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== 「モンスターペアレント」という用語への批判 ==
== 「モンスターペアレント」という用語への批判 ==
[[本田由紀]]、[[内田樹]]、[[小野田正利]]らは、「モンスターペアレント」という語の持つ印象が、保護者と学校の対立を煽る方向に働くのではないかという懸念をそれぞれ表明している<ref>本田由紀・高橋睦子「崖っぷちの教育界を救うために今、私たちができること」(『論座』2007年12月号)、内田樹「日本人が共同体からの利益を捨てるまで」、小野田正利「追い詰める親、追い詰められる学校」(いずれも『中央公論』2007年12月号)</ref>。このうち内田、小野田は「モンスターペアレント」という語の登場が、保護者の過剰なクレーム行動や学校や教員を一方的にバッシングするマスコミの風潮に疑問を投げかけ、言説の転換点となったという意味ではこれに一定の評価も与えつつ、内田はカウンタークレーム行動の激化、すなわちクレーム行動をする人間を今度は徹底的にバッシングする風潮の出現を懸念し、一方の小野田は学校と保護者の協調こそが望ましい公教育のあり方であるという立場から、両者の協調を「モンスターペアレント」という語が阻害する可能性に懸念を表明している。また「モンスターペアレント」として直ちに保護者のクレームを'''正当不(削除) 正 (削除ここまで)当の検証なしに'''切り捨てるケースも見られる。([[福岡中2いじめ自殺事件]])
[[本田由紀]]、[[内田樹]]、[[小野田正利]]らは、「モンスターペアレント」という語の持つ印象が、保護者と学校の対立を煽る方向に働くのではないかという懸念をそれぞれ表明している<ref>本田由紀・高橋睦子「崖っぷちの教育界を救うために今、私たちができること」(『論座』2007年12月号)、内田樹「日本人が共同体からの利益を捨てるまで」、小野田正利「追い詰める親、追い詰められる学校」(いずれも『中央公論』2007年12月号)</ref>。このうち内田、小野田は「モンスターペアレント」という語の登場が、保護者の過剰なクレーム行動や学校や教員を一方的にバッシングするマスコミの風潮に疑問を投げかけ、言説の転換点となったという意味ではこれに一定の評価も与えつつ、内田はカウンタークレーム行動の激化、すなわちクレーム行動をする人間を今度は徹底的にバッシングする風潮の出現を懸念し、一方の小野田は学校と保護者の協調こそが望ましい公教育のあり方であるという立場から、両者の協調を「モンスターペアレント」という語が阻害する可能性に懸念を表明している。また「モンスターペアレント」として直ちに保護者のクレームを'''正当不当の検証なしに'''切り捨てるケースも見られる。([[福岡中2いじめ自殺事件]])


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2008年3月24日 (月) 13:40時点における版

モンスターペアレント(Monster parent)とは、学校に対して自己中心的で理不尽な要求を繰り返す保護者を意味する和製英語である。向山洋一の命名とされる(「教室ツーウェイ2007年8月号9ページ参照)。当然に、常識の範囲を逸脱しない要求を行う保護者はここには含まれない。

基本的には直接教員にクレームを行うものが多いが、校長教育委員会など、より権限の強い部署にクレームを持ち込んで、間接的に現場の教員や学校に圧力をかけるという形式も増えている。また、なかには虚偽の告発をするなどして法的問題に発展させようとする場合もある。

なお、日本と同様に理不尽な要求を学校に出す保護者が社会問題化している米国では、彼らはヘリコプターペアレント(Helicopter parent)と呼ばれている。これは、学校の上空を周回するヘリコプターのように常に自分の子供を監視し、何かあればすぐに学校に乗り込んでくることからきている。

概要

この問題を研究している大阪大学大学院教授である小野田正利によると、こうした保護者が目立って増え始めたのは1990年代後半からであるとされる(アメリカにおける「ヘリコプター・ペアレント」問題の発見は1991年である)。この時期に子供が学齢期を迎えた人々の多くは1970年代後半から1980年代前半の校内暴力時代を経験しているので元来教師への敬意を持っておらず、さらに教職の人気が低かったバブル期に社会に出たために教師をバカにしている、というのが小野田の解釈である。また「言ったもん勝ち」がまかり通る風潮が強まっていることもモンスターペアレント出現の原因の一つではないかと小野田は指摘している[1]

