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扶養

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この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

扶養(ふよう)とは、日本国憲法 第25条(生存権、国の社会的使命)、第26条(教育を受ける権利、教育の義務)の趣旨に則(のっと)り、ある者の生活をその者の親族または国家が経済面より援助すること。「扶養を受ける権利のある者(民法第878条)」を「扶養権利者(ふようけんりしゃ)」、「扶養をする義務のある者(民法第878条)」を「扶養義務者(ふようぎむしゃ)」、実際に何らかの援助(給付)を受けて扶養されている者を「被扶養者(ひふようしゃ)」(健康保険法第1条、介護保険法第7条第8項第6号)などと呼ぶ。扶養義務者のうち誰が実際に扶養義務を果たすかは、民法など法令の定めるところにより決定される。

扶養一般

私的扶養(民法による扶養)と公的扶養(生活保護法等による扶養)の二種類があるが、私的扶養が困難な場合のみ公的扶養が開始されるというのが法の原則である(親族扶養優先の原則)。しかしながら、近年の行政実務ではこの原則を見直す動きがあり、公的扶養の比重が高まりつつある[1]

民法

以下、民法については、その条数のみ記載する。

基本道徳

日本国民法では、親族編(第四編)の「第1章 総則」において「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。」(730条)とその基本的な家庭道徳を高らかに謳われている。この「直系血族及び同居親族の扶助義務」の精神は、日本古来の思いやり仏教慈悲儒教惻隠の情父子の親長幼の序朋友の信武士道精神、及び、キリスト教の隣人愛の精神等のいずれとも無理なく合致しており、「直系血族及び同居の親族 」に必要不可欠な世界標準の家庭道徳である。日本国では、民法のこの条文をもって各々の日本国民が各々の家庭において最低限の家庭道徳を育むことを要請している。

夫婦間扶養義務

夫婦間扶養義務(夫婦の同居義務および夫婦の協力扶助義務)については、親族編(第四編)の「第2章 婚姻」において「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」(752条)と明確に義務付けられている。これに反する状態が続いた時には離婚の正当な理由となり得る。

752条に規定されるような夫婦間扶養義務を『夫婦およびその「子」が各々の生活を保持し続けられなければならない』という観点から「生活保持義務」と呼ぶ人もいる[2]

この752条に定める夫婦間扶養義務の中には、社会通念上、子供が生まれた場合その子が経済的に独立した一人前の社会人に育つまでその子を育て上げる義務(未成熟子扶養義務[2] )が含まれている。しかし、特に1990年代以降、不景気や崩壊家庭の増加や離婚率上昇の影響もあって理想と現実とのギャップはますます拡がる一方である。その上、1994年 4月22日、日本国は子供の権利条約に批准しているのであるが、これらの事情にもかかわらず、日本国の現行民法では、「子供の権利」や「親権者(保護者)の子育てについての義務」に主眼を置いた章すらいまだに存在しないままである。後述する820条において「親権を行う者」の権利義務という極めて片手落ちな形でわずかな規定があるのみである。

この752条夫婦間扶養義務(夫婦の「子」に対する未成熟子扶養義務[2] を含む)を補うものとして、民法では877条において親族間扶養義務が定められている。しかしながら、夫婦間扶養義務は、親族間扶養義務(877条)の遥か手前の752条において「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されるという特別な構成になっている。これは、民法が、夫婦間扶養義務を後発的な親族間扶養義務や種々の社会保障制度とは明確に区別し、『婚姻そのものに本源的に必要不可欠なものとして夫婦同士の扶養義務および夫婦の「子」に対する未成熟子扶養義務が含まれている』と夫婦の扶養義務者としての社会的立場・責任を最大限尊重・要請しているためである。

なお、夫婦間扶養義務の中に含まれている同居義務は、病院などへの入院などやむを得ない事由がある場合には免れるものと解されている。

監護・教育の権利・義務

「親権を行う者」の子に対する監護・教育の権利・義務については、民法 親族編(第四編)の「第4章 親権」において「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」(820条)と定められている。現行民法では、子の未成年時代の教育だけでなく日本国憲法第26条で保証されているはずの大学教育・大学院教育・留学教育を受ける権利をも、実質上、「親権を行う者(かつて親権を行った者を含む)」に丸投げしてしまっている。昭和戦後、子を扶養するための扶養費の中で最も大きな比重を占めるようになったものが教育費(教育関連の全ての費用)である。しかしながら、すべての「親権を行う者」が子にふさわしい教育のための資力を持ち合わせているかと言えば決してそうではない。また、すべての「親権を行う者」がその子にその子の望む教育を受けさせようとしているかと言えば、これも決してそうではない。これらの事情も考え合わせると、大学以上の高等教育を受けるにふさわしい「子」全員にそれ相応の適切な教育を受ける権利を保証するための具体的条文や、そのための扶養義務者を定めるための具体的条文が必要不可欠である。しかしながら、現状では、この752条が『子の教育については何もかも「親権を行う者」の権利かつ義務である』と極めて個人主義的・自由主義的に定めているに過ぎない。

