「台湾語仮名」の版間の差分
2020年8月15日 (土) 18:40時点における版
台湾語仮名(たいわんごかな、タイ ヲァヌ ギイ カナ、臺灣語假名)とは、日本統治時代の台湾で試みられた、台湾語の発音を表記するための仮名を使った振り仮名。台湾語の発音には有気音や鼻母音など、日本語の表記では区別しない発音があり、これらを仮名を使って表せるように考案されたものである。声調は仮名の隣に特殊な記号を付けて示せるようになっている。総督府は台湾各所の発音を調べ、結果として西洋宣教師の影響を受け、いわゆる廈門音を基準にした。
『日台小字典』(1898年)、『日台新辞典』(1904年)、『日台大辞典』(1907年)、『日台小辞典』(1908年)、『台日新辞書』(1931年)、『台日大辞典』(上巻1931年、下巻1932年)、『台日小辞典』(1932)、『新訂日台大辞典』(上巻1938年、下巻未発行)などの辞書や数多くの台湾語学習教材などの出版実績があり、官民問わず広く使用されていた。
Unicodeなどには収録されておらず、電算処理は困難である。片仮名と同じ文字はそれで代用できる場合もあるが、声調表記ができないのが普通である。今昔文字鏡には声調記号も収録されており、うまく組み合わせば表記可能である。
台湾語仮名の表記法は、時代と共に改良と考えられる若干の変化が加えられており、また、書籍によっては細部に差異がある場合がある。ここでは、主に台湾総督府の後期の大型刊行物(『台日大辞典』および『新訂日台大辞典』)で見られる表記法に従う。
五十音字
ら行 | ま行 | は行 | な行 | た行 | さ行 | か行 | あ行 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ン [ŋ] | ラ [la] | マ [ma] | ハ [ha] | ナ [na] | タ [ta] | サ [sa] | カ [ka] | ア [a] | あ段 |
リ [li] | ミ [mi] | ヒ [hi] | ニ [ni] | チ [ʨi] | シ [ɕi] | キ [ki] | イ [i] | い段 | |
ル [lu] | ム [mu] | フ [hu] | ヌ [nu] | ツ [ʦu] | ス [su] | ク [ku] | ウ [u] | う段 | |
レ [le] | メ [me] | ヘ [he] | ネ [ne] | テ [te] | セ [se] | ケ [ke] | エ [e] | え段 | |
ロ [lɔ] [lə] |
モ [mɔ] [mə] |
ホ [hɔ] [hə] |
ノ [nɔ] [nə] |
ト [tɔ] [tə] |
ソ [sɔ] [sə] |
コ [kɔ] [kə] |
オ [ɔ] | お段 | |
ヲ [ə] |
- 注釈
- 「ヤ」、「ユ」、「ヨ」、「ワ」、「ヰ」、「ヱ」は台湾語仮名で使われない。
- 台湾語の場合母音(短母音)は六種あり「ア」[a]、「イ」[i]、「ウ」[u]、「エ」[e]、「オ」[ɔ]、「ヲ」[o]で表される。それぞれ白話字(教会ローマ字)ではa、i、u、e、o͘ 、oとなる。「ヲ」は「ウォ」のような音ではなく、曖昧な「オ」のような音で口を狭く開ける[o]。ただし、現在の台南、高雄など地方は[ɤ~ə]となる。
- 台湾語は「f-」軽唇音がなく、「フ」の発音は「hu」。
- 「ヌ」は[n]としても使われる。
- 「ム」は[m]としても使われる。
- 「ン」は[ŋ]として使われる。
符号字
有気音 | — | 半濁音 | 濁音 | — | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
サ̣行 | パ̣行 | タ̣行 | カ̣行 | サ行 | ぱ行 | ば行 | ざ行 | が行 | あ行 | |
サ̣ [ʦha] | パ̣ [pha] | タ̣ [tha] | カ̣ [kha] | サ [ʦa] | パ [pa] | バ [ba] | ザ [ʣa] | ガ [ɡa] | あ段 | |
チ̣ [thi] | ピ̣ [phi] | チ̣ [ʨhi] | キ̣ [khi] | チ [ti] | ピ [pi] | ビ [bi] | ジ [ʥi] | ギ [ɡi] | い段 | |
