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2011年11月15日 (火) 02:57時点における版
エスカレーター(英: Escalator)は、主として人が建物の各階を移動する目的で設置・利用される階段状の輸送機器。
名称
"Escalator"という語は元々、アメリカ合衆国の企業オーチス・エレベーター社 (Otis Elevator Company) の登録商標で、商品名である。しかし、当時この自動式階段を表す適当な語句が他に無く、一般に「エスカレーター」と呼ばれたため、普通名称化した経緯がある。オーチス・エレベーター社では既に商標権を放棄している。
"escalator"という名称の由来については、様々な歴史家や著作家がそれぞれ独自の見解を表明しており、それらに基づいた誤解がインターネット上に蔓延している[1] 。
名称の由来と当初の意図
アメリカの発明家チャールズ・シーバーガー (Charles Seeberger) は、パリ万博への出展にあわせて1900年に "escalator" を商標とした。シーバーガー自身の説明によると、1895年に法律家に発明に名前を付けることを助言され、この名前を考案したとされている。オーチス・エレベータ・カンパニーが保管していたシーバーガーの手稿によれば、彼はラテン語辞書を使って語幹に scala という語(後述)を採用し、接頭辞として e を、接尾辞として tor を加え escalator としたことがわかる[2] 。シーバーガー本人の大まかな解釈は「-から上に移動するための手段」であり、「カ」の部分にアクセントをつけて発音することを本人が強く望んでいた[3] (ラテン語の scala は ca の a が長母音で、そこがアクセントとなるため)。
したがってエスカレーターという名称はフランス語やギリシア語に由来しないし、エレベーターから派生した語でもない。ラテン語で読めばエスカラトル、「上に上げるもの、送るもの」の意味となる。なお、その語源となったラテン語の女性名詞 scala は、同じくラテン語の動詞 scando(よじ登る、乗る)からの派生語であり、物事の起きた回数を示す「度目」、あるいは物事の進む段階としての「階梯」を意味し、直接的には「階段」という意味ではなく、複数形 scalae で用いられるときに「階段」あるいは「梯 (はしご)」の意味をもつ[4] [5] 。
「エスカレーター」からの派生語
動詞の "escalate" は1922年に登場した新語で「エスカレーターを使って上に登る」または「エスカレーターで移動する」という意味だった。そこから「徐々に増大または発展する、特に局地戦から核戦争に発展すること」を意味するようになった。後者の意味が最初に印刷物に記載されたのは1959年のマンチェスター・ガーディアン紙だが、その意味でこの語がよく使われるようになったのは1960年代後半から1970年代前半のことである[6] 。
商標権の喪失
1950年の Haughton Elevator Co. とシーバーガーの間の商標問題をきっかけとして、オーチスは "escalator" という語を独占的に使えなくなり、商標の保持に関心のある会社や個人にとっては貴重な警告となった[7] 。この裁定において、「'escalator' という語が特定の製品ではなくエスカレーター全般を指す名詞として一般に認識されてきた期間」が問題とされ、オーチス社自身が同社の特許文書や広告でその語を普通名詞のように使っていたことが指摘された[8] 。その結果、"escalator" という語の商標権が放棄されることになった。
機構
外観は階段に酷似し、自動で昇降する階段状の踏み面(ステップ)とステップと連動して動くベルト状の手すりを特徴とする。
機構の露出部分の多さから建物のインテリアに大きな影響を与えるので、意匠に工夫を凝らしたものが多い。らせん状のスパイラルエスカレーター(三菱電機製のみ、写真参照)や、途中で水平部分をもつエスカレーターも登場している。また、乗り降りを容易にするため、乗降口に水平部分を持たせた(踊場のある)エスカレーターも出回っている。最近では操作を行うことで複数のステップが水平部分を構築し、車椅子を乗せられるものもある。
規格としては、横幅(欄干有効幅)1,200mmと800mm、傾斜角度30度のものが標準的なものである。近年の建築基準法の改正で傾斜角度35度のエスカレーターの設置も認められている。また動く速度は通常、毎分30mであるが、変速装置を取り付けることで、毎分20mから40mまで調節できる。