また、喜入克はこうした保護者の増加の原因を「保護者の消費者意識の暴走」と見ている。喜入によれば、保護者は自分の子供が学校で他の子供より「損」な待遇を受けることが我慢できないのであり、それは「同じ値段を払えば同じ商品が手に入る」という意識で教育サービスを捉えているからであるとされる。例えばある学年の学級担任が新卒、中堅、評判の良いベテランというような構成になったとする。モンスターペアレントは、自分の子供が「評判の良いベテラン教師」以外に担任されることを不当待遇であると考える。なお保護者の過剰な消費者意識を問題視する意見は河上亮一からも提出されている[2]

また喜入は、これらモンスターペアレントやその子供に学校が手こずる理由として、彼らが「学校と対等な消費者」としての立場と「まだ半人前である子供」としての立場を使い分けるという現象も指摘している。すなわちモンスターペアレントやその子供たちは、学校に対してクレームをつける際には「消費者」として振るまい、そうしたクレームが学校に「ルール違反」と認定されて退学停学などの処分を出されそうになると「半人前である子供への情状酌量」を要求するのである。

こうした保護者については、門脇によっても世代の問題が指摘されているが、山下・岡田らは小学校2年生の保護者を対象としたアンケート調査のクラスター分析をもとにターゲット・プロファイリングを行うことで、「既に子育てを経験している、経済的なゆとりは無いが教育ママ度はそれなりに高い、パート勤務の母親」(山下・岡田らは「生活切迫型パートママ」と命名している)が、学校への信頼度の低さを示す6つの指標においていずれも突出した数値を示すことを明らかにしている[3]

このような保護者側の変質のほか、福田ますみはモンスターペアレントが教師による生徒いじめを捏造した福岡県での事例を取材した著書『でっちあげ:福岡「殺人教師」事件の真相』において、「ダメ教師」の構図に安易に飛びついてきちんとした取材をせずに報道してしまうマスメディアの問題(この事例では朝日新聞週刊文春)も指摘している。

その他、地域の人間関係が希薄になった結果、かつては地域社会が緩衝材となっていた個々の親の不満が直接学校に持ち込まれるようになった状況も背景にあるのではないかという意見も多い[1]

なお、こうした保護者は初等教育や中等教育に限られた問題ではなく、星野・横山・横山・水野・徳田らは幼稚園の保護者においても、自己中心的な保護者(特定の園児は自分の子供と遊ばせるな、クラス分けで特定の園児と同じクラスにするよう要求、テレビや本で紹介された教育方法を導入するよう要求する、時間かまわず保育者の自宅に毎日電話をかける等)が問題化していることをアンケート調査によって示している。この調査によると、保育者の4人に1人が問題のある保護者としてこうした保護者を挙げている[4]

一方、アメリカにおけるヘリコプター・ペアレントは主に高等教育における保護者の過干渉・過保護を念頭に置いた語彙であり[5] 、主に初等・中等教育の問題として論じられている日本におけるモンスターペアレントとは、言説の様相が若干異なっている点に注意が必要である。

問題点

こうした保護者が一人でも出現すると、教職員はその対応に膨大な時間を奪われてしまう。その結果、他の児童・生徒のために使う(教材研究、授業準備、生徒指導部活指導、補習などの)時間がなくなり、場合によっては学校全体に悪影響が広まる。

2006年に金子元久が1万校の小中学校の校長を対象にして行ったアンケート調査によると、中学校では29.8%の校長が「保護者の利己的な要求」が深刻な教育の障害になっていると答えており、「やや深刻」と答えた48.9%と合わせると78.7%の校長が保護者の利己的な行動を問題視しているという結果が出た。なお小学校では「深刻」が25.7%、「やや深刻」が52.1%で合計は77.8%となっている。[6]

適切な対応がなされればその影響は最小限にとどまるが、対応が一人の担任教職員に押しつけられた場合などでは逆に被害が拡大したり、担当教職員自身が体や精神を病んでしまう事例も珍しくない。特に、経験が浅い新任教師は適切な対応ができず問題を抱え込んでしまうと言われている(喜入、2007)。2006年には西東京市の市立小学校に着任した女性教員が、一部の保護者から深夜に携帯電話に苦情電話をかけられる、連絡帳で人格攻撃されるなどした結果、自殺している[7]

また、2008年1月にうつ病としての労災認定がされた例として、子供同士のケンカで軽いけがをした両親が当時子供を預けていた、埼玉県 狭山市立保育所の責任者の女性所長に対し4ヶ月に渡り苦情を言い続け、最終的に保育所の対応を批判する内容証明郵便を送りつけ、女性所長が苦に焼身自殺するといったものもある。その後、この両親から謝罪などといったものは確認できていない[8]

