筋ジス病棟入院患者の実態調査に関する報告書 要旨
「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」病棟実態調査報告書
[PDF]
last update: 20211025
◆だいやまーくこくりょう(旧国立療養所)を&から動かす
◆だいやまーく筋ジス病棟実態調査報告書の報告会と記者発表
■しかく筋ジス病棟入院患者の実態調査に関する報告書
報道関係者各位
プレスリリース
2021年10月15日
筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト
国立病院機構 筋ジス病棟
初の障害当事者による全国実態調査結果の公表について
筋ジス病棟とは?
かつて結核患者を隔離収容するために建設された国立療養所に、全身の筋肉が動かなくなっていく進行性の難病「筋ジストロフィー」の患者らが1960年代に措置入院して「筋ジス病棟」となった。現在も全国の国立病院機構所管26病院に約2000人が入所し、幼少期から終末まで何十年と入院生活を余儀なくされている患者も少なくありません。
ここがポイント
- 本調査は、これまで明らかにされてなかった筋ジス病棟の実態に初めてメスを入れ、その一部を明らかにしました。
- 本調査は、障害当事者自身が病棟に入り、ベッドサイドで患者に直接聞き取りを行ったという点が最大の特長で、そこに大きな意義があります。
- 障害を持つ者同士(ピア)だからこそ、誰かの顔色を伺うこともなく心を開いて赤裸々な言葉が語られました。その言葉や結果をもとにまとめられた本報告書は、数値的な分析だけにとどまらない、まさに入院している当事者の「生」の実態を伝えるものです。
調査結果概要
- 筋ジス病棟では、ナースコール・インターネット・排泄・入浴・移乗・外出などで、看護師や介護士の顔色を伺いながらケアや介護を受けざるを得ない入院患者が、いかに制限が多く、抑圧的な状況に置かれているかがわかります。
- 患者と医療者のパワーバランスで、食事、移乗、入浴に関して、安全管理やリスク回避の名の下で、入院患者の意思や希望が尊重されず、本人が納得できないドクターストップを受け入れざるを得ない状況が存在することがわかりました。
- 虐待と思われる処遇、筋ジス病棟の閉鎖性、コロナ下での厳しい制限、女性患者への二重の抑圧についても多くの声が寄せられています。
- 上記の抑圧的な状況は決して病棟の現場レベルだけの問題ではなく、「医療」と「福祉」のはざまにある筋ジス病棟の法制上の位置づけや慢性的な人手不足といった構造的な背景に起因することがわかりました。
----
筋ジス病棟入院患者の実態調査に関する報告書 概要
筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト
- 本調査の経緯と目的
「筋ジス病棟」とは、筋ジストロフィーを主とした神経筋疾患患者が入院生活を送る療養介護の場です。全国26の国立病院機構に属する病院に存在し、入院患者は全国で約2,000人おられます。筋ジス病棟は、1960年代から筋ジスを主とする神経筋疾患を持つ人々の長期療養施設として運営されてきましたが、現在では医療技術の進歩や地域資源の拡充によって地域生活を送る重度の筋ジス患者も多くおられます。しかし、今なお約2,000人もの筋ジス患者が、地域との接点がほとんどない状態で長期入所生活を強いられている現状があり、病棟での生活の実態は、十分に明らかにされていません。
本調査を行った「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」は、筋ジス病棟からの地域移行を支援する活動の流れの中で、2019年2月3日に障害当事者団体を中心に発足しました。私たちは、障害をもつ同じピアの立場から、筋ジス病棟に入院している患者さんの地域移行支援をし、病棟内で患者さんが置かれている不自由な生活を見聞きしてきました。その中で、まずは全国の筋ジス病棟の現状を把握することが不可欠と考え、プロジェクト発足当初から本調査を始めました。
本調査の目的:
本調査は、重度障害者である筋ジス病棟入院患者の実態を明らかにし、病棟の処遇の改善と、地域生活への移行支援に繋げることを目的としている。
- 本調査の意義
本調査は、これまで明らかにされてなかった筋ジス病棟の実態に初めてメスを入れ、その一部を明らかにした点に、一つ目の意義があります。さらに本調査は、障害当事者自身が病棟に入り、ベッドサイドで患者に直接聞き取りを行ったという点が最大の特長であり、そこに大きな意義があります。障害を持つ者同士(ピア)だからこそ、誰かの顔色を伺うこともなく心を開いて赤裸々な言葉が語られました。その言葉や結果をもとにまとめられた本報告書は、数値的な分析だけにとどまらない、まさに入院している当事者の「生」の実態を伝えるものであると言えます。
- 調査の方法
