精神医療国賠訴訟の控訴審判決のご報告
弁護士 長谷川敬祐
1 はじめに
伊藤時男さんを原告とする国家賠償請求訴訟は、2020年9月30日に東京地方裁判所に提訴し、2024年10月1日に第一審判決がなされました。同判決に対して、原告側が控訴し、その後、2025年7月10日、控訴審判決がなされました。その控訴審判決の結果を皆さんに報告させていただきます。
2 控訴審判決の概要
控訴審判決の結論は、控訴棄却でした。すなわち、原告(控訴審では「控訴人」というため、以下「控訴人」と表記します)の請求を棄却した第一審判決の結論を維持した形となります。ただし、その判断の仕方は、第一審判決と若干異なる部分がありました。すなわち、第一審判決は、長期入院の主たる要因を控訴人個人の責任に起因させるかのような判断をし、控訴人の主張に対して正面から判断をすることしませんでしたが、控訴審判決は、正面から国会議員や大臣に国賠法上の違法性はないと判断しました。具体的には、次のとおりです。
(1) 控訴人の入院形態について
控訴人の入院形態については、第一審判決同様に、控訴人の入院形態が同意入院ないし医療保護入院であったと認めるに足りる証拠がないと判断されてしまいました。
(2) 仮に控訴人の入院形態が同意入院ないしは医療保護入院であった場合に、国会議員の立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかについて
控訴審判決は、事案に鑑み、仮に控訴人の入院形態が同意入院ないし医療保護入院であった場合の判断も行いました。
まず、国会議員の立法不作為が国賠法1条1項の違法と評価されるか否かの判断枠組みとして、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合など、例外的な場合に限られるとしました。
そのうえで、同意入院ないしは医療保護入院の目的は、精神疾患の患者に自傷他害のおそれがあるとまではいえないが、患者に対する医療及び保護のために入院の必要があると認められる場合に適切な医療を提供し、もって、本人の利益を図ることにあるとし、その正当性を認定しました。仮に個別の事案において隔離収容目的による入院があったとしても、それは当該事案において違法又は不当な入院が行われたことを意味するのであり、これを超えて同意入院ないし医療保護入院の制度自体が隔離収容を目的とした制度であるということはできないと判断しました。
また、1その入院要件についても、i医学的な専門性に依るべきところが多いなど、専門的知見や臨床経験を有する医師の個々の事例に即した裁量、判断を尊重することが適切であり、その基準等を定立することは困難である、ii指定医制度によって判断する医者に一定の質が担保されている、iii保護義務者ないし保護者以外に精神疾患の患者本人に代わってその状態や利益を判断し得る者は想定し難く、保護義務者ないし保護者に同意を求めることが不合理であるとはいえないなどと認定しました。2入院中の処遇についても、特に行動制限や身体的拘束に際して、その利益を保護する一定の仕組みが設けられていると認定し、さらに、3退院についても、精神衛生法、精神保健法、精神保健福祉法にそれぞれ、入院の届出を義務付けたり、退院を命ずる制度等が存在すると認定しました。
それらを踏まえ、結論として、精神衛生法、精神保健法及び精神保健福祉法における同意入院ないしは医療保護入院が、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできず、国賠法1条1項の適用上違法とならないとしました・・・
<全文は、おりふれ通445号(2025年8月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>
いのちのとりで裁判判決について
新生存権裁判東京原告団員 神馬幸悦(じんばこうえつ)