- 実例としては、深い場所にある地下鉄駅で、最大の毎分40mに設定しているエスカレーターがある。逆に、一部の大型ショッピングセンターなどで、高齢者などへの安全を図って通常よりも遅く設定している場合もある。
横幅はステップ幅、欄干有効幅、全体幅があり、800型、1200型等の規格は欄干有効幅で決まる。
ステップ幅 | 欄干有効幅 | 全体幅 | 備考 |
---|---|---|---|
604mm | 800mm | 1,150mm | 標準800型、全メーカーで生産 |
802mm | 910mm | 1,150mm | 数字は日立製作所製、日立、フジテックで生産 |
1,004mm | 1,200mm | 1,330mm | 数字は日立製、三菱、日立、東芝で生産 |
1,004mm | 1,200mm | 1,550mm | 標準1200型、全メーカーで生産 |
1,095mm | 1,300mm | 1,550mm | 日立で生産 |
機構的にエレベーターに比べ省エネルギーである。近年ではさらに進んで赤外線センサによって人の接近を検知し、利用時のみ稼働するものも増えている。特に郊外の鉄道駅に多い。完全に停止させてしまうと、上りと下りの判別が付きにくくなってしまうため利用者がいない間は低速で運転し、利用者が来ると通常速度に切り替えるものも存在する。
木製のエスカレーターも存在し、欧米の古い建築物で見ることができる。しかし、老朽化や火災の原因となることもあり、減少傾向にある。特に1987年、ロンドンのキングス・クロス・セント・パンクラス駅の火災は大災害となったことで知られている。
構成
- ステップ
- 踏板 - ステップのメインとなるところ
- ライザ - ステップの蹴上げ部分
- ステップチェーン - ステップ同士を連結するチェーン
- 駆動ローラ - ステップチェーンの左右についており、ステップを牽引するためのローラ
- 追従ローラ - ステップの左右についており、踏板を水平に保つためのローラ
- 駆動レール - 駆動ローラを走行させるレール
- 追従レール - 追従ローラを走行させるレール
- 車椅子専用ステップ - 特殊ステップがフォークを利用して車椅子が乗れる大きさにできる。
- スカートガード - ステップの両側の鉄板で、側面をふさぎ表面を平滑に保つ
- コームプレート - ステップの出入口に取り付けられるくし状の板
- 駆動装置
- 駆動ユニット - 電動機と減速歯車からなり、ステップチェーンを走行させる
- 駆動チェーン - 駆動ユニットからステップチェーンに動力を伝達するチェーン
- 手すり
- 手すり駆動ローラ - 手すりを駆動させるためのローラ
- 手すりチェーン - 手すり駆動ローラを回転させ、手すりに動力を伝達するチェーン
- 加圧ローラ - 手すり駆動ローラと対になって手すりを表裏から挟み込み、手すり駆動ローラの摩擦力を確保するローラ
- 手すり案内レール
- インレット - 帰路側への手すりの出入り口で、手や物の引き込まれを防ぐために安全装置が設けられる
機構の改良
エスカレーターはステップとステップの間に隙間があり、まれに乗っている人の衣類などを挟むことがあるため、衝撃を感知すると緊急停止する安全装置が設置されている。しかし、後述のような設計上の想定外の利用が後をたたないため、この装置が誤作動を起こすことが増えている。そこでJR東日本では2009年から2015年度までに、エスカレーターを駆け下ることなどで生じる瞬間的な振動で緊急停止しないようにエスカレーターを改良し、安全装置がむやみに作動しないようにして誤作動を8割減らすようにするという[9] 。
安全性
安全性はエスカレーター設計の重要なポイントである。インドでは女性の着るサリーの先端がエスカレーターに巻き込まれる危険性があるため、特別な sari guard が多くのエスカレーターに装備されている[10] 。
エスカレーターは防火上は竪穴区画であり、スプリンクラーや防火シャッターを設置したり、防火壁で囲むなどする対策が施される。過熱の危険を防ぐため、電動機や機械部分が設置されたスペースには換気機構が必要となる。
事故と訴訟
動作中のエスカレーターから人が落下したり、靴がエスカレーターの一部に挟まれるといった事故が報告されてきた。特に靴紐が緩んでいると危険である。手摺に乗るなどの不適切かつ危険な乗り方によって事故が引き起こされることもある。以下にいくつかの重大な事故の例を挙げる。
- 1982年2月17日、モスクワ地下鉄のエスカレーターが崩壊し、8名が死亡、30名以上が負傷した。後に不正に設定されたサービスブレーキが原因として非難された[11] 。
