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「油彩」の版間の差分

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== 油彩画の構造 ==
== 油彩画の構造 ==
油彩画は絵画の内でもすぐれて明確な積層構造をとる媒体である。塗膜<ref group="注">塗膜は、塗布によって形成される皮膜である。</ref>の接着を良くする意味で、"[[:en::Fat over lean|Fat over lean]]"という慣((削除) ならい (削除ここまで))に従い、上層が下層より油分が多くなるようにする。油絵具による塗膜にそのまま水性絵具を重ねると剥落などの問題を起こすので避けられる<ref group="注">ただし、油絵具の上に塗り重ねることが可能な水性塗料・水性絵具も存在する。</ref>。経年によって透明性が高まるので、100年以上経過すると描き直しや躊躇いが見えるようになる。これをペンティメント<ref name="sikumi">『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』森田 恒之監修 森田 恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533</ref>と呼ぶ。油彩の基本的な構造は以下の通りである。
油彩画は絵画の内でもすぐれて明確な積層構造をとる媒体である。塗膜<ref group="注">塗膜は、塗布によって形成される皮膜である。</ref>の接着を良くする意味で、"[[:en::Fat over lean|Fat over lean]]"という慣((追記) かん (追記ここまで))に従い、上層が下層より油分が多くなるようにする。油絵具による塗膜にそのまま水性絵具を重ねると剥落などの問題を起こすので避けられる<ref group="注">ただし、油絵具の上に塗り重ねることが可能な水性塗料・水性絵具も存在する。</ref>。経年によって透明性が高まるので、100年以上経過すると描き直しや躊躇いが見えるようになる。これをペンティメント<ref name="sikumi">『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』森田 恒之監修 森田 恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533</ref>と呼ぶ。油彩の基本的な構造は以下の通りである。


;支持体
;支持体

2009年10月24日 (土) 05:38時点における版

神秘の子羊への礼拝フーベルト・ファン・エイク(en)とヤン・ファン・エイク、-1492、板に油彩

油彩(ゆさい)には、以下の2つの意味がある。

油彩画の構造

油彩画は絵画の内でもすぐれて明確な積層構造をとる媒体である。塗膜[注 1] の接着を良くする意味で、"Fat over lean"という慣(かん)に従い、上層が下層より油分が多くなるようにする。油絵具による塗膜にそのまま水性絵具を重ねると剥落などの問題を起こすので避けられる[注 2] 。経年によって透明性が高まるので、100年以上経過すると描き直しや躊躇いが見えるようになる。これをペンティメント[1] と呼ぶ。油彩の基本的な構造は以下の通りである。

支持体
支持体は絵画の塗膜を支える面を構成する物質である。下地や描画層を物理的に保持する部分。多くの場合、キャンバス(画布)や、木製のパネル・板に麻布や綿布が用いられる。
絶縁層
油絵具は乾性油の酸化重合によって固化する絵具であるため、布地などに直接描画すると布を酸化してしまう。それを防ぐために支持体と絵具層の間に、絶縁する層が必要となる。布を用いる場合、一般的には麻布に膠水を引くことで絶縁する。これは前膠(まえにかわ)と呼ばれる。
地塗り層(下地)
絵具は下層の影響を受けるため、絶縁層と描画層との間にしばしば、地塗りをして絵具の発色を良くし描画特性を高める層を設ける。地塗り層は、上層であるの絵具層からある程度の油分を吸収することで絵具の固着を良くする役割も果たすことから、地塗りは技法の中でも重要な役割を果たす。キャンバスには予め地塗りを施してあるものが市販されているほか、木枠に張られた商品もある。これは便利であるが、本人の要求を満たす適性を備えているとは限らない。購買層の多くは初学者や絵画教室の生徒である。
描画層
地塗り以外の絵具の層のことを描画層と言う。
ニス層
絵具層の上に施す保護ニスの層。油絵具に用いられる顔料の中には、硫化水素などの物質によって化学反応を起こし変色するものがある。またホコリや煙草のヤニによっても絵画は汚れる。これを防ぐ目的で完成後に保護ニスを塗布する。このニスには、後に再度溶解して除去が可能で、ニスの塗り直しを許容するものを用いる。