2013年厚生労働省からの通達で、生活保護利用者の基準額が段階的に徐々に、最終的には10%引き下げられたことに納得いかない全国で1,025人の方々が原告となり国(厚生労働省)を訴えた裁判、通称いのちのとりで裁判の原告者の1人です。私は2019年より参加し7年が経過しましたが、10数年にも及ぶ長い間闘っておられる方もあります。この裁判の最初の判決は2020年6月25日名古屋地裁であり、残念ながら敗訴でした。この時は裁判長の高裁への転任が近くあり、負けるのではないかという予測が当初からされておりました。次に2021年2月22日大阪地裁ではみごと勝訴をかざり1勝1敗の5分となりました。しかし2021年3月29日札幌地裁の判決から2022年5月13日佐賀地裁判決まで7連続敗訴が続いた為、やはり国相手に勝訴するのは大変なことなんだと思いました。ただこの間に福岡、京都、金沢地裁において全く同一内容で判決文が出される事が続き我々原告者の意見陳述が馬鹿にされた感じがしました。続いて2022年5月25日熊本地裁では勝訴したが通算では2勝8敗。この時は先の結果がどうなるか心配もしました。しかし署名や原告者の意見陳述(生活状況)が各地で裁判長へ届き始めたのか徐々に勝訴判決が増え始め、2025年6月11日前橋地裁の勝訴までに地裁では20勝11敗、また控訴審の各地高裁での判決も7勝4敗と勝ち越す結果となりました。この間先に大阪高裁では一審が覆り敗訴(大阪訴訟)、名古屋高裁では一審が覆り勝訴(愛知訴訟)と異なった判決が出ました。
そして5月27日最高裁第三小法廷にて大阪訴訟と愛知訴訟の口頭意見陳述が行われ、私は運良くこの意見陳述を傍聴することができました。大阪の原告者の女性の方からは、毎月100円の貯金で孫たちにお年玉や誕生日プレゼントをあげるのが生きがいですが、生活保護受給額減額によりそれが難しくなってきた。「ばあば、お金ないの?」と聞かれると胸が痛みますと述べられました。また弁護団は変遷する国の主張に道理がないことや、朝日、堀木、老齢加算と重ねてきた裁判判決の致達を逆戻りさせることなく、司法が維持•発展させるべきと訴えました。
この日15時30分から参議院議員会館講堂にて大阪、愛知の原告、弁護団による報告とともにオンライン中継で各地の訴訟原告から生活実態や裁判への思い、支援団体や弁護団から裁判に向けた取り組みの様子が語られました。私も2〜3分でしたが原告者の1人として発言しました。会場310人、オンライン107カ所の参加で6月27日の最高裁判決で勝利を勝ちとるまで全力でたたかおうとみんなで誓い合いました。
そして2025年6月27日15時緊張の中で判決を迎えました。残念ながら当日の抽選に漏れ中に入ることはできず、近くの喫茶店で休憩を取った後、最高裁正門〜東門で判決が出るのを待ちました。この間知り合いのジャーナリスト等に心中を聞かれましたが、あまりドキドキする事はなく、冷静に判決を待ちました。20分くらいすると、ネットで勝訴の判決が出たと伝わり10分後ぐらいに原告団、弁護団、支援団が戻り改めて勝訴を確認して皆で万歳しました。その後の出来事は感激で覚えていません・・・
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医療DXにおける情報管理と懸念
福冨一郎 with Gemini(AI)
医療分野でのデジタル変革(以下、医療DX)は、私たちの医療体験をより便利にする可能性を秘めている一方で、医療情報の管理やプライバシーに関して、いくつかの重要な懸念も生じています。
<医療情報へのアクセスとプライバシーの懸念>
誰があなたの医療情報にアクセス(読んだり書き込んだり)できるのか
現在、あなたの医療情報、例えばカルテ(医師が診療内容を記録するものです)には、主に以下の人々がアクセスできます。
* 医療機関のデータ管理者: 病院やクリニックのシステムを管理する人が、電子カルテなどのシステムを適切に動かすためにアクセス権を持っています。
* システム開発者・保守担当者: 電子カルテなどのシステムを作ったり、トラブルが起きたときに直したりする会社の人が、その作業のためにアクセスすることがあります。
* 医療従事者(他科の医師、看護師など): 緊急時や、あなたの治療に必要だと判断された場合に、あなたの情報を見ることができます。
しかし、将来的には、より多くの人があなたの医療情報にアクセスできるようになる可能性があります。例えば、障害年金や障害者手帳の審査を行う担当者、地方自治体の福祉職員、企業の障害者採用担当者、さらには相談員やケースワーカーといった各種支援職の人々もアクセスできるようになるかもしれません。
懸念されるのは、このように医療情報の利用範囲が福祉や就労支援といった場面にまで広がることで、あなたの情報がどのように使われるかが見えにくくなり、プライバシーが侵害されるリスクが高まることです。