- 1987年、キングス・クロス・セント・パンクラス駅で、古いエスカレーターの機械部分から発火し、切符売り場のホールで爆発が起きて31名が死亡した。
- 1999年12月13日、インディラ・ガンディー国際空港でエスカレーターの点検作業中、ぽっかりと空いていた穴に8歳の子供が落ちて死亡[12] 。
- 2002年6月15日、メリーランド州コロンビアのJ.C.ペニーで、同従業員(24歳)がエスカレーターで1階から2階に上がろうとした際、天井とエスカレーターの間に首を挟まれ死亡した。2005年、その両親が現場責任者、設計事務所、エスカレーター製造会社に500万ドルの賠償を請求する訴えを起こした[13] 。
- 2004年の大晦日、台北市の市政府駅では大混雑しているプラットフォームにエスカレーターで続々と人々が送り込まれていた。そんな中である女性の頭髪がエスカレーターに巻き込まれ、頭に20針の大怪我を負った[14] 。
- 2005年2月21日、エルサルバドル人の寿司職人 Francisco Portillo は、ボストン 地下鉄のエスカレーターにシャツが巻き込まれ、首が締め付けられて死亡した。申し立てによると彼はそのとき酔っ払っていた[15] 。
- 2008年8月3日、東京国際展示場西展示棟で行われたワンダーフェスティバルで、入場者が二人用幅のエスカレーターに踏板1枚当たり約2名ずつ乗り込み故障、上りエスカレーターが急に自然降下する現象が発生し、10人が負傷する事故が起きた。その後集客力の大きいイベントでは安全上の理由からエスカレーターの利用を制限する動きが見られるようになった。なお、踏板1枚当たりに乗り込める人数と積載荷重が一致していないことは、当時一般的にはあまり知られていなかった。
原因は1枚のステップに3〜4名(通常は最大2名)載るなど無理な使用による重量オーバーであったとされている。
- 2008年9月13日、ノルウェーのリュングダールで11歳の少年がエスカレーターから転落して死亡した[16] 。2009年4月20日、スウェーデンのファールンで十代の少年がエスカレーターから転落して頭部に重傷を負い、間もなく死亡した[17] 。2009年6月26日、スウェーデンのヘルシンボリで成人男性がエスカレーターから転落して死亡した[18] 。以上3件はいずれも手摺に乗ったことが転落の原因である。
1987年のキングス・クロスの火災は、エスカレーターの保守点検を正しく厳密に行う必要性と、ほうっておくと機械にはホコリが溜まる性質があることを改めて明らかにした[19] 。駅が公共機関(ロンドン地下鉄)のものであること、かなりの死傷者が出たことから、この事故には多数の非難と抗議が集中し、被害者およびその家族から全ての木製エスカレーターの撤去を要求する声があがった。公式の調査報告によれば、火災はくすぶりながらしばらくの間気づかれずに徐々に進行し、トレンチ効果と呼ばれる現象によって切符売り場ホールで爆発することになったと結論付けられた。火災の根本原因はタバコの火の不始末だった[20] 。エスカレーターの機械室には約8800キログラムものデトリタスがあり、これが導火線の役割を果たし、ベニヤ板、紙やプラスチック製の広告、塗料の溶剤、ホールの合板などに引火し、さらにメラミン粒子が空気中に拡散したために爆発へと発展した[21] 。この火災の結果、ロンドン地下鉄ではグリーンフォード駅のものを除いて全ての木製エスカレーターを撤去した。また、各駅の地下部分は完全禁煙とされ、その後全駅が完全禁煙となった。
1930年代にも、エスカレーターが原因で子供が負傷したとして百貨店が訴えられる事件が発生している[22] 。このような訴訟は多くが却下されている。また近年ではエスカレーターの安全に関する規制が強化されてきたため、訴訟そのものも減っている。
安全対策の進歩
乗客の安全を強化するため、最近のエスカレーターにはいくつかの安全強化策が施されている。次に挙げたのは ASME A17.1 で規格化されている安全対策である。
- すべり止め : エスカレーターの手摺部分に出っ張りをつける。物や人が金属製の表面をすべり落ちないようにするための対策である。
- くし板衝撃スイッチ : ステップとくし板の間に何かが挟まると、エスカレーターを停止させる。
- 巻き込み防止ブラシ : 動くステップとスカートガードの間に連続な硬いブラシを設置するもの。衣服や靴が巻き込まれるのを防ぐ役目を担う。
- 緊急停止ボタン : エスカレーターの上端と下端にある赤いボタン(機種によっては手摺にもある)で、押すことでエスカレーターを緊急停止できる。透明なカバーで保護されていることが多い。再起動するには鍵が必要である。
