原子
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原子(げんし、Atom)という言葉には以下の二つの異なった意味がある。
- 1900年代前半に発見された、物質の一構成単位。ひとつの中間単位。上述の概念「究極の分割不可能な単位」に相当すると、当時の科学者らの早合点によって一時代 誤認され、Atomと呼ばれるようになってしまったもの。(だが、現在は分割可能だと判っているので、すでに文字通りのAtom「分割不可能なもの」ではなく、ひとつの中間単位にすぎない、と知られているもの)
概説
Atomという言葉は、元はギリシャ語のAtomonであり、「分割できないもの」という意味である。
古代ギリシャのデモクリトスらによって、原子論という仮説が唱えられた。
物質にそもそも本当に最小構成単位があるのかどうかということについては、人類の歴史始まって以来、明らかにされたことはない[2] 。
後述するような歴史的経緯によって、「原子」という言葉が、その原義と矛盾するような、物質のひとつの構成単位にすぎないものに割り当てられてしまったので、その後「(仮説的な)分割不可能な単位」という概念を指すために「素粒子」という言葉が新たに造語され、現在ではそれが広く用いられるようになっている。つまり、かつて「原子論」と呼ばれる分野で行われていた推察・考察は、現在では「素粒子論」と呼ばれる分野において行われている。
冒頭定義文の2番目の意味での原子(=中間構成単位としての原子)は、分割可能で下部構造があるのでその要素の組み合わせによって、同一種のものと判定されたり、異種のものと判定されたりすることになる。現在発見されているものだけでも約3000種類存在し、数え方によっては約6000種類に達する。しかしながら、電子の数(陽子の数)を基準とし、それが等しいものを同じ原子と考えた場合は、約110種類の元素にまとめることができる。個々の原子の境界面は、外側に位置する電子の性質上、厳密に言えばはっきりとしないものである[3] が、一般にほぼ球状と理解されており、半径は10-8cm程度、質量は種類によって異なるが、10-24〜10-22gである。分子は複数の原子が共有結合によって結びついたものである。種類は少ないものの1個の原子から成り立っている分子(単原子分子)も存在する。
歴史
「物質」が、「極めて小さく不変の粒子」から成り立つという仮説・概念は紀元前400年ごろの古代ギリシアの哲学者、レウキッポスやデモクリトスに存在した。だが、この考えは当時あまり評価されたとは言えず、その後およそ二千年ほど間、大半の人々から忘れ去られていた。
19世紀初頭のイギリスの化学者ドルトンが、近代的な原子説を唱えた。彼は、物質には単一原子(現在の原子)と複合原子(現在の分子)がある、との説を述べた。
だが、確たる証拠があったわけでもなく、原子がどのようなものか具体的に正確に説明できる人は誰一人としておらず、科学者の大半は、物質に本当にそのような構成単位があるのか大いに疑っていた。科学者の共同体では「原子が存在するとは信じません」と言う科学者のほうが、むしろまともだと考えられていた[4] [5] 。
ごく少数の科学者が、表面的に見えるものの背後の世界、眼には見えず、触れることもできない世界に踏み込もうとしはじめていた。ルートヴィヒ・ボルツマンはその一人だった[6] 。ボルツマンは、気体が、原子仮説で想定されている「原子」なるものの集合だと考えれば、(当時知られていた)気体の特性の多くが説明できると思った。「原子」なる仮説的存在が動き回っているとすると、温度や圧力の性質も説明しやすいし、蒸気機関において熱い気体がピストンを押すという仕事をすることも説明しやすかった。
1897年1月、ウィーンの帝国科学アカデミーで、理論物理学者ボルツマンが講演を行った時には、プラハ大学で長年物理学教授をしていたエルンスト・マッハが上記の「私は原子が存在するとは信じません」という言葉を述べた(宣言した)。
20世紀初頭にラザフォードとソディが発見したウランの放射壊変は原子の概念を大きく変えた。原子は不変の粒子ではなくなったからである。これに先立つ陰極線の発見とあわせ、近代的な原子モデルを確立したのがトムソンである。彼のモデルはちょうど、ぶどうパンのように、正に帯電した「パン」の中にブドウのように電子が埋まっているというものだった。ついでラザフォードと長岡半太郎が独立に惑星系に似た原子モデルを考案した。ボーアは量子仮説に基づく電子の円軌道モデルを考案し、ゾンマーフェルトが電子の楕円軌道モデルに拡張した。
