『大規模災害における応急救助のあり方』
厚生省・災害救助研究会 199605
last update:20110108
■しかく厚生省・災害救助研究会 199605
『大規模災害における応急救助のあり方』, d10
■しかく目次
はじめに
第一章 我が国の応急救助の仕組み
第二章 応急救助をめぐる課題
第三章 大規模災害における応急救助のあり方
1.応急救助の実施体制
2.情報収集・提供
3.応急救助の内容・方法
〔1〕避難所の設置運営
〔2〕医療の提供
〔3〕食料・水の供給
〔4〕生活必需品の提供
〔5〕遺体の処理・埋葬
〔6〕応急仮設住宅の設置
4.要援護者への支援
5.ボランティア活動と行政との連携
6.救援物資・義援金の受入れと配分
7.その他の生活支援対策
おわりに
■しかく引用
はじめに
高齢者、障害者、病人、乳幼児、妊産婦等で災害時に特別の配慮を要する、いわゆる「要援護者」に対する支援方法...昨年11月に開催以来、阪神・淡路大震災において応急救助を行った兵庫県、神戸市、日本赤十字社、社会福祉協議会、ボランティア団体等の関係者からのヒアリングや被災地兵庫県の視察も含め、9回にわたり議論
第一章 我が国の応急救助の仕組み
災害救助法(昭和22年法律第118号)
昭和34年の伊勢湾台風を契機として...昭和36年11月に災害対策基本法(昭和36年法律第223号)が制定
第二章 応急救助をめぐる課題
2.阪神・淡路大震災における問題点とこれに対する課題
(1) 今回の災害では、災害救助法による救助の実施主体である地元地方公共団体自らが被災し、災害発生直後は職員が確保できなかったことや通信の途絶により、行政機関としての中枢機能を喪失する状況になった。
(4) 要援護者に対する支援のあり方
今回の災害では、自宅や避難所における要援護者の被災状況の把握が遅れたこと、応急仮設住宅への入居について要援護者を優先した結果、要援護者が集中する応急仮設住宅が発生したこと、障害者に対し情報が正確・迅速に伝わらなかったこと等の問題が生じた。
このため、高齢社会時代の大規模・長期型災害において、要援護者に対してどのように対応すべきかについて明らかにしておくことが必要である。
第三章 大規模災害における応急救助のあり方
1.応急救助の実施体制
「自分の身は自分で守る」という自助努力の精神...「地域の人々は地域で守る」という精神...あらかじめ組織化された自主防災組織を通じ、地域住民が相互に協力し合い、負傷者の救出、安否確認、要援護者への支援、避難所の運営といった面で、個人や地域コミュニティーでできる限り対応することが望ましい。
〔1〕地方公共団体における実施体制の整備
(3) 市町村福祉部局の実施体制の整備
応急救助の業務の多くは、応急救助を所管する市町村の福祉部局が担当することとなるが、今回の災害では同時に膨大な業務が集中したために、例えば、福祉事務所が本来の福祉業務ができずに物資の受入れ・配分、遺体の確認や安置等の応急対応に追われたり、本庁からの指揮命令系統に混乱が生じたといった問題がみられた。
このため、非常災害時においても、本来の福祉業務が可能な限り円滑に実施 できるように、市町村福祉部局において担当職員を確保するほか、福祉行政に 対する庁内関係部局による協力体制をあらかじめ決めておくことが必要である。
〔2〕広域的な応援体制の整備
(1) 地方公共団体間の災害援助協定の締結
今回の災害では、全国の地方公共団体から多数の職員が被災地に入り、応急救助の一翼を担った。神戸市を例にとると、福祉部局だけで平成7年6月末までに延べ約8,000人にも達する規模であった。このような経験からみても、被災地周辺を中心に、他の地方公共団体からの職員の迅速・的確な派遣は不可欠であり、地方公共団体は、広域的なブロック単位で、あらかじめ人員派遣に関して他の地方公共団体と災害援助協定の締結を進めることが必要である。なお、この際には併せて、食料・水その他の必要物資の支援についても対象とし、総合的な災害援助協定とすることが必要である。
2.情報収集・提供
