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アセビ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アセビ
Pieris japonica
Pieris japonica
分類 (APG III)
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : キク類 asterids
亜属 : P. subg. Pieris
: アセビ(広義) P. japonica
亜種 : アセビ P. j. subsp. japonica
学名
標準: Pieris japonica
(Thunb. ) D.Don ex G.Don
subsp. japonica (1834)[1]

広義: Pieris japonica (Thunb. ) D.Don ex G.Don (1834)[2]

シノニム
和名
アセビ(馬酔木)、
アセボ[1]
英名
Japanese andromeda
亜種変種品種 [4]
  • リュウキュウアセビ P. j. subsp. koidzumiana
  • タイワンアセビ P. j. subsp. taiwanensis
  • ヤクシマアセビ P. j. var. yakushimensis
  • フイリアセビ P. j. f. elegantissima
  • ホナガアセビ P. j. f. monostachya
ヨハン・エイクマンによるアセビのスケッチ。

アセビ(馬酔木[5] 学名: Pieris japonica subsp. japonica)は、ツツジ科 アセビ属に属する常緑性低木である。別名アシビ本州四国九州に自生し、観賞用に植栽もされる場合もある。有毒植物

名称

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和名「アセビ」は漢字で「馬酔木」と書き、葉にグラヤノトキシンIなどの有毒成分が含まれることから、ウマを食べればに当たって苦しみ、酔うが如くにふらつくようになる木というところからついたとされる[6] [7] 。「馬酔木」はアセビを指す漢字名として定着しているが、本来は別の植物だともいう説もある[8]

別名で、アシビ[6] [5] 、アセボ[1] ともよばれる。アシビは古名の一つで、一説では「悪し実」ではないかとされる[8] 。地方名でヒガンノキともよばれており、春彼岸のころにアセビが花盛りで、仏前の供花にもされることに由来する[5]

学名の属名 Pieris (ピエリス)は、ギリシャ神話に登場する詩の女神の名前である[9] 種小名japonica (ジャポニカ)は、「日本の」の意味である。

分布

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アセビは日本列島の本州(山形県以西)、四国九州や、中国に分布する[5] 。主に山地に自生する[7] 。やや乾燥した環境を好む。庭にも植えられる[7]

有毒植物であり、葉に限らず、全体に有毒成分が含有される。このため、多くの草食動物はアセビを食べるのを避け、食べ残される。そのため、草食動物の多い地域では、この木が目立って多く生育している場合がある。

アセビが不自然なほど多い地域は、草食獣による食害が多いことを疑うこともできる。例えば、奈良公園春日山では、ニホンジカが他の木を食べ、この木を食べないため、アセビが相対的に多く見られる[8] [10]

形態・生態

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常緑広葉樹低木から小高木で、樹高は1.5 - 5メートル (m) ほどになる[7] 。自生するものはかなり大きいものもあり[11] 、樹齢100年から200年になる老木も多く見られる[5] 。樹皮は褐色で、縦に細く裂けてややねじれ、ネジキに似る[11] 。若枝は緑色で、はじめのうちは毛があるが、のちに無毛となる[11]

は枝の先に束になって互生し、長さ3 - 8センチメートル (cm) の長楕円形から倒披針形で、葉縁には鋸歯がある[8] [7] 。葉身は深緑色で厚い革質[7] 、表面に艶がある。芽吹きは赤く映えてよく目立つ[11]

花期は早春から晩春(3 - 5月)[7] [5] 。早春になると枝先に10 cmほどの房になった円錐花序を垂らし、白い壷状のを多数咲かせる[6] [7] [5] 。花は長さ5 - 6ミリメートル (mm) ほど[7] 雄蕊は10本で、2個の角を持ち毛深い。なお、園芸品種には、ピンクの花を付けるアケボノアセビ(ベニバナアセビ)[12] 、花が上向きに咲くものにウケザキアセビがある[7]

果期は秋(9 - 11月)[7] [5] 果実は直径5 - 6 mmの偏球形で[7] 、秋に熟す[6] 。実や葉は有毒である[5]

冬芽は枝先に穂状につく[11] 。花芽は穂状で花期が近づくと目立ってくる[11] 。葉芽は卵形や円錐形で、多数の芽鱗に包まれている[11] 。葉痕は円形で維管束痕が1個見える[11]

ヒトとの関わり

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アセビは、日本で庭木公園樹として植栽されるほかに、花を咲かせる盆栽としても利用される[6] 。常緑の灌木で垂れる花房が美しく、虫がつかないことから庭園の植栽樹として重宝されている[9] 。暖かい地域では、道路の中央分離帯の植栽樹に使われることがある[9]

