「エスカレーター」の版間の差分
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2009年11月17日 (火) 11:37時点における版
エスカレーター(英語:Escalator)は、主として建物の各階を移動する目的で設置・利用される階段状の輸送機器。
名称
"Escalator"という語は元々、アメリカ合衆国の企業オーチス・エレベーター社 (Otis Elevator Company) の登録商標で、商品名である。しかし、当時この自動式階段を表す適当な語句が他に無く、一般に「エスカレーター」と呼ばれたため、普通名称化した経緯がある。オーチス・エレベーター社では既に商標権を放棄している。
機構
外観は階段に酷似し、自動で昇降する階段状の踏み面(ステップ)とステップと連動して動くベルト状の手すりを特徴とする。
機構の露出部分の多さから建物のインテリアに大きな影響を与えるので、意匠に工夫を凝らしたものが多い。らせん状のスパイラルエスカレーター(三菱電機製のみ、写真参照)や、途中で水平部分をもつエスカレーターも登場している。また、乗り降りを容易にするため、乗降口に水平部分を持たせた(踊場のある)エスカレーターも出回っている。最近では操作を行うことで複数のステップが水平部分を構築し、車椅子を乗せられるものもある。
規格としては、横幅(欄干有効幅)1,200mmと800mm、傾斜角度30度のものが標準的なものである。近年の建築基準法の改正で傾斜角度35度のエスカレーターの設置も認められている。また動く速度は通常、毎分30mであるが、変速装置を取り付けることで、毎分20mから40mまで調節できる。
- 実例としては、深い場所にある地下鉄駅で、最大の毎分40mに設定しているエスカレーターがある。逆に、一部の大型ショッピングセンターなどで、高齢者などへの安全を図って通常よりも遅く設定している場合もある。
横幅はステップ幅、欄干有効幅、全体幅があり、800型、1200型等の規格は欄干有効幅で決まる。
ステップ幅 | 欄干有効幅 | 全体幅 | 備考 |
---|---|---|---|
604mm | 800mm | 1,150mm | 標準800型、全メーカーで生産 |
802mm | 910mm | 1,150mm | 数字は日立製作所製、日立、フジテックで生産 |
1,004mm | 1,200mm | 1,330mm | 数字は日立製、三菱、日立、東芝で生産 |
1,004mm | 1,200mm | 1,550mm | 標準1200型、全メーカーで生産 |
1,095mm | 1,300mm | 1,550mm | 日立で生産 |
機構的にエレベーターに比べ省エネルギーである。近年ではさらに進んで赤外線センサによって人の接近を検知し、利用時のみ稼働するものも増えている。特に郊外の鉄道駅に多い。
木製のエスカレーターも存在し、欧米の古い建築物で見ることができる。 しかし、老朽化や火災の原因となることもあり、減少傾向にある。 特に1987年、ロンドンのキングス・クロス・セント・パンクラス駅の火災は大災害となったことで知られている。
構成
- ステップ
- 踏板 - ステップのメインとなるところ
- ライザ - ステップの蹴上げ部分
- ステップチェーン - ステップ同士を連結するチェーン
- 駆動ローラ - ステップチェーンの左右についており、ステップを牽引するためのローラ
- 追従ローラ - ステップの左右についており、踏板を水平に保つためのローラ
- 駆動レール - 駆動ローラを走行させるレール
- 追従レール - 追従ローラを走行させるレール
- 車椅子専用ステップ - 特殊ステップがフォークを利用して車椅子が乗れる大きさにできる。
- スカートガード - ステップの両側の鉄板で、側面をふさぎ表面を平滑に保つ
- 駆動装置
- 駆動ユニット - 電動機と減速歯車からなり、ステップチェーンを走行させる
- 駆動チェーン - 駆動ユニットからステップチェーンに動力を伝達するチェーン
- 手すり
- 手すり駆動ローラ - 手すりを駆動させるためのローラ
- 手すりチェーン - 手すり駆動ローラを回転させ、手すりに動力を伝達するチェーン
- 加圧ローラ - 手すり駆動ローラと対になって手すりを表裏から挟み込み、手すり駆動ローラの摩擦力を確保するローラ
- 手すり案内レール
- インレット - 帰路側への手すりの出入り口で、手や物の引き込まれを防ぐために安全装置が設けられる
機構の改良
