市 重要文化財
さいおんしふつてん/英勝寺仏殿 江戸前期/1643 神奈川県鎌倉市 重要文化財
さいおんしふつてん/永平寺仏殿 明治/1902 福井県永平寺町 重要文化財
さいおんしふつてん/永平寺舎利殿 江戸末期/1926 福井県永平寺町 重要文化財
さいおんしふつてん/南宗寺仏殿 江戸前期/1653 大阪府堺市 重要文化財
さいおんしふつてん/長樂寺仏殿 桃山/1577 和歌山県有田川町 重要文化財
さいおんしふつてん/泉涌寺仏殿 江戸中期/1669 京都府京都市 重要文化財
さいおんしふつてん/大徳寺仏殿 江戸中期/1665 京都府京都市 重要文化財
さいおんしふつてん/大徳寺法堂 江戸前期/1636 京都府京都市 重要文化財
さいおんしふつてん/妙心寺仏殿 江戸後期/1827 京都府京都市 重要文化財
さいおんしふつてん/妙心寺法堂 江戸前期/1656 京都府京都市 重要文化財
さいおんしふつてん/金峯神社本殿 桃山/1608 山形県鶴岡市 重要文化財
さいおんしふつてん/寶林寺仏殿 江戸中期/1667 静岡県浜松市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/天恩寺仏殿 室町前期/1333-1392 愛知県岡崎市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/普濟寺仏殿 室町前期/1357 京都府南丹市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/泉福寺仏殿 室町後期/1524 大分県国東市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/圓通寺本堂 室町後期/1532-1554 広島県庄原市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/如法寺仏殿 江戸中期/1670 愛媛県大洲市 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/善光寺薬師堂 室町後期/1483 愛媛県鬼北町 重要文化財 裳階なし
さいおんしふつてん/鑁阿寺経堂 江戸前期/1615-1660 栃木県足利市 重要文化財
さいおんしふつてん/勝興寺経堂 江戸後期/1805 富山県高岡市 重要文化財
さいおんしふつてん/鑁阿寺本堂 鎌倉後期/1299 栃木県足利市 重要文化財 裳階なし

和様が基本だが、詰組など一部禅宗様を取り入れる。

書道における禅宗様

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→詳細は「禅林墨跡」を参照

書道史上においても、入留学僧や来朝僧らが伝えた、当時の中国で流行していた書風を禅宗様と呼んでいる。蘭渓道隆一山一寧らの墨蹟が、その代表である。朝の成立以後は、往来が途絶しがちになり、禅宗様に和様が混入し始め、折衷的な書風としての五山様が成立する。義堂周信絶海中津らがその代表である。

関連項目

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