油彩画の材料

支持体

油絵は布(画布・キャンバス)に描かれているという固定観念があるが、必ずしも正しくない。紙やパネル、金属板もしばしば用いられる。

  • (綿、大麻、亜麻、合成繊維など)綿は麻よりも酸化に弱いとされる。目の細かいものや荒いものなど様々な種類が絵画用途に供給されている。
  • (羊皮紙、豚、牛など)
  • (合板、ボード類など)
  • 金属板(アルミニウムなど)

描画材料

様々な種類の画筆
油絵具

乾性油を主成分とする固着材と顔料の屈折率の差が小さいことから、油絵具は高い透明性を示す。更に、固着材を多くしても問題が起き難いので透明な塗膜を作ることが出来る。粘稠度が高いことから光沢のある画面を作る。透明感と光沢のある画面が本来の特徴であり、油絵具が遅乾性であることから良く探究された精緻な階調の絵画も多い。肉痩せ・目減りが少ないことから、近代・現代の油絵具は厚塗りにも向く。乾燥が早く描画する上で規制が大きく透明性の変化に乏しいフレスコに対し、技法に対する柔軟さ、光沢、透明性や遅乾性といた性質から支持され発展してきた絵画材料である。現在市販されているチューブ入りの油絵具には、扱いやすいように体質顔料や乾燥促進剤などの助剤が練り合わせられており、容易に描画できるよう調整されている。

地塗り塗料(絵具)

炭酸カルシウム、白亜(炭酸カルシウムが主成分)、チタン白(-ハク)[2] などの顔料と、水や加工した乾性油などを固着材とする材料が用いられる。水性地は上の絵具層から多くの油分を吸収して塗膜が艶消しになり易い。油性地は上層の油をあまり吸収せず画面に艶が生まれ易いものの、絵具の固着性が劣る場合がある。膠水と乾性油を混合しエマルションにした材料を用いた半油性地は両者の中間の性質を持つ。

メディウム

狭義には練り合わせ材や展色材の中の固着材を指す。広義には絵具そのもの、溶き油を含める場合もある。ただし溶剤のみのものは含めない[3]

パレット (絵画)

絵画を描く際に使う、絵具を混合するための板。合成樹脂(紙パレット)、等が使われる。

油壺

絵画用の液体を入れる容器。金属製や陶器製がある。

画筆(がひつ)

画筆は絵画制作に用いる、画(えが)く為のである。油絵具はふつう剛毛筆を用い面的に塗布する[4] 。繊細な描写には柔毛筆の腰のあるものが好まれる。フィルバート(平)、フラット(平)、ラウンド(丸)、ファン(扇)などの形状がある。原毛は天然毛(獣毛)と合成毛(合成繊維)に分けられる。硬さによって、剛毛と柔毛・和毛(にこげ)に分けることも可能である。筆は同じ形状でも毛質によって描き味が異なる。

ナイフ

ペインティングナイフとパレットナイフは、コテのような道具である。油絵具を練ったり、画面についた不要な絵具を取ったりするのに用いる。描画は筆によるとは限らず、ナイフを用いる場合もある。スクレパーのように刃のついたものも用いる。

