「ヤマカガシ」の版間の差分
2008年4月14日 (月) 12:05時点における版
ヤマカガシ |
---|
ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus
|
分類 |
種
:
ヤマカガシ R. tigrinus
|
学名 |
Rhabdophis tigrinus (Boie, 1826) |
和名 |
ヤマカガシ |
英名 |
Japanese grass snake Japanese water snake Tiger keelback |
ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)は、爬虫綱 有鱗目 ナミヘビ科 ヤマカガシ属に分類されるヘビ。
分布
ヤマカガシ属では最北に生息する種である。
- R. t. tigrinus
形態
全長は100cmほどで、大きいものは140cmに達する。体色は、褐色の地に赤と黒の斑紋が交互に並んでいる。関東の個体では斑紋がはっきりしているのに対し、関西の個体ではややぼんやりとしている。
毒
奥歯の根元にデュベルノワ腺 (Duvernoy's gland) と呼ばれる毒腺を持つため、深く噛まれると危険(死亡例もある)。他のナミヘビ科の有毒種同様、口腔の後方に毒牙を有する後牙類(後牙蛇)である。
毒は出血毒であるが、おもに血小板に作用してこれを破壊する性質であるため、クサリヘビ科の出血毒とは違い、激しい痛みや腫れはあまり起こらない。しかし、噛まれてから20-30分後ぐらいから、血液の中で化学反応が起こり、血小板が分解されていく。そのため、全身の血液が凝固能力を失ってしまい、全身に及ぶ皮下 出血、歯茎からの出血、内臓出血、腎機能障害、血便、血尿などが起こり、最悪の場合は脳内出血が起こる。一説には、その毒の強さはハブの10倍とも言われる。
また、頸部にも奥歯とは全く違う毒を出す頸腺と呼ばれる別の毒腺があり、危険が迫ると相手の目を狙って毒液を飛ばす。これが目に入ると激しい痛みを生じ、最悪の場合失明もありうる。近年の研究により、この頸部の毒は、餌であるヒキガエルの持つ毒を貯蓄して使用していることが明らかになった。
頚腺の毒液の存在が古くから認識されていたとはいえ、毒腺が奥歯にあるため、爬虫類研究者の間でも毒蛇であることはあまり認識されていなかったが、1972年に中学生が噛まれて死亡する事故が起きてから、毒蛇として認識されるようになってきた。このため、むしろ山歩きや山仕事に慣れ経験則を重視する年配者において知見が改まっておらず、従ってヤマカガシを毒蛇と認識せず注意や警戒を呼びかけてもせせら笑う例すら見受けられるなど、土地の年配者の判断がアテにならない事もあり、注意を必要とする状況もあり得る。その後、1984年にも死亡事故が起きている。こちらも被害者は中学生で、どちらの事故もヘビを捕まえようとして無造作に手を出して噛まれている。ヤマカガシは本来、大人しいヘビなので、手を出したりしない限り噛まれることはない。
亜種
- Rhabdophis tigrinus lateralis (Berthold, 1859)
- Rhabdophis tigrinus tigrinus (Boie, 1826)
生態
カガシとは日本の古語で「蛇」を意味する。ヤマカガシという名前は、「山の蛇」の意味である。しかし実際には平地に多く、山地でも標高の低い場所に多い。本種はその中でも水辺、農耕地に住む。驚くと頸部を広げて威嚇する。それでも相手が怯まない場合、仰向けになり擬死行動を行う。それでも相手が怯まない場合は噛みついたり、相手に毒腺のある頸部を叩きつける。性質は一般に大人しいとされているが、中には非常に攻撃的な個体もいる。
食性は動物食でカエル、魚類等を食べる。田んぼの土中に頭を入れて、土中に潜ったトノサマガエルなども捕食する。他の蛇からは嫌われる有毒のヒキガエルをも食べてしまう。飼育下では、ドジョウや金魚の捕食例もある。また他のヘビとは違い、ネズミは食べない。捕食方法は、獲物に噛み付いて、そのままぐいぐいと飲み込む。ヘビが動物を飲むときは大概頭から飲み込むものだが、本種がカエルを飲むときは、後ろから飲み込むことが多い。そのため口からカエルの頭だけが出ているという場面に出くわすことがある。
繁殖形態は卵生で、1回に2-43個の卵を産む。
天敵
天敵は人間以外では、猛禽類、カラス、イタチ、タヌキ、テンなどであるが、頚部の毒腺の存在により、撃退してしまうこともある。また、本種と生息域が重なり、蛇食性の強いシマヘビも、本種にとっては、危険な天敵である。
人間との関係
本種はアオダイショウ・シマヘビとともに、日本本土で最もよく見かけるヘビの一種である。同じ毒蛇であるニホンマムシと比べても生息数は多く、また人との関わりも深い。これは本種がカエル食であるため、日本人の農業、特に水田の発達と共にヒキガエルや他のカエルの繁殖地が増加していき、それに伴って本種も発展していったものと思われる。そのため、農村地域では、昔から田んぼの友達として、住民にはおなじみの存在であった。
しかし近年は、水田の減少、そしてそれに伴うカエルの減少と共に、個体数は減少しているようである。特に都市部では、本種を見かけることは極めてまれである。
参考文献
- 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、144頁。
- 『爬虫類・両生類800図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、324-325頁。
- 『小学館の図鑑NEO 両生類はちゅう類』、小学館、2004年、127頁。
- Deborah A. Hutchinson et al.,"Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus",PNAS,Vol. 104, 2007,pp. 2265-2270