設立趣意書

私たちは、資源・エネルギーを利用するにあたり、その入手と発生する廃棄物の処理・処分をセットとしてとらえる必要があります。資源・エネルギーは、長期にわたる経済的な入手が可能で、できる限りリサイクルが可能なものを選ぶことが必要ですが、同時に、その利用と不可分の関係にある廃棄物は、地球環境に負荷を与えない合理的な処理・処分ができなければなりません。

原子力発電は、燃料のエネルギー密度が高く、備蓄が容易であり、発電時に地球温暖化の原因の一つといわれる二酸化炭素を排出することがなく、さらに、一度使用したウラン燃料をリサイクルして利用することができる「準国産エネルギー」と考えられるため、エネルギーの安定供給およびエネルギーセキュリティの観点から、今後の期待はますます高まると言えます。また、原子力エネルギーでは、得られるエネルギーあたりの廃棄物の発生量は圧倒的に小さく、処理・処分をする上で大きなメリットがあります。このように、原子力エネルギーは、その入手と廃棄物の処理・処分の双方を考慮したうえで、今後の社会を支えうる有望なオプションと考えられます。

原子力エネルギーの利用に伴い発生する放射能レベルの高い廃棄物については、その合理的な処理・処分法として地層処分が選ばれています。地層処分については、原子力発電を進める多くの国において、最も確かな処理・処分法として積極的な取り組みが行われてきていますが、国民的合意に基づく実施の前提となる、その安全性の認識には依然として溝があるのが現状です。

その理由としては、地層処分では、地質環境という不均質な開放系空間に構築されるシステムの挙動を人間の日常的経験や歴史的経験、さらにはこれまでの工学で経験のない長期にわたる時間にわたって予測する必要があることが挙げられます。このためには、様々な時空間スケールで進行する相互作用や変化を扱う多岐にわたる学問領域の情報を総合する必要があるのですが、この際に用いる前提や推論にどうしても大きな不確実性が含まれてしまいます。このことが、これまで、処分の安全性について、誰にとっても分かり易い説明を提供することができず、処分の安全性を判断するための材料や根拠をうまく提供できていない原因のひとつとなっています。

また、地層処分では、地質学、工学、放射化学、計算科学等、地層処分で初めて組み合わされるような異種の学術分野にまたがるシステムについて、事業者は的確な品質管理のもとにこれを設計・施工・操業・閉鎖する、国は安全規制において事業者の申請の科学的妥当性・技術的信頼性を審査する、など極めて多岐にわたる事柄を考慮しなければなりません。

このため、様々な学問分野における科学的・技術的知見を的確に統合し、社会的な意思決定に必要な「体系化した情報」として提供する作業が殊のほか重要となります。 その作業は、各々の要素を個別に解析的に扱うだけではなく、統合化を図る必要があります。その統合の際には、全体を各要素が有機的に結合したシステムとして把握し、システム全体からみた安全に対する応答を、付随する不確実性とともに示し、より合理的でより納得できる情報とする努力が必要です。

さらに、本来、安全は人間、環境、経済、社会の状況に左右される様々な価値基準(自然観、価値観、人生観、社会観、倫理観等)によって判断されるものですが、地層処分のように遠い将来の安全を考える場合は、適切な時間軸の取り方はどう判断すべきか、安全を判断する指標をどう定めるか等、従来の科学の考え方のみでは解決できない課題も加わることになります。

このような自然科学における課題と社会科学における課題を、調和の取れた合理的な形で解決するには、様々な学問領域を統合するという立場から、また公正中立な科学の立場から処分の問題を考えていく姿勢が重要です。私たちは、こうした課題に取り組むことを通じて、世界的な動向を視野に入れつつ、日本のおかれた条件に最適で誰もが自ら判断できる安全性を備えた放射性廃棄物処分の実現に貢献することを目指し、今般、原子力安全研究協会に処分システム安全研究所を設立することと致しました。

(2008年6月)

処分システム安全研究所について

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