「誰が自分のデータを見たのか」という問題
私たちは、自分の医療情報が誰に、いつ見られたのかを知る権利があるはずですが、現状ではその仕組みが十分に整っていません。
* アクセスログの非公開: ほとんどの医療機関では、誰がいつどのデータを見たかというアクセスログ(閲覧履歴のようなものです)を記録しています。しかし、患者である私たちがこのログを自由に確認できるような仕組みは、まだ整備されていないのが現状です。
* 情報漏洩のリスク: もし、本人確認が不十分なまま医療情報へのアクセス権を持つ人を増やしてしまうと、かえって情報漏洩や不正利用のリスクが高まる可能性があります。
<データ管理体制の複雑さと国際的なリスク>
複雑なシステム管理
医療DXを推進しているのは厚生労働省ですが、実際のシステム運用や開発、管理の多くは、外部の企業に委託されています。さらに、その外部企業がまた別の下請け企業に再委託することも珍しくありません。このため、「最終的に誰が私たちのデータに触れているのか」が非常に不透明になりがちです。
サーバーの分散管理と国際的なリスク
あなたの医療データは、サーバーと呼ばれるコンピューターに保存されています。サーバーとは、簡単に言うと「データやサービスをインターネットを通じて提供するコンピューター」のことです。災害対策のため、これらのサーバーは日本全国の様々な場所に分散して設置されています。しかし、その具体的な設置場所は非公開であり、どこにデータがあるのかを把握するのが難しいのが現状です。
さらに、もし外国の企業が日本の医療データの管理を請け負っている場合、国際的なリスクも存在します。例えば、その企業がある国で戒厳令のような非常事態が発令された場合、その国の政府によってデータが押収されてしまう可能性もゼロではありません。インターネットを通じて行われるデータ管理は、事実上、国境を越えており、国家単位での管理が非常に困難になっているという現実があります。
<精神科カルテ情報の特殊性と共有の課題>
特に精神科のカルテ情報には、他の診療科とは異なる特性があり、その共有には特別な配慮が必要です。
精神科データの性質
* 主観的な記載: 精神科のカルテは、血液検査のような客観的な数値データだけでなく、患者さんの感情や医師の所見といった主観的な記載が中心となります。
* 記載の統一性の欠如: 医師によってカルテの記載スタイルが異なったり、同じ病気でも医師によって診断名にずれが生じたりすることもあります(例えば、薬を処方するための診断名と実際の診断名が異なる場合など)。
* 医師と患者の関係性: 医師と患者さんの相性によって、カルテに記載される内容が影響を受けることもあります。
他科医師に本当に必要な情報とは?
他の診療科の医師が精神科の情報を必要とする場合、通常は「現在服用している薬の情報」や「血液検査、脳波検査などの検査記録」など、治療に直接的に関わる最小限のデータで十分なことが多いです。
提案:情報共有の細分化
このような特性を踏まえると、精神科の詳細な情報をすべて開示するのではなく、必要最小限の情報だけを共有するような設計が望ましいと考えられます。具体的には、電子カルテに入力する際に、「どこまで他の診療科や外部機関に共有するか」を患者さんや医師が選択できる機能の実装が求められます。
<将来に向けた予測と懸念>
遠隔診療とデータ化
近年普及が進む遠隔診療(オンラインでの診察など)では、ビデオ診察の録画データが電子カルテに保存される可能性もあります。これにより、さらに詳細な患者情報がデータ化されることになります。
製薬会社によるデータ活用
患者さんのデータが詳細化され、量が増えれば増えるほど、それは製薬会社にとって非常に価値のあるマーケティングや研究資源となり得ます。患者さんの同意なしにこのような情報が活用されることのないよう、慎重な対応が求められます。
<全体まとめ>
医療DXは、医療の効率化や利便性の向上を目指すものですが、同時に情報漏洩のリスク拡大、管理主体の不透明化、そして個人の尊厳侵害といった重大な問題を抱えています。特に精神科領域においては、情報の性質上、より慎重な設計と、患者さん本人の同意と選択権を重視した情報管理が不可欠です。
あなたの医療情報がどのように扱われるべきか、あなたはどのように考えますか?