エスカレーターはステップとステップの間に隙間があり、まれに乗っている人の衣類などを挟むことがあるため、衝撃を感知すると緊急停止する安全装置が設置されている。しかし、後述のような設計上の想定外の利用が後をたたないため、この装置が誤作動を起こすことが増えている。そこでJR東日本では2009年から2015年度までに、エスカレーターを駆け下ることなどで生じる瞬間的な振動で緊急停止しないようにエスカレーターを改良し、安全装置がむやみに作動しないようにして誤作動を8割減らすようにするという。[1]
利用シーン
目的と設置場所
エスカレーターの設置目的は大別して、
- 段差(高低差)の大きい場所における利用者の肉体的負担の緩和
- 交通量の多い階段における利用者の円滑かつ安全な移動の促進
- バリアフリーの観点から、高齢者などの弱者に配慮して設置する場合
などがある。ただし階段に比べて非常に高価であり、保守点検等コストも掛かる事から、設置場所は主に百貨店、地下街などの商業施設、駅、空港、フェリーターミナルなどの交通機関の乗り場、病院やホテルなどの大型施設に限られる。
片側空け
関東、福岡及び北海道、長野、岡山、京都、滋賀では乗り込む際に左側に立ち右側を空け、京都・滋賀を除く近畿及び仙台では右側に立ち左空けとなっている。
ただ、単に前に居る人に合わせる等、左右のどちらかを空けるという習慣そのものがない地方もある。東日本と西日本に挟まれた東海では、エスカレーターで歩くこと自体が禁止されているためどちらも空けない。
ロンドン・ワシントン市・香港・ソウル・モスクワなどの地下鉄では右に立ち左を歩行者に空けており、シンガポール・オーストラリア・ニュージーランドなどでは左側に立ち右側を歩行者に空けている。必ずしも各国の道路通行の左右とは一致しない。(ソースは2007年10月28日時点のwikipedia英語版)
日本におけるエスカレーター
日本では、1914年(大正3年)に開催された大正博覧会において、初めて設置された。
歩行禁止の呼びかけ
そもそも、日本国内におけるエスカレーターの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提とされている。エスカレーター上での歩行はその振動によってエスカレーターの安全装置が働き、緊急停止することがある。また、歩行者と立って乗っている者とが接触した場合にはバランスを崩した人が転倒する危険性があり、それによって将棋倒し事故に至った事例もある。さらに、腕の骨折などの要因によって片側の手すりにしかつかまる事のできない人に対する配慮不足の問題も指摘されている。また、止まって乗るために片側だけ長蛇の列ができていることがあるが、こうした場合は2列で乗る場合に比べ輸送効率を低下させていることになる。重量が片側に集中することで、ステップの下にあるローラーが片側だけ早く損耗するという問題もある。
このため日本エレベーター協会では、エスカレーターでの歩行禁止をマナーとして呼びかけている。また川崎市の川崎駅前地下街「アゼリア」でも、過去の将棋倒し事故を教訓として、利用者に歩行禁止を呼びかけている。集客力の多いイベント(例コミックマーケットなど)でも運営体の判断で歩行禁止を強く指導している例がある。
2004年7月より、日本の地下鉄では初めて名古屋市営地下鉄が駅構内放送などで歩行禁止の呼びかけを開始し[2] 。、順次「エスカレーターでの歩行はおやめ下さい」のステッカーも貼られている。その後、都営地下鉄や横浜市営地下鉄でもエスカレーターでの歩行禁止を呼びかける掲示が出されるようになった。なお、東京メトロでは、混雑時は片側を空けずに2列に並ぶよう呼びかける掲示が出されているが、現実に呼びかけが守られていないことも多い。
日本における様々なエスカレーター
日本でもっとも長いエスカレーターは、香川県 丸亀市にあるニューレオマワールドのエスカレーター「マジックストロー」が高低差42m・全長96mで日本一となっている。
なお、和歌山県 那智勝浦町のホテル浦島の3基乗継ぎのエスカレーター「スペースウオーカー」は、高低差約80m(地上1階から32階まで)、全長154mである。
もっとも短いエスカレーターは、川崎駅前の地下街アゼリアと川崎岡田屋モアーズ地下2階を結ぶ下りエスカレーター(アゼリアはモアーズの地下1階と地下2階の間に接する)で、ステップ4段分しかない。エスカレーターを降りてもさらに階段が続くため、結果的に存在意義はないが、その短さゆえにギネスブックに登録されている。当初は階段まで含めて1基のエスカレーターとする計画だったが、施工の段階になって途中に撤去困難な梁が存在することが判明し、梁に干渉しない部分だけに短縮のうえで設置された。日立製作所製。
-
エスカヒル鳴門