量子力学の発展に伴い、原子と電子の関係に関してはほぼ解明されてきているとも言えるが、原子核のことは今でもわからないことは多い。また、量子力学の発展に伴い、当初の原子論が暗黙裡に含んでいた素朴な図式・世界観(球状の何かの想定、モノが絶対的に実在しているという素朴な観念、つまり非確率論的に実在しているという素朴な観念)は、すでに崩れてしまったとも言え、物理学の理論全体としては、当初となえられていた原子論とはかなり異質なものになってきた、とも言える。
原子の構造
原子は、正の電荷を帯びた原子核と、負の電荷を帯びた電子から構成されるのだと考えられている。原子核はさらに陽子と電気的に中性な中性子から構成される(ただし大部分の水素原子は中性子を含まない)。陽子と中性子の個数の合計を質量数と呼ぶ。原子核の半径は原子の半径の約10万分の1と小さい[7] 。
原子量
原子量とは、原子の相対的な質量を表す。比率を表す量であるため、原子量には単位を付けない。このような数を無次元数と呼ぶ。
質量数12の炭素原子である12C(炭素12)1個の質量を12.0000と定めた場合の他の元素の質量比である。整数値をとる質量数とは異なり、一般に小数になる。例えば、炭素の原子量は12.011であり、塩素の原子量は35.45である。これは多くの元素では、質量数の異なる原子(同位体)が存在し、存在比率もまちまちなためである。例えば塩素の場合35Clの存在比が約76%、37Cl×ばつ0.24という計算によって原子量の概数を求めることができる[8] 。
原子と元素
原子とは、内部に持つ陽子と中性子の各個数の違いで区別される個々の粒子を指す。例えば炭素原子は中性子数の異なる12C、13C、14Cの3種類が存在する。一方元素は、中性子数に関わらず、ある特定の陽子数(原子番号)を持つ原子のグループを指す。例えば、「炭素は燃焼(酸素と結合)して二酸化炭素を生成する」と表現した場合の「炭素」や「酸素」は元素を意味する。
周期表
周期表(元素周期表)とは、元素を陽子の数と等しい原子番号の順に並べた表のこと。
化学的、物理的に似た性質の原子(元素)を見やすくするため、一定の数ごとに折り返してまとめてある。下表は代表的なものであるが、他にもらせん型や円錐型、ブロック型など複数の形式が考案されている。表の最上段には1〜18の数字が振られている。これを元素の族と呼ぶ。それぞれの升目には原子番号と元素記号が記されている。実用性を高めるため原子量を元素記号の下に記述することが一般的である。この場合、安定同位体を持たない元素については既知の同位体の中で最も半減期の長いものや存在比の高いものの質量数をカッコ書きして記載する。また、色分けや記号類を用いて常温での相を表したり、遷移元素・半金属元素・人工放射性元素を表現することもある。
1 |
18 | ||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 H |
2 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 2 He | ||||||||||
3 Li |
4 Be |
5 B |
6 C |
7 N |
8 O |
9 F |
10 Ne | ||||||||||
11 Na |
12 Mg |
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 Al |
14 Si |
15 P |
16 S |
17 Cl |
18 Ar |
19 K |
20 Ca |
21 Sc |
22 Ti |
23 V |
24 Cr |
25 Mn |
26 Fe |
27 Co |
28 Ni |
29 Cu |
30 Zn |
31 Ga |
32 Ge |
33 As |
34 Se |
35 Br |
36 Kr |
37 Rb |
38 Sr |
39 Y |
40 Zr |
41 Nb |
42 Mo |
43 Tc |
44 Ru |
45 Rh |
46 Pd |
47 Ag |
48 Cd |
49 In |
50 Sn |
51 Sb |
52 Te |
53 I |
54 Xe |
55 Cs |
56 Ba |
*1 | 72 Hf |
73 Ta |
74 W |
75 Re |
76 Os |
77 Ir |
78 Pt |
79 Au |
80 Hg |
81 Tl |
82 Pb |
83 Bi |
84 Po |
85 At |
86 Rn |