・ 調査対象:本邦における筋ジス病棟の入院患者
・ 調査協力者の募集方法:本プロジェクトのメーリングリスト加入者(約140名:2021年5月現在)への呼びかけや障害当事者団体の全国集会における呼びかけなどを通じて、調査協力者を集めました。
・ 調査期間(回答日):2019年2月22日〜2020年9月14日
・ 調査方法:?@対面での聞き取り(28件)、Googleフォームを通じてのオンライン(30件)
・ 回答者数:18病棟から58人(男性48名、女性10名)の回答を得ました。
- 報告書の各章の内容
本報告書の各章の概要を記します。
第1章「「筋ジス病棟」の統計上の壁〜医療と福祉の谷間で」では、膨大なデータから筋ジス病棟の入所者や退所者数が割り出されています。また、慢性的な人手不足の状態にある病棟の看護・介護の人員体制について詳しいデータが示されています。
第2章「回答者の基本属性」では、疾患の種類や、どのような医療的ケアが必要な人が入院しているかなど、回答者の属性についてまとめられています。
第3章「筋ジス病棟での生活状況について」では、病院での生活状況について、ナースコール・インターネット・排泄・入浴・移乗・外出・家族との関係・金銭管理という項目に分けて、分析と考察が行われています。これらの章からは、看護師や介護士の顔色を伺いながらケアや介護を受けざるを得ない入院患者が、日々の生活の中で、いかに制限が多く、抑圧的な状況に置かれているかがわかるでしょう。
第4章「ドクターストップ・当事者と医療者のパワーバランスについて」では、食事、移乗、入浴に関してのドクターストップについて考察されています。安全管理やリスク回避の名の下で、入院患者の意思や希望が無視され、本人が納得しないドクターストップを受け入れざるを得ない状況が存在することがわかるでしょう。
第5章「虐待と思われる処遇について」では、虐待と思われる処遇について、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、経済的虐待などに分類し、自由記述などの結果がまとめられています。
第6章「虐待や人権侵害につながる状況を生み出す構造的な背景について」では、第6章でまとめられた虐待や人権侵害につながる状況がなぜ生まれるのかという構造的背景について、筋ジス病院の法制上の位置付けや、筋ジス病棟の閉鎖性、入院患者と病院間の非対称的な権力関係による虐待の訴えづらさなどの視点から、概括的な考察が行われています。
第7章「女性ならではの困難・差別について」では、女性特有の困難や差別について、アンケートの結果に加えて、アンケートには現れてこない調査の中で上がってきた声をひとつひとつ丁寧に積み上げて、複合差別の観点も交えながら、その実態や問題点がまとめられています。この章からは、入院患者の中でも、さらに「女性」という属性をもつ人々が、いかに抑圧的な状況に置かれ、声を上げることが困難な状況に置かれているかがわかります。
第8章「地域移行の現状・課題について」では、筋ジス病棟における地域移行の現状と課題が論じられています。入院患者の地域移行に対する希望の有無や、地域移行に対していかなるハードルや不安を感じているのかが示されています。また、地域移行を進めるにあたって、重度訪問介護などの現行制度にどんな課題や限界があるのかについても考察されています。
補章「コロナによる面会の制限状況」では、新型コロナウイルス禍における筋ジス病棟の現状と課題についてまとめられています。全国の筋ジス病棟の面会制限一覧表が掲載され、面会制限によって生活が悪い方向に一変したという入院患者の切実な声がまとめられています。
- 提言
本プロジェクトの調査を通して、今まで埋もれてしまっていた筋ジス病棟入院患者の「生」の声が明らかとなりました。そこには病棟のマンパワー不足などの構造的な問題によって、入院患者は、日常生活に多くの制限や不自由を強いられていることや、医療優先、安全優先という考え方や地域資源の不足によって、患者の地域移行の希望が抑圧されてしまっている現状も浮かび上がりました。
今回全国から58件の「生」の声を聞くことができた私たちは、この声を然るべきところに届ける責任があります。患者本人の意志がより尊重されるように病棟内の生活環境を向上させることや、病棟自体がより地域に開けた場所へ改善されるよう働きかけることもさることながら、障害者権利条約第19条や一般的意見第5号が規定するような、「障害者も地域で暮らすのが当たり前」という前提が日本でも完全履行されるよう、国に対して働きかけていきます。国連障害者権利委員会が脱施設ガイドラインの制定に乗り出している今、日本も権利条約批准国として世界的な脱施設の潮流に乗り遅れてはならなりません。
筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト
contact.plhn@gmail.com
*作成:
立岩 真也