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水死

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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水死(すいし)とは、ヒト口腔内から吸引された液体が気管へ侵入し、に水がたまるなどして気道がふさがれることにより引き起こされる窒息死の一種である。主に水難事故の延長で引き起こされる死である。溺死(できし)ともいう。

喀血吐血による血液の吸引・逆流による窒息死は水死とは呼ばない。

日本での概況

発生件数

2002年(平成14年)の警察庁のまとめによると(また以下に出てくる数字もこの資料による)、日本での水難事故の発生件数は1,722件で、その内死亡者は951件である。死亡率は約50%と決して低い数字とはいえない。交通事故などに比べても圧倒的に死亡率が高い。

死亡者の内訳として高校卒業相当年齢以上65歳未満が557名、水死者全体の57.0%を占めている。65歳以上の高齢者284名 (29.1%) で、以下高校生相当年齢、未就学児童、小学生中学生と続く。しかし、65歳以上の高齢者の水難事故者数の7割近くは死亡しており、致死率では一番高い年代である。これは、いざ溺れるなりの事態に陥った時、対処できうる体力がないからであり、また、自分はまだまだ若いという過信も重なって不遇な状況にも陥りやすいからでもある。

発生場所

発生場所としては、が一番多く、501名の死亡者が出ている。これは水死者全体の50%近くを占める。以下、河川282名(28.9%)、用水路106名(10.8%)、沼池67名(6.9%)、プール7名(0.7%)と続く。用水路という聞きなれない場所が見られるが、これは泥酔した人が歩行中に誤って、側溝などの用水路に転落し水死したケースである。これは釣りや水泳中に死亡したケースと匹敵するぐらい多い行為であり、決して笑い事では済まされない。

また、0歳児と1歳児の水死の数それ自体は多くはないが、その約80%が浴槽であり、風呂場での水死が多い事が特徴としてあげられる。乳児の死亡率の低さは日本は世界でも指折りだが、0歳児の死亡率は先進国では2番目に高い数字である。1998年(平成10年)、厚生省(現厚生労働省)の「乳幼児死亡の防止に関する研究班」の調査で発表されている。これは日本の家庭で残り湯を残すという習慣があるからである。残り湯程度の水があれば簡単に幼児は水死してしまう。

発生要因

水死にいたる以前行為として、魚釣り・魚とりが一番で292名の犠牲者が出ている。これは魚が釣れるのを何時間も待っているという緩慢な行為を続けているため、極度に集中力が低下しているからであり、また眠気も伴い、咄嗟の状況の対処が難しいからである。ウォータークーラーを浮き具の代用にして助かったケースも存在するが、防止策としてはできるだけ一人では行かない、ライフジャケットを着用するなどの対策があげられる。なお、台風が接近している時に釣りをしていて高波・濁流に流され水死するという事故も毎年発生している。

水死事故の大半は着衣の状態で起こっており、これは普段とは違い不慣れな泳ぎを強制されるからである。なおかつ、裸体時と比べ、体力の消耗は激しい。

水死に至るまでの過程

水死を招く状況

心臓の弱い人が海水浴に行ったとき、急な心臓発作が起こって溺れたり、心臓の強い水泳の選手であっても、急激に水温が下がるなど、何十キロと泳ぎ体力を消耗して溺れたり、湖の水面が凍っていると思って遊んでいたら、氷が破れて落ちて溺れたりなど、様々である。天気や水温やその他の諸状況によっても、人を溺れやすくする状態にさせるため、一概にどうであるかとはいえないが、泳ぎに自信がない人間や心臓が弱い人間などは特に注意しなければならない。また、クラゲなどの毒を持つ動物は、その毒そのものよりも、急な痛みなどからパニックを引き起こすことが危険だとも言われる。

また、自分で湖や川に身を投げ水死するものや、殺人者などによる強制的に人を溺れさせる水死などもある。

初期の酸素欠乏症状

人間がはじめ溺れ始めると、息を無意識に吸おうとする。それが結果としてパニックを招く。何とか空気を吸おうと必死にもがくため、動悸を早めてしまい、もっと空気を必要とさせる。動くために必要な酸素がどんどん消費されるため、頭に回る酸素を少なくさせてしまい、さらに正常な判断ができなくなってしまう。そして、徐々に無意識に近い状態になっていく。

