AV事務所
AV事務所(エーブイじむしょ)とは、アダルトビデオ(AV)に出演するAV女優をマネージメントする芸能事務所のことである。AVメーカーにAV女優を売り込み、出演料を折半する。SODクリエイト株式会社(エスオーディークリエイト、SOD Create CO.,LTD.)などの、アダルトビデオ・メーカー(製造)とは異なる。
AV事務所のルーツ
AVが誕生した1980年代、AVメーカー(製造側)が別会社として事務所をつくった。AVメーカーバックのAV事務所[1] は、現在も存在する。
2016年に業界の有志が母体をつくり、2017年に「日本プロダクション協会(JAPAN PRODUCTION GUILD)」が設立された。大手プロダクション十数社が加盟している[2] 。
単体系事務所と企画系事務所
単体系も企画系も混在している事務所がある[3] 。
- 代表的なAVプロダクション
長期専属または多数リリースの現役女優が計3名以上所属しているプロダクションをまとめる。太字は日本プロダクション協会加盟プロダクション。
プロダクション | メーカー専属系 | 企画単体系 |
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T-POWERS | 古川いおり RION 初川みなみ 佐山愛 夏目彩春 長谷川るい 市川まさみ 羽咲みはる 湊莉久 愛音まりあ | 広瀬奈々美 波多野結衣 大槻ひびき |
mine's | あやみ旬果 川上奈々美 紗倉まな 小島みなみ | - |
Bstar [4] | 白石茉莉奈 天使もえ 戸田真琴 | |
Diaz Group | 明日花キララ 東凛 長瀬麻美 | |
SUN PRO [5] | 星野ナミ 麻倉憂 | 村上涼子 |
AV事務所の役割
『封印されたアダルトビデオ』(2012年)によると、「事務所は命をかけてでも所属するタレントを守る。しかし、タレントが仁義に反した行為を取った場合、その落とし前を付けさせる[6] 」と説明している。しかし、「バッキー事件に関しては、多くの場合、事務所ぐるみでAV女優を騙していたといわれる[7] 」とも記述している(著者の井川は、セカンドカメラマンとしてバッキー作品に関わったことがある[8] 。タイトルは『うんこ大戦』[9] 。ただし、「(バッキー作品の)『水地獄2丁目』では、撮影中に大怪我をしたAV女優の事務所がバッキーに猛抗議し、発売させなかったと言われている」とも書いている[10] )。
ギャラの配分は、AV女優40%、事務所40%、20%がスカウトマン(マネージャー)となっている[11] 。AVマネージャーは、固定給そのものは同世代のサラリーマンより少ないが、このスカウトバックにより月収100万円になる場合もあったという[12] 。従って、スカウトもマネージャーにとっては必須のスキルとなってくる。
業界のルールと裁判、金額
同書では、デビュー直前にAV出演を拒んだAV女優(元グラビアアイドル)に対し、事務所が1億円の損害賠償を求めたケースを紹介している。この金額には、契約本数全て(何本かは明記されていない)と、当該AV女優に費やした経費が含まれている[13] 。
1億円というのは弁護士から送られてきた内容証明の金額だったが、裁判では約250万円にトーンダウンされた。内訳は、整形費用の立替が約20万円、家賃立替として約30万円、残りの約200万円がキャンセル料や信用下落に関するものだった[14] 。判決に関しては、整形に関する20万円の賠償が元AV女優に言い渡されている(ただし「二度とAVのような仕事をしないこと」と元AV女優に言い渡されている[15] )。この金額については、「複数契約の大物としては、1億は高すぎるが、250万円は安すぎる」とAV関係者が話している[16] 。金額を250万円に減額した背景としては、「金銭を受け取ってセックスを行うのは、売春と同じ」という判断があり、事務所や関係者の立場の弱さからくるものである[17] 。しかし、この時の信用失墜は大きく、「小さな事務所なら2度と使ってもらえないレベル」とAVプロデューサーは語っている[18] 。
金銭(AV女優、マネージャー)
同書では、単体女優の出演料として1本200万円という金額が提示されている。これはレースクイーン、着エロ、AVという流れでAVデビューした「元グラビアアイドル」の肩書きを持つ19歳の場合である[19] 。同様に「元芸能人(着エロ)」としてデビューした場合、事務所から「月給80万円と住居保証」という条件が提示されたケースも記されている。ただし、事務所からは「来年は月50万、再来年は30万に下がるかもしれない」と不安を煽る発言もあった。なお、この「80万円」という金額は、AV撮影(ただし、単体女優の場合は月に1本)に留まらず、イベント、チャット、雑誌の撮影なども含まれている。また、AV女優の取り分は3割から5割なので、事務所の取り分は200万円以上と推測されている。出版された2012年の段階で月50万円の単体女優(本人の手取りは30万円以下)も存在するという[20] 。
他の事例としては、2005年頃の事例として「(単体AV女優の場合)1本当たり100万円-300万円」という数字が出てくる(AV女優の取り分は40%)[21] 。しかし、2009年以降、不況などの影響で価格が下がり、前述のような月50万のケースも出てきているという[22] 。単体女優に関しては「企画女優10人分の価値」とも書かれている[23] 。「10本契約で年1000万」という口説き文句も存在した[24] 。