<編集部から>この福冨さんの記事(AIが共著者というのがさすがというか、デジタル化に乗り遅れている私には、デジタル化は既に進んでいて、だからどうつきあうか、歯止めをかけるべきかの工夫は必須なのだろうと感じさせられました)は、4月号の「医療のDX化はバラ色の未来なのか?」から毎号つづいているシリーズの一区切りとなるものです。これについては、全国の当事者グループにお送りしてご意見をお願いしていますが、今のところ反響はありません。自分のことを考えても上記のように、取り組みが必須と感じてもどうすればいいのやらという感じなのでそういう人も少なくないとは思いますが、ずっと続く課題なのでねばり強く取り組んでいきましょう。
医療DXと私たちのプライバシー〜電子カルテ・マイナ保険証の情報管理について〜
【編集部から】前々号の「医療のDX化はバラ色の未来なのか」について、前号に黒岩堅さんの、「医療のDXと精神医療の交差点:バラ色の未来か、それとも新たな分断か」を掲載しましたが、よりシステムエンジニア視点の続編も届いています。編集会議で皆で読み合せましたが、「監査ログ」「操作ログ」「アクセスの粒度」などの単語にひっかかってしまい、何度読んでもちっとも理解できた感がしない私たち。そこで福冨一郎さんが私たちにもわかる解説文に直してくれ、紙のおりふれ通信にはそちらを掲載することにしました。そこでお知らせしたようにこのブログ版には黒岩さんの原文も、解説文につづけて掲載しています。
はじめに
医療がデジタル化(医療DX)する中で、私たちの個人情報、とくに医療情報がどのように管理されているかが大きな問題になっています。特に、「誰がいつ自分の情報を見たのか」を知ることができる「監査ログ(アクセス記録)」の仕組みが重要です。
ここでは、システムエンジニアの視点から、ポイントをわかりやすく説明します。
1.電子カルテの情報管理について
- 電子カルテとは
病院が患者さんの診療記録をコンピューターに保存しているものです。
- アクセスログ(監査ログ)とは
「誰が、いつ、どの端末から、どの患者さんの情報を見たか」を記録する仕組みのことです。
- 今の問題点
電子カルテを作っている会社(富士通、NECなど)はこのログ機能を付けていますが、病院ごとに実際の使い方がバラバラです。
つまり、記録はしているけど、患者さんが「誰が見たか」を確認できない場合もあります。
- 確認するには?
病院の「診療情報管理室」や「医療情報システム担当」などに、こんなふうに聞いてみましょう。「私の診療記録を誰が見たか(アクセスログ)は残っていますか?希望すれば見せてもらえますか?」
2.マイナ保険証を使った情報管理について
- マイナ保険証とは
マイナンバーカードを使って、保険証代わりにするものです。
- 自分の医療情報は見れるけど......
「マイナポータル」というインターネットサイトで、自分の薬や病名などを確認できます。
でも、医療機関の誰がその情報を見たかは、患者にはわからない仕組みになっています。
- 問い合わせ先
何か不安があれば、以下に問い合わせできます。
オンライン資格確認コールセンター(0120-95-0178)
マイナポータルのお問い合わせフォーム
3.これから求めたいこと
患者が「誰が見たか」を自分で確認できるようにしてほしい
医療者が情報を見た理由も記録するようにしてほしい
見せたくない情報を自分で選べる仕組みを作ってほしい
同意の記録や説明もきちんと残してほしい
まとめ
医療のデジタル化は便利になる一方で、患者である私たちのプライバシーが守られる仕組みがまだ十分ではありません。
電子カルテもマイナ保険証も、「患者が自分の情報をどう管理されているかを確認できる」ことがとても大切です。
心配な場合は、病院や厚生労働省、デジタル庁に確認することをおすすめします。
医療DX(デジタル)化と精神医療の交差点:バラ色の未来か、それとも新たな分断か2
【編集部から】この記事は、前の記事の冒頭に記したように5月1日の「医療DX(デジタル)化と精神医療の交差点:バラ色の未来か、それとも新たな分断か」の続編で、内容が編集部にはむずかしかったので、紙の「おりふれ通信」には解説版を掲載し、ブログにはこの黒岩さんの原稿も掲載しているものです。
(精神疾患を抱えた)システムエンジニアの視点から 黒岩 堅
医療DXの一環として、電子カルテやマイナンバー保険証を用いた医療情報共有における監査ログ(アクセスログともいう=誰が、いつ、どこから、どの患者さんの情報を見たかの記録)の有無や仕組みは、非常に重要なプライバシー保護の観点です。以下に確認方法とポイントを整理します。
■しかく 監査ログの有無を確認するための観点
【1】電子カルテシステム単体での監査ログ
- 多くの電子カルテベンダー(富士通、NEC、PHC、富士フイルムなどの業者)は、アクセスログ機能(誰が・いつ・どの端末から・どの患者情報にアクセスしたかを記録する機能)を提供しています。