気管に水が入る

人間がもし水を飲んでしまったり、飲みそうになった場合は、さらにちゃんと飲み込もうとするだろう。それゆえ、もし無意識な状態の人間であれば、従順なまでに水をどんどん飲み込んでしまうのだ。もし水が喉の中の喉頭あるいは声帯に入れば、気管が凝縮して、侵入を拒む。肺には普段、この水の侵入を防ぐ機能が働いているが、一度水が肺の中に入ってしまえば、この機能は途端に無意味になる。

しかし、肺に水が入る前に死んでしまうと、肺には空気が入っているし、飲み込むという運動がないので肺には水が入らない。このことを「乾燥した水死」と呼ぶ。しかし、この水死は前述のと比べると圧倒的に少ない。また前述の水死を「濡れた水死」と呼ぶ。

心停止、そして死へ

酸素欠乏のため、徐々に無意識の状態に陥り、肺の中では化学変化がおきる。つまり、心臓の働きを止めてしまうのである。この心停止で、血液の循環もとまり、酸素も全身に循環されなくなる。心停止は臨床による死としても知られる。まだ、この状態になっても助かる可能性はあるが、脳は酸素を必要とするので、脳に重大な障害を残し、いずれは脳死と呼ばれる状態になる。生き残ったとしても遷延性意識障害になる可能性が高い。

子供に多い要因

体が成長過程にある子供の場合、とをつなぐ耳管が大人より太く短い。その為、息継ぎに失敗すると耳管の奥まで水が入り、耳管の奥にある中耳内の圧力が高まり中耳の内出血を起こす。更に、症状が進むと三半規管の麻痺を起こしてめまいを発症(大人でいうとひどく泥酔した状態)し、症状がひどくなると意識を失って、呼吸出来ずに溺死に至る。この要因は、泳ぎが上手な子供に多い。

応急措置

溺れた人を水死させないためには、早期の発見、意識確認と早期の通報と早期の応急救護が必要である。一般的に、心臓停止では3分たてば死亡率が50%、10分たてばほとんど生存が見込めなくなる。他には呼吸停止の場合、10分で死亡率が50%、30分たてば殆ど生存は見込めない。しかも、救急車に通報をして1分以内に救助にくる可能性は皆無に等しい。

応急救護措置の簡単な流れ(ずっと、意識がない場合)

  1. 負傷者に意識があるか、ないか確認する。
  2. 助けを求め、気道を確保する。
  3. 十分な呼吸をしているか、負傷者の口に自分の耳を持っていき確認する。
  4. 呼吸がない場合、2回人工呼吸をする。
  5. また、反応があるか、ないか確認する。呼吸、咳、動き。
  6. 反応がない場合、胸骨圧迫人工呼吸を30:2の割合で行う。
  7. それを4回続けた後、循環のサインがあるか確認する。
  8. それでも反応がない場合、救急車が来るまで、続ける。

ただし、第三者が不慣れな応急救護のためかえって、事故者の症状を悪化、死亡させてしまうこともあるので、まずその場に医者や看護師がいないかを確かめ、その人の指示に従うことが必要である。なお海外においては、善意による応急手当てで容態を悪化させてしまっても、法的な責任を負うことはない(善きサマリア人の法)が、日本においてはそのような法律は存在しない。そのため、善意による応急手当であっても、傷害罪として警察によって逮捕、起訴されるリスクを負う可能性がある。

ただし、善意の応急処置によって事故者の容態を悪化させたとしても、重大な過失がなければ民法698条の規定により、事故者やその家族からの損害賠償請求が認められることはない(緊急事務管理)。しかし応急処置において重大な過失があり、事故者の容態を悪化させた場合は、損害賠償請求を受けて法廷で争う可能性がある。

その他

事件性のある水死体

事件性のある水死体は色々調べられる。例えば、2004年(平成16年)11月奈良で起きた小学一年生殺害事件がそうである。被害女児の死因は溺死であった。そのときの彼女の気道や胃や肺などにたまった液体や付着物が調べられた。その液体が風呂の水なのか、どこどこの湖の水であるとかが調べれば分かる。動物性プランクトン(アメーバミジンコetc)や植物性プランクトン(珪藻類など)や藻などである。

また事件性のある水死体の特徴として、生前に犯人に付けられた損傷が肉体膨張などにより認識しづらくなり、また流されているときについた損傷なのか(木などの漂流物や、水中動物とか)分からなくなる。