AV女優には単体の他にキカタン(企画単体)と呼ばれる存在もあるが、単体が月1本しか撮影しないのに対し、キカタンは複数本撮影し、多い場合には10本程度になることも珍しくない。1本40-80万円程度なので、本数によれば、スカウトバックは単体よりキカタンの方が多くなる[25] 。
キカタンよりギャラの安いのが企画女優だが、総ギャラが5万円というケースもあるという[26] 。絡み(本番)のないスカトロ要員の場合、一日2万円というケースも紹介されている[27] 。なお、着エロの場合、半日以上の拘束で7000円、一日でも1万円未満という相場も記されている[28] 。
以上の通り、マネージャー(事務所)にとっては、AV女優のスカウトや営業も大事であるが、AV女優の管理(体調、精神面)も必要となってくる。撮影当日に無断欠勤されてしまうと、現場に穴が開くからである。差し替えが利く場合はともかく、撮影中止となると、当日のスタジオ代やスタッフの手当てなど(「バラシ」と呼ばれる)を保障しなければならなくなるからだ[29] 。寮で孤独死(夏場で腐乱が激しく、自殺かどうかも不明)したケースも紹介されている。この場合はデビュー前であり、既に何本も撮りだめしていたが、遺族感情を配慮し全てお蔵入りとなった[30] 。
また、年齢確認も重要な仕事であり、これを怠って18歳未満を出演させると犯罪となってしまう。18歳の高校生の場合、法的には問題ないが、校則等に配慮し採用はしていない。なお、19歳(非高校生)の場合であっても、未成年の契約は親(親権者)によって反故にされるケースがあり、2005年以降は採用しない事務所が増えたという。事務所では免許証などで確認するほか、パスポートと一緒に取りに行く、という方法も取っている[31] 。
出典
- ^ 井川楊枝 『封印されたアダルトビデオ』 彩図社、2012年、164-165頁で記述されているAV事務所は、大手メーカー(名前は伏せられている)出資で、社員7名、AV女優は40名ほど、と紹介されている。ただし2007年に解散し、出版段階では既に存在していない。
- ^ "加盟プロダクション一覧". 日本プロダクション協会. 2018年1月11日閲覧。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 164-165頁で記述されているAV事務所は、単体と企画(少なくとも企画単体)を扱っている。
- ^ Bstar
- ^ サンプロ
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 75頁より引用。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 184頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 183-185頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 188頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 179頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 164頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 74-75頁。当該事務所の社長のコメントとして掲載されている。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 75頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 76頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 75-76頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 76頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 75-76頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 33頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 85頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 168頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 82頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 184頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 82頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 165-166頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 168-170頁。
- ^ 『封印されたアダルトビデオ』 34-40頁。