また、被災者への情報提供についてみても、情報提供機能が壊滅したこと、デマによる誤った情報が伝達されたこと、障害者に対して的確な情報が提供されなかったといった問題が生じた。また、ボランティア団体である「外国人地震情報センター」には外国人から、平成7年6月末までで800件近い相談があった。
このようなことから、今後、障害者や外国人を含め被災者に対する正確で迅速な情報提供を行うことが必要である。
(障害者や外国人への情報提供)
災害時、障害者にはなかなか情報が伝達されにくいことから、聴覚障害者のための掲示板、ファックス、手話通訳、文字放送や視覚障害者のための点字による情報提供を行うことが必要である。
また、外国人の中には、日本語を解せない場合や、被災地の地理や事情に不慣れなことから、必要な情報を得ることが困難な場合もあると考えられる ため、外国語による情報提供、通訳を配置した外国人向けの相談体制を整備することが必要である。
3.応急救助の内容・方法
〔1〕避難所の設置運営
(1) 大規模災害に対応できる避難所の確保
(教育施設の利用)
今回、被災者の多くが学校に避難したが、これまで学校は地域コミュニティーの中核として大きな役割を果してきた。このため、避難所として使用する施設の一つとして学校が挙げられる。
学校を避難所として指定する場合には、学校は教育活動の場であり、避難所としての機能は応急的かつ付加的なものである点を考慮し、教育委員会等の関係部局と十分に協議しておくことが必要である。また、避難所として指定した学校には、当面の避難生活に必要な食料・水等を備蓄しておくべきである。なお、現在、学校の防災機能は必ずしも十分とはいえず、その一層の充実が必要である。
(社会福祉施設の利用)
社会福祉施設については、当初、地域住民の避難所として活用するが、その後できる限りすみやかに避難所を集約し、特に、高齢者や障害者などの特別の配慮や援助を必要とする要援護者のための専用の避難所として位置付けていくことが必要である。(「社会福祉施設における要援護者対策」の項で詳述)
(2) 避難所の運営体制の確保
(管理責任者の役割の明確化)
避難所の管理責任者は、被災者台帳に基づき、常に被災者の実態を把握し、安否確認やニーズ把握を行うとともに、特に、要援護者については、必要に応じてホームヘルパーの派遣や社会福祉施設への緊急入所の要請を行政の福祉担当部局に行うことが必要である。
(3) 入居決定のあり方
今回の災害における応急仮設住宅の入居決定方法は、神戸市、西宮市、宝塚市といった大都市については、一定戸数が完成するごとに、高齢者等を優先し、希望する場所の応急仮設住宅を申し込む方式による公募抽選方式をとった。これは憔悴の激しい高齢者等を1日も早く避難所から応急仮設住宅へ入居させることが、緊急の課題であったためである。 しかし、この結果として、高齢者等が集中する応急仮設住宅が発生した。
4.要援護者への支援
・ 今回、被災市町を中心に民生委員・児童委員、ホームヘルパーの協力を得て、要援護者の安否の確認や生活状況を把握するためのローラー作戦や移送が行われた。また、平成7年3月末までに2,290名の高齢者、214名の障害者、1,557名の児童を社会福祉施設に緊急一時入所・通所させたが、定員の1割を超える入所を認めるとともに、入所の手続も場合によっては事後でよいとするなど弾力的な対応を行った。
・ また、避難所や応急仮設住宅の要援護者に対しては、保健婦による巡回健康相談や訪問指導、社会福祉施設職員で構成する介護支援チームの派遣、社会福祉協議会による入浴介助サービスの巡回、児童相談所職員による「被災児童こころの相談事業」が行われるとともに、障害者に対する情報提供として行政が障害者団体、報道機関等と協力して文字放送専用テレビを配置するなどの取組みが
行われた。
・ さらに、避難所等の聴覚障害者に対しては、他の地方公共団体などから延べ430名(平成7年3月末現在)の手話通訳者が派遣されたが、こういった福祉の専門ボランティアの協力も数多くみられた。
・ しかし、今回の災害においては、在宅及び避難所における要援護者の状況把握が遅れたこと、要援護者に対して必要な情報が十分には伝わらなかったこと、高齢者や障害者に配慮した避難所や応急仮設住宅が少なかったこと、避難所等における保健・医療・福祉サービスの提供が遅れたこと、行政とボランティアとの連携が迅速に行われなかったことが問題となった。