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ホテル浦島の「スペースウォーカー」(一段目)
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川崎モアーズにある世界一短いエスカレーター
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踊場のあるエスカレーター(神戸モザイク)
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ランドマークプラザにある曲線型エスカレーター(写真下)
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直線型エスカレーターと階段が併設されているスーパー
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カートの侵入を防ぐポールが設置された、関西国際空港のエスカレーター
表記について
この機器は、「エスカレーター」と表記されたり「エスカレータ」と表記されたり、表記が一貫していないが、JIS(日本工業規格)では「エスカレータ」と表記している。
JIS の中には、用語や記述記号についての定めもある。一般には、外来語で、英語の語尾が「-er」「-or」「-ar」の場合、長音符号で表記する。従って「エスカレーター」となる。しかし、JISでは、学術用語や別の規格がある場合はそれに従うが、それ以外の場合、その言葉が3音以上であれば、長音符号を省くのが原則となっている。従って、JISでは、エスカレーターを「エスカレータ」と表記する。これらは、どちらが正しくてどちらが誤りと決められるものではない。
JISの表記の定めは、「JIS規格の文書中で使用する用語の定義」であり、日本で一般に使用する用語の定義ではない。ただし、その提案は業界の団体がおこなっているため、どの業界であってもJISに規格のある業界では特にその技術系においてJIS用語に規定された用語が広く使われている。技術仕様では官公庁への届出など公文書への添付などにも使用されることもあるためである。しかし、顧客志向に重きを置かれるようになってからは、世間一般と広く接する販売系、マーケティング系においては、たとえ企業向けの販売が多い場合であっても、世の中で広く受け入れられている用語が使用され、一般に、エレベーター、エスカレーターの表記が使われる。業界団体の名称は日本エレベータ協会 である。一般広報には同様のアプローチをしている。
新聞や書籍などといった印刷媒体では、文字数が少なくてすむので長音符号を省く表記が抵抗なく受け入れられていったが、日本語会話における口語では「エスカレーター」と伸ばして発音する人も多い。
その他
- 中高一貫教育や中高(小中高大学、更に幼稚園までが加わる事も)一貫校など、無試験で内部進学が可能なことを、エスカレーターの動作に例えて俗に「エスカレーター式」あるいは「エレベーター式」と呼ぶ。
- エスカレータの踏段の積載荷重は建築基準法施行令(第129条の12)により、踏段面の水平投影面積上に対し、2,600N/m²以上と規定されている。踏み板1枚あたりにすると、体重60kgの乗客2人くらいの値になるので、強度計算上、二人乗り幅の踏段の全てに二人ずつが乗ることを想定したものとなっていない。
- エスカレータの手すりは踏段に沿って動くようにはなっているものの、手すりのベルトはすべり摩擦により駆動されるため特に逆方向への引張りに対しては弱い側面を持つ。このためエスカレータの乗り口・降り口で手すりを押したり引っ張ったりするのは論外の行為であり、エスカレータ乗客の将棋倒しといった事故のもとになる。
- 2008年8月3日、東京国際展示場西展示棟で行われたワンダーフェスティバルで、入場者がエスカレーターに殺到し故障、上りエスカレーターが急に自然降下する現象が発生し、10人が負傷する事故が起きた。その後集客力の大きいイベントでは安全上の理由からエスカレーターの利用を制限する動きが見られるようになった。
関連項目
脚注
- ^ JR東、全エスカレーター改良へ...駆け下り振動で停止防ぐ 読売新聞2009年3月3日21時23分配信
- ^ "駅エスカレーター 「片側空け歩行」習慣、実は禁止". 読売新聞 YOMIURI ONLINE(「九州発」) (2009年11月2日). 11月03日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
外部リンク
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