- ただし、病院ごとに設定・活用状況が異なるため、「システム上の機能があっても実際に記録・確認していない」ケースもあります。
確認方法
- 通院中の病院の診療情報管理室または医療情報システム管理部門に対して以下のように尋ねてみてください:
「電子カルテの閲覧履歴(アクセスログ)は保存されていますか?また、希望すれば自分の医療情報に誰がいつアクセスしたか確認することは可能ですか?」
【2】マイナ保険証を使ったレセプト情報のオンライン閲覧ログ
- マイナンバーカードで医療機関を受診した場合、「マイナポータル」(=デジタル庁が運用するオンラインサービス。正式名称は「情報提供等記録開示システム」)というインターネットサイトで、自分の薬や病名などを確認できます。
- しかし、医療者側の誰が・いつ、その情報を参照したか(閲覧ログ)は、現時点で、マイナポータル利用者には公開されていません。
確認先
- デジタル庁または厚労省「オンライン資格確認等システム事務局」
- 一般の問い合わせは以下:
- オンライン資格確認等コールセンター(0120-95-0178)
- マイナポータル お問い合わせフォーム
■しかく 問題点・懸念点
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項目 |
現状 |
懸念点 |
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電子カルテの閲覧ログ |
ベンダーごとに存在。ただし活用に差 |
患者本人が確認できない施設も |
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マイナ保険証経由の情報共有ログ |
医療者側の閲覧履歴は非公開 |
誰がどこまで見たかが患者に不透明 |
|
患者への説明義務 |
不明瞭(機器操作で同意が取られているが) |
実質的な同意か疑問が残る |
■しかく 改善提案と要求の方向性
- 「患者自身が監査ログを確認できる機能」の制度化
- 医療者側に「閲覧理由の記録」義務を持たせる
- アクセスの粒度(処方だけ、病名だけ等)を選択可能にするUI改善(=誰が、どの情報に、どこまでアクセスできるかを細かく設定できるようにすること)
- 同意を取った記録の文言・操作ログの保存
まとめ
- 電子カルテの監査ログはシステムとしては存在しているが、患者が確認できるかは施設ごとに異なる。
- マイナ保険証での情報共有における「誰が見たか」の記録は原則非公開で、制度的な課題が残る。
- 確認のためには、診療機関・電子カルテベンダー・厚労省窓口へ個別に問い合わせる必要があります。
補足
https://www.soumu.go.jp/main_content/000760676.pdf のP10で下記の内容があります。マイナンバーは住基カードと同様のことは起こりえるシステムとなっております。
旧滝山病院を2024年630調査で見る
東京地業研 山本則昭
2024年の630調査の開示を行いました。1年前の情報という歯がゆさはありながらも、630調査から見えた滝山病院(当時改名前)を報告したいと思います。なお、2024年9月から経営体制が代わったので、この時は朝倉院長体制の終盤の頃になります。
入院者数と医師、看護師の体制の2022年〜2024年の変化を表にまとめました。
2022年(虐待発覚前)
2023年
2024年
入院者数
152人
87人
42人
医師
常勤3人
非常勤8人
常勤3人
非常勤6人
常勤1人
非常勤3人
有資格看護師
常勤12人
非常勤164人
常勤12人
非常勤104人
常勤8人
非常勤37人
医師も看護師も減っています。入院者数もどんどん減っていますが、それでもいずれも充足度は低いままです。病床数は255のままなので、稼働率16%という驚くべき状況です。
入院期間別でみると、1年未満が5人です。虐待事件があったばかりの病院に進んで入院する人がいるとは思えませんから、何らかの導入力があっての入院と思われます。そして、全員が任意入院です。1年以上5年未満が21人、5年以上10年未満が7人、10年以上20年未満が7人、20年以上が2人となっています。年齢別では40〜64歳が23人、65〜74歳が7人、75歳以上が12人となっています。なお、任意入院率の高さは相変わらずで、32人(76%)が任意入院となっています。
病名別では、多い順に統合失調症27人、器質性精神障害12人、精神作用物質による精神障害、感情障害、精神遅滞が各1人です。
隔離、拘束数は0となっています・・・
<全文は、おりふれ通444号(2025年7月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>
東京精神医療人権センター総会・勉強会(伊藤さん国賠訴訟)報告
東京精神医療人権センター 中村美鈴