(1) 在宅要援護者の安否確認
被災したねたきり老人や歩行困難な障害者等は自力では避難できず、自宅で そのままの状態が続くと、健康を著しく損なったり、生命に危険が及ぶことも 予想される。そこで災害時にあってはこのような要援護者の安否確認を迅速に行うことが重要であり、平常時から要援護者の把握について民生委員・児童委員等の福祉関係者との協力関係を確保しておくことが必要である。
(平常時からの要援護者の把握)
災害時に要援護者の所在及び安否を迅速に確認するためには、平常時から要援護者の所在を民生委員・児童委員を通じ福祉事務所が中心となって把握しておく必要があるが、今回の災害では、要援護者の名簿の整備・更新も不十分であったことから安否確認が遅れたという問題があった。今回の災害経験を踏まえ、平常時から要援護者についてのきめ細かな状況を把握しておくことが不可欠であり、身体障害者手帳交付台帳をはじめ、例えば、ホームヘルパー、ガイドヘルパー、手話通訳者の派遣、デイサービスといった介護サービスを受けている人々のリストを整理しておくことが必要である。
(福祉事務所等による安否確認)
災害発生直後、まず、要援護者を把握している福祉事務所が、民生委員・児童委員の協力を得ながら、迅速にこれらの人々の安否確認を行うことが必要である。また、安否確認を円滑に実施するため、あらかじめ災害時の要員体制を 整備しておくとともに、民生委員・児童委員に対して、安否確認方法を周知しておくことが必要である。
このような方法によっても確認できない要援護者については、福祉団体やボランティア団体の協力を得て安否確認を行うことが必要な場合もある。なお、この場合、要援護者のプライバシーの保護に十分留意しつつ、緊急やむを得ない場合には、状況に応じ名簿等の情報を一部開示するなどの柔軟な対応を考慮することが必要である。
(地域における防災対策の充実)
地方公共団体は、地域では多くの要援護者が生活していることを念頭に置き、あらかじめ要援護者に対し、防災に関する広報の徹底を図ることが必要である。 特に、ホームヘルパー、ガイドヘルパー等の介護サービスを受けている人々に対しては、きめ細かに対応することが必要である。また、障害者に対しては、 点字・録音によるものや、イラストを採り入れたものなど分かりやすい広報を 行うことが必要である。
(地域コミュニティーの互助意識の醸成)
・ 今回、災害発生直後、8割以上の地域住民は近隣同士の助け合いにより避難したという報告もある。また、普段から「私たち夫婦は目が不自由なので、何かあったときには助けてほしい」と依頼しておいたことが幸いして、隣人がすぐさま救助に駆けつけてくれたという障害者の体験談が示すとおり、いざという時にまず頼りになるのは近隣住民であり地域コミュニティーである。
特に、災害発生直後に要援護者を避難させる場合には、同居の家族のほか近隣住民の積極的な協力が必要であり、要援護者を含めた自治会等の地域コミュニ ティーにおいて、平常時から互助意識を育み、災害時の要援護者の避難方法に ついて話し合っておくことが望まれる。
・ 他方、要援護者も、平常時から非常時の持出品の確認、避難所とそこに行く経路の確認を行うことはもとより、地域コミュニティーとのつながりができるよう自ら努力することが望まれる。また、地方公共団体はこのような点について、あらかじめ広報活動を通じて周知しておくことが必要である。
・ さらに、地方公共団体は、地域住民に対して、要援護者の救助に関する知識をあらかじめ周知しておくことが必要であり、実際に要援護者の救出訓練を行ったり、地域住民が要援護者の体験をするなどの防災訓練を実施することも効果的である。
(2) 要援護者に対する情報提供
・ 今回、長期間にわたり交通や通信網が寸断したことに加え、特に、障害者は、コミュニケーション面でハンディキャップを有する面があることから、被災した状況や避難所がどこにあるのか、どこに行けばどのようなサービスが受けられるのかといった必要な情報を入手することが困難であった。