その他

ローラー(へら)などを用いる人もいる。指などで絵具を画面に乗せる人も居る。

技法

モナ・リザ』、レオナルド・ダ・ヴィンチ、1503年 – 1507年、板に油彩、ルーヴル美術館

絵画の技法は様々あり分類の仕方も色々である。

  • 平塗り 絵具を平たく塗ること。
  • 暈し(ぼかし) 画面上の絵具を暈して階調を豊かにすること。
  • モデリング 肉付け。物理的な立体感についても言うが、絵画の分野では主としてバルールを成立させ形体を描き出す工程について言う。
  • スフマート 色の境界を際立たせずに、形体を描き出す技法。レオナルド・ダ・ヴィンチほか16世紀の画家が創始したとされる[1]
  • グレーズ 透明性の高い絵具層を重ねる、下層の効果を活かす技法のひとつ。
  • スカンブル 不透明性の高い絵具層を重ねる、下層の効果を活かす技法のひとつ。
  • ハッチング 一定の面を斜線で埋める技法。
  • クロスハッチング 交差させたハッチングのこと。
  • マスキング マスキングテープなどで一部をマスクすること。
  • デカルコマニー 絵具を転写する技法のひとつ。
  • フロッタージュ ものの模様などを写し取る技法のひとつ。
  • コラージュ 紙などを絵画に貼付ける技法のひとつ。
  • ドリッピング 絵具を垂らす技法のひとつ。
  • ドライブラシ 固め絵具を用いる技法のひとつ。

種類

『鮭』、高橋由一、1877年頃

絵画の種類、形式は挙げればきりがない。

  • カマイユ(単色画、つまり単色で描かれた絵画。)
  • シラーユ(単色画のひとつで、黄褐色のものを指す。)
  • ベルダイユ(単色画のひとつで、鈍緑色のものを指す。)
  • グリザイユ(単色画のひとつで、灰色のもの。)
  • スキアグラフィア(陰影画)
  • ポリ クローム(多色画)
  • デックファーベンモレリ(不透明画)
  • ディプティック(二幅対)
  • トリプティック(三幅対)
  • ポリプティクス(多幅対)
  • ポートレイト(肖像画)
  • スティルライフ(静物画)
  • ナトゥーラモルタ(静物画)
  • ボデゴン[注 3] (静物画・厨房画 )
  • カリカチュア(風刺画・戯画)
  • トロンプルイユ(錯視画)
  • イコン(聖画)
  • 壁画

選り抜きの油彩画

脚注

  1. ^ 塗膜は、塗布によって形成される皮膜である。
  2. ^ ただし、油絵具の上に塗り重ねることが可能な水性塗料・水性絵具も存在する。
  3. ^ ボデゴン(bodegon)はスペイン語。主に野菜などの食物を描き、人物も配されるので「厨房画」ともいう。同じく静物画に当たる語彙のナトゥラレーサ・ムエルタ(naturaleza muerta「死んだ自然」)よりも一般的な表現。居酒屋(Bodega)の増大辞

参考文献

  • 『油彩画の技術 増補・アクリル画とビニル画 』 グザヴィエ・ド・ラングレ 著 黒江 光彦 訳 美術出版社 1974.01 ISBN 4568300304 ISBN 978-4568300307
  • 『絵画技術体系』 マックス・デルナー 著 ハンス・ゲルト・ミュラー 著(改訂) 佐藤一郎 訳 美術出版社 1980.10 ASIN: B000J840KE
  • 『絵画技術入門―テンペラ絵具と油絵具による混合技法 (新技法シリーズ) 』 佐藤 一郎 著 美術出版社 1988.11 ISBN 4568321468 ISBN 978-4568321463
  • 『絵画技術全書』 クルト・ヴェールテ(Kurt Wehlte) 著 ゲルマール・ヴェールテ(Germar Wehlte) 著 佐藤一郎 監修翻訳 戸川英夫 訳 真鍋 千絵 訳 美術出版社 1993.03 ISBN 4568300460
  • 『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1994.5(新装普及版) ISBN 480550286x
  • 『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997.4(新装普及版) ISBN 4805502878
  • 『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』森田 恒之監修 森田 恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533

  1. ^ a b 『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』森田 恒之監修 森田 恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533
  2. ^ 『広辞苑 第五版』新村 出 岩波書店 1998/11 ISBN 4000801120 ISBN 978-4000801126
  3. ^ 『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997.4(新装普及版) ISBN 4805502878
  4. ^ 『絵画技術体系』 マックス・デルナー 著 ハンス・ゲルト・ミュラー 著(改訂) 佐藤一郎 訳 美術出版社 1980.10 ASIN: B000J840KE

関連項目

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