毎年4月に開催している東京精神医療人権センター(以下「人権センター」)の総会ですが、おりふれ通信でご案内していたとおり今年は4/20(日)に開催しました。場所は昨年と同じ新宿の就労支援センター「街」の会議室をお借りしました。また、総会終了後は同会場で勉強会も開催しました。今年の勉強会は「精神国賠訴訟の経過報告」というタイトルで、原告代理人でもある人権センター共同代表の長谷川弁護士が講師を務め、伊藤さん裁判の経過の解説をされました。
今年の総会でも勉強会でも、参加された皆さんが積極的に発言され、活発な意見交換がされていたのが印象的でした。私は受付を手伝いながらだったので聞き逃したところもありますが、当日の様子を報告させていただこうと思います。
【人権センターの総会】
参加者は、人権センターの運営委員メンバーの他に、当事者、支援者、大学教授、医師などで15人ほどでした。
12024年度の活動報告について
<相談活動>
電話件数:延べ374件、メール等相談:56件、病院等での面会:31件(対象:10人)
<その他の活動>
精神科病院入院者訪問事業の東京都事務局との事業運営等に関する意見交換、千葉精神医療人権センター立ち上げ準備会との意見交流、東京三弁護士会の退院請求プロジェクトチームとの意見交換、清瀬・東久留米社会福祉士会での講演会、みちのく記念病院問題についてのNHKからの取材対応、人権センターの新リーフレット作成および配布、滝山病院問題への取組み活動(「滝山病院にアクセスする会」の構成団体となる)等
1年間を振り返ると、相談・訪問以外でも様々な活動を行ってきたなと実感します。上記活動報告と決算報告の後、訪問面会のざっくりとしたケース紹介(個人や病院が特定できない範囲で)を行いました。参加者から「訪問した病院のレポートはあるのか?」という質問が出ましたが、現行では病院別の記録はとっていないため、今後の検討課題となりました。また、本人が「退院したい、したくない」で揺れているケースについて、「そういう当事者が多い。『退院したくない』の奥にどんな思いがあるか、本人の話す内容から探れないか」という意見が出ました。このケースについては本人の意向確認が難しい方のため時間がかかりそうですが、本人の発する言葉の奥にどんな思いがあるのか、という視点を自分も持てるようになりたいなと個人的に思いました。
22025年度の活動方針について
2024年度と同様、基本の相談活動(電話相談と訪問面会)を行いつつ、その他の活動も必要に応じて行っていくという内容でしたが、参加者の方々から以下のご意見をいただきました。
・病院訪問を再開してもよいのでは(全部でなくとも一部でもいいから)。受け入れる病院もあるはず。例えば今年度は何件訪問すると目標を立てるとか、議論していってほしい。
・人権センターの存在を入院患者にどう周知していくのか、もう少し考えた方がよい。例えば家族会にアプローチするとか。会員を増やすために活動をもう少し広げていってほしい。せめて病院関係者には周知されるようになってほしい。
・大阪精神医療人権センターのノウハウを導入した方がよいのでは。
運営委員会からは、急に大きなことは体制的にできないので、できる範囲の中で検討していくとお答えし、2025年度の活動方針・予算・体制について承認いただきました。また、当事者の会費が安くなると嬉しいというご意見もいただきましたが、当事者の方は年会費3,000円のうち、ご自分の出せる範囲でよいことになっています。「知らなかった!」という方もいらっしゃり、改めて運営委員会よりご案内し・・・・・・
<全文は、おりふれ通信443号(2025年5/6月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>
4.23精神国賠傍聴記
本人の意志を顧みずまわりが勝手に決めていく
そういう社会はいつ変わるのか? ピープルファースト奈良支援者 渡辺哲久
4月23日、伊藤時男さんの長期入院国賠訴訟の控訴審にピープルファースト奈良3名で参加しました。裁判長は事実調べの申請を却下、即日結審しました。地裁の不当判決を見直さないという宣言なので、敗訴が確実です。でも伊藤さんは「裁判には負けても、少しでも何かを残せれば」とおっしゃっていました。伊藤さんが入院中に、退院したいと言って退けられ自殺したなかまのこと、鉄格子の部屋に閉じ込められたけど隙を突いて飛び出し、池に飛び込んで溺死したなかまのことを話されていました。
「法に基づいてやったから合法」というのは、優生保護法裁判で国が主張し続けた主張です。まだ言うか。「本人は退院の意志を明確に伝えていない」というのは、優生では「除斥期間の20年の間に訴えを起こさなかったから無効」と言われてきました。「差別があり支配されていたから訴えられなかった」と優生の最高裁判決は言っています。