ツ̣ [thu] | プ̣ [phu] | ツ̣ [ʦhu] | ク̣ [khu] | ツ [tu] | プ [pu] | ブ [bu] | ズ [ʣu] | グ [ɡu] | ウ [ɨ] | う段 |
セ̣ [ʦhe] | ペ̣ [phe] | テ̣ [the] | ケ̣ [khe] | セ [ʦe] | ペ [pe] | ベ [be] | ゼ [ʣe] | ゲ [ɡe] | え段 | |
ソ̣ [ʦhɔ] [ʦho] |
ポ̣ [phɔ] [pho] |
ト̣ [thɔ] [tho] |
コ̣ [khɔ] [kho] |
ソ [ʦɔ] [ʦo] |
ポ [pɔ] [po] |
ボ [bɔ] [bo] |
ゾ [ʣɔ] [ʣo] |
ゴ [ɡɔ] [ɡo] |
オ [ə] | お段 |
- 注釈
- 「サ」は「ツァ」のつまった音、すなわち(tsa)の音を表す。
- 「セ」は「ツェ」のつまった音、すなわち(tse)の音を表す。
- 「ソ」は「ツォ」のつまった音、すなわち(tso)の音を表す。
- 「チ」は「ティ」のつまった音、すなわち(ti)の音を表はす。
- 「ツ」は「トゥ」のつまった音、すなわち(tu)の音を表す。
台湾語仮名 日本語片仮名(外来語) [a] [i] [u] [e] [ɔ/o] [a] [i] [u] [e] [o] [t] タ チ ツ テ ト タ ティ トゥ テ ト [ʦ/ʨ] サ チ ツ セ ソ ツァ チ ツ ツェ ツォ
- 「.」を仮名の下部中心に添えて有気音を表す。これで一つの新しい仮名のようになっている。(「カ」に「 ゙」を添えたのが「ガ」であるように。)
- 特殊な母音として「ウ」がある(泉州腔)。唇「イ」舌「ウ」の位置にて発する音を表す。国際音声記号 [ɨ] の音を表す。
- 特殊な母音として「オ」がある(泉州腔)。唇「エ」舌「ヲ」の位置にて発する音を表す。国際音声記号 [ə] の音を表す。
八声符号
以下に図例を示す。より詳細な符号の形状については、台湾総督府編の「日本国民読本」や「台日大辞典」等の書籍を参照のこと。
上平 第一声 |
上声 第二声 |
上去 第三声 |
上入 第四声 |
下平 第五声 |
上声 第二声 |
下去 第七声 |
下入 第八声 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
常音 | なし | |||||||
鼻音 | ||||||||
白話字 | a | á | à | ah | â | á | ā | a̍h |
- 常音第二声の形状は、上記の図例では下に凸で反っているが、鼻音第二声と同様に上に凸で反っている場合もある(実例としては、例えば、「台日大辞典」がある)。
- 仮名の右側に書き添える。
- 八声符号は白話字の声調符号を真似て作られたという説もある。
- Unicodeには存在しない。
対照表
韻母表
|
|
音節表
- [m]行,[n]行,[ŋ]行は必ず鼻音の八声符号を付ける。子音自体も鼻音で、それに母音も引きずられるため。
- ガ行に常音の八声符号を使うと[ɡ]行のことになり、ガ行に鼻音の八声符号を使うと[ŋ]行になる。[ɡ]行が鼻音化したものが[ŋ]行であるため。
- 声門破裂音 [ʔ]がつく場合は仮名綴りの最後の文字を小書きにする。例外として、子音なしの[m̩ʔ],[ŋ̍ʔ]の場合だけは小書きにはしない。
- 小書きヲ(ヲ)は、近年までUnicodeに存在しなかったが、2019年3月にUnicode 12.0に登録された。多くのフォントはまだ対応していないため、ここでは、フォントサイズの変更により表示している。
- これに八声符号をつけて完全な表記となる。
用例
この音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。
※(注記)台湾総督府《臺灣教科用書國民讀本一》第七課より
関連項目
外部リンク
- 台灣總督府ê日本國民讀本(台湾語)
- 《訂正臺灣十五音字母詳解》 音系研究(中国語)
- 江 秀姿「『臺灣教科用書國民讀本』に見える「土語讀方」について」(pdf)『台湾日本語文学報』創刊20号紀念号、台湾日本語文学会、2005年12月、515- 539頁、ISSN 1727-2262、2015年2月14日閲覧。
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