・ 障害者に対しては、他の地方公共団体等に手話通訳者の派遣要請を行い、生活必需物資、医療、交通網に関する情報提供や各種相談を行うとともに、行政の ほかに障害者団体も救援対策本部を設置し、あるいは障害者の親の会が避難所を巡回するなどによって、障害者に必要な情報を伝達するといった取組みが行われた。
また、電話やファックスによる相談窓口を設け、福祉に関する相談や「こころの相談」を行ったが、全体としてみれば障害者に対しては必要な情報の提供が遅れた。
(要援護者への情報提供)
聴覚障害者に対しては、避難所等の掲示板やファックス、テレビの手話・文字放送、手話通訳が有効であり、視覚障害者に対しては点字・音声による情報が有効であることから、今後、こういった多様な手段を活用してきめ細かな情報を提供することが必要である。
なお、今回の災害では特にインターネットを介したパソコン通信の有効性の一端が証されたところであり、現在、国が整備を進めている障害者情報ネットワークを一層充実することも必要である。
(3) 避難所における要援護者対策
避難所においては、平成7年2月末で約600人の障害者が避難していたといわれ、被災地方公共団体は、補装具の再交付、補装具及び日常生活用具の給付・貸出し、福祉施設の利用相談、ケースワーカー、保健婦、手話通訳者、ガイド ヘルパー、福祉タクシー等の派遣を行い、要援護者の避難所生活を支援した。
(バリアフリー等構造面での配慮)
今回、避難所においては、設備面で要援護者に配慮されていないなど施設の構造上の不備が指摘された。近年、地方公共団体における福祉のまちづくり条例等の制定により、公共建築物におけるバリアフリー化が進んできているが、バリアフリー化されていない施設を避難所とする場合には、要援護者が利用しやすい障害者用トイレ、スロープ等の段差解消設備を整備することが必要である。
(相談窓口の設置)
これまで在宅で種々の福祉機器を利用して生活していた障害者にとっては、避難所での生活は自分に必要な機器のない不便なものとなった。このようなことから、要援護者の避難所生活に必要な車椅子、障害者用携帯便器、おむつ等の 物資、ガイドヘルパー、手話通訳者の派遣、要援護者のニーズを把握するための相談窓口を早急に設置するとともに、迅速にこれらの物資の調達や人材の確保に努めることが必要である。
また、必要な物資・人材の確保に当たっては、行政が積極的に関係業界、関係団体、関係施設への
提供要請を行うなどして迅速な調達に努めることが必要である。
(社会福祉施設の避難所としての利用)
要援護者は、通常の避難所では生活スペースの確保等の面で困難な状況に置かれやすいことから、福祉サービスが受けられる社会福祉施設を要援護者のための避難所として確保することが必要である。このため、地域の社会福祉施設のうちから、要援護者が災害時に避難所として利用できるものをあらかじめ福祉避難所(仮称)として確保しておくことが必要である。(「社会福祉施設における要援護者対策」の項で詳述)
(4) 応急仮設住宅における要援護者対策
今回、応急仮設住宅を早期かつ大量に建設する必要があったことから、その仕様が標準的には浴室や便所の手すりの設置、洋式便器であったため、きめ細かな個別の対応が遅れ、要援護者にとって日常生活上の不便が生じることとなり、入口の段差解消等の改修が必要となった。
(要援護者の住みやすい仕様の検討)
応急仮設住宅の構造については、風呂の段差解消、入口のスロープ、トイレ・浴槽の手すりや滑り止めの設置、チャイム、ノブ、棚等の利用状況に合わせた 高さ設定等の面で、要援護者が安心して住むことができるようその仕様を改善することが必要である。
(地域型仮設住宅の設置)
今回、要援護者を対象に、必要に応じて従前の居住地に比較的近い地域で福祉面のケアを受けながら生活することができる応急仮設住宅(地域型仮設住宅)が1,885戸整備されたが、この取組みは今後も推進することが必要である。また、その仕様についてもさらに改善することが必要である。
(5) 社会福祉施設における要援護者対策