- 手摺を延長する : 動くステップに乗る前から手摺をつかむことができ、乗降に際して安全性が増す。
- 平らなステップ : 動く歩道のように、最初と最後の2、3ステップを平らにする。これも乗降に際しての安全性を増す対策のひとつである。特に長いエスカレーターに多い。
- 手摺引き込み口のスイッチ : 手摺のベルトが引き込まれる部分にセンサーを設置し、そこに異物がある場合エスカレーターを停止する。
- 手摺速度センサー : 光学式のセンサーで、手摺の速度とステップの速度に差が生じると警報を鳴らし、その後自動的にエスカレーターを停止させる。
- ステップ欠落検知器 : 光学式または機械式のセンサーで、欠落したステップを検知するとエスカレーターを自動的に停止させる。
- ステップの端をやや高くする : 乗客があまり端に寄って乗らないようにする効果がある。
- 安全標識 : エスカレーターの入口部分の両脇などに設置する。
- センサースイッチ : 人間が1段目に乗ったことを検出して自動的にエスカレーターを起動し、誰も乗っていないことを検出すると自動的にエスカレーターを停止させる。
- ステップ境界照明 : LEDなどでステップとステップの境界を下から照らすことで、乗客に注意を喚起する。
- ステップ境界線 : 同様にステップを個々に目立たせるために通常黄色の線をステップの端に描く。塗料ではなくプラスチック製の場合もある。
エスカレーター事故は機械の故障で起きることもあるが、多くの場合は乗客が安全に注意していれば事故には発展しない。Elevator Escalator Safety Foundation は北米でエスカレーターの安全な乗り方を啓蒙している団体である[23] 。
歴史
エスカレーターの特許を最初に出願したのはマサチューセッツ州ソーガスのネイサン・エイムズで、1859年のことである。ただし、その設計に基づいて実動するエスカレーターが製作されたことはない。"revolving stairs"(回転階段)と名付けたその発明は思索的なもので、特許明細にはどういう材料で製造するかも書かれておらず、用途も明確でなかった(木材や布張りでも製作可能であること、住居内で足腰が不自由な人の補助として使えるかもしれないということは記してある)。その機構の動力源としては、人力や水力を示唆していた[24] 。
1889年、レモン・ソウダー (Leamon Souder) がエスカレーター式の "stairway" と名付けた機器の特許を取得した。一連の段とリンクで構成された機器だが、実物が製作されることはなかった[25] 。ソウダーは全部で4種類の形状のエスカレーターについて特許を取得しており、うち2件は螺旋階段状のエスカレーターについてのものだった(米国特許番号 723,325 と 792,623)。
1892年、ジェシー・W・リノが "Endless Conveyor or Elevator"(無限コンベヤまたはエレベーター)と題した特許を取得した[26] 。その数ヵ月後、ジョージ・A・ホイーラーがさらにエスカレーターらしいアイデアの特許を取得したが、これは製作されなかった[27] 。ホイーラーの特許を買い取ったのがチャールズ・シーバーガーである。シーバーガーはホイーラーの設計からいくつかの特徴を取り入れ、オーチス・エレベータ・カンパニーで1899年に試作品を製作した。
リノは世界初の実動するエスカレーターを製作し(彼自身はこれを "inclined elevator"すなわち「傾斜エレベーター」と呼んでいた)、1986年にニューヨークのコニーアイランドにあった Old Iron Pier に設置した[28] 。この機器は傾斜したベルトの表面に鋳鉄製の羽根板またはクリート (cleat) が並んでいて、それを牽引に使うという簡単な構造であり、25度の傾斜だった。数カ月後、同型の試作品が数カ月の試用期間を経てブルックリン橋のマンハッタン側に設置された。リノは結局オーチス・エレベータ・カンパニーに入社し、彼の特許を全て同社に買い取ってもらった後で退職した。リノの設計した形式のエスカレーターは最近までボストン地下鉄で使われていたが、Big Dig プロジェクトの邪魔になったため撤去された。スミソニアン博物館はその1つで1914年製のエスカレーターをアメリカの歴史的遺物として再組み立てする案を検討したことがあるが、「ノスタルジア以上に運送と組み立てのコストが膨大になる」という理由でプロジェクトは実施されなかった[29] 。