また、アセビが有毒植物である事を利用し、その葉を煎じてその液を植物に撒いて殺虫剤として利用されている[9] [5] 。古くは葉の煎汁がシラミウジ、菜園の虫退治に用いられた[13] 。そこで、アセビの殺虫効果を、自然農薬として利用する試みもなされている。

アセビの有毒成分として、グラヤノトキシンI(旧名アセボトキシン・アンドロメドトキシン)、アセボプルプリンアセボインが挙げられる。中毒症状は、血圧低下、腹痛下痢嘔吐呼吸麻痺神経麻痺が挙げられる。

なお、ニホンジカが忌避する植物であるため、シカの生息密度が高く食害を受け易い森林では、アセビをシキミなど共に混植する試みが行われた事例も有る[14]

文学との関わり

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万葉集』にも登場する植物で[6] 、山の枕詞である「あしびきの」がアセビ(あしび)と結びつけられて論じられている[5]

花言葉は、「献身」である[5]

万葉集の歌

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日本人が古くから親しんできた木で、『万葉集』にはアセビを詠んだ歌が10首ある[5] 。アセビの花を愛でた歌人の面影を示す歌が多く、『万葉集』が成立した奈良時代末期ごろまでには、庭園にアセビが植栽されて観賞されていたとみられている[5]

  • 磯の上に 生ふるあしびを 手折らめど 見すべき君が ありといはなくに 大伯皇女 (巻2・166番)
  • 池水に 影さえ見えて 咲きにおう 馬酔木の花を 袖に()き入れな (巻20・4512番)

俳句

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  • 馬酔木(あしび)の花 - 春の季語の1つである[15]

アセビ属

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ヒマラヤアセビ
ウィキスピーシーズにアセビ属 に関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、アセビ属 に関連するカテゴリがあります。

アセビ属(アセビぞく、学名: Pieris )は、ツツジ科の1つである。世界に約十種が存在する。


出典

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  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). "Pieris japonica (Thunb.) D.Don ex G.Don subsp. japonica アセビ(標準)". BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2022年12月29日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). "Pieris japonica (Thunb.) D.Don ex G.Don アセビ(広義)". BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2022年12月29日閲覧。
  3. ^ 清水晶子; 加藤僖重・大場秀章. "表1. 東京大学総合研究博物館にライデン大学国立植物学博物館から寄贈されたシーボルト・コレクション". シーボルトの21世紀. 東京大学総合研究博物館. 2009年1月28日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). "BG Plants簡易検索結果表示". 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList). 千葉大学. 2014年1月23日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中潔 2011, p. 19.
  6. ^ a b c d e f 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 54.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 76.
  8. ^ a b c d 辻井達一 2006, p. 159.
  9. ^ a b c d 辻井達一 2006, p. 161.
  10. ^ 大場達之・高橋秀男「アセビ」、『週刊朝日百科植物の世界』63、6の85頁。
  11. ^ a b c d e f g h 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 70.
  12. ^ ベニバナアセビ
  13. ^ 倉田悟「アセビ」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p.11 日本林業技術協会 1984年出版
  14. ^ "シカの不嗜好植物との混植によるヒノキ苗の食害軽減効果の検証" (PDF). 林野庁中部森林管理局 (2013年). 2020年4月29日閲覧。
  15. ^ 松村 明、山口 明穂、和田 利政 編 『旺文社 国語辞典(第8版)』 p.1429(樹木の項目) 旺文社 1992年10月25日発行 ISBN 4-01-077702-8
  16. ^ Setoguchi, Hiroaki; Maeda, Yoshiyuki (2010) A New Species of Pieris (Ericaceae) from Amamioshima, Ryukyu Islands, Japan. Acta Phytotax. Geobot. 60 (3): 159-162

参考文献

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出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。 記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2018年7月)
  • 茂木透 写真『樹に咲く花:合弁花・単子葉・裸子植物』高橋秀男・勝山輝男 監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑 5〉、2001年7月、126-129頁。ISBN 4-635-07005-0 
  • 大場達之・高橋秀男 著、朝日新聞社 編「アセビ」『植物の世界』 63巻、朝日新聞社〈週刊朝日百科〉、1995年7月2日。 

関連項目

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ウィキスピーシーズにアセビ に関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、アセビ に関連するカテゴリがあります。

外部リンク

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