今回の災害では、社会福祉施設はその本来の機能から要援護者の避難場所となったことに加え、定員を超えて受け入れできる最大限の施設入所を行うなど 大きな役割を果たした。このため、今後、社会福祉施設を地域の要援護者の応急救助の拠点として重視していくことが必要である。
また、今回のような早朝に発生した災害の場合と異なり、昼間に災害が発生した場合には、入所者はもとより、通所してサービスを受けている要援護者に対する支援方法も検討しておくことも必要である。
(介護用品の備蓄)
社会福祉施設は平常時から災害時に対応できるよう、少なくとも3日分程度の食料・水や毛布といった一般的な防災用品のほか、介護に必要な紙おむつ等を地域の要援護者分もある程度含めて備蓄しておくことが必要である。
(職員体制の確保)
社会福祉施設は、平常時から災害時における職員の役割分担を含む職員体制について決めておくことが必要である。今後とも、定期的に避難訓練を実施するなど防災意識の啓発・訓練の充実に努めることが必要である。
(施設間の提携)
社会福祉施設においては、災害時に物資や職員についての相互の応援・協力が可能となるよう、平常時から近隣あるいは広域の施設間での提携について取り決めておくことが必要である。
(福祉避難所(仮称)の設置)
・ 多数の被災者が避難する避難所では、要援護者は生活スペースの確保や救援物資の受け取り等においても困難な状況におかれやすい。また、避難所に避難した要援護者や家族の中には、他の避難者との共同生活に馴染むことができず、危険な自宅へ戻った事例や、他の避難者の中にあって孤立するといった事例が みられた。
★ ・ 災害発生直後、要援護者が通常の避難所に緊急的に避難することはやむを得ないとしても、一時的であっても安心して生活でき、福祉サービスも受けられる施設にすみやかに避難することが必要である。また、社会福祉施設への緊急入所を円滑に進める上からも、要援護者はできる限り社会福祉施設に避難することが必要である。このため、地方公共団体は、地域の社会福祉施設のうちから「福祉避難所」(仮称)としてあらかじめ指定し、その旨を要援護者をはじめ地域住民に周知しておくことが必要である。
・ また、その前提として、地域防災計画においても対応可能な社会福祉施設を要援護者の避難拠点として位置づけ、平常時から利用可能なスペース、備蓄物資の把握等に努めておくことが必要である。この場合、地方公共団体においては 社会福祉施設を災害救助基金による備蓄物資の備蓄場所とするなどの対応を図ることも必要である。
・ なお、災害の規模によっては、あらかじめ指定された「福祉避難所」(仮称)のみでは量的に不足する場合も想定されることから、(1)福祉センター、(2)コミュニティーセンター、(3)公的宿泊施設等も同様に「福祉避難所」(仮称)として位置付け、これらの施設に対し、介護者を配置するとともに在宅福祉サービスを提供していくことも必要である。
(要援護者の緊急入所)
・ 今回、避難所や在宅では生活できない要援護者については、避難所からの通報や家族からの相談を受け、被災地以外の社会福祉施設を中心に緊急一時入所の受入れを行った。この緊急入所に当たっては、各施設が全国からの社会福祉施設職員の応援を受けるとともに、兵庫県社会福祉協議会に「障害者支援センター」が設置されたほか、大阪府、京都府などにも施設間のコーディネートを行う窓口が設置され、迅速・円滑な対応が行われた。また、視覚障害者については国立神戸視力障害センターにその援護を要請するなどの措置も講じられた。
・ このようなことから、被災地に隣接する社会福祉施設は、施設の機能を維持しつつ要援護者を可能な限り受入れるよう努める必要がある。また、自らの施設で緊急受入れが困難な場合には、施設間で受入れを調整したり、職員を応援派遣するなどの連携を図ることが必要である。その際、広域的な調整を必要とする 場合には、国や地方公共団体が社会福祉協議会や関係団体の協力を得て、受入れ可能施設の情報を把握・提供し、ホームヘルパーや寮母等の派遣調整を行うことも必要である。
(6) 一般対策としての保健・医療・福祉サービスの充実