1895年5月ごろ、チャールズ・シーバーガーは1892年にホイーラーが特許を取得したものとよく似たエスカレーターの設計を開始した。この機器は平らな動く階段であり、ある重要な細部が今日のエスカレーターと異なっているだけだった。それは、各段の表面が滑らかで現在のエスカレーターのように櫛状の凹凸がなく、先端部分で乗客の足を安全に送り出す機構がなかった点である。そのため、乗客は横にひょいと跳んで降りる必要があった。それを容易にするため、エスカレーターの先端は手摺が途切れても(小型の動く歩道のように)水平にしばらく続き、それから三角に中央が突き出た "divider" と呼ばれる部分に飲み込まれる形になっていた。シーバーガーは1899年にオーチス・エレベータ・カンパニーと手を組み、フランスのパリ万国博覧会(1900年)に出展し、1等賞を勝ち取った。パリ万博にはリノの傾斜エレベーターも出展された。他に James M. Dodge と Link Belt Machinery Co. や、フランスの Hallé と Piat という2社もエスカレーターを出展した。
Piat社は1898年11月16日、段のないエスカレーターをハロッズのナイツブリッジ店に設置したが、同社は百貨店側に特許権を引き渡してしまった。Bill Lancaster の The Department Store: a Social History によれば、「(初めてエスカレーターを)体験した客はそれによってへたり込み、店員が配った気付け薬とコニャックでやっと元気を取り戻した」という[30] 。このハロッズのエスカレーターは「224個の部品から成る」連続な皮革製ベルトであり、「強く連結されていて、上へと動いていく」もので、イングランド初の「動く階段」だった[31] 。
ヨーロッパでは他にHocquardt社が1906年に Fahrtreppe(ドイツ語でエスカレーターの意)の特許権を得ている。Hallé社はパリ万博後もエスカレーターの販売を続けていたが、最終的に大企業に押しのけられる形となった。
20世紀前半、いくつかの企業がエスカレーター製品を開発製造したが、販売に際しては商標権を持つオーチス以外はエスカレーターという名称を使えなかった。ニューヨークを拠点とするPeelle社は Motorstair、ウェスティングハウスは Electric Stairway、トレドを拠点とする Haughton Elevator 社は Moving Stairs と称した。
コネ社とシンドラー社がエスカレーター市場に参入したのはオーチスから遅れること数十年だったが、徐々にシェアを伸ばしていった。現在では、この2社と三菱電機がオーチスの主なライバルとなっている。
シンドラー社はエスカレーター市場では世界第1位、エレベーター市場でも世界第2位となっているが、同社がエスカレーター市場に参入したのは1936年のことである[32] 。1979年、シンドラーは Haughton Elevator を買収することでアメリカ合衆国に進出した。その9年後にはウェスティングハウスの北米のエスカレーター/エレベーター部門も傘下に収めた。
コネ社は本来はエレベーターを得意とし、1970年代に国際的買収を繰り返して成長した。スウェーデンのエレベーター業者 Asea-Graham を初めとして、フランスやドイツやオーストリアの小さめの企業を買収し、その後ウェスティングハウスのヨーロッパのエレベーター部門を傘下に収めた。エスカレーター市場には Montgomery Elevator Company を買収し、オーレンシュタイン・ウント・コッペルのエスカレーター部門を取得してから本格的に参入した。
利用シーン
目的と設置場所
エスカレーターの設置目的は大別して、
- 段差(高低差)の大きい場所における利用者の肉体的負担の緩和
- 交通量の多い階段における利用者の円滑かつ安全な移動の促進
- バリアフリーの観点から、高齢者などの弱者に配慮して設置する場合
などがある。ただし階段に比べて非常に高価であり、保守点検等コストも掛かる事から、設置場所は主に百貨店、地下街などの商業施設、駅、空港、フェリーターミナルなどの交通機関の乗り場、病院やホテルなどの大型施設に限られる。
片側空け
駅などでは急ぐ人のために片側を空けることがマナーとする意見があった[33] が、後述するように危険であるとして歩行自体を控えるようにメーカーや施設側などが呼びかけている(マナーも参照)。