報告集会では、渡辺から「優生保護法の裁判では、地裁判決で当初7件敗訴が続き、2022年に大阪と東京の高裁で逆転勝訴して以降の地裁判決は6件すべてで勝訴。最高裁が差別を認め完全勝利しました。国が除斥期間を主張するのは職権濫用とまで言いました」と優生手術裁判の経験を報告。参加したピープルファースト奈良の阪本里恵さんは「私は入所施設に入ったことがあるが、何もかもまわりが決め、私の意志は関係なかった。自分の意志では出られなかった」と発言。同じく西本春夫さんは「生まれてすぐ乳児院に入れられてから32年施設にいました。そこで生きていくのに精一杯でした。施設を出て仕事がうまくいかなくて精神科にも入院しました。7月10日の判決も来ます」と発言しました。
精神病院と入所施設
入所施設をなくせ!がピープルファーストの始まりであり、目標です。今も13万人のなかまが入所施設に閉じ込められています。
ピープルファーストは、この2月に厚生労働省と十数年ぶりの交渉をして、「施設をなくせ」と求めましたが、国は「ピープルファーストが施設をなくせと主張していることは知っているが、施設に入所している人の親の人たち、施設を運営している人たちは施設をなくすなと主張されます。国が言えるのは地域移行を進めることだけです」と相も変わらずの答えです。
この壁を突き破れません。
みんなで力を出し合わないと進めません。それでピープルファースト奈良のなかまで話し合って、「精神病院のことを学ぼう」「伊藤さんの国賠訴訟を応援しよう」と今回初めて参加しました。
2022年9月、国連の障害者権利委員会が「精神病院と入所施設への隔離はやめろ」と勧告したのに政府は無視しています。
みんなで力を出し合って、あきらめないで進みましょう・・・
<全文は、おりふれ通信443号(2025年5/6月号)でお読み下さい。ご購読(年間3,000円です)のお申し込みは、本ブログ右下のメール送信で。または FAX042-524-7566 立川市錦町1-5-1-201 おりふれの会へ>
医療DXと精神医療の交差点:バラ色の未来か、それとも新たな分断か
精神疾患を抱えたシステムエンジニアの視点から 黒岩 堅
- 精神医療における情報共有のリスクと葛藤
- プライバシーの深さと共有の危うさ
精神科の診療では、患者が過去の体験、対人関係、内心の葛藤を語り、それがカルテに記録されます。これらは他科の「客観的データ」と異なり、極めて主観的で個人の尊厳に深く関わる情報です。この情報が医療機関間で共有されることで、患者の「語る自由」や「隠す自由」が脅かされかねません。
- 差別や偏見の温床
現場では、精神疾患が他科で軽視されたり、「精神科の薬のせい」と決めつけられたりする事例が後を絶ちません。情報共有が進むことで、むしろ不当なレッテル貼りや治療差別が助長される危険性があります。
- 「便宜的病名」や誤解のリスク
保険制度上の都合でつけられたレセプト病名が、電子カルテで他院にそのまま伝わってしまうこともあります。こうした"制度と現実のズレ"は、患者への誤解や不利益な対応につながりかねません。
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- 医療機関ごとの治療方針の違いが生む構造的なズレ
- 診断名や処方方針の多様性
精神科医療は、大学や病院によって診断基準や治療方針に幅があります。同じ症状でも「統合失調症」と診断されるか「適応障害」とされるかで、患者の社会的な受け止められ方は大きく変わります。
- カルテ記録の文脈性
記録スタイルも大きく異なります。ある医師は対話を丁寧に記述し、別の医師は評価スケール中心で記載します。その差が共有された際に誤読や偏った判断を招く可能性があります。
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- システム設計上の限界と改善の方向性
- データは「正しい」か?「意味が通じる」か?
電子カルテ共有の前提は「共有される情報が正しく解釈されること」ですが、現実には医療機関ごとの記録方針・診断傾向の違いにより、"情報の意味"が異なることをシステムは考慮していません。
- アクセス制御と選択の自由の欠如
現在の設計では、精神科の情報が他科と同様に共有される設計が基本です。患者が「一部情報を見せたくない」と希望しても、その実装は不十分であり、"全てを見せるか、何も見せないか"という二択しか与えられていないケースが多いです。
- UI/UXの配慮不足
患者が情報共有を「拒否する」選択をするには、直感的で分かりやすいインターフェースと、選択によって不利益が生じないという明確な保証が必要です。現状は、説明不足・誤解を招く設問・心理的圧力などが拒否の自由を奪っています。
結論:医療DXは"誰のため"かを再確認すべき
医療DXの本質は、患者中心の医療を実現することにあるはずです。しかし、現在の制度や設計は、管理効率や行政目的を優先し、当事者の尊厳や文脈を置き去りにしている側面が否めません。
特に精神医療では、診療内容が極めて個人的かつ機微なものであるため、「情報共有=善」と単純に語ることはできません。多様な医療文化や個人の意志を尊重する設計思想、そして分岐可能な選択肢と説明責任を持った運用が必要です。一当事者としては思います。
医療のDX(デジタル)化はバラ色の未来なのか?