避難所や応急仮設住宅に避難した要援護者、あるいは在宅の被災者に対して保健・医療・福祉サービスが継続して提供されることが必要である。このため、被災状況に応じて、福祉事務所、保健所、市町村保健センター、医療機関、市町村の福祉・衛生部局が連携し役割を分担して保健・医療・福祉サービスを提供できる体制を整備することが必要である。
(迅速なニーズ把握)
災害発生直後は、特に避難所において、保健・医療・福祉サービスを必要とする被災者が多く発生することから、避難所にはできる限り救護所を併設し、相談や応急処置を行うことが必要である。また、これらの人々に対して、遅くとも1週間後を目途に組織的・継続的に保健・医療・福祉サービスを提供できるように、災害発生から2〜3日目から避難所を対象として、要援護者の把握調査を開始するなど、迅速なニーズの把握を行うことが必要である。
(メンタルヘルス対策の実施)
今回の災害においては、震災による精神的ショックや長期の避難生活に伴うストレス、さらには、将来の生活に対する不安による不眠や頭痛等の、いわゆる「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」が注目され、被災者のメンタルヘルスの重要性が改めて認識された。今回、保健所や精神保健福祉センター、児童相談所の職員が中心となり避難所等を巡回し、あるいは避難所に相談員を置くなど して、相談体制の確立が図られた。また、概ね保健所単位に「こころのケアセンター」が設置され、相談や訪問指導が行われている。
災害で受けた心の傷跡は、まちが復興しても癒えるまでには相当長期間を要すると考えられるため、このような取組みを通じて、中長期的なメンタルヘルス対策が行われることが必要である。
(平常時からの保健・医療・福祉サービスの充実)
今回、長期化した避難所や応急仮設住宅の生活において、保健・医療・福祉 サービスの重要性が明らかになったことから、平常時から住民に身近な保健・医療・福祉サービスを十分整備しておくことが、災害対策を進める上からも基本であるといえる。このため、地方公共団体においては、老人保健福祉計画、障害者プラン、エンゼルプラン等に沿って策定された当該団体の計画に従い、ホームヘルパー、ショートステイ、特別養護老人ホーム、老人保健施設等の保健・医療・福祉サービスの充実を着実に図っていくことが必要である。
(7) 市町村福祉部局における実施体制の確保
今回の災害では、福祉事務所の職員が遺体の処理、食料や物資の供給、救援物資の仕分け、生活福祉資金の貸付業務の支援等に忙殺され、必要な時に必要な福祉サービスを十分提供できなかったという問題があった。
(福祉部局職員の要員確保)
市町村福祉部局の職員が、遺体の処理、避難所の設置管理、食料や物資の供給等の応急救助関係業務のほか、罹災証明書の発行等の業務に忙殺され、要援護者からの一般福祉サービスの要望に対応できないといった事態が生じないよう、今後、災害規模及び当該市町村の行政機能の状況に応じつつ、ホームヘルパー、ガイドヘルパー等を適切に派遣し、あるいは要援護者を社会福祉施設に緊急入所させるなどの適切な福祉措置がとれるよう、他の部局との連携体制のもとに、一定の福祉部局職員を確保しておくことが必要である。
また、災害時の福祉サービスの相互援助について広域的なブロック単位で他の地方公共団体と協定を締結するなど、平常時から災害時における業務の相互協力関係を構築しておくことが必要である。
(担当業務ガイドラインの作成)
福祉部局の職員は応急救助に併せて、本来業務である被災後の要援護者の援護を迅速に行える体制を確保しておくことが必要である。このため、福祉部局職員が災害時の状況に応じ、応急救助業務と一般福祉サービス業務にどのように携わっていくかについて参考となるガイドラインを作成することが必要である。
(一般福祉サービス業務への弾力的移行)
福祉部局職員を食料や物資の供給業務、遺体の処理業務等の応急救助業務に従事させる必要がある場合でも、避難所や応急仮設住宅の設置により、特に、福祉サービスの需要が増大することが考えられることから、他部局からの応援も含め、災害発生からの時間の経過に伴い、福祉部局職員の役割を応急救助関係業務から一般福祉サービス業務にすみやかに移行させていくことが必要である。
■しかく書評・紹介
■しかく言及
*作成:
青木 千帆子