親族間扶養義務

親族編(第四編)の「第7章 扶養」において「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」(877条第1項)と「直系血族及び兄弟姉妹」間の相互の扶養義務を明確に定めている。つまり、ある要扶養状態の「扶養を受ける権利のある者(扶養権利者)」に対しては、その者の直系血族(両親、祖父母、子、孫)および兄弟姉妹が第1次法定扶養義務者であり、この第1次法定扶養義務者のうちから誰かが877条第1項の扶養義務を果たすべきであることが明確に定められている。また、家庭裁判所は、第1次法定扶養義務者扶養能力について特別の事情があると認めるときは、法定扶養義務者の範囲を拡大して扶養権利者の三親等内の親族(第2次法定扶養義務者)に扶養義務を負わせることができると明確に定めている(877条第2項)。これら第1次、第2次の二重の法定扶養義務者が実際に扶養義務を果たすためには、その扶養義務者が自身の生活を維持した上で扶養権利者を扶養するだけの資力がなければならないが、法定扶養義務者のうち具体的に誰が扶養義務を果たすかは、当事者同士が協議して決めるか、協議しても決まらない場合は家庭裁判所が各人の資力を調査した上で決定する(878条)。

  • 扶養の程度・方法(879条880条)
  • 扶養請求権の処分の禁止
扶養請求権は処分することができない(881条)。

なお、上記扶養権利扶養義務の中には、日本国憲法第25条で保障されている扶養権利者の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」だけではなく日本国憲法第26条で保障されている扶養権利者の「法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」、および、これらに対応した扶養義務者の「法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務」が含まれていることが以下のような判例により確立されている。

「4年制大学に進学し、成人に達した子に対する親からの学費等の扶養の要否は、当該子の学業継続に関する諸般の事情を考慮した上で判断するべきであって、当該子が成人に達しかつ健康であることをもって直ちに当該子が要扶養状態にないと判断することは相当でない」との判例(2000年(平成12年)12月5日 東京高裁決定。判例タイムズ臨増1096号94頁。家裁月報53巻5号187頁。「扶養申立却下審判に対する抗告事件———取消、差戻」)[2]

「抗告人は、親が財産がないのに、子が大学に入学して、親に扶養料を払えというのは不当であると主張するが、子が大学に入学することの可否は、子を本位とし、その才能や福祉を中心として定めるべく、また、その場合、子の教育費を親が支払うべきか否かは、親の扶養能力の有無によつて決すべきことであつて、親の扶養の能否によつて子の進学の可否を決すべきものではない。」との判例(1960年(昭和35年)9月15日 東京高裁決定。家裁月報13巻9号53頁。「扶養請求事件の審判に対する即時抗告事件」)[2]

各種法令

総説

生活保護を申請する場合と精神保健福祉法保護者を選任する場合などに、上記の民法上の扶養義務の存否が問題となり、原則としては扶養義務者が存在しないと認定された場合にのみ公的扶養が開始されることになる。

生活保護法

生活保護の申請があると、福祉事務所は、申請者の扶養義務者に、扶養の可否を照会することとされている。照会に際して、親族への生活保護の適用を嫌気して扶養する旨の回答をしながら、実際には扶養しない者もあり、問題となることがある。

精神保健福祉法

精神保健福祉法では、医療保護入院で、保護者家庭裁判所から選任の審判がなされていない場合に、扶養義務者の同意により入院することがある。この場合の入院は4週間以内とされており、この期間内に保護者の選任審判ならびに保護者による入院同意手続きがとられなければ、入院が違法となる場合がある。

脚注

  1. ^ 経済企画庁編『平成8年度国民生活白書』第5章第3節
  2. ^ a b c d e 扶養義務の基礎の基礎-未成熟子扶養の程度特に終期

その他

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