自殺

水死、溺死は自殺の手段としても知られる。いわゆる、入水自殺というものである。有名なところで太宰治や一緒に自殺した山崎富栄などがいる。しかし、自殺志願者の中には、死後自分の体が水分を吸い、全身が膨張した姿になることを嫌がる人間も多い。加えて、体内部で腐敗したガスのせいで浮上してしまうことがあり、自分の体が死後野次馬の視線に晒される可能性があることも嫌われる。季節や水温やらの状況にもよるが、腐敗ガスによる浮揚力は20kg〜30kgのおもりをつけても浮く力がある。

また自分の遺体がどこに流れ着くか分からず、それが他殺遺体なのか自殺遺体なのかの判別も難しい。

裁判

水死に関わる裁判は多く起きている。特に、学校のプールを管理する教師や行政や、部活をやっていて溺れた場合などの子供を管理する監督者に対する過失が問われる裁判が起きており、中には水死した子供の親に対して過失相殺が認められる事例も多く見られる。

予防策

海水浴の場合

  • 単独で、一人でできるだけ行かない。
  • ビールなど飲酒後は絶対に泳がない。
  • 自分の泳ぐ力を鍛錬し、また自分の泳ぐ力を過信しない。
  • 波が人を飲み込む力を侮らない。
  • 海の場合、急に深くなっている場所もあるので細心の注意を払う。
  • 子供がいる場合、絶対に目を離してはならない。
  • 天候や水温に常に注意を払う。
  • 「遊泳禁止」の場所では泳がない。
  • 台風低気圧などで海が荒れている時に泳がない。

プールの場合

  • 鼻の奥に「ツーン」とする痛みを感じたら、中耳の奥に水が入り込んでいて、めまいを発症する前兆なので、たとえ泳ぎが上手くても直ちに泳ぎを中止する。
  • 学校やレジャー施設のプールでは、たとえ子供がプールの底に沈んでいても他の子供には事態の深刻性が把握できないので、担当教諭やプール監視員は特に注意が必要である。発見したらただちに子供をプールサイドに引き揚げ、人工呼吸などを施す。
  • 給排水口には近づかない。

川の場合

  • 自分がいる場所で雨が降っていなくても、ダムの放流・川の上流部での悪天候による短時間での突然の水位の急激な上昇に注意する。
  • 川の流れは複雑であり、気をつけなければならない。
  • 山に流れる川の場合、天候が急変する恐れがあるので、注意を払い、無茶はしない。
  • ライフジャケットを着用する。

釣りの場合

  • 自分の体に、安定した場所にくくりつけた命綱をくくりつけ、身の安全の確保をする。
  • ライフジャケットを着用しておく。
  • 不安定な足場や危険な場所では釣りをしない。
  • ボートなどで釣りをする場合、転落に気をつけ、身を乗り出さない。

浴槽の場合

  • 子供は数十センチもあれば水死してしまうため、目を離してはならない。
  • 残り湯をできるだけ残さない。捨てるか、洗濯水として使うなどして、とにかく残さない。

その他の場合

  • 自分の体が万全な健康状態でない限り、水という水には決して近づかないことである。
  • 台風など大雨の時に、冠水している「田んぼ」や「」などの見廻りや、強風で飛ばされ増水した川や堰に落ちた帽子等を決して拾う事をそれぞれしない事(足元が濁水で見えない為、非常に危険である)。

土左衛門

水に浮いた水死体のことを「土左衛門(どざえもん)」と呼ぶのは江戸時代からの伝統である。

名前の由来は、山東京伝の『近世奇跡考』巻1に「案(あんず)るに江戸の方言に 溺死の者を土左衞門と云(いう)は成瀨川肥大の者ゆゑに水死して渾身暴皮(こんしんぼうひ)ふとりたるを土左衞門の如しと戲(たわむ)ゐひしがつひに方言となりしと云」とある。水死体はいったん水底に沈み腐敗が始まるとガスを発生し、組織が水を吸ってぶよぶよになり、体が膨れ上がって真っ白に見えることがある。この様が、享保年間に色白で典型的なあんこ型体形(締まりのない肥満体)で有名だった大相撲 力士成瀬川土左衛門にそっくりだったことからこの名がついたという。

力士の四股名には伝統名として繰り返し襲名されるものが多いが、「土左衛門」はこの成瀬川の後は一度も襲名されることがなかった。

関連項目

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、水死 に関連するメディアがあります。

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