ミンコフスキー汎関数
数学の関数解析学の分野におけるミンコフスキー汎関数(ミンコフスキーはんかんすう、英: Minkowski functional)とは、線型空間上に距離の概念をもたらすような関数のことである。
K を、線型空間 V に含まれる対称な凸体とする。V 上の関数 p を
- {\displaystyle p(x)=\inf\{\lambda \in \mathbb {R} _{>0}:x\in \lambda K\}}
によって定める(ただしこの右辺が well-defined である場合)[1] 。
動機
[編集 ]例1
[編集 ]ノルム線型空間 X を考える。そのノルムは ||·|| で表されるものとする。K を、X に含まれる単位球とする。関数 p: X → R を
- {\displaystyle p(x)=\inf \left\{r>0:x\in rK\right\}}
によって定める。このとき、{\displaystyle p(x)=\|x\|} が成立するため、p はまさしく X 上のノルムということになる。この p はミンコフスキー汎関数の特別な例である。
例2
[編集 ]X を、スカラーの体(基礎体)K による位相を備えない線型空間とする。φ ∈ X′ を、X の代数的双対とする。すなわち、φ: X → K は X 上の線型汎関数である。a > 0 を固定し、集合 K を
- {\displaystyle K=\{x\in X:|\varphi (x)|\leq a\}}
によって定める。ふたたび、関数
- {\displaystyle p(x)=\inf \left\{r>0:x\in rK\right\}}
を定める。すると、
- {\displaystyle p(x)={\frac {1}{a}}|\varphi (x)|}
が成立する。この関数 p(x) もミンコフスキー汎関数の特別な例である。これは次のような性質を備えている:
以上の性質から p は、誘導位相を備えた X 上の半ノルムということになる。これは「良い」集合を通して定義されたミンコフスキー汎関数の特性である。半ノルムと、そのような集合によって与えられたミンコフスキー汎関数との間には一対一の対応が存在する。ここで言う「良い」という語の正式な意味は、後述の節を参照されたい。
強い条件の要請されるノルムと比較して、半ノルムであるこの場合では p(x) = 0 は必ずしも x = 0 を意味しないことに注意されたい。上の例では、φ の核にはゼロでない x が含まれている。したがって、結果として導かれる位相は必ずしもハウスドルフではない。
定義
[編集 ]上の例では、与えられた(複素あるいは実)線型空間 X およびその部分集合 K に対し、対応するミンコフスキー汎関数
- {\displaystyle p_{K}\colon X\to [0,\infty )}
を
- {\displaystyle p_{K}(x)=\inf\{r>0:x\in rK\}}
によって定義することが出来ると示唆していた。このような関数はしばしば {\displaystyle K} の計測関数(gauge)と呼ばれる。
この定義では、非明示的に 0 ∈ K および、集合 {r > 0: x ∈ r K} が空でないことが仮定されている。pK が半ノルムの性質を備えるためには、K にさらなる追加条件が必要となる。それは次のようなものである:
- K は凸である(これは pK の劣加法性を意味する)。
- K は均衡である。すなわち、すべての |α| ≤ 1 に対して αK ⊂ K が成立する(これは pK の同次性を意味する)。
これらの条件を満たす集合 K は、絶対凸と呼ばれる。
K の凸性
[編集 ]K の凸性は関数 pK の劣加法性を意味する、ということは次のような簡単な幾何的な議論によって示される: 便宜的に pK(x) = pK(y) = r を仮定する。すると、任意の ε > 0 に対して x, y ∈ (r + ε) K = K′ となる。K が凸であるという仮定により、 K' もまた凸であることが分かる。したがって、1⁄2 x + 1⁄2 y は K' に含まれる。ミンコフスキー汎関数 pK の定義により、
- {\displaystyle p_{K}\left({\frac {1}{2}}x+{\frac {1}{2}}y\right)\leq r+\epsilon ={\frac {1}{2}}p_{K}(x)+{\frac {1}{2}}p_{K}(y)+\epsilon }
が得られるが、この左辺は 1⁄2 pK(x + y) であるため、
- {\displaystyle p_{K}(x+y)\leq p_{K}(x)+p_{K}(y)+\epsilon \quad \forall \epsilon >0}
が得られる。これが劣加法性に関する求める不等式である。一般の pK(x) > pK(y) の場合については、簡単な修正を加えることで分かる。
注意 集合 {r > 0: x ∈ r K} が空でないという元々の仮定の下で K が凸であるということは、K が吸収的集合であることを意味する。
K の均衡性
[編集 ]K が均衡であるということは
- {\displaystyle \lambda x\in rK\quad {\mbox{if and only if}}\quad x\in {\frac {r}{|\lambda |}}K}
を意味することに注意されたい。したがって、
- {\displaystyle p_{K}(\lambda x)=\inf \left\{r>0:\lambda x\in rK\right\}=\inf \left\{r>0:x\in {\frac {r}{|\lambda |}}K\right\}=\inf \left\{|\lambda |{\frac {r}{|\lambda |}}>0:x\in {\frac {r}{|\lambda |}}K\right\}=|\lambda |p_{K}(x)}
を得る。
関連項目
[編集 ]注釈
[編集 ]- ^ Thompson (1996) p.17
参考文献
[編集 ]- Thompson, Anthony C. (1996). Minkowski Geometry. Encyclopedia of Mathematics and Its Applications. Cambridge University Press. ISBN 0-521-40472-X