日本では関東地方を始めとする多くの地方では、乗り込む際に左側に立って右側を空ける。近畿地方では右側に立って左側を空ける傾向があるが、京都府と滋賀県では右側を空ける場面もある。仙台市では、JR 仙台駅や仙台空港など、県外客の利用が多い交通機関では先頭の人が立った側に寄って立つ傾向があり、空ける側は左右半々あるいは左右決まっていないとされるものの、地元住民の利用が多い百貨店や仙台市地下鉄では左側を空ける傾向がある[34] 。なお、左右のどちらかを空けるという習慣そのものがない地方も多い。
日本におけるエスカレーター
日本では、1914年(大正3年)に開催された大正博覧会において、初めて設置された。
エスカレーターガール
日本の百貨店へのエスカレータ普及期にあっては、エスカレーターの脇にエスカレーターガールという女性が立って乗り込みの案内をしていたことがあった[35] 。
歩行禁止の呼びかけ
そもそも、日本国内におけるエスカレーターの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提とされている。エスカレーター上での歩行はその振動によってエスカレーターの安全装置が働き、緊急停止することがある[要出典 ]。また、歩行者と立って乗っている者とが接触した場合にはバランスを崩した人が転倒する危険性があり、それによって将棋倒し事故に至った事例もある[要出典 ]。さらに、腕の骨折などの要因によって片側の手すりにしかつかまる事のできない人に対する配慮不足の問題も指摘されている[36] 。また、止まって乗るために片側だけ長蛇の列ができていることがあるが、こうした場合は2列で乗る場合に比べ輸送効率を低下させていることになる。重量が片側に集中することで、ステップの下にあるローラーが片側だけ早く損耗するという問題もある[要出典 ]。
このため日本エレベーター協会では、エスカレーターでの歩行禁止をマナーとして呼びかけている[37] 。また川崎市の川崎駅前地下街「アゼリア」でも、過去の将棋倒し事故を教訓として、利用者に歩行禁止を呼びかけている。集客の多いイベントでも運営体の判断で歩行禁止を強く指導している例がある。
2004年7月より、日本の地下鉄では初めて名古屋市営地下鉄が駅構内放送などで歩行禁止の呼びかけを開始し[38] 、順次「エスカレーターでの歩行はおやめ下さい」のステッカーも貼られている。その後、横浜市営地下鉄や福岡市営地下鉄、札幌市営地下鉄、大阪市営地下鉄でもエスカレーターでの歩行禁止を呼びかける掲示が出されるようになった[39] 。
日本における様々なエスカレーター
日本でもっとも長いエスカレーターは、香川県 丸亀市にあるニューレオマワールドのエスカレーター「マジックストロー」が高低差42m・全長96mで日本一となっている。
なお、和歌山県 那智勝浦町のホテル浦島の3基乗継ぎのエスカレーター「スペースウオーカー」は、高低差約80m(地上1階から32階まで)、全長154m。 広島県広島市南区段原にある車椅子も乗車可能な比治山スカイウォーク(ひじやまスカイウォーク)は、動く歩道:77mまでいれると総延長:207.4m、高低差:37.5m。
もっとも短いエスカレーターは、川崎駅前の地下街アゼリアと川崎岡田屋モアーズ地下2階を結ぶ下りエスカレーター(アゼリアはモアーズの地下1階と地下2階の間に接する)で、ステップ4段分しかない。エスカレーターを降りてもさらに階段が続くため、結果的に存在意義はないが、その短さゆえにギネスブックに登録されている。当初は階段まで含めて1基のエスカレーターとする計画だったが、施工の段階になって途中に撤去困難な梁が存在することが判明し、梁に干渉しない部分だけに短縮のうえで設置された。
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ホテル浦島の「スペースウォーカー」(一段目)
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川崎モアーズにある世界一短いエスカレーター
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踊場のあるエスカレーター(神戸モザイク)
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ランドマークプラザにある曲線型エスカレーター(写真下)
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直線型エスカレーターと階段が併設されているスーパー
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カートの侵入を防ぐポールが設置された、関西国際空港のエスカレーター
表記について