また福田の報告した福岡の事例に見られるように、学校の管理職が毅然とした対応を行わず自身の責任回避に終始することで事態が悪化するケースもある。この事例ではモンスターペアレントの攻撃が始まった直後、校長が一旦モンスターペアレントに安易に迎合して教師側の落ち度の存在を認めてしまった結果、裁判が始まった後に引っ込みがつかなくなって教師側の責任を認める証言を行い、さらに教師を追いつめるという状況が発生した(福田、2006)。

とある事例

2003年に福岡県の小学校で起こった事例では、上述の『でっちあげ:福岡「殺人教師」事件の真相』によれば、モンスターペアレントが担任教師を「いじめ教師」として非難し、事件が法廷に持ち込まれた際には、それをサポートする550人もの大弁護団が結成されることとなった。しかし、審理の過程でモンスターペアレントの告発が捏造であったことが次々と明らかになった。この事件は1審で被告(教師側)勝訴となり原告は控訴したが、2007年3月に控訴を取り下げて原告敗訴が確定した」とのことである。 (ただし、上記「でっちあげ-」はあくまで被告の教師の立場にたつ資料であることは留意する必要がある。上記事件地裁判決は教師の個人的責任こそ認めなかったが、福岡市に220万円の支払いを命じており、原告側の主張を捏造と認定したわけではない。教師の責任が問われなかったのは、公務員の個人的責任を問わない国家賠償法上の問題である)[1]

また2007年 2月1日NHKが放送した「クローズアップ現代:要求する親、問われる教師」では、モンスターペアレントへの対応に疲れ果てて自殺した女性教師の事例が紹介され、反響を呼んだ[9] [10]

モンスターペアレントの行動例

教育評論家の尾木直樹法政大教授によると5つのタイプがあるようだ。

  1. 学校依存型(子供を朝起こせ、学校で汚れたので洗濯してくれなど「何でも学校に押しつける」)
  2. 自己中心型(劇の主役や習字の評価を高くしろなど「学校行事の日程変更なども要求」)
  3. ノーモラル型(夜中、授業時間でも電話してくる)
  4. 権利主張型(風邪で休んだので給食費返還、住民税支払っているので給食費未納)
  5. ネグレクト(育児放棄、虐待)型(食事なし、服や髪の汚れ)
  • 自分の子供が注意されたことに逆上して職員室に乗り込み、延々とクレームをつける(「クローズアップ現代」に登場)
  • 早朝であろうが深夜であろうが教職員の自宅に電話をかけ、何時間もクレームをつける(「クローズアップ現代」に登場)
  • 子供同士の喧嘩に介入し、相手の子供を非難する長大な文書を学校に持ち込んで処罰を要求する[11]
  • 自分の子供がリレー競技の選手に選ばれないのは不自然だとクレームをつける[11]
  • 子供がプリントを親に渡さなかったことを、教師の指導のせいにする[11]
  • 「自分の子どもを手厚く指導するために専用の教員をつけろ」「我が子を学校代表にして地域行事に参加させろ」などと要求する[12]
  • しろまるしろまる小学校しろまるしろまる組のしろまるしろまるという児童はクラスの迷惑なので学校に来させないでくれ」といきなり都道府県の教育委員会に匿名で要求する[1]
  • 高校入試の合否判定に用いられる絶対評価の(評定ごとの割合が厳格に定められている、相対評価では、ほとんどトラブルは発生しない。)通知表の評定に不服だと抗議する。(特に美術などの実技評価は、客観的な点数がつけづらいため特に多い。)
  • 「遅刻がちの子どもを担任が迎えに来ない」などという理不尽なことを教師のせいにして学校にクレームをつける[13]

対策

  • 「モンスターペアレント」という語が登場する以前からこうした問題を「親のイチャモン」として研究してきた小野田は、モンスターペアレントのイチャモンを額面通りに受け取るのではなく、その要求によってモンスターペアレントが実際には何を求めているのかを察知し、可能な解決策を探るという手法を提言している。
  • 喜入はこうしたモンスターペアレントの対応は個々の教職員や学校では不可能であるとし、教育委員会内にモンスターペアレント対応専門のチームを設置することを提案している。
  • 教育再生会議は喜入の考え方に近く、2007年 6月1日に決定した第2次報告の中で「学校問題解決支援チーム(仮称)の設置」を提言している。また学校協議会等地域社会と学校との連携を図る試みも行われている。
  • 教職員が個人で訴訟費用保険(教職員賠償責任保険)に入るケースも増加しており、2007年には東京都の公立校の教職員の3分の1がこうした保険に入っていると報道された。2007年7月12日付の毎日新聞記事によれば、都教員の訴訟費用保険加入数は2000年から2007年の間に1,300人から21,800人へと激増したとされる。この保険は、教職員の不法行為による被害者への個人賠償責任保険に加えて、不法行為の有無に関わらず訴訟を起こされた際の訴訟費用も負担する(東京海上日動「教職員賠償責任保険」保険規約を参照のこと)。
  • 文部科学省は2007年7月、全国の教育委員会から具体的なモンスターペアレント対策施策案を募り、それらの中から10の自治体を選んで2008年度に実施させて、その費用の8割を国の予算から補助するという計画を発表した。[14]