87 Fr |
88 Ra |
*2 | 104 Rf |
105 Db |
106 Sg |
107 Bh |
108 Hs |
109 Mt |
110 Ds |
111 Rg |
112 Cn |
113 Nh |
114 Fl |
115 Mc |
116 Lv |
117 Ts |
118 Og |
*1 ランタノイド: | 57 La |
58 Ce |
59 Pr |
60 Nd |
61 Pm |
62 Sm |
63 Eu |
64 Gd |
65 Tb |
66 Dy |
67 Ho |
68 Er |
69 Tm |
70 Yb |
71 Lu | ||
*2 アクチノイド: | 89 Ac |
90 Th |
91 Pa |
92 U |
93 Np |
94 Pu |
95 Am |
96 Cm |
97 Bk |
98 Cf |
99 Es |
100 Fm |
101 Md |
102 No |
103 Lr | ||
1
不明
不明
希ガス
|
原子模型
原子の構造を、人間の頭脳でも把握しやすいように大胆にデフォルメし、簡単な図で表現してみたもの。右に示したボーアの原子模型が最も単純な形である。この図では酸素原子のうち最も存在量が多い16Oを表している。8個の電子、核内の8個の陽子と8個の中性子の存在を読み取ることができる。原子の化学的性質を説明する場合には、このモデルを大幅に拡張し、3次元空間に分布する電子雲を考慮に入れた模型が必要になる。
参考文献
- デヴィッド・リンドリー『ボルツマンの原子』
脚注
- ^ あるいは世界観
- ^ 注、カントの時代よりすでにこの問題は指摘されている。「アンチノミー」も参照のこと。
- ^ 注.確率的に分布している、いわば雲状に分布している、などと説明される。(電子雲参照)。
- ^ デヴィッド・リンドリー『ボルツマンの原子』p.1
- ^ 注、現在でこそ、物質には、(本当に分割不可能な究極の単位が存在するかどうかはともかくとして)、とりあえず、中間的な単位、一構成単位、としての何らかの小さな単位があることは異論の余地は無いこととされているが、つい100年ほど前までは、それはむしろ怪しいことだと、科学者らのあいだでも考えられていたのである。
1820年にジョン・ヘラパスという無名のアマチュアサイエンティストが、熱はモレキュールあるいはアトムの運動に相当する、と考えてそれを論としてまとめ、ロイヤルソサエティ(イギリス王立協会)に送ったが、当時の王立協会の総裁のハンフリー・デイヴィーはその論文を採用しなかった。(これに関しては、ヘラパスが衝突の力学を誤解している箇所があり、計算式が一部間違っていたこともある、ともされる)ヘラパスの論文は結局、他の無名な科学雑誌にしか掲載されなかった。(出典:『ボルツマンの原子』)
だが、1845年にもジョン・ジェームズ・ウォーターソン(ボンベイに住んでいて、東インド会社の幹部候補生に航法と砲術を教えていた人物)が、気体は無数のモレキュール(分子)から成りそれが容器の壁に衝突する衝撃が圧力だ、とするかなり緻密な計算をして長い論文にまとめ、それを当時の科学誌に掲載してもらうために、当時のイギリスの最高の科学者団体の王立協会に論文を提出した(査読に出した)時も、王立協会の二人の査読者(当時の一流の科学者)のうちのひとりは、こんな論文は「無意味以外の何ものでもない」と決め付け、もうひとりのほうは「事実との顕著な一致はあるが、まったくの仮説にすぎない」ので「受け入れ難い」と結論した。(出典:『ボルツマンの原子』pp.17-18)
今日では、物理学者らが何かしら風変わりな微小構成単位を含んだ仮説を提唱しても、さほど変人だとは思われないが、当時はそうではなかった。つい100年ほど前は、大半の科学者は、科学者の仕事というのは、あくまで直接観察される現象を量的に測定し、それを体系化することであり、科学というのは科学法則を見つけることであり、観測される現象の定量的な関係を記述することだ、としか思っていなかったのである(出典:『ボルツマンの原子』p.9)。 - ^ 『ボルツマンの原子』p.9
- ^ 注、ボーアモデルの図などは原子核の大きさは原子に対して数分の1程度なので、実態とはかけ離れたデフォルメである。原子核と電子の間には真空が広がっている、ともされ、かつてはボーアモデルのように、惑星系のイメージで軌道まで描いて理解されることも多かったが、最近では、原子核を電子雲が包むイメージで理解されることが多い。
- ^ 実際には原子核の結合エネルギーを除外する必要がある。