この機器は、「エスカレーター」と表記されたり「エスカレータ」と表記されたり、表記が一貫していないが、JIS(日本工業規格)では「エスカレータ」と表記している。
JIS の中には、用語や記述記号についての定めもある。一般には、外来語で、英語の語尾が「-er」「-or」「-ar」の場合、長音符号で表記する。従って「エスカレーター」となる。しかし、JISでは、学術用語や別の規格がある場合はそれに従うが、それ以外の場合、その言葉が3音以上であれば、長音符号を省くのが原則となっている。従って、JISでは、エスカレーターを「エスカレータ」と表記する。これらは、どちらが正しくてどちらが誤りと決められるものではない。
JISの表記の定めは、「JIS規格の文書中で使用する用語の定義」であり、日本で一般に使用する用語の定義ではない。ただし、その提案は業界の団体がおこなっているため、どの業界であってもJISに規格のある業界では特にその技術系においてJIS用語に規定された用語が広く使われている。技術仕様では官公庁への届出など公文書への添付などにも使用されることもあるためである。しかし、顧客志向に重きを置かれるようになってからは、世間一般と広く接する販売系、マーケティング系においては、たとえ企業向けの販売が多い場合であっても、世の中で広く受け入れられている用語が使用され、一般に、エレベーター、エスカレーターの表記が使われる。業界団体の名称は日本エレベータ協会 である。一般広報には同様のアプローチをしている。
新聞や書籍などといった印刷媒体では、文字数が少なくてすむので長音符号を省く表記が抵抗なく受け入れられていったが、日本語会話における口語では「エスカレーター」と伸ばして発音する人も多い。
その他
- 中高一貫教育や中高(小中高大学、更に幼稚園までが加わる事も)一貫校など、無試験で内部進学が可能なことを、エスカレーターの動作に例えて俗に「エスカレーター式」あるいは「エレベーター式」と呼ぶ。
- 第二次ロンドン海軍軍縮条約において、1937年 4月1日までに調印しないワシントン海軍軍縮条約批准国があった場合に諸々の制限を緩和する条項が盛り込まれ、通称エスカレーター条項と呼ばれた。これも上記と同じくエスカレーターの動作になぞらえた通称である。
- エスカレーターの踏段の積載荷重は建築基準法施行令(第129条の12)により、踏段面の水平投影面積上に対し、2,600N/m²以上と規定されている。踏み板1枚あたりにすると、体重60kgの乗客2人くらいの値になるので、強度計算上、二人乗り幅の踏段の全てに二人ずつが乗ることを想定したものとなっていない。
- エスカレーターの手すりは踏段に沿って動くようにはなっているものの、手すりのベルトはすべり摩擦により駆動されるため特に逆方向への引張りに対しては弱い側面を持つ。このためエスカレータの乗り口・降り口で手すりを押したり引っ張ったりするのは論外の行為であり、エスカレータ乗客の将棋倒しといった事故のもとになる。
- 2010年、「昨今駅においては、お客さまがエスカレーターをご利用になる際に、ご自身でバランスを崩して転倒されたり、駆け上がったり駆け下りたりした際に他のお客さまと衝突し転倒させるなどの事象が発生しています。お客さまのお怪我を防止するために、ご利用の際には手すりにつかまるなど、安全なエスカレーターの利用について鉄道事業者が共同で呼びかけ」[40] るために、3月29日から5月9日からの間、関東・中部・関西の25の鉄道事業者および(社)日本エレベータ協会でエスカレーターの安全利用を呼びかける、「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンが実施された。主要新聞にも新聞広告が掲載され、駅にポスターやステッカーが貼られた。
脚注
- ^ 以下に挙げる7つの文献はオーチス社自身のものもあるが、それぞれ相互に矛盾がある。
Barrow, Dennis. "Seeberg.doc", Internal document, Otis Elevator Co., Farmington, CT: United Technologies;
"escalator, noun." OED Online. June 2004. Oxford University Press, available: http://dictionary.oed.com/cgi/entry/50077810;
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関連項目
外部リンク
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