「モンスターペアレント」という用語への批判

本田由紀内田樹小野田正利らは、「モンスターペアレント」という語の持つ印象が、保護者と学校の対立を煽る方向に働くのではないかという懸念をそれぞれ表明している[15] 。このうち内田、小野田は「モンスターペアレント」という語の登場が、保護者の過剰なクレーム行動や学校や教員を一方的にバッシングするマスコミの風潮に疑問を投げかけ、言説の転換点となったという意味ではこれに一定の評価も与えつつ、内田はカウンタークレーム行動の激化、すなわちクレーム行動をする人間を今度は徹底的にバッシングする風潮の出現を懸念し、一方の小野田は学校と保護者の協調こそが望ましい公教育のあり方であるという立場から、両者の協調を「モンスターペアレント」という語が阻害する可能性に懸念を表明している。また「モンスターペアレント」として直ちに保護者のクレームを正当不当の検証なしに切り捨てるケースも見られる。(福岡中2いじめ自殺事件)

参考文献

  • 小野田正利『悲鳴をあげる学校―親の"イチャモン"から"結びあい"へ 』(旬報社、2006)
  • 小野田正利「学校への"無理難題要求"の急増と疲弊する学校現場-「保護者対応. の現状」に関するアンケート調査をもとに」『季刊教育法』147, 16-21.(2005)
  • 小野田正利「学校とイチャモン(無理難題要求)-教職員の"考え方"と保護者の"思い"」『教育』56,10(2006)
  • 門脇厚司「クレーム社会を加速する若い親たちの特性」『児童心理』61, 8(2007)
  • 喜入克『高校の現実 生徒指導の現場から』(草思社、2007)
  • 福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮社、2007)
  • 星野ハナ、横山範子、横山さやか、水野智美 、徳田 克己「幼稚園教諭の感じる「困る保護者」とその対応」『日本保育学会大会発表論文抄録』No.53
  • 山下絢・岡田聡志「学校教育に対する保護者意識の実態―ターゲット・プロファイリングによる『学校教育に対する保護者の意識調査』の二次分析―」第7回SPSS研究奨励賞懸賞論文(優秀賞)

脚注・出典

  1. ^ a b c 小野田正利 講演「人と人が結びあえる社会であり続けるために」 (PDFファイル)引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "no1"が異なる内容で複数回定義されています
  2. ^ 【やばいぞ日本】「お前ら全員辞めさせる」
  3. ^ 山下・岡田「学校教育に対する保護者意識の実態 ―ターゲット・プロファイリングによる『学校教育に対する保護者の意識調査』の二次分析―」
  4. ^ 星野ハナ、横山範子、横山さやか、水野智美 、徳田 克己「幼稚園教諭の感じる「困る保護者」とその対応」日本保育学会大会発表論文抄録No.53
  5. ^ Some college students cope with 'helicopter parents'
  6. ^ 第5回基礎学力シンポジウム報告「学力問題と学校」(金子元久)
  7. ^ 新任女性教員の自殺、遺族が公務災害申請へ 西東京の小学校
  8. ^ 埼玉の保育所長の自殺、公務災害に認定 モンスターペアレント対応原因 - 中日新聞 2008年 1月10日
  9. ^ 神戸市教育委員会平成18年度アクティブプラン検討会第1回記録
  10. ^ 第2回南さつま市議会定例会会議録
  11. ^ a b c 中日新聞「増えるモンスターペアレント(上)教員に無理難題」引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "no2"が異なる内容で複数回定義されています
  12. ^ 読売新聞「名古屋市教委への親の理不尽な要求390件」
  13. ^ "母親が学校に押しかけ、教員を足蹴り". こうちeyeニュース (2007年10月29日). 11月20日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  14. ^ 読売新聞「理不尽な親、疲弊する先生 学校の苦情対応外注」
  15. ^ 本田由紀・高橋睦子「崖っぷちの教育界を救うために今、私たちができること」(『論座』2007年12月号)、内田樹「日本人が共同体からの利益を捨てるまで」、小野田正利「追い詰める親、追い詰められる学校」(いずれも『中央公論』2007年12月号)

関連項目

外部リンク

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