【編集部から】マイナンバー保険証のオンライン確認で、医療機関どうしで患者さんの病名や処方内容などのデータが共有できることについて、さらに進んで将来電子カルテが医療機関どうしで共有された場合の危険性について、一人の精神科医(精神医療ユーザーでもある)から、特に当事者のみなさんはどう考え、行動されるのかという投げかけがありました。以下掲載しますので、当事者の方に限らずご意見などを寄せてくださるようお願いします。
きちんと考えがまとまりきっていないので、思いつく順序で書いてみます。
まず、基本的に、個人の医療情報は、そのひとのプライバシーなので、慎重に取り扱うべきであるという観点が、厚労省など、医療DX化を推進するひとたちには、きわめて薄いのではないか、ということ。
一般論としても、セキュリティーの問題が非常に不安。現行の保険制度をつかって、ひとつの医療機関にかかったら、自動的に他の科にも、その情報が行くのが便利でいいことであり、コスパもタイパもいい、精神科の薬をのんでいることもわかるからのみあわせの問題もわかっていい(これは言えるが)と、いいことづくめのような言われ方をされている。本当にそうなのか。
現時点では、マイナ保険証を使った場合、共有したくない情報については拒否することができるのだが、機械の質問の読み方で誤解してしまうと、共有に同意せざるを得ないように誤解してしまう。
そして、同意した場合、共有されるのは、1か月前のレセプト病名(保険上の病名)、処方薬剤、受診した医療機関名、受診月日、など。
わざわざ、紹介状、医療情報提供書のやりとりをしなくてすんで便利、という考え方もあるが(救急搬送された場合などは、内服薬の問題は大きいので理解できるが)、医療機関名、病名、処方薬のみをみた他科の医療従事者に、精神科通院中の方が、不利益な扱いをされてしまうことは、ありえることで、そのことを心配している患者さんは、多くいらっしゃる。
マイナと関係なく、以前からあることだが、身体症状を訴えて受診しても、すぐに身体疾患の診断がつかない場合、ほかの可能性をまともに探らずに、精神科心療内科を受診している人は「精神的な問題でしょう」と片付けられがちで、まともに扱われない。あるいは「精神科の薬のせいでしょう」などと、今までの流れを無視して言われがち。(精神科の薬なら、なくてもいい、簡単に減らせる、となぜか他科の医師に考えられがち)
それと、大きな声ではいえないが、レセプト病名は、最善と思われる処方にするために、保険適応が通るように便宜的につけられている病名もある(実際の診断名とはちがう)ので、うのみにされても困る。(これは、精神科に限らず)不安が強く心気的でいろんな医療機関を次々に受診していたり、うまく症状を伝えることが難しい人もいるが、そういう方は、本人の了承の上での情報提供書のやりとりか、誰か支援者が同行する方が有益と考える。
近い将来、電子カルテが義務化されると言われており、その目的のひとつが電子カルテの医療機関どうしの共有化(と政府?によるビッグデータ集め?)のようだが、こちらのほうが、私が非常に危惧していること。
精神科の診療では、患者さんが、様々な事象や対人関係についての自分の感情や葛藤、過去から現在までの自分の歴史、などさらけ出す(もちろん、すべてを語るわけではないにしても、たとえ1割未満にしても)ことをしている。自分の「内心」を語るもの。
そのすべてがカルテ記載されるわけではないにしても、カルテの記載内容も、他科とちがって、本人の訴えや治療者とのやりとりについてが多いので、他科のような「客観的」「中立的」「事実そのもの」的にはなりえないし、記載する治療者による「ひとつの視点にすぎない」と言ってもよい。(カルテ内容を絶対視されすぎても、危険だと思う)
また、精神科カルテが、他科の医師あるいは医療従事者に簡単にみられてしまう、みられる可能性がある、ということは、自分の内心を必要のないときに他者に隠しておく自由を奪われる、いわば「究極の個人情報」が漏れ、「個人の内心の自由」を侵害されるように感じられる。
もちろん、「共有に同意しない」という選択肢は、おそらくできるはずだと思う。でも、「共有が前提」という制度の中で拒否すると、そのことで不利益が生じないのかどうかが、不安。少数派のわがままとして、「共有を拒否するひとは、治療上の不利益が生じても致し方ない」で、どんどん制度が進められてしまわないだろうか。
といったことを皆さんは、不安に思いませんか。